2021年12月 天体写真遠征 (IC348&NGC1333、バーナードループ)

DIARY

2021年12月、約5か月ぶりとなる天体写真遠征に行ってきました。
秋から冬の対象を狙いに、いざ新月期の群馬県妙義へ。

(目次)

  • 季節は夏から冬へ (秋を飛ばして…)
  • 昨年のリターンマッチ
  • 好天も風が強い妙義の夜
  • 『IC348~NGC1333にかけての星野』
  • 『バーナードループ』
  • 追加遠征(ハート&ソール星雲と彗星)
  • ポールマスターの不具合
  • 最高の “セカンド機”
  • 紅葉の残り火

季節は夏から冬へ (秋を飛ばして…)

前回の天体遠征は7月でして、今年2021年は3月、4月とそこそこ良いペースで撮影してきていました。天文に関してはあまりに間隔が開くと “また1から感” があって感覚を取り戻すのが大変ですが、今年は個人的にはかなり良い感じで撮影できています。

2021年7月 天体写真群馬遠征

しかし残念ながら夏の再びの緊急事態宣言やら何やらで昨年と同様に山も星も逃げていきました。結局天体の遠征は約5ヶ月ぶりといつものペースに戻ってしまいました。

季節は秋をすっ飛ばしてもう冬。
高い山々の頂が白く輝く季節。
ボケっとしていると季節の移り変わりを異常に早く感じる今日この頃なわけです。



昨年のリターンマッチ

昨年はまだニッコールのf/2.8の望遠ズームレンズで天体撮影していました。
今年に入って早々にMilvus135mmを導入。多少の軸上色収差はありつつもズームレンズを軽く凌駕する解像度と1段分の明るさはやはり天体撮影においてはとても大きな恩恵で、春から夏にかけて撮影した写真のどれもが今までのものを軽く打ちのめす結果に繋がったと感じました。

「光学系が変わるとここまで天体写真のクオリティーは変わるのか…」と。

ZEISS Milvus 2/135 ZF.2

と言うことで今回は1年ほど前にズームレンズで撮影した対象と全く同じ対象をこのミルバスで撮り直してみようと計画しました。無謀にも昨年は淡い対象として知られる『IC348・NGC1333』をズームレンズで撮影するという愚行におよび、さらに樽口峠という好立地での撮影にも関わらず全く露出時間が足らず辛酸をなめた『バーナードループ』。もちろんどちらとも結果的には儚く散ったわけですが、そこを今年はミルバスでリターンマッチ。まだ撮ったことが無い魅力的な対象も多いのですが、今回はそこは我慢して昨年と同じ対象を同じ構図で撮影しようと決めていました。

ただミルバスのほうが写野が広いので(ズームは200mm)、全く同じではないので構図の面でも少し楽しめる部分はありました。

Zeiss『Milvus 2/135 ZF.2』

好天も風が強い妙義の夜

天体写真を始めたばかりの頃は暗い夜空を求めていろいろなところへ遠征しましたが、最近は撮影地も絞られてきました。と言うのは撮影地によってどの方角が暗いとか、空(視界)がどれくらい開けているのか、立地的な晴天率や風などの要素が絡み合って、あまり多くの撮影地を転々とするよりはいくつかに絞って、後はGPV予測やWindyで最終的に決定することとしています。

『南天の夏の天の川はココ』や『北天ならココ』、『西に沈んでいく対象ならココ』などともう最近はだいたい決めています。

妙義山と北天の夜空

今回はまたいつもの妙義となりましたが、ここの良さのポイントは…

・地形的起因による晴天率の良さ
・およそ1,000mの標高の高さによる大気の透明度。
・関東からも遠征しやすい身近さ
ですが残念ながら東側は高崎や東京方面の光害がかなりきつい立地となります。今回は以前よく遠征していた長野の八千穂高原と最後まで悩みましたが最終的にはGPV予測で妙義としました。結果この夜は時折かなり強い風がありましたが一晩通して快晴でした。

さらに今回は某SNSでお世話になっている『まささん』とご一緒させていただき、とても楽しい一夜となりました。

『IC348~NGC1333にかけての星野』

妙義の立地的にバーナードループなどオリオンの撮影は南中過ぎが良いので、まずは天頂付近で撮影できる『IC348・NGC1333』から撮影開始。

深淵なる宇宙の神秘『NGC1333』

この淡くて魅力的な対象。
私にはなぜか惹かれるものがあります。
深淵なる “宇宙” を感じられるところがあって、カラフルなアンタレス周辺や、いて座付近の煌びやかな星の密集地帯とはまた違う魅力があります。しかし如何せんこの対象はきっちりと導入するのがまずもってたいへんで構図を合わすだけでも一苦労。もちろん系外銀河の撮影などとは違い135㎜と写野は広いのですが、昨年撮影した画像と照らし合わせながらカメラのファインダーで星の位置などである程度合わせてからテスト撮影を繰り返しました。対象も天頂付近なのでファインダーを覗くたびに “仰け反る” という超古典的な導入方法。

