2024年4月 天体写真新潟遠征(M8とM20、猫の手星雲)

DIARY

2024年4月の新月期、実に約10ヶ月ぶりの天体写真遠征を敢行してきました。長い冬眠期間を経て向かったのは快晴予報の新潟でした。新たなる撮影地で心機一転で臨む天体撮影遠征の記。春の対象『M8とM20、猫の手星雲』を狙う。

(目次)

  • 撮影行からの逃避
  • 新遠征地の模索
  • いざ、新潟へ
  • 春の撮影対象
  • 漆黒の夜の天の川
  • 『The April Three-nebula Standoff』
  • 今後の予定
  • おまけ



撮影行からの逃避

昨年新たに迎い入れた念願であった本格的な撮影用の鏡筒であるニュートン式反射望遠鏡タカハシ『ε-130D』ですが、なんとその昨年から今の今まで撮影で使用したのはたったの2回。それも最初はあくまでテストとして確認のための撮影でしたから、実質の撮影では1回のみの出番でした。

2023年6月 天体写真山形遠征(ε-130Dファーストライト)

そこからあれよあれよと時間だけが過ぎてしまい「反射鏡にカビが生えてきてるのでは?」などと言う反射鏡筒ユーザー御用達のセリフもいよいよ出ようかという出動率のあまりの低さ。これには実は理由があって、それは吉祥寺で開かれた筆者主催の北アルプス写真展のための作業にすべてを費やしてしまったことが原因でした。それにともない天体写真はもちろん、それまでメインとして撮影していた山岳エリアでの撮影にも行かず、自宅に引き籠っていたということです。

その展示会では一部、参考出展として天体写真プリントも展示したのですが、そのプリント制作において私は様々なことを学びました。その多くは山岳写真プリントからのものでしたが、中には天体写真プリントからも大きな学びを得ました。

参考展示した天体写真プリント

そこで得た経験や知識、技術は必ずや今後の天体写真にも大きな意義をもたらせてくれると感じておりますし、そうでなければならないとも思っています。実現できるかは微妙ですが、小さな規模でも良いので天体写真に特化した個展が出来たら最高ですし、そのようなぼんやりとした目標があると今後の撮影モチベーションになるのかなとも思っています。

山岳写真展「北アルプス須臾邂逅、巡る光」を終えて

新遠征地の模索

さてそんな中、写真展も無事終幕し制作モードから撮影モードへと気持ちもすっかり入れ替わり、今までのうっぷんを晴らすかのように山へも星へも撮影意欲が湧いてきていました。

ただ今後の撮影活動や天体遠征を敢行するにあたり、もう一度見直さなければならないことがありました。
それが「遠征地」についてです。

私はあまりいろいろな遠征地を転々とするタイプではなくて、今まではいくつかの候補地に絞って遠征してきました。しかもそのどれもがその界隈の人間であれば耳にするであろう有名な遠征地です。確かに有名になる、撮影者や天文ファンが集まるということはそれだけ天体撮影や観望がやりやすい環境が整っている証でもあります。それにそのような撮影地に行けば「初めまして…」だったとしても気さくな天文屋さんたちと一晩限りの遠征仲間となって楽しい一晩を過ごすことも出来ます。これは登山にも言えることで、山小屋やテント場でたまたまご一緒した気さくな登山者様たちと楽しい時間を過ごせることに似ています。

しかし。
ふと、果たしてこのままで良いのか…と思ったのです。

そのような遠征地というのはもちろん私自身が見つけた撮影地ではありません。過去、いろんな天文屋さんたちが見つけた撮影地の情報をネットや現地での口コミで見聞きして、それだけを頼りに遠征していました。何の努力も無しに、何の失敗も無しに、このような便利なネット情報や口コミを利用して遠征していたに過ぎません。今後はもっと自分自身でその日にどのような対象を撮影したいのか、それにはどのような撮影立地が望ましいのか、そしてそんな場所はあるのか、失敗しても良いからそんなことを他力本願ではなく自分の力で開拓したくなったのです。

新潟への移動途中に立ち寄った赤城高原SAからの谷川連峰

それに今まで私が頻繁に出掛けていた撮影地は人や車の出入りが激しいことも多々ありました。それによって露光中だったものが捨てコマになったこともありましたし、お隣となった天文屋さんとのおしゃべりに夢中になって肝心の撮影自体が疎かになっていた部分もありました。

