2021年7月 天体写真群馬遠征

DIARY

ジメジメとした鬱陶しい梅雨。
もちろん日本の自然風景の美しさはその独特の湿度感が一端を担っているのは理解できますが、毎年梅雨明けを今か今かと待ち望んでいます。

昨年2020年は関東地方の梅雨明けが8月にまでずれ込む異例の年でしたが、2021年は順当に7月中旬に明けてくれました。そんな梅雨明け後の好天を利用し、4月の天城遠征以来約3か月ぶりの天体写真遠征に行ってきました。

2021年4月 天体写真天城遠征

(目次)

  • 山岳写真と天体写真
  • 欲張りたい…
  • 夏の定番『M16 & M17』
  • トラブル続出
  • はくちょう座γ星『Sadr Region』
  • FUJIFILM『X-T3』導入
  • 今後の天体写真




山岳写真と天体写真

私は山岳写真を主に撮影している者ですが、星の撮影同様に山の撮影も梅雨明けが待ち遠しいジャンルです。梅雨が明ければ山は一気に短い夏山に突入。特に北アルプス界隈はその梅雨明けを「待ってました!」と言わんばかりに多くの登山者、山人がどっと押し寄せて夏祭りのような雰囲気となります。

私もご多分に漏れず、例年梅雨明け以降は本格的な夏山撮影を敢行するのでなかなか天体写真を撮りに行く機会が減ってしまいます。

『A Bridge of Night Sky』

さらに夏は梅雨の残り火が燻っているかのように空は湿気が多く、カラッとした抜けるような空、透明感のある夜空は秋に入ってからが多い印象。

そういうこともあって夏の対象、いて座からはくちょう座にかけての煌びやかな領域は春に早撮りするか、秋に西に傾いていくのを撮ることがほとんどでした。特にここ数年は、美しいはくちょう座の散光星雲群にレンズを向けることすら無く夏が終わっていました。

もちろん北アルプスでのテント泊山行では山岳星景も撮影するのですが、星景星野ではまったく目指すベクトルが違います。山岳星景はあくまで山岳写真の延長線上、星野写真は完全な天体写真。似て非なるものだからか、両方とも楽しみながら、そして学びながら技術向上していく過程を興味深く取り組めるのだと思っています。

欲張りたい…

天体写真というジャンルはネイチャー系撮影ではもっとも撮影機会が少ないジャンルだと思います。その少ない機会を出来るだけ活かそうと多くの天文ファンの皆さまは2台体制であったり、3台体制であったり、1回の撮影で多くの成果を残す方々が多いです。

私も今回はいつもよりも欲張ってカメラを3台持っていきました。
本当は赤道儀をもう1台新調したいところですが先立つものがありません…。

・Nikon D7100(改)
・FUJIFILM X-T3
・Nikon D5
3台のうち1台はいつものメインの星野写真用(D7100改)、1台はこのブログやSNS用の撮影風景広角での天の川用(X-T3)、とここまでは今までと一緒ですが今回はさらにタイムラプス用にもう1台(D5)持っていきました。

撮影現地にて月没待ち

最近は映像のほうも少しずつ撮影を始めていたところで、特に夏の天の川が夜空を駆け抜けていく様を映像で残すにはタイムラプスが最も効果的。もちろん拘って撮影されている方やタイムラプスを専門で撮影されている方は映像にモーションを付けたり、日没から日の出まで通しで撮影されたりと手の込んだ撮影をされていますが、私はまだまだ映像の方は天体写真同様にビギナーのため『とりあえず撮ってみる』というスタンスで今回は撮影しました。

※実際に撮影したタイムラプス素材はまだまだ見ていただけるほどのレベルのものではありません。お目汚しとなるので公開は差し控えさせていただきます。

夏の定番M16・M17

今回の遠征では何を撮影するかはすでに決まっていました。
前回4月の天城遠征ではさそり座のアンタレス周辺とともにいて座のM8・M20を撮影しましたが、今回はその流れでバンビの横顔を挟んで北にあるM16・M17を狙いました。と言ってもそれらをモザイク合成するつもりはないのですが、やはり天の川の中心部付近は明るいので久しぶりの星野写真撮影ということでウォーミングアップも兼ねて。

