2023年6月 天体写真山形遠征(ε-130Dファーストライト)

DIARY

2023年6月、今年も例年通りに梅雨入り。
この時期は天体撮影愛好家にとっては不遇の季節到来といったところですが新月期の週末という絶妙のタイミングで “梅雨の中休み” がやって来ました。それも東日本全域にわたる快晴の予報で、思いもかけず願ってもいないチャンスが舞い込んだ形となりました。

本ブログの記事でも投稿した通り、念願であった人生初の天体望遠鏡であるタカハシ『ε-130D』を手に入れてから一度テスト撮影をしていましたが、今回正式なファーストライトと言える撮影を行う絶好の遠征機会に恵まれました。

(目次)

  • 樽口峠へ再びの大遠征
  • 大盛況の樽口峠
  • 『さそり座アンタレス周辺』
  • 赤緯レスの『Advanced VX』
  • 『バンビの横顔』
  • 今後の課題



樽口峠へ再びの大遠征

遠征前日のGPV予測では東日本全域にわたってまさに “真っ黒” な完璧な予測。どこに遠征しても素晴らしい星空を堪能できそうでした。今回は季節柄、春から初夏の対象をこの新鏡筒で撮影したいと思っておりまして、具体的には『バンビの横顔』や『さそり座アンタレス周辺』をその撮影候補としていました。

カラフルな星々の密集エリア『バンビの横顔』

というのもニュートン式反射望遠鏡の大きな特徴として “色収差の少なさ” が挙げられます。今まではカメラレンズで撮影してきましたが、やはりどうしても色収差との闘いでもあり、煌めく色とりどりの星々を表現するには少し難しいものがあって、私自身どちらかというと星々の煌めきの表現よりも星雲をメインとした表現を中心としてきました。しかし今回の新鏡筒はその星自体の表現力というものに長けているので、まずはそれが如実に反映される対象を撮影してみたいという思いがありました。

この季節で言うといて座のスモールスタークラウド『バンビの横顔』がその筆頭に挙げられるのではないかと個人的には思います。このエリアはまさしく色とりどりの宝石を夜空に散りばめたような星の密集地帯でもあります。

樽口峠の夜空

このいて座やたて座~わし座辺りは南の比較的低空の対象なので南の夜空の暗さが欲しいところです。ここ数年に関しては春は天城高原に遠征していましたが、今回は山形県小国町まで北上しました。実はこの小国町にある樽口峠へは過去に何回も遠征している個人的に気に入っている撮影地で、昨年7月にも遠征していますし、つい先月の新鏡筒でのテスト撮影でも訪れていました。

2022年7月 天体写真遠征 (樽口峠の星空・vdB123・網状星雲)

関東からはかなりの移動距離となる大遠征の部類の遠征地なのですが、一度この見事な夜空を体験してしまうと移動距離など大した問題ではなくなります。

実は今回の遠征地の第一候補はここではなくて、新潟県の某山岳地帯の駐車場を考えていました。しかしそこは広いとは言え表向きにはあくまで登山者用の駐車場ということなので、登山目的で前泊する車の往来があってライトのカブリが少し気にかかることが予想されました。それに好天の週末、何より美しい花々が登山道を彩る季節でもありますから、かなりの人出と予想されましたので今回は通いなれた樽口峠に落ち着きました。

大盛況の樽口峠

この樽口峠の良きところは人があまり居ないというところ。
東北の名峰『飯豊連峰』の “ゼブラ柄” とも表現される見事な残雪に覆われた、たおやかで美しい稜線の大展望台という立地でありながら、知る人ぞ知る峠であるところです。あまりに人がいないので夜間にクマが出て来やしないかと不安になるくらいです。
実際に小国町小玉川地区は『マタギの里』です。

今回は日没前の18時ころに現地へ着きましたが予想通り先着は車がただ1台だけ、おひとりだけでした。びっくりしたのは実はこの先着されていた方、偶然にも昨年7月の樽口峠遠征のときもご一緒した東京の方でした。この方は普段は千葉方面で撮影されているとのことですが、私と同様にこの新月期の絶好のチャンスをここ樽口峠の素晴らしい夜空で撮影したいとお考えになったようです。この方の機材というのがまた凄くて、鏡筒が『ε-160ED』で赤道儀は『SXP2』、さらにカメラは『QHY268M』というまさに私の理想とする機材たち。夕方から翌朝までずっとご一緒させていただきました。また新潟方面から来られたFSQ使いのベテランの方もお見えになって天体撮影者は私を含めてわずか3名だけでした。

