タカハシ ニュートン式反射望遠鏡『ε130D』の導入①

CAMERA&LENS

カメラレンズを使用して星を本格的に撮り始めて何年になるか自分でも正確には把握していませんが(おそらく7、8年?)、ついにと言いますかようやくと言いますか、初めて天体望遠鏡なるものを手に入れることが出来ました。

それも国内最高峰と言われる高橋製作所の望遠鏡、
13cmのあの黄色い天体望遠鏡、
本格的な撮影専用鏡筒である『ε-130D』というニュートン式反射望遠鏡です。

今回は個人的にひとつの到達点と感じているこの望遠鏡の導入に至った経緯などの記事になります。
もはや完全に自己満足的な記事でたいへん恐縮なのですが、最後までお付き合いいただければ幸いです。

長くなってしまいましたので記事を2つに分けました。
前半のこちらの記事では今までの筆者の天体撮影機材の変遷とこの鏡筒を選んだ理由、導入の決め手になったこと等の記事となります。

(目次)

  • 天体写真を始めたきっかけ
  • 天体撮影機材の変遷
  • 初の天体望遠鏡選択の競合製品
  • 『ε‐130D』導入の決め手



天体写真を始めたきっかけ

この望遠鏡を手に入れるに至るまで、本当に長い時間がかかりました。
私はそもそもネイチャー系や美しい自然風景の撮影、そして登山を本格的に始めてからは山の写真を中心に撮影してきていました。特に山の撮影では小屋泊やテント泊などで3,000mの稜線から眺める圧巻の星空というものに感動して星の撮影も始めました。

いわゆる山岳星景というものです。

『Bridge of Night Sky』(槍ヶ岳山荘から見上げる星空)

昨今のデジタルカメラの性能は目を見張るものがあって、超広角レンズを使って地上風景を入れて撮影した星景写真であってもPCモニター上で拡大して見てみると、なんとアンドロメダ大銀河オリオン大星雲などが小さくではありますが写っていました。

「え?銀河が写っている、星雲も!」

その興奮は今でも覚えていて、それがきっかけとなり本格的に星の写真に興味を持ちはじめました。

天体撮影機材の変遷

そんなこんなで天体写真の雑誌を読んだり、どうすれば星の写真、それも天の川星景とかではなくもっと宇宙を感じられる星雲や星団、銀河の写真が撮れるのだろうと興味が湧いていました。

ポタ赤の導入

そんな折、ひょんなことからとある日の夕方、某有名な天体撮影地に何故か紛れ込んでしまい、そこで見た天体撮影ファンの仰々しい機材。日没後、私は私でいつものように広角レンズを使って天の川を三脚固定で撮影していたのですが、周りの方々の『よく分らんけどすごい機材』で撮影された画像をその場で見せてもらいました。

そこに写っていたのは、まさに宇宙を感じる星雲の画像でした。

天体撮影地の様子(2022年のもの)

雑誌で見ていたあの美しい宇宙の写真を現地で目の当たりにしてその画像の美しさに打ちのめされてしまって、もうそこから一晩中その方にいろいろとお話を伺いました。その方はたいへん気さくな方で、星について全くの素人の私の質問に嫌な顔せず丁寧に答えてくれました。

その方に天体望遠鏡じゃなくても手持ちの望遠レンズでも星雲の写真が撮れることを教わり、それには “セキドウギ” と言うものを使えば撮れるということが分かりました。

そこからいろいろと自分でネットなどの情報を見つつ、ひとつのポータブル赤道儀を手に入れることになりました。それが現在ではもう廃盤となっているユニテック社の名機『SWAT200』という赤道儀でした。

SWAT200を使ったカメラレンズでの星野写真

そのポタ赤を導入してからというもの、それまで山や風景で使ってきたレンズとカメラを抱え、天気の良い新月期には夜な夜な天体撮影地に行って、ガチな天体ファンのすごい機材を横目で感じつつ、撮影地の隅っこで彼らの邪魔にならないように天体写真を細々と撮影してきました。

初めての赤道儀『SWAT200』(UNITEC)

①『AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED』+ 『SWAT200』

まずはこの『SWAT200』にそのまま自由雲台を装着して、ニコンの標準ズーム『AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED』の望遠端70mmで撮影していました。カメラは確か改造などしていない普段から使っていたノーマルのD810だったと思いますし、極軸合わせは『SWAT200』の覗き穴で適当に合わせてから、撮影しながら “ドリフト法” 的に合わせこんだりしていました。

AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED

それまで広角レンズで天の川星景くらいしか撮影していなかった私からすると、70mmで撮ったものでも感動するくらい星雲が大きく写っていました。たしか北アメリカ星雲とかオリオン大星雲あたりだったと思います。

