2024年11月末から12月にかけての新月期に千葉県へ天体遠征を敢行しました。千葉県へ天体遠征するのは実は今回が初めてのことで、同じ関東圏在住ながら私自身そもそも千葉県自体に赴くこともほとんどなかったため、いまだに千葉は近くて遠い “未知の地” というイメージでした。
本ブログでは最後の天体遠征に関する記事は2024年4月の新潟遠征ですが、実はその遠征から今回の千葉遠征に至るまで、記事にはしていませんが特に秋以降に集中的に4回ほど天体遠征に行きました。群馬や新潟、山形、そして栃木へと今までになく精力的に天体遠征に行ってきていますが、その要因は大きな機材変更がひとつと、もうひとつは新たなるアイデアによる作品制作に向けて天体素材が多く必要になったということです。
- 赤道儀の変更
- ネイチャー写真と宇宙の写真の融合
- 天体撮影地としての千葉県
- 今回の撮影対象と光軸調整
- 荒木根の夜空
- 振り返って
赤道儀の変更
かねてよりの懸案事項
カメラレンズで撮影していたころに使っていたポータブル赤道儀ユニテック『SWAT200』から本格的な赤道儀への移行として2021年12月に導入したセレストロン『Advanced VX』(2022年1月 天体写真遠征「テスト撮影の日々」)ですが、しばらく使っているうちに赤緯の反応が鈍くなり最終的には故障と判断して、それからは自動導入を諦め撮影天体を手動で導入し、オートガイドも赤経のみの1軸ガイドで撮影を行ってきました。現在メインの撮影鏡筒であるタカハシ『ε-130D』は430mmという天体撮影においては短い焦点距離のため撮影自体は問題なく行ってきました。
しかし実際のところ天体の導入はなかなか骨の折れる作業で、明るい対象であればテスト撮影しながら導入できていましたが、淡い対象は導入するだけで多くの時間を取られていました。2024年5月の樽口峠では『青い馬星雲』を撮影しましたが、これを導入・フレーミングするのに1時間近くもかかり、その作業に費やす間、頭上のとんでもなく美しい星空を撮影することはおろか、見上げて堪能することすら出来ず、もはや苦行レベルの作業を闇夜で行ってさすがに嫌気がさしました。なにより撮影機会の甚大な損失を考慮し、新赤道儀の導入を決めたということです。
さらに今後は専用エクステンダーや小サイズチップを使用してより迫力のある天体写真を撮影したい意向もあり、より精度の高い赤道儀にしたいと考えました。もちろん『Advanced VX』は赤緯体を修理すればまだまだ十分使えますし、鏡筒2台体制となれば今後も必要にもなる赤道儀です。
ビクセン『SXD2』赤道儀
昨今では海外メーカーも含め赤道儀の選択肢は潤沢にありましたが、唯一タカハシだけは手に入らない状況。出来ることなら定番中の定番、安定のタカハシ『EM-200』が欲しいところでしたが、現在タカハシの赤道儀は全て購入することが出来ませんし(長らく受注停止状態)、とは言え実際のところ販売されていたとしても予算的に厳しい面もありました。そこでメインの『ε-130D』にジャストサイズと考えられるビクセンの赤道儀『SXD2』(ワイヤレス)を導入することにしました。
この赤道儀を迎え入れてからすでに4,5回ほど使用していますが、オートガイドを組み合わせれば非常に追尾精度も良く、明らかにPHD2のガイドグラフは『VX』よりも良化しました。ただ三脚だけは『VX』の付属のもののほうが剛性は上で、このあたりは今後より安定感のあるものに変更したいところです。
『SXD2』の競合機種としてスカイウォッチャー『EQ5R』も考えました。自重も重く風にも強いと予想され、ベルトドライブ仕様による高レスポンス、そして搭載重量もかなり余裕のある赤道儀で将来的にツインシステムとなっても十分に搭載可能な中型赤道儀。この2機種でとても悩みましたが、ここのところ円安でスカイウォッチャー製品が値上がったことで『SXD2』と価格的にそれほど変わらなくなったことと、やはり国産メーカーの安心と応援も含めて最終的には『SXD2』に決めました。(ちなみに今回購入したものはスマホやタブレット等で制御するワイヤレス仕様のもので、スターブック10コントローラーが省略されたモデル)
