2020年3月 天体写真天城遠征

DIARY

前回の天体撮影遠征が昨年の10月の群馬…。
あれからなかなか新月期やら天気やらが噛み合わず、結局冬の対象は撮れず。

2019年10月 天体写真群馬遠征

新月期は何はともあれ天体撮影を最優先に考えてはいますが、相も変わらずのスローペース。
『M45』プレアデス星団や『M42』オリオン大星雲、そしてコーン星雲もバラ星雲ももう西に傾いてしまった3月下旬の新月期にようやく撮影の機会に恵まれました。

3月にもなればいよいよ夏の天の川が明け方前に昇ってくる季節。
南東の夜空が宝石箱をぶちまけたような煌びやかで美しい星々に埋め尽くされる季節。

関東圏は世界屈指の眠らない街、東京が存在するためなかなか南方面は綺麗な夜空が拝めません。
新潟や東北まで行ってしまえば東京の光害からは逃れられますが、あいにく北方面はGPV先生によればあまり良くない予報。もし東北や上信越が良ければ雪山を絡めた星景写真も撮りたかったのですが、今回は前回からかなり月日が経ってしまったのもあって絶対に撮っておきたいところでしたので安牌予報の天城へ。

天体撮影の『聖地』

伊豆、天城高原はまさに天体撮影の聖地のような撮影地。
なにせ南方面は都市や街が無い大海原、太平洋。
光害の『こ』の字もない最高のロケーション。
数年前のやはり3月に伊豆半島南端に位置する爪木崎へ星景写真の撮影に行った時も、海岸線からいきなり星空にシームレスに繋がるまさに合成のような美しさはその圧倒的な暗さの賜物。

爪木崎でみる天の川(新星景)

北アルプスのような3,000m級の稜線から眺める星空はまさに『星屑』とも表現できるほどの星の多さに圧倒されますが、実は意外に名古屋や松本の光害が結構あって低空はすっぽりと星が無くなったように光害に埋もれて見えないことが多いです。

その点この伊豆周辺の南方面の圧倒的な暗さはある意味で北アルプスよりも好条件かもしれません。
さらに伊豆半島は半島でありながらその大部分が山。
天城高原は標高1,000mのため『光害の少なさ』に加えて『標高の高さ』という天体撮影において好条件が揃った関東屈指の撮影地となります。ただし逆に北側、とくに北東方面は東京の光害がきついため撮影には適しません。

伊豆の美しい風景に癒されながら

伊豆スカイラインで撮影地に向かう長距離の移動の際も富士山や駿河湾の美しい風景に癒され苦にはなりません。久しぶりの撮影、最高のロケーション、そして絶好の天気予報で気合が入りすぎたためか、まだ日没前の夕方に撮影地に到着。

伊豆スカイラインから眺める富士山

対象はこの時期の定番であり、全天一カラフルとも言われるさそり座『アンタレス』
今回はいろいろな対象を撮るというよりはアンタレスのみに絞って撮る予定でしたので、さそり座が昇ってくる深夜1時過ぎまで半端ない手持ち無沙汰。

撮影地は同業者の方たちのゴツくも魅力的な機材で溢れ、こんな素晴らしいロケーションなのにカメラレンズで撮影する変わり者は私くらいで…。いつものように彼らの邪魔にならぬよう隅っこでアンタレスが昇ってくるのを待ちます。

駿河湾の眺望

ポールマスター導入

春の系外銀河群を撮るわけでもないし日付が変わってからの撮影なのになぜこれほど早く着いてしまったのか…。それは実は今回新しく極軸合わせの精度向上と迅速なセッティングが可能となるQHYCCD『ポールマスター』を導入し、初の実戦となる期待と不安のため。

今まで私は極軸合わせに関しては極望を使わずSWAT200の“のぞき穴”で北極星を大まかに入れた後はドリフト法を自己流に“適当に”アレンジして合わせていました。そもそも私の撮影では天体望遠鏡は使いませんし、長くても焦点距離は200mmまで。そこまでキッチリ極軸があっていなくても、露出を短めにして言わば“誤魔化して”撮影していました。

しかしある程度は極軸が合っていないとやはり星が点像になってくませんし、いかんせんトライ&エラーで合わせるので時間をめっぽう食ってしまいます。頭上では美しい星空が撮影されるのを待っているのに、極軸合わせに悪戦苦闘するのは明らかに時間の無駄、撮影機会の損失に他なりません。