しかし今回はここで星景撮影される方々が日没前あたりから非常に多くいらっしゃって、この飯豊連峰と天の川をフレーミングしようという星景組と私を含めた天文組が入り乱れ、決して広くはない樽口峠で即席の星まつりとなる珍しく大盛況の楽しい夜となりました。

『飯豊連峰と夏の銀河』(2022年7月樽口峠にて撮影)

『さそり座アンタレス周辺』

今回の遠征ではあくまでメインの対象は先述のとおり『バンビの横顔』でしたが、この星のクラスター領域が高度を上げてくるまで何も撮らないのもあまりにももったいないので、夜半前、すでに高度を上げてきているさそり座のアンタレス周辺に筒を向けてみました。

難関のアンタレス周辺

この対象は実に難物。
美しくカラフルに仕上げるにはそれ相応の露光時間が絶対条件なのは昨年の天城遠征で痛感しています。昨年はカメラレンズを使って2日間撮影して1日目と2日目の撮像をスタックして露光時間を稼ぎましたが、やはり1日目だけのスタック画像で仕上げたものとは比較にならないくらいに美しく仕上げることが出来ました。

もちろん今後、この『ε-130D』でもじっくりと撮影してみたいという対象でもありますが、まだまだこの新鏡筒の扱いに慣れていないところもあって、この対象を本格的に撮影するには時期尚早。しかし今回は赤道儀の赤緯が使えないという問題を抱えての遠征だったこともあり、手動でも難なく導入できる対象としてこのアンタレスを選択しました。

『さそり座アンタレス周辺』

【撮影データ】
カメラ Canon EOS 6D (SEO-SP5)
鏡筒 TAKAHASHI ε-130D
架台 CELESTRON Advanced VX (RA only)
ガイド鏡 SVBONY SV165(30mm F4)
ガイドカメラ QHYCCD QHY5L-ⅡM
ガイディングソフト PHD2 (RA only)
フォーカサー ZWO EAF
ダーク減算 RStacker(24枚)
フラット補正 RStacker(75枚、フラットダーク49枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(200秒×37枚 計2時間03分 ISO1600)
画像処理 ADOBE Photoshop CC
その他
・QHYCCD Polemaster

やはり超強調処理を伴う美しくも淡いアンタレス周辺の散光星雲群、どうしてもその処理過程でノイズが上がってきてしまうので、個人的にはもうあと2時間くらいは露光が必要と感じます。後々にこの日に撮影したライトフレームを有効利用しても良さそうですが、まずはピント合わせやら何やらをしっかり自分のモノにしたいということで撮影してみました。

それにしてもこの鏡筒のシャープさにはびっくりしました。星が実にシャープに表現できます。いままでのカメラレンズ、サンニッパやミルバス135mmも中心部は非常にシャープでしたが、周辺はどうしても星が伸びていましたが、この『ε-130D』はそのシャープさが周辺でも変わらないということに驚きました。

バーティノフマスク

先月の樽口峠でのテスト撮影時、ピント合わせはカメラレンズと同様にデジカメの背面液晶のライブビュー画面で合わせれば余裕でしょと思っていましたが、考えがまったく甘くて、帰宅後に撮像を大きなPC画面で見てみたら見事にピントがズレていました。ピント送りを細かく駆動できるZWOの電動フォーカサー『EAF』を使ったはいましたが、ピントを送ってもそもそもどこがジャスピンなのか現地では判断が全く出来ませんでした。
タカハシ ニュートン式反射望遠鏡『ε-130D』の導入②|Shades of Heart

そこで今回は『バーティノフマスク』を導入してピント出ししてみましたが、やはりこのアイテムが無いとピント出しが実質不可能と理解できました。以前ミルバス135mmを使っていた時にカメラレンズ用の『ミニバーティノフマスク』を使ったことがありましたが、カメラレンズでは必要ないと分かって使っていませんでしたが天体望遠鏡、少なくともこの『イプシロン』には必須のアイテムであるとしっかりと理解できました。



赤緯レスの『Advanced VX』

以前から赤緯に問題があって騙し騙し使ってきたセレストロンの赤道儀『Advanced VX』ですが、今回から完全に赤緯を無視した運用に切り替えました。もちろん赤緯が動かなければ自動導入機能は使えないのですが、赤経軸がしっかりと駆動できていれば追尾撮影自体は可能。

樽口峠で仰ぎ見る天の川銀河(いて座~はくちょう座)