『M16 & M17』

撮影データ
カメラ Nikon D7100(IR-custom)
鏡筒 Carl Zeiss Milvus 2/135 ZF.2 Apo Sonnar T* (f/2.5)
架台 Unitec SWAT200(ノータッチガイド)
ダーク減算 なし
フラット補正 RStacker(64枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(60秒×34枚 計34分 iso1600)
画像処理 ADOBE Photoshop CC
その他
・Unitec ドイツ式ユニット(Polemaster仕様)
・Velbon プレシジョンレベラー、SPT-1
・SIGMA TS-31
・Vixen APP-TL130アルミ三脚
・QHYCCD Polemaster

天城高原でのM8・M20の撮影では露出時間は80秒でしたが、今回は80秒ではヒストグラムが右に寄り過ぎになったので60秒で撮影しました。これは南天に関しては天城高原のほうが妙義よりも暗いという証明になるでしょう。

今回はあえて横構図で撮影しましたが、明らかに縦構図のほうが収まりは良いはずです。これはこの日のメインである次の対象の関係で仕方がないところ。簡単に縦横を切り替えられるシステムならばそうやっていたでしょうが、残念ながら現在の私のシステムでは一夜の間で縦横を切り替えるのは手間がかかってしまい、夜が短いこの季節にそんなリスクは冒せない。このあたりも本当は改善したいところなんですが、無い知恵を絞っても策が見当たらないのが現状です。

画像処理に関してはこの対象は暑い夏場にもかかわらずダークを撮影していないですし、あくまでウォーミングアップ的な撮影でしたのでかなりパパッと仕上げました。とくにフリンジ処理に関しては普段私はPSのLabモードにて『ダスト&スクラッチ』を使って処理していますが、この対象はCamera Rawフィルターによるカラーフリンジ処理だけ。結論的にはご覧の通りそれでは不十分な処理であると分かりました。



トラブル続出

PCトラブル

前回の天城遠征では何もかも上手くいって自分も少しは上達したなと自画自賛していましたが、また振出しに戻ってしまうのが天体写真の難しいところ。

いつものように『ポールマスター先生』に極軸合わせを手伝ってもらおうとソフトを立ち上げてみたところ、なんだかいつもと動きが違う…。赤道儀の中心軸出しの際、赤経軸をクランプフリーで2回ほど回転させますが、画面上のターゲットとした星が全く動かない。5、6秒経ってからやっと動いたり(画像が更新される)、と思ったらすぐ動く(反応する)ときもあったり。その後の極軸をきっちり合わせる段階でもグルグル回っているはずの北極星の表示も止まったり、動いたりと不安定…。これはおそらくPC側の問題だと思われ、どうもPCとの通信の問題なのか、そもそもPCがもうダメなのか、今回はなんとか誤魔化しながら極軸を合わせましたが、いままで数分で終わっていた極軸合わせに30分もかかってしまいました。

やはりこういうことも想定して、極軸望遠鏡によるもっと原始的でアナログな極軸合わせも出来るように用意しておいたほうが良いと思いました。
やはりデジタルものにトラブルはつきものなので…。

ギアの脱調

赤道儀のギアの脱調はたまにある事なので驚くことでもないのですが、今回はかなり酷かった…。私の場合、脱調は撮影対象を切り替える際によく出る症状なので最近は多くても2対象に制限していますが、今回はなかなか赤道儀の機嫌が直らず貴重な撮影時間を無駄にしました。一度しっかりギアが噛み合えばそこからはバッチリ高精度に追尾してくれるのですが、2対象目のサドル付近の構図合わせのためのテストショットを大量に行う羽目になってしまいました。

SWAT200は購入してから一度もメンテナンスしていないので、そろっと診てもらったほうが良いのかもしれません。やはり私の使い方が常に過積載気味なので赤道儀にはかなり負担がかかっていると思われます。

はくちょう座γ星『Sadr Region』

次は今回のメイン対象のこちらも夏のド定番、はくちょう座のサドル付近
夏の山岳星景でははくちょう座は季節柄よく撮影するのですが、星野写真としては本当に久しぶりに撮影しました。過去の撮影を見てみるとまだノーマルのD810を使って撮っていたものしかなかったので、今回初めて天体改造機で撮影することになりました。