画像のスタックであるとかフラット補正ダーク減算など天体写真の本格的な画像処理もこの辺りからやり始めたと記憶しています。

こうなってくると人間欲深いもので、

「もっと大きく星雲を撮りたい!」
「手持ちにあった望遠ズームレンズでも撮ってみたい…。」

と思い始めるようになりました。

しかし標準仕様の『SWAT200』では搭載重量的にはイケそうでしたがバランス的にアウト。ただ幸いなことにSWATシリーズには拡張キットなるオプション品がとても豊富で(と言うかその豊富さに魅力を感じてこのポタ赤を選んだ)、『SWAT200』に簡易赤緯体やバランスウェイトなどで拡張することで重くて長い望遠レンズでも撮れると分かって入手することになりました。

②『AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VRⅡ』+ 『SWAT200拡張』

『SWAT200』をそのオプション品で拡張することで『AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR Ⅱ』を搭載できるようになり、さらなる望遠撮影が出来るようになりました。焦点距離は70mmから一気に伸びて200mmとなりました。200mm(フルサイズ換算300mm)ともなるとアンドロメダ大銀河もそこそこ迫力のある写り方をしてくれて、撮影中に背面液晶に上がってくる画像を見てはニヤニヤが止まらなくて、本当に楽しかったと記憶しています。

『AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VRⅡ』と『SWAT200拡張』

AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR Ⅱ

確かこのあたりで『D7100』の中古を買って天体改造を施して使い始めたと思います。それによってそれまで写りづらかった赤い星雲も写るようになってバラ星雲や馬頭星雲、さそり座のアンタレス付近なども撮影していました。

さらに望遠での撮影となったことで今まで以上に極軸合わせを正確に合わせたいと、いよいよ撮影現場にPCを持ち込んでQHYCCD社の『Polemaster』を導入し使い始めたのもこのあたりだったような気がします。

『Andromeda Galaxy』 (2019年撮影)

しかし当時のニコンの最高峰ズーム、いわゆる大三元ズームレンズと言えども星像には不満タラタラで、色収差や星の伸びと言うものに我慢できなくなってきました。そこでカメラレンズのなかでは最高の写りと評判だったツァイスの中望遠レンズ『アポゾナー135mm』の導入を考え始めました。

③『ZEISS Milvus 2/135 ZF.2』+ 『SWAT200拡張』

しかし残念なことに購入を決めていた時にはすでにそのアポゾナー135mmは廃盤となっていて、全く同じ光学系の後継機種である『ミルバス135mm』を手に入れました。

Zeiss『Milvus 2/135 ZF.2』

写りはさすがツァイスを代表する単焦点レンズという写りで、それまで使用してきたズームレンズとはまったく違う星の写りにとても満足しました。星がとても細かくシャープに写るので、淡い星雲も星の存在に埋もれることなく前面に出てくるような見事な写りでした。

『M8 & M20』

若干の色収差はありましたが中望遠域のカメラレンズで撮る星野写真では来るところまで来てしまったと感じました。

ちなみに先述の通りこの『SWAT200』は旧製品となっていますが、ユニテック社では現在もなおその上位機種を数機種ラインナップさせており、この『SWAT』シリーズは個人的にもおススメできるポータブル赤道儀シリーズです。詳しくは下記のユニテック社のHPをご覧ください。
高性能ポータブル赤道儀『SWAT』|ユニテック株式会社



Celestron『Advanced VX 』赤道儀の導入

ミルバス自体の写りには満足していましたが、135mmという焦点距離は季節ごとに数対象撮ってしまうとだんだんと撮るものが無くなってくると感じてきました。つまり景色を入れる星景写真には長すぎる、星野写真では広めに撮れるけど撮る対象がだんだん無くなってくる、という微妙な焦点距離でした。

『D7100』はご存じの通りAPS-C機なので換算200mm前後になりますが、それでももっと対象を大きく撮りたいと思っていました。

すでにこの時サンニッパは所有していましたが2.9kgという重量は『SWAT200』を拡張させたとしてもとても支えきれない重量でした。しかしいつかはこのサンニッパでも天体撮影したいと思っていたので意を決して本格的な赤道儀の導入に踏み切りました。

それがセレストロン社の『Advanced VX』という本格的な赤道儀でした。

CELESTRON『Advanced VX』

④『AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VRⅡ』+ 『Advanced VX』

これにより見かけ上の焦点距離は450mmとなりいよいよ本格的な天体写真と言えるような撮影が可能になりました。アンドロメダ大銀河は画面いっぱいに広がり、さそり座アンタレス付近のカラフルな領域は少しぎゅうぎゅう気味、ケフェウス座のIC1396は大迫力、その他はくちょう座サドル付近やM45(プレアデス星団)などもかなり見栄えのよいものが撮れるようになりました。