『SXD2』赤道儀自体はラインナップされてからもうずいぶんと経つ赤道儀で、新鮮さには欠けるかもしれませんが素朴で堅実なドイツ式赤道儀であり、現在でもその堅牢さと比較的軽量な構成は非常に遠征向きの赤道儀ではないでしょうか。ここでスペック等を載せても今更感満載なので割愛いたしますが、気になる方がいらっしゃいましたら、ビクセンの公式HPの製品情報をご覧ください。
SXD2赤道儀WL|Vixen
ネイチャー写真と宇宙の写真の融合
個人的な話になりますが、今まで山岳地帯での撮影や森、渓谷、山野草などネイチャーフォトをメインとして撮影し、その傍らで天体写真も撮影してきました。このふたつのジャンルは大きな枠で捉えれば同じ “ネイチャー写真” の範疇と言えますが、天体写真が世間的にあまりにニッチなジャンルであるため、作品制作において私はあくまで “別腹的” に撮影してきました。
しかしこの似て非なるジャンルの写真を融合できないか、そんな思いをずっと抱いていました。過去にいわゆる “新星景写真” という意欲的な手法で撮影されたあらたなる星景写真、つまりネイチャー(風景)と天体写真の融合を果たしたひとつのブレークスルーがありました。しかしそれはあくまで星景写真としての技巧で、星景写真の新手法という位置づけです。私はそれとは思想を異とする、もっとアート的な深い意味付けによる融合が出来ないものかと模索してます。
つまりネイチャー写真とは自然の美しさや尊さ、儚さ、雄大さ、地球という星の生命力を捉えた写真といえると思いますが、それならば天体写真も “地球外” のそれらを捉えたものです。そこにはともに “宇宙を構成するもの” という圧倒的な事実があります。それぞれ距離は文字通り天文学的に離れているジャンルかもしれませんが、そこにある共通性のようなものは存在します。それをひとつの作品の中に収めてみたらおもしろいのではないか、意義のあることなのではないか、と考えています。
ネイチャーはそれこそ野山に出掛けて行けば如何なる時もその美しさで迎えてくれます。しかし天体写真は月齢や天候などでなかなか撮影機会に恵まれないものです。そういうこともあってその少ない撮影機会を少しでも有効的に使おう、効率的に撮影しようということで新しい赤道儀を手に入れました。
天体撮影地としての千葉県
私が頻繁に出掛けている撮影地は主に群馬県で、そのほか積雪や冬季の天候の悪さから解放される時期は空の暗さを求めて新潟県や山形県まで遠征しています。群馬県は南部や西部の一部であれば積雪もほぼ無く天候も安定することから、晩秋から初冬にかけては良い撮影地です。しかし東側や南側に大きな都市があるため光害の影響を強く受けます。そのぶん北側や西側、南西にかけては暗い撮影地も多く、その方角の対象(主にアンドロメダやハクチョウ、ケフェウス、カシオペアあたり)にはうってつけと言えるでしょう。逆に東から昇ってくるオリオンやすばる、春のさそり座やいて座あたりは撮影する気に到底なれません。関東周辺であれば以前よく遠征していた天城高原が南方向を撮影するならもっとも適した撮影地と感じていましたが、なぜか今まで千葉県という選択肢は考えていませんでした。
なるほど、たしかに千葉県は地理的に南の対象を撮影するには東京の巨大な光害を受けないですし、高い山が無く標高もないのでとくに寒い時期は撮影時にそれほど苦痛も無いだろうと思われます。そこで今回はじめて千葉県へ遠征を決めて、中でも天文屋さん御用達の超がつくほど有名な “荒木根ダム” に行くことにしました。撮影地の新規開拓などはとりあえず今回は置いておいて、まずは千葉県の夜空を堪能しようと光害の感覚を掴む目的でいわゆる “安牌” の撮影地へと向かいました。
今回の撮影対象と光軸調整