はくちょう座は天頂まで上がるので、この妙義という立地上とても相性の良い対象になります。私のシステムですとフルサイズ換算で焦点距離は約200㎜相当となるので、画角的にもちょうど良い対象になります。

デネブ付近にある北アメリカ星雲もそうですがはくちょう座周辺の散光星雲群は赤い星雲がほとんどで、さそり座のアンタレス付近のようにカラフルではありませんが、赤でも青っぽい赤であったり黄色っぽい赤であったり、そのあたりの違いが見どころになると思います。やはり改造機だと赤のノリが良く、撮影中も上がってくる撮像を背面液晶で見てワクワクしました。

『Sadr Region』

撮影データ
カメラ Nikon D7100(IR-custom)
鏡筒 Carl Zeiss Milvus 2/135 ZF.2 Apo Sonnar T* (f/2.5)
架台 Unitec SWAT200(ノータッチガイド)
ダーク減算 RStacker(16枚)
フラット補正 RStacker(64枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(100秒×69枚 計115分 iso1600)
画像処理 ADOBE Photoshop CC
その他
・Unitec ドイツ式ユニット(Polemaster仕様)
・Velbon プレシジョンレベラー、SPT-1
・SIGMA TS-31
・Vixen APP-TL130アルミ三脚
・QHYCCD Polemaster

今回は撮像時点から今までで一番丁寧に取り組みました。
露出時間も2時間以上じっくりとかけて(実質的には115分)、画像処理も1次処理から2次処理まで丁寧に仕上げました。結果、作業終了までかなりの時間がかかりましたが出来栄えは今までで一番かもしれません。はくちょう座は天頂付近で撮影できるので苦手なカブリ処理がほとんど必要ないことも幸いして、完成画像はようやく満足いくレベルに仕上がりました。

ここに到達するまで4年半もかかりました…。

X-T3導入

実はここ最近、富士フイルムのミラーレス機『X-T3』を導入しました。
この機種を手に入れた理由はいくつかありますが、富士フイルムのカメラは改造しなくても赤い星雲が比較的写りやすいと言われているため、自分でも試してみたいというのが天文的な理由のひとつです。

その他にも理由はいくつかあって、それに関しては改めて別記事にて取り上げますが、今回早速カメラを星空に向けてみました。なるほど確かにノーマルカメラにしては赤い星雲がしっかりと写っていました。ただこのカメラで本格的な星野写真を撮影する予定は無くて(明るいXマウントのレンズを持っていませんし)、天体ではあくまでブログやSNS用途、そして色乗りの良さを生かして広角での撮影に使いたいと思います。ちなみに冒頭の表紙画像もこのX-T3で撮影した素材を使用しています。

FUJIFILM『X-T3』による天の川テスト撮影

ミラーレスということもあり本当ならタイムラプスをこのカメラに任せたいのですが、X-T3にはニコン機のようにカメラ内で動画を作ってくれないようなので、その辺りがすこし面倒だなと感じる部分です。

今後の天体写真

先立つものさえあるならやはり色収差の無い本格的な反射望遠鏡と赤道儀を導入したいところです。
焦点距離が長くなると写野が狭くなって、それだけ撮影対象も増えていきますし、なによりディープスカイの美しくも複雑なディティールを撮影してみたいと思っています。

どうしても中望遠レンズでの撮影ですと写野が天体望遠鏡より広いため、各シーズンに数カット撮影したら『お題』が無くなってきます。

しかし実はこれも考えようで、現在私が精力的に撮影しているのはやはり山岳写真で、天体写真はその合間で撮影しているというスタンスということもあって、この中望遠レンズの“広さ”はかえってちょうど良いとも言えます。そもそも日本は晴れない日も多く、本格的な望遠鏡を持っていても私の撮影頻度では手に余ってしまいます。まだまだMilvusの性能を存分に引き出していないと思っていることもあって、まだしばらくは中望遠での星野写真をじっくりと突き詰めてみたいと思っています。

最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました。