2020年10月 天体写真山形遠征

DIARY

前回の天体遠征が3月の天城高原、さそり座のアンタレスといて座の天の川が真っ暗な天城の空を賑わした季節だった。その頃はちょうど新型コロナウィルスがどうのと本格的に騒ぎ出したころだったと思う。とくに海外では都市閉鎖など大きな問題となって、その後は日本においても1都6県に緊急事態宣言が発令され、それが全国にも拡大された。

2020年3月 天体写真天城遠征

世は一気に “自粛ムード”
私の写真撮影の主戦場である山はもちろん、県を跨ぐような不要不急の外出を避けるよう “お上” からの御達し。一部のナローバンドでの天体撮影は別として、私がやっているブロードバンドでの天体撮影は暗い空を求めて遠征を余儀なくされる。余儀なくされると言ってもそれがもちろん楽しいことなので苦にはならないのですが、この自粛ムードの中では安易に遠征も出来なくなりました。

毎年3月から梅雨に入るまでは天体撮影の書き入れ時。梅雨以降は晴れないのでそれまでにどれだけ天の川の “おいしいところ” を総なめにできるかという期間。梅雨が明けても私の場合、本格的な夏山撮影を敢行するのでなかなか天体写真に没頭することもままならない。しかし今年は状況が状況だけにその山岳撮影さえも計画は総崩れ。今年はすべての計画が狂ってしまった。世の中の歯車も完全におかしくなってしまった。

感染拡大も小康状態となり “お上” からも『GoToなんちゃら』と遠征を推奨するようなわけのわからない状況になり、それに乗じて私も感染防止策を講じてようやく天体遠征に行ってきました。季節は廻ってもうすっかり秋空。秋は春と違って南の空よりもケフェウスやらアンドロメダ、カシオペアなど北天から天頂付近が撮りごろとなります。



山岳写真と天体写真のはざま

天体写真はもうかれこれ7か月ほど撮影できていないので、この10月の新月期は絶対に撮っておきたいところでした。山も撮影する私にとって悩ましいのは、ちょうどこの季節は高い山では紅葉の時期でもあり、それらと天秤にかけること。紅葉も旬を撮り逃すとまた1年お預けとなるので毎年悩ましいところなのです。

今秋は何かと立て込んでおりずいぶんと山からも離れてしまい、冬山用のトレーニング中ではありましたが体力的に不安だったこともあり、さらにちょうど新月期だったこともあって天体撮影を選択しました。

とは言え、やはり登山は無理にしても紅葉が美しい秋の山も撮影したいとの思いもあったので、今回遠征先に選んだのは山形県小国町の樽口峠。樽口峠は有名な天体観測、天体撮影の地でもあると同時に、雄大で美しいあの飯豊連峰の展望台でもあります。もちろんその他いくつかの撮影候補地はありましたが、GPV予測的にもっとも安心して遠征に行けるのがこの辺りでした。

樽口峠

樽口峠は今回で3回目となり、秋にここに来るのは初めてでした。とにかく樽口峠は5月あたりが最高で、残雪の美しい飯豊連峰の眺めはとても素晴らしくて、たとえ天体写真が雲がかかって思い通りに撮れなくても明け方には残雪の飯豊のモルゲンロートも期待できます。なので何も撮れなくて “坊主” で帰るということは今まで1回もないので、私のように山も星も撮る人間にはとても助かる撮影地です。

出発時は雨。しかしGPVによれば山形県は22時から23時くらいから晴れ渡る予想。実際に峠に着いたのは20時くらいだっただろうか、まだまだ空には雲がかかって星は見えてはいませんでしたが、それよりも何よりも到着したときは誰もいなくて『え?』という感じ。

たしかに樽口峠は私が頻繁に遠征に行く天城や群馬、長野あたりの有名な撮影地に比べれば人がとても少ない撮影地なんですが、まさか誰もいないとは…。人目や明かりを気にせずに存分に撮影に集中できるのは助かるのですが、誰もいないのはそれはそれで寂しいもの。『寂しい』というか、この樽口峠は本当に暗い山の中なので『怖い』に近いものがあります。

もちろん一般的な人よりも天体写真や登山をやっているのでそのあたりの感覚が “麻痺” してはいますが、それでも手元すら暗くて見えない樽口峠にひとりポツンといるのはちょっと心細いものがあります。樽口峠はそのような心持になるくらい『真っ暗な』撮影地なのです。

夜空も満遍なく暗いのですが唯一明るいのは西側、新潟市があるのでその方面だけ多少明るいのですが、そのほか東から北や南にかけてはとても暗い撮影地です。この樽口峠では東から昇り始めた対象が南中・天頂付近に来るまで待つ必要などなく、山の稜線から少し上がり始めてから撮っても光害の影響を受けずにたっぷりと露出をかけられます。

GPV予測通り23時前くらいから雲が取れて綺麗な星空が出てきてくれ、ちょうどそのくらいの時間に2、3人の方が星の撮影に来られました。美しい満天の星空とともに心細さもどこかに消え、撮影に没頭していきました。

今回の星果

何を撮ろうかと行きの車中でも考えましたが、樽口峠ということもあり旬の天頂に輝くアンドロメダやケフェウス、カシオペアなど秋の対象をすっ飛ばして東から昇り始めた冬の対象にレンズを向けました。

まずは『M45』プレアデス星団(すばる)
『M45』は本格的にポタ赤を使った星野写真を始めたころに撮影した以来だったこともあり久しぶりにレンズを向けました。当時はD810(ノーマル)で撮影しましたので、天体改造カメラで撮影するのは初めてでした。

