2021年3月 天体写真天城遠征

DIARY

初心者ながらも天体写真に本格的に取り組み始めてからほぼ毎年のように春に天城遠征するようになりましたが、2021年の3月もやはり暗い南天の夜空を求めて遠征に行きました。
今回は新たに天体のためだけに中望遠レンズを導入し、そのテスト撮影及びファーストライトということで期待を胸に撮影地に向かいました。

ちょうど昨年の今頃もやはり南天の暗い夜空を求めてこの天城に遠征しているので、ちょうど1年ぶりの天城遠征となりました。

2020年3月 天体写真天城遠征

(目次)

  • Zeiss『Milvus 2/135 ZF.2』導入
  • 天城の夜空
  • 土砂降りの遠征
  • テスト撮影(バラとクリスマスツリー)
  • 天城を灯すアンタレス
  • 昇る天の川銀河
  • フラットについて
  • 今後の課題

Zeiss『Milvus 2/135 ZF.2』導入

天体撮影に関しては私はまだまだ初心者の域を出ない状態で、依然として本格的な赤道儀は持っていませんし天体望遠鏡も持っていません。これまで赤道儀はポータブル赤道儀であるSWAT200、光学系はニコン純正のカメラレンズを使って撮影してきました。

ここ最近はようやく天体撮影にも慣れてきたためか天体画像を見る目も肥えてきたようで、もはや星に関しては手持ちのズームレンズでは満足できなくなってきました。

ただ将来的に本格的な天体機材を揃えるつもりであっても、このポタ赤を使った短焦点域の星野写真は続けていきたいと思っているので、数あるカメラレンズの中において星を撮るには最高性能との呼び名の高い、かのツァイス『Apo Sonnar 2/135』の後継機種である『Milvus 2/135』を導入しました。
このレンズに関してはまた後日、私の主観を中心に別の記事で取り上げるつもりでいます。

Zeiss Milvus 2/135 ZF.2 Apo Sonnar T★

天城の夜空

サソリの季節

春と言ったらいよいよ夜明け前には夏の天の川が昇ってくる季節、夜空に宝石箱をぶちまけたような煌びやかな季節です。

私のように望遠鏡ではなく短焦点であるカメラレンズでのみ天体撮影している者にとって1月や2月は撮るものがありません。冬の対象は11月から12月にかけてほぼ撮り終わっているし、系外銀河を撮影するには焦点距離が圧倒的に足りません。
それこそ天体撮影に関しては悶々とした日々を過ごすわけですが、そんな日々からカレンダーをめくり3月になると一気に短焦点が大活躍する季節が到来。夏の天の川を先導するかのようにさそり座が昇ってきます。

“カラフルタウン” とも表現されるさそり座アンタレス周辺の色彩豊かな領域は天文ファン垂涎の対象。しかしこの領域は実は結構難しくて、特にさそりの頭部に相当する箇所に広がる『青い馬』やアンタレス下部に広がる赤い領域などはかなり淡い部類です。天の川に向かって延びる暗黒帯はもちろん、淡く広がるガス、分子雲などもきれいに描出するにはそれ相応の露出が必要となります。

さらにこのさそり座はそれほど高度が上がりません。
冬のオリオンより全然低空ですし、光害の影響をかなり受けてしまいます。必然的にカブリ処理は困難を極め、私のような初心者にとってはシーズン開始とともにいきなりハードルの高い対象になります。

“南天の天城”

この時期になぜ毎年のように天城へ遠征するかというと、それは天城の圧倒的な南天の “光害の少なさ” を求めてのもの。それもそのはず、伊豆半島の南に広がるのは都市や街など存在しない大海原、太平洋。そのため、さそり座が上がってくる南東の暗さは関東随一を誇ります。

ネット上にあるいくつかの光害マップを見てみても、やはり伊豆半島南部の暗さは際立っています。
さらに海に近いとは言え天城山があることでお分かりのように標高もあるので、大気の影響の少ない透明度の高い星空という天体撮影にはもってこいのロケーションとなります。

伊豆半島まで遠征するのはかなり大変なのですが、あの美しいさそり座を少しでも好条件で撮影したいとの思い、いや、天城の夜空に助けてもらいたいという思いから毎年足繁く通いようになりました。

