2024年8月 中房温泉~燕岳~大天井岳~西岳~槍ヶ岳(殺生ヒュッテ)~上高地
2024年夏、原点回帰の北アルプス縦走として国内屈指のメジャールート “表銀座ルート” で日本アルプスの象徴『槍ヶ岳』を眺めながらの3泊4日の天空漫歩。夏を謳歌する北アルプスの大展望と足元に広がる美しき高山植物、そして灼熱の稜線で意識は遥か槍ヶ岳を超えて。前編は中房温泉から大天井岳まで。
- 1年9ヵ月振りの北アルプス山行
- 表銀座縦走
- 今回の日程
- 今回の装備と撮影機材
- 1日目、登山口へのアクセスの試練と快晴の稜線
- 北アルプスの星屑たち
- 2日目、大天井岳への稜線漫歩
- 大展望の大天井岳
1年9ヵ月振りの北アルプス山行
前回の山行記事『テント泊で歩く夏の北八ヶ岳』でも書いたのだが、諸々の理由によりしばらく北アルプスはおろか本格的な撮影登山自体から足が遠のいてしまっていたが、久しぶりにまたアルプスを歩いてみたいと思うようになった。
それはここ最近アルプスなどの高山よりも魅力的に思えた牧歌的な里山歩きを通して感じた “根本的な自然美” というものをもう一度自分なりに反芻してみて、そこで得た、学んだ感覚をこれまで主としていた撮影舞台である北アルプスで試してみたい、と思ったからに他ならない。
最後に北アルプスに登ったのが2022年11月のテント泊による初冬の燕岳山行であったから、それからもう1年と9ヵ月経ってしまったわけだが、こうして再び歩きに行こうと決めたときに最初に歩きたいを思ったのが『表銀座』であった。
表銀座縦走
私が初めて表銀座を歩いたのは遥か昔、もう10年以上も前の事である。
それまで日帰りでの北アルプス山行が多かった登山を始めてまもなくの頃で、初めて北アルプスの山小屋に連泊して縦走したのがこの時の表銀座であった。まだテント泊を始める以前のことで、山小屋に宿泊すること自体も確かこの時が2回目か3回目だったように記憶している。
それはただただ不安と緊張のなかの縦走登山であったが、この山行時に見た自由気ままにテント泊する登山者たちがとても羨ましく、そして格好良く見えて、自分もいつかテント泊をやってみたいと思うようになったのを覚えている。
その山行から何故か今の今まで表銀座縦走には縁がなかった。
常に「きっと、またいつか」とは頭の片隅で思ってはいたが、そうこうしているうちに残念ながら年齢的なことを考えると私の山人生はもう折り返しを過ぎてしまった。
まったく人生とは光陰矢の如しである。
そこで、残された山人生はまだ山を始めた若かりし頃に歩いた記憶のあるコースを今の自分が歩いたら改めてどのように感じるだろうか、果たして山は私をどのように変化させ、私にどのような影響を与えたのか、そんないわゆる『個人的北アルプス登山レビュー』のような山歩きをしてみたいといつしか思うようになったのだ。
今回の日程
テント泊日程の調整
今回の山行の日程調整がもっと早くできれば良かったが、かなり山行日の差し迫ったころにようやく具体的な日程を組むことになってしまった。と言うのも、某コロナを経たことで本コースに関連するいくつかのテント場では事前予約が必要になってしまったのだ。今回が私にとってテント泊での初めての表銀座縦走になるわけで、改めて詳しく調べてみると燕山荘だけでなく、2日目の候補としていたヒュッテ西岳のテント場も予約が必要であったことは計算には入れていなかった。
表銀座を少し余裕の持てる3泊4日での撮影行とする場合、主に2パターンが考えられる。
このどちらにしようかと思索していたが、これらの妄想は電話予約が必要なヒュッテ西岳さんの電話口での「○○日のテント場はいっぱいです」という言葉にすべて打ち砕かれてしまった。
さて、困った。