この時期はオリオンが南中するのが深夜0時くらいなので、今回はオリオンが高度を上げてくる前まではカシオペア付近にある “ハート星雲” を、オリオンが南中するころに “クリスマスツリー星団” と “バラ星雲” を狙う撮影計画としました。
現地に着いたのは15時前くらい。さすが有名な撮影地、すでにこの時間でもちらほらと先客がいらっしゃいました。イメージでは群馬県の野反湖のようにもっと山の中なのかと想像していましたが、意外と民家が近くにある立地でした。
『ε-130D』の光軸に関しては購入してから1年くらいはまったくズレる様子も無く、屈折望遠鏡のようにメンテナンスフリーと言えるくらいほぼ放置で良かったくらいでしたが、さすがに秋以降に頻繁に遠征に行くようになると輸送の頻度からかズレ始めてきました。それでも光軸調整ド素人の私でもコツを覚えれば調整できるくらいの微細なズレ量で、前評判通り非常に扱いやすいニュートン式反射望遠鏡だと再認識できました。ただ現地に着いてから撮影前には毎回しっかりとチェックと調整は必要なので、必ずここ最近は暗くなる前には現地に着けるようにしています。
今回の遠征では前情報としてダムにいくつかある街灯のうち、真ん中の街灯だけが21時くらいまで点灯しているということを友人に教えてもらっていたにもかかわらず何故か真ん中寄りに陣取ってしまい、日没後に煌々と光る街灯が本当に消えてくれるのか不安で、隣の地元と思われる袖ケ浦ナンバーの方に聞いて確認しました。その方が教えてくれたとおり20時過ぎには街灯も消え、星々が綺麗に眺められました。
荒木根の夜空
街灯も完全に消え、22時あたりになるといよいよ空の暗さも増してきましたが、やはり予想通り北から北西の空は東京の光害を受けてかなり明るい印象でした。それでも予定通りカシオペア付近にある “ハート星雲” を狙うも、イメージしていたよりもかなり空が明るかったため数カット撮影しただけで中止し、すぐに対象を東から高度を上げてきたクリスマスツリー星団に変更。
この撮影地はやはり東から南、南西が暗く、撮影に向いているようです。
水辺の近くということで夜露はかなりありましたが、風も無く美しい星空を見上げながら撮影を開始しました。
NGC2264 クリスマスツリー星団周辺
『クリスマスツリー星団』を本格的に撮影するのは今回が初めてでしたが、仕上げるのはかなり苦労しました。2時間半近くの露光が出来て現地では十分と思っていましたが、予想よりもかなり淡い部類で、やはりもっともっと露光をかけないといけない対象と感じました。
画面いっぱいに広がる赤く淡い領域が本当に天体要素(Hα線領域)なのか、それとも光害カブリなのか、画像処理中も判断に迷うこともあり天文学的には妥当な色ではないかもしれませんが、写真的にあからさまな偏りが無くなるように心がけて処理しました。もう少し軟調気味でも良いかとは思っていましたが、あえてすこし硬調気味に華やかな写真映えする方針で仕上げました。
カメラ Canon EOS 6D (SEO-SP5)
鏡筒 TAKAHASHI ε-130D
架台 Vixen SXD2
ガイド鏡 SVBONY SV165(30mm F4)
ガイドカメラ QHYCCD QHY5L-ⅡM
ガイディングソフト PHD2
フォーカサー ZWO EAF
ダーク減算 Stellaimage9 (8枚)
フラット補正 Stellaimade9 (75枚、フラットダーク16枚)
現像&スタック Stellaimage9 (180秒×49枚 計2時間27分 ISO1600)
画像処理 ADOBE Photoshop CC
その他
・QHYCCD Polemaster
※完成画像はトリミングしています
ここ最近は前処理や現像ではステライメージを使うようになりました。何が楽ってSI9はコンポジットまで全自動でやってくれるし、Fits形式の32bit処理が出来るのでPSに持っていく前にある程度のたたき台レベルにまでもっていくようにしています。とは言え昨今は海外の天体専用画像処理ソフトが主流になりつつありますが、個人的にはSI9で必要十分と感じています。