先月のテスト撮影では感度を高めにして露光時間を短縮することでノータッチガイドで撮影しましたが、よく考えれば『PHD2』の赤緯ガイドをオフれば1軸のみのガイド撮影も可能ですから、手動で導入さえしてしまえばまだまだ使っていけることになります。

嬉しい誤算
今回赤緯ガイドを行わずに赤経のみのガイド撮影(1軸ガイド)を行いましたが、撮像結果を精査してみると赤緯ガイドも使った2軸のガイド撮影よりもガイドエラーが極端に減りました。以前から赤緯のガイドエラーが起こるとDCモーター仕様のためなのか、はたまたバックラッシュが大きいからなのか、なかなかガイドグラフが戻ってこない現象が多かった印象でした。少なくともこの赤道儀に関しては個人的には自動導入時のみ赤緯を動かして、ガイド撮影自体は1軸のみのガイドのほうが撮影結果は良いように思いますが、どうでしょう?
手動導入に関してはこの赤道儀にはもちろん目盛り環は無いし微動装置も無いので、テスト撮影を繰り返しながらチマチマ合わせなければなりませんが、明るめの対象ならば何とか可能。この新鏡筒にも今後もっと慣れなければいけませんから、しばらくは淡い対象は狙わず、明るい有名天体の撮影を楽しんでいければ良いかなと思っております。

『バンビの横顔』

夜半過ぎ、アンタレス周辺の撮影をある程度で切り上げ、いよいよ今回の遠征のメイン対象である『バンビの横顔』に筒を向けました。この対象は “バンビの首飾り” とも称される赤い星雲『IC1284』も特徴的ですが、何と言っても年老いた褐色の星や若く蒼白く輝く星など、とにかく色とりどりの星々が魅力的な星域です。

『バンビの横顔』

この日は多少の風はありましたが実に湿度の低い、乾燥空気を送風する必要がないような夜でした。昨年7月の樽口峠では一晩中ずっと蚊の大群に悩まされましたが、今回はそれほどでもなく快適な一晩でした。

実際に撮影してみて、やはりこの領域は本当に眩いばかりの星の煌めきに溢れていると感動しました。とくにバンビの鼻のあたりをご覧ください。これぞまさに夜空のベルベットに煌びやかな宝石を散りばめたような見事な星域だと思いませんか?

『Small Sagittarius Star Cloud』

【撮影データ】
カメラ Canon EOS 6D (SEO-SP5)
鏡筒 TAKAHASHI ε-130D
架台 CELESTRON Advanced VX (RA only)
ガイド鏡 SVBONY SV165(30mm F4)
ガイドカメラ QHYCCD QHY5L-ⅡM
ガイディングソフト PHD2 (RA only)
フォーカサー ZWO EAF
ダーク減算 RStacker(24枚)
フラット補正 RStacker(75枚、フラットダーク49枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(200秒×24枚 計1時間20分 ISO1600)
画像処理 ADOBE Photoshop CC
その他
・QHYCCD Polemaster
今回からデジカメはニコン『D7100改(HKIR)』からキヤノン『EOS 6D改(SEO-SP5)』に変わりました。如何せん初めてのキヤノン機ということで使い慣れたニコン機とは操作系がかなり違うので戸惑いましたが、暗闇の中なんとか撮影できました。

やはりAPS-C機とフルサイズ機では感度の面で1段分以上の優位性を感じますし、とくに天体写真では解像度の部分で非常に大きなアドバンテージを感じました。画角的にはサンニッパにAPS-C機を装着した写野(450mm相当)と『ε-130D』にフルサイズ機を装着した写野(430mm)ではほぼ同じになりますが、そもそもの光学系の焦点距離が違うのでやはり撮像に大きな違いを感じました。

“星” を撮る

美しく神秘的な星雲の写真はまさに天体写真の花形ですし、私自身も今まで多く撮影してきましたが、特に淡い対象なんかは “星” の存在ががウザく感じるときがあります。淡い星雲やガスは画像処理においてかなり強い強調処理をかけますが、どうしても星も一緒に強調されてしまって、それら淡い対象がその星に埋もれてしまって存在感にかけることはよくある事ですし、悩みの種でもありました。

星を落ち着かせる方法はいくつかあるかと思います。

・ナローバンドで撮影する(またはそれをブレンドする)
・強調処理において星にマスクをかける
・いわゆる “星消し処理”
その他、星雲を目立たせるために星の存在感を沈めること(星を削る系の処理)は可能かと思いますが、私は以前から偉大なる先人たちが残した『星自体が美しい天体写真』というものに大きな憧れを抱いておりました。星を小さくしたり消すのではなく、その星自体が美しく撮影・処理出来てさえいれば星雲やガスと相まって見応えのある天体写真になると思っています。