実は今回の山行の楽しみのひとつが、いまだに宿泊経験が無かったこの西岳での朝夕の槍ヶ岳の雄姿の撮影だったからだ。
結局、今回はヒュッテ西岳泊は諦め、
特に2日目は燕山荘から大天井までというなんとも歪な日程となってしまった。
車回収の調整
そして今回は縦走と言うことで、自家用車での登山口アプローチの際に問題となる車の回収事案がある。もちろん関東からの遠征縦走登山となれば新宿発の夜行バスで中房温泉まで行って、下山後に上高地から公共機関を利用して新宿まで戻るというのが基本的なアクセスかと思うが、行きの夜行バスは当然のことながら事前予約が必要であるし、もちろんこの時期は早めに手を打っておかないと満席になるのは常である。
と言うことで今回は自家用車を回収しやすい麓(安曇野)に置いて、下山後に公共機関を利用して車まで戻ることにした。具体的には安曇野から登山口である中房温泉までは南安タクシーさんの乗合バスが通っているのでそれを利用することとし、車はその乗合バスの始発である『安曇野の里』の登山者用駐車場に置いて、下山後に上高地からバスと電車、タクシーなどでこの駐車場に戻ることにした。
もちろんこの他にJR大糸線穂高駅にほど近い広い敷地の登山者用駐車場を利用して、穂高駅からその中房温泉への乗合バスに途中乗車する方法もある。
※詳しくは南安タクシーさんの公式HPでご確認ください
⇒中房温泉行き定期バス|南安タクシー
今回の装備と撮影機材
今回の山行は久しぶりに総行動距離が40km近い、私としてはかなり長い山行となるので極力装備を軽くしようとは思ってはいたが、ただあくまで撮影重視のソロ山行なので撮影機材だけはしっかりしたものを準備し担ぎ上げることとした。
食料はいつものように昼食を各山小屋の軽食・ランチメニューで賄うことで少しでも軽量化し、朝夕は味気ないがアルファ米やフリーズドライ、インスタント食品中心の質素なものとした。そもそもアルファ米にはテント泊を始めたころから一向に慣れることが出来ないのだが、登山中は無意識のうちに緊張状態となるためか空腹を覚えても食が細くなるので、私の場合そもそも美味しい必要はないのだ。
今回の主な登山装備は以下の通りだ。
・登山靴 ローバータホープロⅡGT
・テント アライテントエアライズ2
・シュラフ モンベルスーパースパイラルダウンハガー#5
・テントマット サーマレストZライト
・火器類 ソトウィンドマスター
・その他 ヘルメット(モンベル)、トレッキングポール(シナノ)など
撮影機材の構成に関して今回はメインの『GFX』は基本的にザックの中に入れておき、朝夕や星空、そして “ここぞ” というときにザックから取り出して撮影するスタイルをとった。登りながら、または稜線を歩きながらスナップ的に撮影するときはオリンパスのコンパクトミラーレス『PEN-F』を使用。以前はメインカメラ(ニコン時代)を胸前に装着したトップローダータイプのカメラバッグに入れて撮影しながら歩いていたが、歩きにくいのと足元が見えにくくなるので、特に岩稜帯の登降時にはかなり気を使っていた。当然重い荷物はザックに入れておいた方が軽く感じるし、なによりトップローダータイプは何時間も歩いていると肩が尋常じゃないくらい凝ってしまう。
そして今回は月齢的に新月期と言うことで山岳星景もしっかりと撮影したかったので、ポタ赤の準備もしておいた。GFレンズの星景用としている広角ズームは開放F値がF4ということで暗めなので、ポタ赤でそれを補う用途である。
今回の撮影機材はざっとこんな感じだ。
・サブ(スナップ) オリンパス PEN-F、LUMIX G 20mm F1.7
・ポータブル赤道儀 サイトロン ナノトラッカーTL
・三脚 Leofoto LS-284C