土砂降りの遠征

今回は新しいレンズのテスト撮影を兼ねたファーストライトということでさそり座が上がってくる夜半のまえに、西に沈みゆくオリオンやバラ星雲あたりでテスト撮影しておきたいということもあって早めに現地に向かいました。

もちろん事前にGPVで夜中から伊豆半島は晴れ渡ってくる予測を確認しての遠征でしたが、道中の高速では車のワイパーが意味をなさないような土砂降り。展望の良い伊豆スカイラインはもちろん霧で真っ白、折角の富士山の展望などあろうはずがありませんでした。

夕方早めに現地に着くもいまだに小雨模様。
しかしベテランの天文屋さんの方々が数人来られる頃になると雨も上がって晴れ間も見えてきました。そこから天気は急速に回復し、薄明終了の時間にはきれいな星空が見えてきました。

「さぁ、天城の夜空を思う存分堪能しよう…。」

テスト撮影 (バラとクリスマスツリー)

いくら素晴らしい光学性能を誇るレンズと言えども、カメラに “ポン付け” で適当にセッティングして最高性能を引き出せるほど天体写真は甘くはありません。
過去の経験からそれは明白でした。

露出時間の適正は?
絞りの設定の最適解は?
バランスはしっかりとれるか?
スケアリングは大丈夫か?
そして何よりたわみをいかに抑えるか、どのようにレンズを保持するか、など問題は山積みでした。

さらにフラットはどうしようかなど、どちらかというと期待よりも不安、正直言って私にこのレンズを使いこなせるのかという気負いのほうが大きいところ。

『Milvus 2/135 ZF.2』によるファーストライト

撮影データ
カメラ Nikon D7100(IR-custom)
鏡筒 Carl Zeiss Milvus 2/135 ZF.2 Apo Sonnar T★ (f/2.5)
架台 Unitec SWAT200(ノータッチガイド)
ダーク減算 RStacker(16枚)
フラット補正 RStacker(薄明フラット32枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(105秒×24枚 計42分 iso1600)
画像処理 ADOBE Photoshop CC
その他
・Unitec ドイツ式ユニット(Polemaster仕様)
・Velbon プレシジョンレベラー
・Vixen APP-TL130アルミ三脚
・QHYCCD Polemaster

とりあえずは南中を過ぎたバラ星雲にレンズを向けて撮影してみました。しかしあろうことか西に傾いていく対象をテレスコープウェストで撮るという初心者丸出しに気づいたのはもう撮り終わった後でした…。

バランスが悪かったのか、極軸が途中でズレたのか、たわみの影響がモロに出たのか、星は流れて “点像” とはかけ離れた結果になりました。とくにバラ星雲がある右下は星が完全に伸びてしまいました。

天城を灯すアンタレス

機材びしょ濡れ

バラ星雲の撮像では f/2.5の威力か、ヒストグラムは真ん中よりも右に寄っていたのでこの日はメインであるアンタレスもこのセッティングでやってみようと決めました。とはいっても実際にアンタレスが上がって来るまではかなりの時間がありました。

この日は雨上がり直後だったこともありものすごい湿気で、カメラはもとより、レンズやら三脚やら、外に出ている物はことごとくびしょ濡れ。いったん車の中にカメラとレンズだけでも避難させたかったですが、温度変化によるピントの不安定さを恐れて外に出したままアンタレスが上がって来るまで放置しました。

レンズヒーターなんかもいったん外してしまったらまた結露してしまうと思い、これもつけたまま。(幸いこのヒーターのおかげもあってあの湿気の多い一晩、全く曇らずに撮影できました。)

遠征の楽しみ

さそり座が上がって来るまでは近くで撮影されていた方々と星談義や情報交換、意見交換をさせていただきました。やはりみなさんアンタレスをメインに遠征されている印象でした。

私はもう10年以上にわたり山の写真を撮影しています。
なぜこれほど長くやって来れたのか。
それは美しい山岳風景に魅せられたということもそうですが、山で同じ志を持った方々との貴重な出会いがあることも大きな要因だと思っています。それが楽しくて撮影そっちのけで山談義や情報交換させていただくことも多々あります。