それらを解決するには自分で撮影地を見つけて、そこで星空と1対1で向き合って天体写真を自分なりに突き詰めるべきだと考えるようになりました。私にとって “楽しければそれで良い” というフェーズはもう終わっていました。

いざ、新潟へ

2024年における天文始めの事実上の最初の月となったこの4月の新月期、天気予報では新潟県以北が快晴予報となっていました。実はこの新潟県で天体撮影地として良さそうな候補地は昨年あたりからいくつか引き出しに眠っていて、そのなかのカードのひとつを今回の遠征で使ってみようと決めました。

しかしもちろん私自身そこで撮るのは初めてですし、そこで撮っていらっしゃる方の情報もネットを探しても一切出てきませんでした。こればかりは行ってみて、そして一晩実際に筒を立ててみなければわかりません。
ひょっとしたら何かの不具合があってこの貴重な新月期の快晴のチャンスを逃すかもしれない。
今までのように安パイの有名撮影地に行けばきっと撮れる。
しかし学びを得るには自分で見つけたその候補地でなければならない。
迷いましたが、私はその候補地に車を走らせました。

春の撮影対象

4月ということで、じゃあ何を撮ろうかということですが、今回は無難な『M8干潟星雲』を中心に考えました。カラフルなさそり座のアンタレス周辺バンビの横顔と呼称されるいて座の星の密集エリアは昨年撮影していたし、相変わらず赤道儀は赤緯が壊れたセレストロンの『Advanced VX』なので自動導入が出来ないことから明るい対象でないと私には手動で導入できないし、となるとこの時期では『M8』が良いだろうと。それにこの対象は『ε-130D』のテストで撮影した時に見事にピントがズレていていつか撮り直したいと考えていた対象でもありました。

以前にカメラレンズで撮影したM8周辺。今回は白枠のイメージで切り取る。

その他のこの時期の候補としては青い馬彼岸花出目金いて座付近の暗黒帯あたりがあるでしょうか。この時期は薄明開始も3:30くらいに来てしまうので、早めに上がってくるさそり座付近以外はあまり淡い天体は狙いにくいところもあります。そう考えると今の私には『M8』が良いだろうと結論が出ました。『ε-130D』の焦点距離430mmという画角を考えてもそれくらいしか思い浮かびませんでした。

漆黒の夜の天の川

さて結論から申し上げますと、今回の天体遠征は大成功に終わりました。
新しい撮影地、未知の撮影地でしたが予想していた通り素晴らしい星空を見ることが出来ましたし、10ヶ月の長いブランクがありましたが撮影も問題なく終えることが出来ました。

孤独に勝る星空は無い

やはり想像通り、私が到着した夕方から撮影後の撤収作業が終わるまで誰もここへやってくる方はいませんでした。まさに満天の星空を独り占め状態。天気も曇られることなく一晩中快晴。昼間に大きく気温が上がったためか、夜に冷えてくると気温差で湿気が多くなりましたが、強い寒さを感じることもなく快適に夜空を眺められました。

やはり真っ暗闇で、ひとりで眺める星は本当に美しいと感じました。
しゃべり相手もいない、だから星をずっと眺めていられる。
誰の声も聞こえない、だからまるで星が動いてゆく音まで聞こえてくるよう。

満天の星空を独り眺める

星を眺めながら時折撮影されたデータをチェック、
良し良しとほくそ笑みながらまた夜空を見上げる。

「あぁなんて贅沢な時間なんだ…」

天体撮影、天文趣味ってこんなに良かったっけ?
久々にこの世界に足を踏み入れ直しましたが、やっぱり良いものだなとつくづく感じました。



トラブル “ほぼ” 無し

撮影に関しても実は出発前からかなり心配で、ちゃんと撮影機器やソフトウェアの使い方覚えてるかなとか、かなり不安でした。とくに『ε-130D』にしてからはカメラレンズよりもやらなければならないことが多くて、ひとつひとつ思い出しながら撮影準備を進めました。