・各種フィルター(ハーフND、ND16など)
出来ることなら最近お気に入りのレンジファインダーのフィルムカメラ『OLYMPUS-35SP』も持っていきたかったが、今回は久しぶりの北アルプスということで軽量化を優先して除外することにした。
1日目、登山口へのアクセスの試練と快晴の稜線
エコノミー症候群と歩くリズム
夏の最盛期ともなるといつも中房温泉にほど近い登山者用駐車場の空き状況がたいへん気になるものだが今回はその心配が無い。早朝 4:55発の始発の乗合バスは定刻通りに『安曇野の里』を出発したが、気分は最悪である。
マイクロバスなので仕方のないことであるが『安曇野の里』から中房温泉に到着する1時間強もの間、撮影機材や4日分のテント泊の荷物を詰め込んだ約21kg(これでも全盛期よりも4,5kgは軽くなった)の75Lザックを膝の上に置かなければならないのだ。もちろんバスは途中乗車する登山客たちも補助席に飲みこみ、平日にもかかわらず2台の臨時増便するほどの超満員御礼で車内では身動きはまったく取れないのである。
中房温泉に着くころにはすでに疲弊してしまっていた。
この日は好天予報ということで見慣れた登山口は自家用車組も加わってたいへん賑やかだった。ザックの雨蓋に入れておいた朝食用のおにぎりを頬張りながら支度をして、6:30過ぎに合戦尾根名物のいきなりの急坂を登り始めた。
幾度となく登っている登山道であるが、今回はあえて登山道の要所要所に設置してある名物ベンチで休憩を入れるのではなく、きっちり1時間歩いたら10分休憩を入れると決めたことで、いつもよりも良いリズムで登れたように思う。賑やかな合戦小屋では迷わずこの時期の名物となっているスイカでチャージして、燕山荘への最後の登りの活力とした。
そのおかげか、お昼前には燕山荘に着くことが出来た。
中房から燕山荘までコースタイム5時間ちょっとは私としては実はかなり良いペースである。体力があった若いころのように、ここから一気に大天井岳まで行ければ良いのだが、やはり燕山荘のテント場を予約しておいて正解であった。
登山に無理は禁物である。
燕岳山頂と沈む太陽
燕山荘にてテント泊の受付を済ませ、そのまま燕山荘内で失った塩分と糖分を補給するという名目で軽食と甘味を頂き、その後は軽くテント内で身体を休めてから久しぶりに燕岳の山頂を目指した。北アルプスの中で燕岳はここ数年の中では最も頻繁に登りに来ている山のひとつであるが、最近は稜線に上がっても山頂まで歩くことはほとんど無かった。しかし今回は時間的にも余裕があったし、何と言ってもテントの中に居ても暑いだけだったので何年ぶりかで無事登頂することが出来た。
テント場に戻るころには陽も少しずつ西に傾き始めていたので、夕景を撮影するためにいつものように山頂とは逆方面となる縦走路を少しだけ進んだところに陣取って陽が沈むのを眺めていた。ここでこうやって夕日を眺めるのは数えきれないくらいやって来たが、やはりいつみても美しい。
北アルプスの女王と称される燕岳もほんのりと頬を染め、
裏銀座の稜線へと今日の陽が沈んでゆく。
さすがにこの時期は全く寒さを感じない。
最後に明日目指す大天井岳の雄姿を写真に収めてからテント場への短い帰り道を歩いた。
・要事前予約(Web予約が便利)
・テント場利用料 2,000円/1人1泊
・トイレは外トイレを利用(冬季など積雪期は山荘内トイレを利用)
・水は200円/Lで分けてもらえる
・約40張可能
※詳しくは燕山荘公式HPをご覧ください
⇒燕山荘|北アルプス 表銀座 燕岳の山小屋
北アルプスの星屑たち
イルカ岩と天の川銀河