天城で見る昇ってきた天の川銀河

天体写真もやはりそういうところがあって、天体写真を撮影されている方々はみなさん気さくで優しくて、今回もいろいろな発見や気づきがありました。私はどこかの天体写真同好会に所属しているわけではなく一人で細々とやっているので本当にありがたいことです。

低空のカラフルタウン

天城の素晴らしいところは昇り始めたアンタレスを低空から狙えるというところ。春と言ってもまだまだアンタレスが上がっている時間自体はそれほど長くありません。薄明開始が4:30なのでこの時期は南中したら薄明ということになり、2:00から撮り始めても露出をかけられる時間は限られてしまいます。

『短時間勝負だけど露出はしっかりかける必要がある』というアンタレス付近にこの天城というロケーションと大口径のカメラレンズというのは大きな武器になりますし、相性は抜群ではないかと。そう、このMilvus135㎜を手に入れたのはアンタレスを撮るためと言っても過言ではないのです。

Antares and Rho Ophiuchi Cloud Complex

撮影データ
カメラ Nikon D7100(IR-custom)
鏡筒 Carl Zeiss Milvus 2/135 ZF.2 Apo Sonnar T★ (f/2.5)
架台 Unitec SWAT200(ノータッチガイド)
ダーク減算 RStacker(20枚)
フラット補正 RStacker(モニターフラット64枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(100秒×70枚 計116分40秒 iso1600)
画像処理 ADOBE Photoshop CC
その他
・Unitec ドイツ式ユニット(Polemaster仕様)
・Velbon プレシジョンレベラー
・Vixen APP-TL130アルミ三脚
・QHYCCD Polemaster
1年前にここ天城で撮影したアンタレス付近と露出時間はほぼ一緒ですが、口径を含め光学系が替わるとこれほどまでに仕上がりが違ってくるのかと自分でも驚いています。もちろん総露出時間はそれほど変わりませんが 70-200㎜ のときは f/3.2、今回のミルバスでは f/2.5。単焦点レンズと望遠ズームレンズでは構成されるレンズ枚数も異なることから、おそらく実効F値は設定以上の差があると考えられます。

まさに『明るさは正義』と実感できます。

さらに驚いたことに焦点距離が200㎜から135㎜に短くなったにもかかわらず、細部のディティールは完全にミルバスが上を行っています。

昇る天の川銀河

さそり座に向けたレンズ、薄明終了間際にはいつものように “バンビの横顔” に向けました。

今回はテスト撮影も含めて3対象を撮影しましたが、ピントの追い込み、追尾精度などはこのバンビの横顔がもっともよく撮れました。しかしやはり等倍で確認してみると星が若干点像にはなっていなくて、まだまだ撮影する上で改善の余地が大きいと感じました。
ただ70-200㎜より遥かにシャープですし、なにより画面の周辺に行っても星が丸く、非点収差は本当に少ない素晴らしいレンズだと思いました。

『Small Sagittarius Star Cloud』

撮影データ
カメラ Nikon D7100(IR-custom)
鏡筒 Carl Zeiss Milvus 2/135 ZF.2 Apo Sonnar (f/2.5)
架台 Unitec SWAT200(ノータッチガイド)
ダーク減算 RStacker(16枚)
フラット補正 RStacker(薄明フラット32枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(80秒×5枚 計6分40秒 iso1600)
画像処理 ADOBE Photoshop CC
その他
・Unitec ドイツ式ユニット(Polemaster仕様)
・Velbon プレシジョンレベラー
・Vixen APP-TL130アルミ三脚
・QHYCCD Polemaster

フラットについて

薄明後はいつものようにダークの撮影や薄明フラットの撮影。
今回は現地での薄明光を使ったフラットと、自宅で壁フラット(モニターフラット)を撮ってみて、どちらが良いかを試す予定でいました。どうしても薄明光は何枚も撮影している間にどんどん明るさが変わってしまって、ヒストグラムが一定にならない欠点がありました。

さらにレンズフードにレジ袋を被せて撮っていますが、それよりも壁にニュートラルグレイのパネルやプリントを設置してフラットを撮影したほうが色合わせの観点からも良さそうと思いました。