季節外れのアンドロメダ銀河

2台体制

今まではちまちま手動で撮りたい対象を導入していましたが、いわゆる『自動導入』というシステムでレンズを対象に向けるのもこの『Advanced VX』赤道儀を使うようになってからが初めてで、機材の大仰さもガチの天文ファンにより近いものになってきました。

さそり座アンタレス付近のカラフルな領域

これくらいの焦点距離となるとさすがにノータッチ(ガイドシステムを使用しない撮影)では捨てコマが多くて、途中からはPHD2を使用した『オートガイドシステム』も導入したりして、いよいよ本格的になって来たなと感じていたところでした。

そんなこんなで、

「じゃあ、この先は?」

となったとき、

「もうカメラレンズではなくアストログラフしかないでしょう?」

ともう一人の自分が言ってきたわけです。

天体望遠鏡とカメラレンズ
天体望遠鏡はその名の通り天体の観望・観測、撮影に特化した光学設計となっていますが、カメラレンズ(望遠レンズ)は風景やポートレート、スポーツ、野生動物など幅広いジャンルで使用できるような光学設計のため非常に複雑なレンズ構成となっています。そのため天体特化型の製品と比べて “星像” に大きな違いが見られます。

初の天体望遠鏡選択の競合製品

さて、じゃあ最初の天体望遠鏡は何にしようか?と考えた時、目的がなんであるかははっきりしていました。それは “撮影目的” であるということです。もちろん満天の星空の下、眼視観望で宇宙遊泳を楽しむのも良いですが私は美しい天体写真を撮りたい、残したいというはっきりした目的がありました。

ということで手持ちの『Advanced VX』にも十分搭載可能で、手に入れられる範囲の価格帯の撮影鏡筒としていくつかピックアップし始めました。

①タカハシ『FSQ-85EDP』

まずは撮影向きの屈折鏡筒では国内最高峰といわれる “FSQシリーズ” で価格的にも何とか頑張れば手に入れられそうな口径85mmの通称 “Baby Q” と呼ばれる『FSQ-85EDP』

私の性格的に中途半端な屈折鏡筒を手に入れたところで、どうせすぐにさらなる上の筒が気になるのは目に見えていました。となると初めからこの鏡筒を手に入れるのが “無難” な選択でした。(価格的には決して無難ではないですが…)

屈折鏡筒はメンテナンスも比較的楽(ほぼフリー)で、『天体に特化したカメラレンズ』的な感覚で使えるかと思い、最初の1本はこれがもっとも合理的な選択と思いました。

②タカハシ『ε-130D』

タカハシ鏡筒でもう一つ候補に挙がったのは黄色い鏡筒がアイデンティティの “イプシロンシリーズ” の最も小口径、13cmのニュートン式反射望遠鏡『ε-130D』

やはりイプシロンといったら色収差が徹底的に抑えられ、F値も明るく、淡い星雲星団を狙うにはこれ以上ない最高峰の筒という印象を持っていました。
いわゆる “憧れ” というやつです。

どうしても屈折望遠鏡だと色収差が残ってしまい、色とりどりの星々を表現しずらいと言われています。星雲・星団もさることながら私はそういった星々の美しい天体写真に強い憧れがあったので反射望遠鏡もやはり候補に挙げておきたいところでした。

価格的にも『FSQ-85EDP』とさほど変わりません。そのぶんニュートン式反射は『光軸調整』という避けては通れない試練が待っています。

扱いやすい屈折か、
星の色が魅力の反射か、
これは非常に迷うところでした。

③タカハシ『ε-160ED』

現存する国産のアストログラフの中で究極の結像性能を誇る望遠鏡のひとつである『ε-160ED』。私が見たことがあるスポットダイヤグラムで、この鏡筒を超えるものを見たことがありません。

まさに究極の反射望遠鏡。
どうせ上を見てしまうならもはや国産鏡筒ならこれに行ってしまうのもひとつの手だとも思いました。

しかしおそらく手持ちの『Advanced VX』には物理的にも性能的にも荷が重すぎる部分があります。それに残念ながら昨今の物不足の影響か、注文してからの納期が約2年~2年半となっていました。(この記事執筆中の現在は受注停止)

その間にお金を貯めて赤道儀をアップデートすることも可能ですが、さすがにあと2年以上待つのは精神的にきつい。候補とは言え半分冗談のつもりもありましたし、それにまずは『ε-130D』を手にして反射望遠鏡の扱いに慣れてからでも良いかなとも思いました。

 