初めてにして最後になるであろう天体望遠鏡として反射望遠鏡を選んだのは星を美しく撮りたいからという理由が一番でした。

この時期は薄明が始まるのも早い。

今まで使ってきたカメラレンズでは決して到達できない星の写り、これこそが『イプシロン光学系』の真骨頂だろうと私自身は思っています。そういうこともあって今までのカメラレンズでは星雲を主体として撮影・画像処理してきましたが、今後は星の描写というものをもっと大切にしていきたいと考えています。



今後の課題

念願であった初めての天体望遠鏡、それも憧れであったタカハシの『ε-130D』での撮影を始めることが出来ました。カメラレンズを使っての天体撮影もそれはそれで楽しいことでしたし意義のあることだとは思いますが、やはり天体撮影に特化した鏡筒での撮影は非常に楽しいことで、なにより大きな満足感と同時に素晴らしい画像を得ることが出来ました。

赤道儀問題

赤道儀の不具合に関しては赤緯が使えないことは大きな痛手で、自動導入が使えないのは使い勝手が悪いですが、そのおかげで棚ぼた的に良画像が得られたことも分かりました。『430mm』という広めの写野ということで明るい対象であれば自動導入の必要性も感じませんでしたし、修理に出す、あるいは新赤道儀の導入も考えてはいますが、現状は “使えている” と感じています。

ただサンニッパからε-130Dに変わったことで、バランス的には付属のウェイトを目いっぱい下げてなんとか均衡を保っている状態なので、今後カメラが重くなったりすればゆくゆくは積載的に限界なのだろうと思います。

飯豊連峰の目覚め

赤道儀の導入候補

新たな赤道儀の導入候補としては自重が重い分、ある程度の風にも耐性があるだろうと思われるスカイウォッチャーの『EQ6R』がコスパ的にも良いかと思っていますし、この価格帯でステッピングモーターとベルトドライブによる静粛性と高レスポンスは大きな魅力だと思っています。
EQ6R|Skywatcher

もう一つは国産の安心感・信頼感を得られ、そして実績のあるタカハシのロングセラーな中型赤道儀『EM-200(TEMMA 3)』。ただ現在こちらは受注停止状態で、いつ再販されるかという目処もたっていないという状況とのことです。
EM-200 TEMMA3|高橋製作所(製品情報)

現状手に出来て、しかも国産メーカーとなるとビクセンの赤道儀『SXP2』も候補のひとつになります。こちらはスターブック10による使い勝手の良さが何よりも光りますが、やはりタカハシにしろビクセンにしろかなり高額なもので、年間を通じて撮影機会が極端に少ない天体撮影ということもあって、そのあたりの折り合いをどう考えるかということでしょうか。
SXP2|Vixen

スパイダーの回折光問題

新鏡筒を購入してからこのファーストライトを迎えるまで様々な事前準備や対策等を行ってきましたが、残るは主鏡を押さえている爪のわずかな出っ張りを隠すマスクの作成があります。アンタレス周辺の画像をご覧いただくとお分かりかと思いますが、この爪の出っ張りの影響は少なくはないと個人的には思っています。

対策するには一度主鏡を外して、その爪を絞り環の要領で覆うように作成・装着しないといけません。もちろん中途半端なものを作成したり、装着がいい加減だとかえって悪影響が出てしまうものでもあります。

それともう一つ。
今回現地でご一緒した “ε-160ED使い” の方に教えていただきましたが、そもそもこのスパイダーの光条を打ち消すアイテムがあるということを知りました。鏡筒の筒先にあるスパイダーに装着するそのアイテムを使えば光条に引っ張られることによって起こる小さめの星が四角くなる現象を押さえることが出来ます。それに例えば『M45』のような輝星が密集している対象なんかはスパイダーの光条が煩くなる嫌いがありますが、これを使えばそれも防ぐことが出来ます。実際にこのアイテムを使って撮影された画像をその方に現地で見せていただきましたが、反射鏡筒で撮った撮像なのにまるで屈折鏡筒で撮ったもののようにスパイダーの無いスッキリとした撮像でした。

反射望遠鏡はこのようにスパイダーひとつとってもなかなかに奥が深い構造の望遠鏡なので、この辺りの理解も今後深めていかなければなりません。

 

今回の遠征記事は以上になります。
最後までお付き合いいただいた読者様、ありがとうございました。