2022年10月 天体写真遠征 (IC1396、ハート星雲、洞窟星雲)

DIARY

街もすっかり秋めいて肌寒ささえも感じる10月下旬、新月期の好天を狙って天体撮影に行ってきました。天体遠征は7月の山形県樽口峠への遠征以来となり約3ヵ月ぶり、久しぶりの天体遠征となりました。

2022年7月の天体遠征 ↓

2022年7月 天体写真遠征 (樽口峠の星空・vdB123・網状星雲)

(目次)

  • 星雲ひしめき合う秋
  • 大盛況の妙義
  • ケフェウス『IC1396』
  • 続くトラブル…
  • ハート星雲『IC1805』
  • 傾向と対策
  • 追加遠征
  • 洞窟星雲『Sh2-155』周辺
  • 遠征を終えて



星雲ひしめき合う秋

10月ともなると夜半過ぎにはオリオン座も東から昇ってくる季節。オリオンの三ツ星(Orion’s Belt)の輝かしい煌めきを目の当たりにするといよいよ冬がやってくるなぁと季節の変わりを実感しせずにはいられません。

撮影対象も夏とはまたガラッと変わって、秋は秋で星雲もとても多くて何を撮ろうかと悩ましい季節でもあります。また夏とは違って太平洋側は晴天率も上がり、夜も長いことで天文屋としてはこれから忙しくなってくる、まさに書き入れ時といった時期になります。

M31アンドロメダ大銀河

まず秋と言ったらやはりアンドロメダ大銀河(M31)を思い浮かべます。夏の天頂を陣取っていたはくちょう座が西へ過ぎ去って、秋はこのアンドロメダ大銀河が変わって陣取るというイメージです。我々の住む天の川銀河のお隣にある巨大な銀河で(お隣と言っても約250万光年離れている!)、その美しさから『アンドロメダ大星雲』とも言われ毎年でも撮りたい対象です。

季節外れのアンドロメダ銀河(2022年1月撮影)

IC1396

ケフェウス座µ星、通称『ガーネットスター』と呼ばれる赤色超巨星付近にあるこちらも巨大な大星雲IC1396。赤い星雲ですが非常に淡いのでノーマルのデジカメなどではほとんど写らない対象でもあります。『象の鼻』と言われる暗黒星雲をはじめ、星雲内の構造も複雑で非常に見応えがある散光星雲で晩夏から秋にかけての代表的な天体です。

ハート星雲・胎児星雲

カシオペア座付近にある赤い星雲の代表的な対象がこのハート星雲(IC1805)と胎児星雲(IC1848)でしょう。Hα線で輝く対象なので肉眼では見えませんが、改造機であればきれいに浮かび上がります。カメラレンズなどで少し広角目に、この二つの星雲をセットで撮影されることも多い対象でもあります。

『Heart&Soul』(2021年12月撮影)

クワガタ星雲・洞窟星雲

こちらもカシオペア付近、ちょうどハート星雲や胎児星雲とはカシオペアを挟んだ反対側にある秋の代表的な赤い星雲がクワガタ星雲(Sh2-157)や洞窟星雲(Sh2-155)です。こちらも広角目に二つをセットで撮られることも多い対象でもあります。この付近には散開星団(M52)もあり、その周辺に赤い星雲がひしめき合っています。どちらの星雲もシャープレスカタログと言うことで淡く、じっくりと露光をかけたい対象です。

その他、夜半過ぎにはぎょしゃ座の赤い星雲やペルセウス座からおうし座にかけての淡い対象、そしてプレアデス星団(すばるM45)なども東から上がってくるので時間がいくらあっても撮りきれないほど魅力的な対象で賑やかな夜空となります。

M45『すばる』(2022年1月撮影)

大盛況の妙義

今回の遠征は平日ということで通いなれた妙義へ向かいましたが、20時過ぎに現地に到着してビックリ。同業者は多くて5、6人くらいかと予想していましたが、なんと駐車場には20台弱の車が…。平日とは言え新月期の快晴とくれば皆様さすがの天文ファン、さすがの天体撮影のメッカ妙義!

この時期は薄明終了時刻も早いことから私が到着した頃には皆様すでにスタンバイ完了状態のようで、ウロウロしてもご迷惑なので空いたスペースに車を入れてそそくさと機材の設置にかかりました。

気温は車の外気温計で5℃と低いですが風もなく、それほどの寒さは感じませんでした。
実に快適な夜、
美しくも険しい紅葉に色づく妙義山の麓、
満天の美しい星空、
そして久しぶりの天体撮影でテンションも上がらないわけにはいきません。

狙うはケフェウス

この夜はその多くの魅惑的な対象の中からどれを撮ろうかと大いに悩みましたが、手持ち機材がサンニッパのみと言うことで画角的(換算約450mm)にもちょうど良いIC1396をメインに撮ろうと計画しました。

今夜は北天狙い

ただ、この対象は9月の新月期あたりに狙うのが適期で、この時期では夜半には早々に西に傾きつつあります。と言うことで夜半過ぎは対象を変えてハート星雲を単体で狙おうという計画にしました。
平日ということで時間も限られている関係で淡い対象を深追いすることが出来ないので、今回は無理せずこの2対象を狙います。

トラブルはつきもの

快晴の美しい星空のもと、はやる気持ちを押さえながら準備をして21時過ぎにはAdvanced VX赤道儀のアライメントにかかれましたが、一発目のアライメントでサンニッパがてんで方向違いのほうへ向いてしまうトラブルが発生。赤道儀の動きをよく観察してみるとどうも赤緯体が動いていない…!

「おい、おい、久しぶりの仕事で緊張してるのかい?」

何回かコントローラーの東西南北ボタンを押したり、接続関係をいじったりしているうちに動き出して事なきを得ましたが、なんだか頼りなく思えてきました。

「大丈夫かよ…。」

初めての工作

実は今回、夏に自作していたサンニッパ用の延長フードを初めて使用してみました。天文系の皆様はこのような市販されていないフードや接続パーツなどは自作したりワンオフで発注したりして使用しておられる方が非常に多いです。このあたりが一層『天文マニア』と言われる所以かと思いますが、とにかく美しい天体写真を撮りたいという金勘定ではない純粋な情熱の表れかと思います。私もいよいよ工作するようになるまでのところに来てしまった…と感じました。

遮光環フード(塗装前)

迷光防止用に

ネットにあった先人たちの作り方をただ単に見様見真似で作っただけのものですが、初めてにしては上出来。わざわざ遮光環(バッフル)まで付けた本格仕様ですが、いずれアストログラフを導入した時に上手く作れるようにという “練習” の意味もありました。

サンニッパの純正フードはカーボン製で肉厚、しかも内側は植毛紙加工された実に立派なフードですが、天体撮影で使うには少し浅いかなと以前から思っていました。特に低空の対象を狙うようなときは迷光が入ることもあって対策しようと思っていました。

自作フードの実際の使い方としてはこの純正フードの上から被せるという方式で使っていきます。

立派なフードも天文用途にはもう少し深さが欲しいところ。



ケフェウス『IC1396』

赤道儀のアライメントを終え、いよいよIC1396を導入し撮影を開始できたのが21時半頃。相変わらず雲一つない実に素晴らしい星空。

赤緯が心配でしたがPHD2のガイドグラフはまずまずで一安心。
その後はそのまま夜半まで延々と撮り続けました。

ケフェウス『IC1396』

撮影データ
カメラ Nikon D7100(IR-custom)
鏡筒 AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR Ⅱ(f/3.2)
架台 CELESTRON Advanced VX
ガイド鏡 SVBONY SV165(30mm F4)
ガイドカメラ QHYCCD QHY5L-ⅡM
ガイディングソフト PHD2
ダーク減算 RStacker(8枚)
フラット補正 RStacker(64枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(150秒×59枚 計2時間27分 ISO1600)
画像処理 ADOBE Photoshop CC
その他
・QHYCCD Polemaster
・トリミングあり

ひとつの対象に対して2時間半分の露光を使えたのは個人的には今までで最長の部類。そのおかげか色も比較的出てくれました。この対象は淡い部類で過去にも何度か撮影していましたが画像処理段階で辛酸をなめてました。出来としては今までで最も良いですが、星雲は良くてもまだまだ星の表現と言うところが全く出来ていないのが自分としても悔やまれます。

続くトラブル…

夜半近くになるとケフェウスもかなり西に傾いてきました。単純な露光時間だけならばすでに200分撮影できているので、この辺で次の対象に切り替えます。

ハート星雲を再導入して撮影に入ろうとした途端、何かの拍子でPCの電源ケーブルが抜けてしまい電源が落ち、再びガイドのキャリブレーションをやり直す羽目に…。すると今度はそのキャリブレーションが全然終わらず、ついには『バックラッシュクリア失敗: ガイド星が十分に動きません』というメッセージが出てしまいました。

やはりどうもこれも赤緯体(DEC)が動いていない原因のよう。
何回か自動導入を繰り返したり東西南北ボタンを押したりしたらまた動き出しましたが、この対応に1時間も無駄にしました。一時は赤緯のガイドをオフにして1軸のみのガイド(RAのみ)にしようとも試みたほどです。

ハート星雲『IC1805』

さすがに少し仮眠しておきたくて、この対象は完全に睡眠撮影にしようとセットしました。しかしあろうことか赤緯のトラブル対応に完全に注意がそれてしまってデジカメのバッテリー交換を忘れてしまいました。

IC1805『Heart Nebula』

撮影データ
カメラ Nikon D7100(IR-custom)
鏡筒 AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR Ⅱ(f/3.2)
架台 CELESTRON Advanced VX
ガイド鏡 SVBONY SV165(30mm F4)
ガイドカメラ QHYCCD QHY5L-ⅡM
ガイディングソフト PHD2
ダーク減算 RStacker(8枚)
フラット補正 RStacker(64枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(150秒×20枚 計50分 ISO1600)
画像処理 ADOBE Photoshop CC
その他
・QHYCCD Polemaster
・トリミングあり
この夜は平日なので3時までと決めてタイマーをセットして仮眠に入りましたが肝心のカメラは2時過ぎまでしか仕事をしていなくて、さらにピントに関しても甘いので残念ながらこのハート星雲はほぼボツ、参考記録的なものになりました。

傾向と対策

Advanced VXはまだ1年も使っていませんが、どうも私の個体は赤緯に問題がある個体のようです。今までもガイドグラフの傾向を見てみるとRAはそこそこ安定していますが、DECは一度暴れだすとなかなか元に戻るのに時間がかかっている様子です。

VXは昔ながらのDCモーター仕様なのでガイド補正の反応が鈍いのか、ギアのバックラッシュが大きいためなのか。ネットを徘徊しているとこのVXをベルトドライブ化改造をされておられる方もいらっしゃいますから、やはり“価格相応”なのでしょうか?天文機材は自分で手を入れてナンボとも言われますが、なかなか私のような素人が手を出せるものでもありません。

デジカメの電源に関してはDCカプラーを使ってポータブル電源から供給すればバッテリー交換せずに一晩中撮れるのですが、その純正カプラーが今のご時世ではなかなか手に入りません。

対策としてはどちらも『だましだまし使う』くらいでしょうか。(対策になっていませんね…)
そもそも私はまだサンニッパで撮影している段階なので、本格的なアストログラフ導入となる頃まではそれほど天文機材に投資出来ないというのが正直なところです。

追加遠征

平日に遠征したばかりですが、先述した通りこの時期はとにかく撮りたい対象が目白押しなので週末も再び好天予測の妙義へ追加遠征しました。天文は3ヶ月ご無沙汰なので、宿題が溜まってしまってますから。

紅葉が美しい妙義へ追加遠征

夕方には現地に着きましたがこの日も天文ファンで大賑わいでした。奥のほうに陣取って日没後には早々に極軸合わせを終えてスタンバイ。天体遠征はこの時間が最もワクワクするときで、近くで撮影される方と天文談義でくつろぎつつ、遠征地などの情報交換をしたりして夜がくるのを待ちました。

赤緯の接点不良?

結局この日も赤緯の調子が悪くてアライメントの時点でまた動かずでしたが、原因はどうも接触不良であることが分かりました。赤道儀本体部と赤緯体を繋ぐカールコードが中で断線気味なのか、赤緯側の端子の接触不良なのか、何回か指し直したり弄ったりしたら動きました。

一度動けばそのまま動いてくれるのですが(ガイドグラフDECも反応している)、再導入したりするとまた動きが怪しくなるといった状態。一度しっかりと原因を突き止めなければ、怖くて今後安心して使用できません。

・ ・ ・

今回は週末と言うことで淡い対象をじっくりと狙いたく、洞窟星雲周辺を撮影する計画としました。このケフェウスとカシオペアの間にある散開星団M52の周辺は赤い星雲や暗黒星雲が入り乱れている領域で、今回初めて撮影するエリアでとても楽しみにしていました。

オリオンも昇る季節

洞窟星雲(Sh2-155)周辺

今回はその特徴的なM52が近くにあるので導入や構図合わせも余裕だろうと思っていましたが、いざ自動導入してみるとテレスコープウェストで導入されました。まだ対象が天頂付近とはいえ東側にあるので当然そうなりますが、今回は淡い対象なのでガンガン露光をかけたい。なので露光途中での子午線越え対応が面倒なので今回はコントローラーを使ってテレスコープイーストになるように手動で導入しました。

構図合わせに多少難儀しましたが、これで撮影し出してしまえば放置できます。幸い20時過ぎには露光を開始できました。

『Area The Cave Nebula』

撮影データ
カメラ Nikon D7100(IR-custom)
鏡筒 AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR Ⅱ(f/3.2)
架台 CELESTRON Advanced VX
ガイド鏡 SVBONY SV165(30mm F4)
ガイドカメラ QHYCCD QHY5L-ⅡM
ガイディングソフト PHD2
ダーク減算 RStacker(16枚)
フラット補正 RStacker(64枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(150秒×64枚 計2時間40分 ISO1600)
画像処理 Astro Arts Stellaimage 9  &  ADOBE Photoshop CC
その他
・QHYCCD Polemaster
・トリミングあり

快調に枚数は稼げましたが残念ながら22時頃から風が出てきたためか、はたまた長時間追い続けてバランスが崩れてしまったのか(追い込み不足?)、この日はガイドグラフがいまひとつ安定せず、特に後半は赤経も赤緯も暴れまくりで全然ダメでした…。

この領域は撮るのも初めて、つまり画像処理も初めてになるわけですが美しく仕上げるにはまだまだ自分自身の力量不足を強く感じました。露光時間はそこそことは思いますが、如何せんカラーバランスがどこが正解なのか全くわからず、落としどころに迷いました。何よりここもかなり淡い領域であることだけは理解できました。

処理は全然納得できていないので、時間を見つけて再処理したいと思っています。

遠征を終えて

午前1時に西に傾きつつある洞窟星雲の露光を終了して次に向けたのはほぼ天頂に上がってきた『NGC1333』。そう、今年も懲りずにこの淡くも魅惑的な対象にレンズを向けました(笑)。なぜか私はこの対象に惹かれます。

とは言っても過去に何度も痛い目にあっているのでこの夜の露光だけでは不十分であることは承知していましたので今回は予備露光と言いますか、次回の新月期での露光分との合わせ技で何とかしようという作戦。

ただ、残念ながら3時前後から薄雲が出てきてしまいそれほど露光はかけることが出来ませんでした。今回はそういうこともあり画像はありません。

賑わう妙義

そんなわけで天体遠征は3か月ぶりでしたが、この空いた期間を埋めるべく積極的に撮影に出かけたため結果だけは多く残せましたが、まだまだ満足のいくクオリティには程遠いものばかりです。これからの季節は本格的に冬の対象も上がってくる季節なので、撮影技術だけでなく画像処理技術の向上も考えておかなければなりません。

 

少し長くなりましたが今回はここまでとさせていただきます。最後までお付き合いいただきありがとうございました。