なおタカハシの天体望遠鏡に関しては公式HPをご覧ください。
これ以外にも多くの魅力的な鏡筒が多いです。
タカハシ|天体望遠鏡・特殊光学機器

④SHARPSTAR『13028HNT』

『ε-160ED』は先述の通り納期が長かったのですが、それほどではないにせよ『ε-130D』も納期が1年~1年半という状況でした。そんな国内の(タカハシの?)事情をよそに、ここ数年は国産よりも海外メーカー、とくに中国メーカーの勢いは凄まじく、冷却COMSカメラや赤道儀などとともに天体望遠鏡も安価で高性能なものが数多く出始めていました。

その中で私が気になったのは “SHARPSTARシリーズ”“Askarシリーズ” が有名なJiaxing Sharpstar Optical Instrument社のニュートン式反射望遠鏡『13028HNT』という明らかに『ε-130D』に当ててきたであろう13cmの望遠鏡でした。

カーボン製の黒い筒に赤い鏡筒バンドが標準装備。
イプシロンの黄色い鏡筒もよいですが、このモダンな外観はそそられます。個人的にはデザインはこちらの方が好みですし、なんと専用ハードケースまで付いて『ε-130D』(本体のみ)とほぼ変わらない価格帯でした。(その後値上げあり)

この鏡筒と『ε-130D』はかなり迷いました。

納期のかかる『ε-130D』ではなくすぐに手に入るこの『13028HNT』を買って、後々に『ε-160ED』を買ってツイン(L+RGB)でも良いかなとか妄想したり、この筒で撮影された作例を見まくったり、悶々とする日々でした。

(こういった悩んでいる時期、妄想しているときが一番楽しい時期でもあります)

『ε-130D』導入の決め手

いろいろと悩んだ挙句に最終的には『ε-130D』に決めたわけですが、その決め手となった理由は以下の通りです。

安心の国産

まずはやはり国産の鏡筒である事です。
天体写真を撮影していく上で、機材的なトラブルに見舞われないということはほぼありません。特に本格的になればなるほどシステムは複雑化し、注意する点も多くなります。そしてそのどれもがほぼ完璧に稼働してくれないと安定して撮影出来ないのが天体撮影です。そういうトラブルを少しでも回避したい、仮にトラブルに見舞われたとしてもすぐに対応してくれるのが国産メーカーの安心できる点です。

それに新興メーカーの製品はまだまだ歴史も長くないので、ユーザー数もそれほど多くはありません。その点老舗の国産メーカーの製品はユーザー数も多く、そういった既存のユーザーによる情報というのも非常に助かることが多いです。そういった面でも、とくに私のような天体望遠鏡ビギナーには心強いポイントでした。

憧れと信頼の “タカハシ”

“タカハシ”への憧れ

そしてもう一つの大きなポイントが老舗の “タカハシ” というブランドへの憧れ。ここで言う『ブランド』とは単なるネームバリューやお飾りだけのブランド名ではありません。私が惚れん込んだのは効率的なモノ作りがもはや一般的となっている現在において、今もなお “職人気質” 的な姿勢を守り続けているメーカーさんであると言うところです。

“タカハシクオリティ” とも称される一品一品を、丁寧に、高品質な状態を長く使い続けられるような製品作り。そんな機械任せの大量生産ではない工業製品としての圧倒的な品質の高さ、それが『タカハシ』というブランドだと思っています。天体望遠鏡なんて底辺を這いつくばって生きている私にはおいそれと買えるものではありません。

一生に1本か、2本。

納期が1年?1年半?
いやいや、良いモノを作ってくれるならいくらでも待とうではないか。

時間を要してでも後悔の無いよう最高のものを手に入れたい…。

そう感じてタカハシの望遠鏡にしました。

扱いやすい反射鏡筒

そのタカハシ製品の中においてFSQシリーズもたいへん素晴らしい望遠鏡とは思いましたが、単純に私が「きれいだな~」とうっとりと見惚れてしまう天体写真はそのほとんどが反射望遠鏡で撮影されたものでした。

先述しましたが色とりどりの星の色が色収差なく美しく表現できているのはやはり反射鏡筒のもっとも大きな利点で、まるで夜空に宝石箱をぶちまけたような、そんな煌めきに溢れています。

ただ、いきなり大きな『ε-160ED』を手に入れたところで、ビギナーの自分にはその性能を引き出せるのか甚だ疑問に思っていました。そのようなことを総合的に判断して反射望遠鏡の魅力扱いやすさを見事に両立しているのがこの『ε-130D』であると結論付けました。

 

そして注文から1年弱。

実際にこの製品を手にしたとき、
「あぁ、この鏡筒を選択して本当に良かった…」
と改めてそう実感しました。

 

後編②に続きます。