撮影自体は対象がしっかり高度を上げてくるAM1:30ころから始めようと計画していましたが、暗くなってからすぐに準備していつでも撮影できる体制を整えてから、車の中で軽く休みました。

ただひとつ忘れ物をしてしまって、それは直焦点撮影の機材ではなく星景用のポタ赤(SWAT200)の電源。赤道儀本体は忘れずに持ってきていたのに電源が無ければ単なる1.5kgの重りを持ってきただけになってしまいました。実はこの撮影地へ来る前に事前に星景撮影のロケハンを昼間にしていて、直焦点撮影の次の日の夜にはそちらで星景撮影を予定していましたが、残念ながらそれは叶いませんでした。

『The April Three-nebula Standoff 』

こちらが今回撮影した天体写真になります。
春のド定番中のド定番、干潟星雲と三裂星雲、猫の手星雲です。

この領域はそれこそカメラレンズ時代から何回も撮っていますし、先述のとおりこの鏡筒のテスト撮影でも撮影した対象でもありました。ほんの少しだけトリミングしていますが、この鏡筒にフルサイズのキヤノン6Dだと非常に収まりの良い構図となります。

『The April Three-nebula Standoff』

【撮影データ】
カメラ Canon EOS 6D (SEO-SP5)
鏡筒 TAKAHASHI ε-130D
架台 CELESTRON Advanced VX (RA only)
ガイド鏡 SVBONY SV165(30mm F4)
ガイドカメラ QHYCCD QHY5L-ⅡM
ガイディングソフト PHD2 (RA only)
フォーカサー ZWO EAF
ダーク減算 RStacker(16枚)
フラット補正 RStacker(75枚、フラットダーク20枚)
現像 ADOBE Camera Raw
スタック DSS(300秒×21枚 計1時間45分 ISO1600)
画像処理 ADOBE Photoshop CC
その他
・QHYCCD Polemaster

現地で撮影中に上がってきた撮像を背面液晶上で見た時に驚いたのは星のシャープさもさることながら、M20三裂星雲の“梅干し”の亀裂状の暗黒帯のディディール。やはり今まででもっとも焦点距離が伸びたこともあるし、センサーもフルサイズになったこともあって非常に解像感ある像で撮影されていてびっくりしました。

天文薄明を迎える撮影地

『ε-130D』の光軸も前日に確認していましたが全く問題なくて、まだ一度も調整らしいことはしていません。この鏡筒を運用する前は例えば撮影地までの運搬の際に光軸がズレてしまうのではないか、ズレたら撮影地に到着したらそのたびに光軸調整を毎回やらなければならないのか、などと思っていましたが今のところそれは杞憂です。非常に扱いやすい反射望遠鏡だと感じています。

今後の予定

フォトコンと天体写真

まず私個人の『フォトコン』というものに対する姿勢ですが、メインとして撮影しているネイチャーや山岳写真の分野ではまったく興味がありません。その詳しい思想をこの記事中で述べるのもどうかと思うので今回は割愛しますが、こと天体写真については今後は良いものが撮れたら挑戦してみようと思っています。

天体写真の経験年数をカメラレンズ時代も含めれば私もそこそこ長いと思いますが、本格的な直焦点撮影、いわゆる天体望遠鏡を使用した天体撮影という括りにすると私は超ビギナーということになります。昨年2023年にようやくニュートン式反射望遠鏡を導入したので天体撮影歴はピカピカの1年生ということになります。

タカハシ ニュートン式反射望遠鏡『ε130D』の導入①

タカハシ ニュートン式反射望遠鏡『ε-130D』の導入②

なにより私が驚いたのはやはり天体専用で設計されたものは当たり前ですが星の “写り” がまるで違うということです。カメラレンズは確かに中にはシャープなレンズはありましたし、天体望遠鏡にはない明るいF値のものが多くあります。そこには大きな利点を感じていましたが、やはり画像周辺に行くほど星が伸びたり、軸上や倍率色収差にかなり苦しみました。とくに『ε-130D』は反射望遠鏡なので悩まされたその色収差というものが本当に少なくて、画像処理していてもすごく楽に仕上げることが出来ました。今まではプリントしてもその色収差や非点収差がどうしても気に食わなくて、即ごみ箱行き。これではフォトコンはおろか人様に見せることすら出来ませんでした。