実際には今回の作例のうち『バラ星雲』と『バンビの横顔』は現地で取得した薄明フラットを使用し『アンタレス』に関しては後日、自宅で画像処理に使用しているEIZOのキャリブレーションモニターにニュートラルグレイを表示させてそれをフラット光源として取得しました。

もちろんセンサーに付着したゴミの位置などの観点から考えれば現地で撮るのが良いと思いますが、露出や色の安定性・均一性を考えたら家で撮る方が良いと感じました。今回は現地で撤収する際カメラとレンズを外してしまいましたが、自宅で後日に撮るならレンズはカメラにつけっぱなしのほうが良いと思いました。フラット除算後はやはりゴミの付着の痕跡が結構見られました。

伊豆スカイラインからの富士山の大展望

薄明フラットの撮影後はびしょ濡れの機材の湿気を撮って撤収。
現地に向かうときは見れなかった富士山もきれいに眺められ、眠気と疲労感のなか、伊豆スカイラインで帰路につきました。

今後の課題

カメラレンズを使った星野写真については今回新たに導入した『Milvus 2/135mm ZF.2』でずっとやっていくつもりです。ひょっとしたらさらに広角の星野や星景のために28㎜のレンズを導入するかもしれませんが、少なくとも中望遠域はこのレンズでやっていくつもりです。

ただこのミルバスはシャープで均一性の優れたレンズである分、その性能を引き出すにはそれ相応の課題が山積みであることも今回撮影してみてわかりました。

ピント精度

ピントに関してはさすがにMFのレンズだけあって素晴らしい操作感でした。やはりAFズームレンズのピントリングと比べてピントの追い込み易さが格段に上がりました。このレンズを選択する意義の一つがこのMFの操作感であることは間違いなく言えることです。

ただ前情報としてわかっていましたが、このレンズはジャスピンだとわずかに赤ハロが出てしまいます。そこから少しだけ右に回すと赤ハロはすっきりと消えるのですが、それは同時にピントのシャープさを犠牲にしているとも言えます。このあたりの最適なピントの位置、そしてそのピントを出す再現性がどれだけ保たれるかが要求されます。

もしくはあえてジャスピンにして、画像処理で赤ハロを補正したほうが良いのか、ということ。ジャスピンの再現性を保つならバーティノフマスクが有効ですが、ただこのレンズはそもそもライブビュー時にピントの山が非常に掴みやすいのでバーテュノフマスクは必要ないかもしれません。それよりも赤ハロの “出方” で判断してピントを追い込んだ方が良いとも思いました。次回撮影時にはバーティノフマスクを使ってのピント出しを行うつもりです。

たわみとの格闘

このレンズを天体撮影で運用する場合、最も困難なのは “たわみ” を如何に無くすかということ。前モデルの時は鏡筒バンドなども販売されていましたが、現行のミルバスになってデザインが流線形に変更されバンドでの運用はかなり難しくなってしまいました。
さらに私は径の小さいFマウントということで、この辺りもEFマウントに比べてしっかりと対策しないといけません。

保持用のレンズサポーターの類はいくつか持っていますが、この辺りをうまく組み合わせて少しでもたわみを抑えたいところです。レンズの保持という観点では、このレンズと最後まで迷ったシグマの105㎜ f/1.4のほうが三脚座がある分有利なはずです。

ガイドは必須か

今回撮影した中では『バンビの横顔』がもっとも星を点に出来ましたが、やはり強拡大して確認してみると流れています。70-200㎜では目立たなかったその追尾精度の粗さがミルバスではそのシャープさがゆえに露わになったという印象です。

極軸もポールマスターでがっちり合わせたつもりですが、やはりまだまだと感じました。ただいずれはこのシステムはサブになる予定ですから、メインもサブも両方オートガイドとなるとさすがに面倒だなと…。

フルサイズで使ってみたい

このレンズの焦点距離は135㎜なので、天体撮影においてはかなり広い写野になりますから構図をいろいろと考える楽しみがあります。やはり星野写真は画面にいくつもの星雲や星団が入る画角が魅力なので、フルサイズで撮影したいという欲が出てきました。