『M45』は明るい対象なので私にも比較的楽に撮影・画像処理できました。しかし周りの “モクモク” を出せるようになるにはどうやらまだ先のようだ…。

『M45』

撮影データ
カメラ Nikon D7100(IR改造)
鏡筒 AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR Ⅱ(200mm f/3.2)
架台 UNITEC SWAT200(ノータッチガイド)
ダーク減算 RStacker(16枚)
フラット補正 RStacker(薄明フラット16枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(160秒×16枚 計42分 iso1600)
画像処理 ADOBE Photoshop CC
その他
・UNITEC ドイツ式ユニット
・Velbon プレシジョンレベラー、レンズサポーターSPT-1
・Vixen APP-TL130アルミ三脚
・QHYCCD ポールマスター

次にレンズを向けたのはぎょしゃ座の『IC405』勾玉星雲
これも以前に群馬で撮影しました。比較的淡い対象ですがこの樽口峠の暗さを活かしたいと思い選びました。星座や星の並びから導入するのも比較的簡単な対象でもあります。しかし残念ながら撮影時にクランプが赤道儀に干渉していているのに気づかず睡眠撮影に入ってしまいボツとなってしまいました。私のような素人が睡眠撮影などもってのほかでした…。

3つ目、最後はオリオンのバーナードループ
バーナードループも比較的淡い対象ですので、この樽口峠の好条件を活かしたいところです。

『Barnard’s Loop』

撮影データ
カメラ Nikon D7100(IR改造)
鏡筒 AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR Ⅱ(200mm f/3.2)
架台 UNITEC SWAT200(ノータッチガイド)
ダーク減算 RStacker(16枚)
フラット補正 RStacker(薄明フラット16枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(160秒×16枚 計42分 iso1600)
画像処理 ADOBE Photoshop CC
その他
・UNITEC ドイツ式ユニット
・Velbon プレシジョンレベラー
・Vixen APP-TL130アルミ三脚
・QHYCCD ポールマスター

いまだに画像処理は全然自信が無くて、露出時間も鑑みてこのくらいが関の山だろうというところでやめました。淡いガスのモクモクを表現するには露出不足だし、そもそもうまい処理の仕方がよくわからない。とくにバーナードループは完全に露出不足で、そこを無理やり強調処理しているのでノイズまみれです。この構図は『反射星雲M78』『暗黒帯LDN1622』など見どころの多い構図で個人的に大好きなので、次回はこの辺りにたっぷりと露出をかけてリベンジしたいと思っています。



今回の反省点と機材の大切さ

少しずつではありますが以前に比べてきれいに仕上げられるようにはなっているとは思います。しかし撮影時は凡ミスは多いは構図がいまいち決まらずはで散々でした。もう少し天体撮影に行く頻度を上げれば経験値も積み上がっていくと思うのですが、いかんせん私の場合撮影の期間がかなり開いたりするのでどうしても毎回『1』からの振り出しに戻ってしまいます。

それに今の機材での限界も見えてきたところがあって、ステップアップするにはもう少し機材の充実も図りたいところです。当面は光学系よりも足回り、赤道儀周りに弱点があり、とくに今回感じたのは対象の導入・構図の微調整の問題。

以前、ポールマスターを導入したときに極軸合わせが圧倒的に楽にしかも正確に行えるようになって天体撮影における『機材の大切さ』を思い知ったので、そろっと赤道儀周りの機材の充実も図りたいところです。

私は本格的なアストログラフ、天体望遠鏡の導入は今のところ考えていなくて、今後もあくまでカメラレンズで撮っていくつもりです。もちろんタカハシのFSQイプシロン、ビクセンのVSDなどはとても憧れますが、今のところ山岳写真と並行して撮影しているので出撃の頻度が上がるような状況ではないので宝の持ち腐れになってしまいます。

今後は現在メインで使っているズームレンズ70-200㎜ではなく、最近出番が少なくなっているサンニッパを使いたいと思ってます。サンニッパは野鳥を撮ったり、風景や山野草を切り取ったりという場面でスーパーサブ的に活躍してくれていますが、実は天体写真でもじゅうぶん使えることもあって手に入れたところもあります。しかし現状のSWAT200では到底支えきれない重量(2.9kg)のため天体用としては『待機状態』となっていますので、このサンニッパでもしっかり支えてくれるポタ赤、小型赤道儀が欲しいところです。

そしてもう一つ。今回は3対象を撮影しましたが、2対象くらいに絞ってじっくりと露出をかけること。あまり欲張りすぎるとそのたびに対象を新たに導入したり構図を微調整したりする時間がもったいなくて、結局満足のいくものに仕上がらないと分かりました。

夜明けの樽口峠

4時頃にバーナードループの撮影を止め、ダークの撮影をしつつわずかな仮眠と機材の片付けをしていよいよ薄明。雲一つない淡いブルーの空の時間を利用してフラットの撮影。あたりは少しずつ白んできます。

飯豊連峰モルゲンロート

そしてついに雄大な飯豊連峰に朝日が当たって美しい山並みが赤く浮かび上がりました。今回の撮影地をこの樽口峠に決めたもう一つの理由、それがこの美しい飯豊の朝焼け。

朝日を受け輝く山並み

素晴らしい時間、本当に美しい時間。
こんなにも美しいというのにこの時間にここを訪れる人は私を含め3人ほど。私と同様に夜通し撮影されていた天文屋さんたちはもう帰られてしまった。たしかに山形まで遠征するのはお金も時間も体力も使うのですが、美しい星空とこの雄大な朝の飯豊の風景、もう十分おつりがくるほど贅沢な時間を過ごさせてくれました。

きっとまた来よう、また残雪の飯豊と春の銀河の季節に。