SWAT用のアダプター込みで3万円ほどとそれほど高価ではないとは言え、極軸合わせにしか使えない代物を導入することに躊躇してしまい今まで敬遠していました。それにポールマスターを使用するには現場にパソコンも持ち込まないといけませんから、手軽でハンドリングの良さが売りのSWATにとってそのあたりも敬遠する部分でした。

しかし実際に現場で使ってみて、

『なんでもっと早く導入しなかったのか…』

と猛省しているところです。

QHYCCD『PoleMaster』その有用性は絶大。

事前にもちろん取説の類は見ていましたし、なんとなく使い方は分かっていましたがまさかこれほど簡単にしかも正確に合わせられるとは思ってもいませんでした。

初の実戦でしたがものの10分ほどで極軸合わせが完了。
PC画面上に出てくるウィザードに従っていけば誰にでも容易に合わせられて、はっきり言ってこれはもはや『チートレベル』の道具。
一夜にしてもうポールマスター無しでは撮影できない体になってしまいました…。

PoleMaster(QHYCCD)
・画角(視野角) 11×8度 対角15度
・CCD解像度 約30秒角
・インターフェイス USB2.0
・ソフトウェア QHYCCD PoleMaster Software
・極軸調整精度 約5分角(粗調整)
・重量 約106g

美しも最難関の“アンタレス”

先にも書きましたが天文屋さんの界隈ではアンタレス周辺の星雲群は全天一カラフルで美しい領域としてとても人気の対象。その美しいさそり座が夏の天の川を引っ張ってくるようにこの時期の夜半過ぎから昇ってきます。

しかし私のような天体撮影・天体写真のド素人のような人間からしたら、ワクワクする夏の天の川撮影前にやってくる厳しい試練のような領域でもあります。天文雑誌やインターネットに溢れるようなアンタレス周辺のあのゴージャスな作品・画像に仕上げるには技術や努力、センス、機材、知識などが必要で私のようなレベルの人間からしたら本当に難しい対象です。

色彩の美しさはもちろん、暗黒部や分子雲のうねりのコントラスト、それにシャープでかつノイジーにならないようにするにはそれ相応の露出時間と、そして画像処理テクニックなど高いハードルの連続となります。

アンタレスは今まで数回撮影していますが全くモノにならず、今回もはっきり言って結果は残念なレベルで終わってしまいましたが、それでも天城のカブリの少ない夜空の助けもあって今までで一番マトモに仕上げることができました。

しかしこの難しさは逆に面白くて、いくつものハードルを少しずつでいいから毎年越えられるように『攻略していく楽しさ』もあると思って毎回撮影しています。

『Antares-Pentagon』

撮影データ
カメラ Nikon D7100(IR改造)
鏡筒 AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR Ⅱ(200mm f/3.2)
架台 UNITEC SWAT200(ノータッチガイド)
ダーク減算 RStacker(16枚)
フラット補正 RStacker(薄明フラット8枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(150秒×42枚 計112分 iso1600)
画像処理 ADOBE Photoshop CC
現地気温 0℃~3℃
その他
・UNITEC ドイツ式ユニット
・Velbon プレシジョンレベラー、レンズサポーターSPT-1
・Vixen APP-TL130アルミ三脚
・QHYCCD ポールマスター

画像処理に関してはコントラストが高く一見『ソレっぽい感じ』には仕上がっていますが、いつも撮影している山岳写真のように大きくプリントできるほどのクオリティでは決してなくて、山登りに例えるならようやく登山口から三合目くらいまで来た感じです。

フラットもダークも明らかに枚数不足でしょうし、そもそもアンタレスは112分では足りないでしょう…。カラーバランスも良くないし、カブリの処理もいまひとつ上手くいかない…。

いかんせん大三元とは言え望遠ズームレンズではやはり軸上色収差やピントの追い込みの問題、星像の歪さが顕著に出てしまい、画像処理をするにも無理が出てきてしまいます。まあそもそも天体撮影に特化した光学系ではないので仕方ない部分ではあります。こうなってくると高性能な単焦点レンズ、もっと言えば天体望遠鏡、それも欲を言えば反射式の…と、どんどん底なし沼に陥ってしまいそうになります。

いよいよ夏の天の川がやってくる

アンタレスの撮影の終了後は少し時間が余ったので軽く天の川にもカメラを向けてみました。天文薄明までほんの短い時間でしたが、東から昇ってくる夏の天の川をこんな素晴らしい環境で眺められるのはやはり天体撮影の大きな魅力。

『M17 & Starcloud』

久しぶりに眺める美しい銀河の帯に、

『いよいよ春がやってくる…』

と、しみじみと感じた少し肌寒い美しい夜でした。