さらにテストで上がってくる撮像も星しか写っていない実にのっぺりした画像。最終的には『マァ大丈夫でしょ』的ノリで撮影開始しました。

のっぺりとした撮像(コンポジット後)

ハイスピードミルバス

ミルバスの良さは f/2というその明るさ。
昨年はズームレンズを少し絞って f/3.2180秒という設定でヒストグラムが真ん中くらい。今回のミルバスでは少し絞って f/2.590秒という設定でヒストグラムが真ん中より少し右。オートガイドを用いないポタ赤運用の場合、このハイスピードさは追尾成功率に大きく寄与しますし、短時間で枚数も稼げるので画像品位も大きく向上します。『明るさは正義』とは天文界隈でよく言われますが、このミルバスを手にしてからそれを身に染みて感じています。

ただ時より吹き付ける強風のためか、ノータッチのためか、結果的には1/3くらいはすこし流れてしまった撮像がありました。

『IC348 & NGC1333 (Super Noisy Stretch)』

撮影データ
カメラ Nikon D7100(IR-custom)
鏡筒 Carl Zeiss Milvus 2/135 ZF.2 Apo Sonnar T* (f/2.5)
架台 Unitec SWAT200(ノータッチガイド)
ダーク減算 RStacker(32枚)
フラット補正 RStacker(64枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(90秒×66枚 計100分 iso1600)
画像処理 ADOBE Photoshop CC
その他
・Unitec ドイツ式ユニット(Polemaster仕様)
・Velbon プレシジョンレベラー、SPT-1
・SIGMA TS-31
・Vixen APP-TL130アルミ三脚
・QHYCCD Polemaster
画像処理はいつもの恒例のお粗末処理で、この淡いガスや星間物質がある程度出ればよいというものですが、元々の撮像の品位が向上しているので結果的にはなんとか昨年よりマシというレベルにはなりました。天体写真というのはなんでもかんでも強調すれば良いというものではないことは重々理解していますし、その匙加減が人それぞれなので同じ対象を撮っても全く違う作品に仕上がるところがとても奥深いところです。

ただこのような分子雲や淡いガスが見どころの対象はやはり強調前提の対象だと思います。と言うことはそれ相応の撮影時の覚悟が必要になると改めて思いました。昨年よりもシャープで明るい光学系で、撮影枚数も倍になって確かに淡いガスは表現できましたが、やはりこれだけノイジーになってしまうのは処理以前に明らかに露出不足。この対象は一晩かけて、いやもっと言うならば数日かけて徹底的に露出しなければならない対象だとつくづく思いました。そもそも私のような天文ビギナーが手を出す対象ではないことは今年もよくわかりました。

作例の副題は私なりのアイロニー。
そろそろ画像処理についても真面目に取り組まねばなりません。



『バーナードループ』

日付が変わってオリオンが南中するころを見計らって次の対象であるバーナードループにレンズを向けました。

構図を楽しめるカメラレンズ

個人的にこの構図がとても好きで、バーナードループを挟んでのM78LDN1622の見応えがあり、さらに今回は前回より写野が広く馬頭星雲まで入りました。カメラレンズを使用した星野写真はこういった広い写野を活かした構図遊びが楽しいものです。長焦点が多い天体望遠鏡ではこのような構図はモザイクする必要がありますが、そこをワンショットで撮影できるのがカメラレンズの良いところだと思います。

『Barnard’s Loop (M78) 』

撮影データ
カメラ Nikon D7100(IR-custom)
鏡筒 Carl Zeiss Milvus 2/135 ZF.2 Apo Sonnar T* (f/2.5)
架台 Unitec SWAT200(ノータッチガイド)
ダーク減算 RStacker(32枚)
フラット補正 RStacker(64枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(90秒×66枚 計100分 iso1600)
画像処理 ADOBE Photoshop CC
その他
・Unitec ドイツ式ユニット(Polemaster仕様)
・Velbon プレシジョンレベラー、SPT-1
・SIGMA TS-31
・Vixen APP-TL130アルミ三脚
・QHYCCD Polemaster

オリオン周辺は華やかで、1対象目のような何が写っているかもわからないような淡いガスに比べて上がってくるテスト画像がいかにも “天体写真” でワクワクしますし、単純に構図を確認するのも合わせるのもとにかく容易。てっぺんを過ぎ暗さを増した妙義の美しいオリオン座を眺めながら撮影しました。

片ボケ

ただ残念ながら画像を持ち帰ってPCで確認したところ、ご覧の通り左下のほうが若干ですが片ボケしていました。これを嫌って面倒ながらもレンズサポーターと社外品の三脚座を使って2点で支持しているのですが、原因は不明(スケアリング?)です。

下記の画像は四隅をそれぞれ拡大したもの。
画面左上や右下は恐ろしくシャープですが、左下は微恒星が若干ピンボケしているように見えます。

特に左下の微恒星がボケている

カメラはAPS-Cなのでフルサイズならもっと周辺はボケているはずです。やはりこのようなことを考えると光学系のイメージサークルに対してチップをダウンサイジングすることは理にかなっていると改めて思いました。周辺減光ピントスケアリングエラー非点収差など平坦性の悪いところはバッサリと切り捨てて、光学系のおいしい部分を使う運用は精神衛生上も楽ですし今後もこの方針で続けていくと思います。

解像度や感度の面では明らかに大きなセンサーのほうが有利ですが、その分苦労も伴います。しかもカメラ自体もチップが小さいと軽いですし安いですし良い面も多いです。この完成画像は片ボケした部分を切り落とすようにトリミングしていますから、もういっそのこと小さいチップで良くない?と。

中央から四隅にかけて画像を細かく確認すると左側が緑色のフリンジ傾向、右側は紫色のフリンジ傾向なので微妙にスケアリングが傾いているのか、レンズ自体の癖なのか、なんとなくミルバスの光学性能を出し切れていないようにも思えます。

追加遠征 (ハート&ソール星雲と彗星)

7月以来の天体遠征で改めて天体写真の楽しさや奥深さを感じ、次の新月までどうしても待てなくて翌週も月没後を狙って再び遠征しました。

この夜はまたも快晴(さすが妙義!)で、さらに無風という好条件でしたが湿気が非常に多い夜でした。現地到着後、月が西の空にまだ輝いている時間からすぐに妙義山を絡めたタイムラプス動画を仕掛けましたが、あいにくレンズヒーターをメインの星野写真用にしか持っていかなくて15分程度ですぐにレンズが結露してあえなく撃沈。

追加遠征

その後メインの星野撮影は月没後の0時前から撮影を開始しました。
先週は昨年撮影した対象を改めて撮るというテーマでしたが、この夜は以前から撮ってみたかったカシオペア~ペルセウス付近の『ハート&ソール星雲』。ハート星雲はIC1805、ソール星雲はIC1848でその形状から『胎児星雲』という名でも知られています。手動での導入もそれほど難しくはなく、私は比較的わかりやすい散開星団 “Mel15” “NGC1027” を目安に構図を調整しました。

この日は無理をせずこの対象のみとしたため、3時間以上の露光時間となりました。これは今まで私が撮影した中では最も長い露光時間。しかも f/2.5で、実に128枚のライトフレーム。撮影途中に車のヘッドライトのカブリなどもあり完璧とは言い難いですが、やはりコンポジット後の画像は本当にノイズの少ないとても滑らかな画像が取得できました。

これだけ滑らかだと画像処理の許容範囲が上がったことを実感しましたし、ノイズ処理(Camera Rawフィルター)もほぼしていません。

『Heart & Soul Nebula』

撮影データ
カメラ Nikon D7100(IR-custom)
鏡筒 Carl Zeiss Milvus 2/135 ZF.2 Apo Sonnar T* (f/2.5)
架台 Unitec SWAT200(ノータッチガイド)
ダーク減算 RStacker(16枚)
フラット補正 RStacker(64枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(90秒×128枚 計192分 iso1600)
画像処理 ADOBE Photoshop CC
その他
・Unitec ドイツ式ユニット(Polemaster仕様)
・Velbon プレシジョンレベラー、SPT-1
・SIGMA TS-31
・Vixen APP-TL130アルミ三脚
・QHYCCD Polemaster

この夜は撮影をセットしてからはほぼ放置で途中からは疲労のためか夜食にした後は完全車中泊状態となりました。

なんとか4時過ぎに起きて明け方前には巷で有名なレナード彗星を固定撮影しましたが、残念ながら彗星の位置が真東の超低空と言うことで薄明と光害のなか “なんとか撮れた” 程度。実は彗星を撮影するのは今回が初めてで、天体写真を撮るのに彗星の知識ゼロの私は彗星の動きも見える位置も、撮影手法も全く分かりませんでした。まぁショボいながらも証明程度のものが撮れたので良しとします。

レナード彗星(5秒×4枚)

夜が明けると周りで撮影されていた方々の “ガチ” な撮影機材が目に飛び込んできましたが、その気さくな方々にお声掛けいただき撤収前に機材見学させていただきながらたくさんのお話が聞けました。私のマニアックな疑問や質問にも快く回答いただき、楽しい朝となりました。私は天体クラスターの方々とはほとんど面識はないのですが、おそらくみなさんベテランの有名な方々かと思います。

登山の方々も気さくで楽しい方が多いですが、天文系の方々もとても気さくで楽しい方が多い印象です。とても有益な情報を頂けました、この場を借りてお付き合いいただいた皆様にお礼申し上げます。



ポールマスターの不具合

ポールマスターを購入してからは極軸合わせの精度が飛躍的に向上しましたが、どうも最近動きがおかしい。前回の7月の撮影時からPCとの連携が何だか上手くいっていません…。

この日も撮影開始時のセッティングまでは良かったのですが、2対象目の撮影後に欲張って3対象目の撮影に移行する際、ズレてきた極軸を合わせ直そうと再びPCと繋ぎましたがほとんどPCが反応しません。PCを再起動したり接続をし直したりしましたが結局ダメでその後の撮影は諦めました。

PCの問題なのか、ドライバーの問題なのか、接続コードの問題なのか、いまだに問題の切り分けが出来ていません。何が原因にせよやはりトラブルがあった時に一番頼りになるのは “アナログ” 的手法。こういうことも想定して極軸望遠鏡も用意しておかないと下手をすると詰んでしまいます。

QHYCCD『Polemaster』

登山界隈ではいまやスマホのGPSを利用した登山アプリが主流になりつつありますが、スマホが何らかの原因で機能しなくなった時に備えて、昔ながらの紙の登山地図やコンパスを携行するべきですが、これに似たようなものです。

撮影においてこのようなポールマスターの不具合程度であたふたするのですから、私にはやはりLRGB撮影といった込み入った撮影の運用は無理かもしれません。

追加遠征にて解決 (追記)

実はこの現象、ネットで調べてみると同じような事例がいくつも散見されました。原因としてはWindows10に移行したことによるもの、DELLのPCによるもの、など私の条件と一致する項目も多く、その対策法もいくつか紹介されていました。

①PC電源を内蔵バッテリーではなくAC電源(ポータブル電源)を使用する
②PCのパフォーマンスを常時ハイパフォーマンス状態にする
③ソフト起動中にバックで動画を流しておく
私はそれほどPCに詳しいほうではないので現場で簡単にできる①と③を行ったところ無事に使用することが出来ました。PCに入っている動画が2分弱の短いものだったため動画再生が終了したらまたポールマスターの動きが途端に怪しくなったので、極軸調整用に10分程度のFHDの動画をPC内に用意しておけば解決すると思っています。

それにしても何か不具合があった時の先人たちの有益な情報というのは本当に助かります。個人的には他人と違う変わったものを使うほうが好きですが、こういうことも考えると機材系は多くの人が使っているものを使うほうが良いという側面もあります。

最高の “セカンド機”

今回は好天に恵まれそこそこ星果も残せました。
『ポタ赤』『大口径カメラレンズ』の組み合わせはお手軽星野写真では最高の組み合わせだと思っています。ただやはり広い写野ゆえ、どうしても撮影対象が少なくなりがちです。ワンシーズンに数カット撮影したらもう撮るものが無くなってきてしまいます。とくにカメラレンズだけでやっている私などは毎年同じものばかりになってきます。

機材を新調すると同じ対象でも今回のミルバスのように違いを楽しめますが、実際カメラレンズとしてはもうこれを凌駕するものはあまりないのが現状で、今後今年撮影したものよりステップアップすることは無理かもしれません。

紅葉の残り火

ここ妙義はその名の通り上毛三山にも数えられる奇岩で有名な妙義山の麓。
明け方には朝日を受けて岩肌が赤く焼けました。
登山界隈ではこれをモルゲンロート(ドイツ語)と呼びます。

妙義山のモルゲンロート

紅葉はとっくに終わっていましたが、それでもほんの少しだけ紅葉した木々が残ってくれていました。本記事の最後はこの美しい妙義の初冬の風景で締めくくりたいと思います。

最後までご覧くださりありがとうございました。

朝日差し込む妙義

紅葉の残り火