The Rosette Nebula
夜半前からいよいよ高度を上げてきた冬の代表的な対象『バラ星雲』に撮影対象を切り替え。子午線を跨いでおよそ3時間弱撮影したつもりでしたが、寒さのためか、はたまた内蔵バッテリーの劣化のためか、途中でPCが仕事をしなくなりガイドエラー頻発のため使える素材はわずか1時間弱となってしまいました。残念です。
カメラ Canon EOS 6D (SEO-SP5)
鏡筒 TAKAHASHI ε-130D
架台 Vixen SXD2
ガイド鏡 SVBONY SV165(30mm F4)
ガイドカメラ QHYCCD QHY5L-ⅡM
ガイディングソフト PHD2
フォーカサー ZWO EAF
ダーク減算 Stellaimage9 (8枚)
フラット補正 Stellaimade9 (75枚、フラットダーク16枚)
現像&スタック Stellaimage9 (240秒×12枚 計48分 ISO1600)
画像処理 ADOBE Photoshop CC
その他
・QHYCCD Polemaster
※完成画像はトリミングしています
しかしながら幸いこの対象は非常に明るい対象であることと、イプシロンのハイスピードさにも助けられ短時間でもよく写ってくれました。個人的にもこの赤べったりではない、中心部と周辺部の起伏のある絶妙な諧調が特徴のこの対象はとても好みの対象で、毎年でも撮りたい天体です。バックグラウンドを少し落とし気味にして、真っ暗な宇宙空間に鮮烈に輝くイメージで仕上げました。
振り返って
初の千葉遠征でいくつかトラブルもありましたが総じてうまくいった遠征となり、美しい天体写真を撮影することが出来ました。今までは単に美しい天体写真を撮影したい一心で遠征してきましたが、今後は方針転換して作品作りのための素材づくり、素材集め的な意味合いでの天体遠征がしばらく続くこととなります。
冷却CMOSカメラ
キヤノン6Dの写り自体には満足していますし、瀬尾さんに改造処置をお願いした『SEO-SP5』はスケアリング調整も完璧で、その点では今後も宝物のように使っていきたいと思っています。(残念ながら瀬尾さんは健康上の理由で改造業務を終了してしまったので…)
ただやはりレフ機という構造上 “ミラーボックスケラレ” は天体望遠鏡との接続の際の大きな由々しき問題で、これを解決するにはミラーレスカメラにするか、天体専用カメラにするしかありません。このケラレはフラット処理しても強調するとどうしても出てきてしまうもので、最近はそれを無理に補正処理しようとせず割り切ってトリミングして対処しています。
さらに撮影後の現地でのダーク撮影も実に面倒で、これが冷却カメラであれば温度管理しながらダークを前もって準備できるのはやはり良いなと思っています。
εエクステンダー
今後、ネイチャーと宇宙(天体)とを融合した作品を作りたいと思うようになってからいろいろとイメージしていますが、画面中央にポツンと小さな天体が写っている写真よりも、画面いっぱいいっぱいに溢れんばかりの天体素材が広がっている写真の方が何かと扱いやすい面もあったりで、もっと焦点距離を伸ばしたいという欲があります。
もちろん小チップを使って疑似的に焦点距離を伸ばす方法もありますが、イプシロンの専用エクステンダーの性能は他のエクステンダーとは一線を画すズバ抜けた性能があります。ぜひ使ってみたいですがその分どうしても明るさは犠牲になり、直焦点のF3.3からF5と一段暗くなってしまいます。極端に暗いものを撮影する天体撮影にとって望遠鏡の明るさはその撮像結果に圧倒的な差が出てきます。それならば昨今のCMOSセンサーの感度性能の向上を頼って、クロップセンサーを使う方が現実的なようにも思えてきます。この辺りは今後も迷うところです。
今回の記事は以上になります。
最後までお付き合いいただき、まことにありがとうございました。