しかしそんな私でもこの鏡筒を手に入れたことで大きなステップを上がれたと感じています。つまり天体写真というジャンルはネイチャーや山岳写真とは違って努力や技術、知識、経験の積み重ねが “リニア” に上がっていくイメージがあるジャンルなのです。

● 天体写真はカメラ機材を手にしたばかりの人には撮影すら出来ない
● 天体写真はある程度の天体の知識が無いと撮影出来ない(偶然では撮れない)
● 赤道儀やガイドシステム、極軸合わせなどの特殊性
● 撮影後の画像編集やスタックなどの知識とソフトウェアの操作
など他ジャンルに比べていくつものハードルを越えていった先にようやく成果物として天体画像を手にできることになります。
実はここに私は他のジャンルには無いある種の競技性のようなものを感じるのです。

しかも天体写真はもちろん無数の撮影対象があるわけですが、研究や観察、天文学ではなく鑑賞写真として撮影して美しいと感じられる撮影対象は実はそんなには多くはないです。特に私が主としている星雲星団のジャンルは。つまり天体撮影している方々はその季節に合った中からだいたい同じものを撮っていることになり、そこにも競技性を感じるのです。

山も例えば槍ヶ岳であれば多くの方が撮影する対象ですが、その時の天候や気象状況によって山は様々な表情を見せてくれます。撮影場所が違うだけでも様々な角度の槍ヶ岳を撮影出来ますし、それを考えればそれこそ同じものはほぼ撮れないとも言えます。

しかし天体撮影において気象条件は “晴れ” 一択です。
雲がいい感じに、とか光がいい感じに、というものは直焦点撮影では単なる撮影の邪魔でしかないのです。逆に言うとそういった気象条件による偶然性が皆無であるということで、ネイチャーや山岳写真に比べてコンテスト応募者にとってはある種 “フェア” であると言えます。

もちろん私が天文関係のフォトコンに応募しても入選など夢のまた夢でしょうが、仮に入選となっても特にご報告などはしないつもりなので、その点はどうぞ悪しからず。あくまで個人的な撮影モチベーションと技術向上を目的としているからです。

由々しき赤道儀問題

撮影鏡筒はようやく手に入れることが出来ましたが、残念ながら架台はいまだにVXなわけですが、ここもいずれはワンランクのステップアップを狙いたいところです。ただ焦点距離もそれほど長くはないし、当分は明るい対象しか撮る気もないのでVXでの手動での導入も十分可能と思っています。

しかし問題は耐荷重で、今後鏡筒をツインにするとか、もう少し口径の大きなものとなるともはやVXではどうにもなりません。

ただ今後使ってみたいと思っているタカハシのニュートン式反射望遠鏡『ε-160ED』はこれを執筆している時点(2024年4月)でも2022年9月の公式アナウンスからいまだに受注停止中。果たしていつ頃に受注再開となるのか、仮に再開したとしても実際に手にできるようになるのはそこから1年や2年後になるでしょう。となると赤道儀だけアップグレードしても『ε-130D』だけでは持て余すことは目に見えています。焦点距離も430mmということでそれほど長いわけではないので、あと1、2年くらいはネタ(撮影対象)も持つかもしれませんが、数年後にはもう撮るものが無くなってしまうことも考えられます。果たしてどうしたものか、という感じです。

 

今回は以上になります。
最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございます。

おまけ

実はせっかく新潟まで天体遠征したということで、雪国の春到来を感じたくて朝の機材撤収後に少し車を走らせて坂戸山と並んで私のお気に入りの花の里山『六万騎山』に寄り道してきました。この山は以前にも本ブログでも記事にしたことがありましたが、春になるとまるで “カタクリ山” と呼びたくなるようなカタクリまみれの山になります。
『越後春来』南魚沼の星空と六万騎山の花々

六万騎の花々

ただこの日は残念ながらカタクリの花をほぼ終わってしまっていて、なかなかきれいに残っている個体を探すのが大変でした。ということで中腹のカタクリの群生地をこの日の私の山頂として、引き返してきました。

アカイカリソウ

さすがに夜通しの天体撮影の後にそのまま六万騎山に登って花を愛でようなんて物好きは私くらいであったでしょう。

カタクリ