この時期は日没が18:30頃なので、20:00過ぎには南の夜空に立ち上がり始める天の川銀河を眺めることが出来る。まだ残雪期である春は夜半過ぎでないとこの美しい星屑たちを拝むことが出来ないが、季節はあっという進むものだ。テントの入り口のフライを開けるとちょうど燕山荘の屋根の上に立ち上る天の川が肉眼ではっきりと見てとれた。
昼間はテント場の下方のほうに陣取っていた学生登山部の賑やかなキャンプの様子を見てとれたが、この時間はテント場は実に静かな時が流れていた。
やはり何度見ても北アルプスで見上げる星々は圧巻だ。
そそくさと撮影機材の準備をしてまずはイルカ岩での定番の構図を撮影しにヘッドライトの光跡を頼りに稜線を下って行った。イルカ岩と天の川は過去何度も撮影しているが、この時期の “濃い” いて座の天の川はやはり画になるし、美しい。
何より少しだけ着込んでおけば撮影中はまったく寒さを感じないのが楽でいい。
テスト撮影含め数カット撮影していると燕山荘方面から若い男女が撮影しにやって来た。お話を伺うと、どうもこのお二人は燕山荘のスタッフの方々らしく、この絶好の星空日和を狙って小屋を抜け出してきたらしい。彼らと撮影を楽しみつつ槍ヶ岳が入る別カットを撮影するため、さらに山頂方面へと進んだ。
優先されるべきは命
私がイルカ岩付近で星を撮影しているとき、このお二人は撮影中の私に気付いてか気を使って途中からヘッドライトを消してこちらにやって来た。確かにヘッドライトの明かりは星撮影の邪魔以外何物でもないが、私は「ライト点けても大丈夫ですよ」と声を掛けた。
小屋スタッフの方なので登山道は熟知しているのかもしれないが、辺りは漆黒の闇である。思わぬ何かに躓いてしまうこともあるかもしれない。そんな状況で「撮影中だからライトを消して」などと言えるだろうか?
ここは2,700mの稜線である。
そしてここで撮影しようと決めたのは私である。
それも “イルカ岩” という言わば撮影の名所のようなところならば、私以外にも撮影者が居て当然である。あくまで優先すべきは人の命であり、私の撮影などその合間でパパッと済ませるべきものである。山でも下界でも撮影者はエゴの塊になりがちだが、その撮影や仕上がった写真が人の命よりも上位になることは決してあってはならない。
2日目、大天井岳への稜線漫歩
表銀座縦走の始まり
就寝中、寒さを覚えることなく実に清々しい快適な朝を迎えた。
フライシートも結露することなく乾いていた。
テント泊では撤収にかかる時間やその日の行動計画を考えていつもかなり早い時間からシュラフからむくむくと抜け出すのが常だが、この日はここから大天井岳まで稜線を歩くのみの超ユル行程なので、かなり余裕をもって活動を始めた。
日の出は小屋前のベンチで待つこと約15分。
昨日と同様にすっきりと雲のない快晴の東の空から太陽は上がって来た。太陽が上がるや否や、今度は縦走路側へと移動をして、上がって来たばかりの太陽の光を浴びる槍ヶ岳や穂高連峰を眺めた。
新しい一日の始まりである。
テントに戻って味気のないインスタントラーメンを胃に流し込んでいると周りの方々はすでに撤収を終え、そそくさと各自の行動へと出て行った。私の撤収はテント場の中でも最後のほうで、ようやく 7:00に燕山荘から大天井岳に向けて縦走路を進み始めた。
時折、登山道脇の砂礫に咲くコマクサの群生を横目に見ながら、まるで仲間と頻繁に声を掛け合っているように見えるホシガラスたちを見ながら、そして槍ヶ岳を常に視界に縦走路をゆっくりと景色を堪能しながら歩いた。かつて歩いた表銀座縦走自体の記憶はほとんど忘れている部分が多く、改めて新鮮な気持ちで歩くことが出来た。
稜線は実に快適であったが、涼しい風が吹かない東側をトラバースする登山道のときだけはこれ見よがしに蒸しっとする。午前中でこれなのだから、日中は激しい暑さに悩まされるだろうことは容易に想像できた。それを考えると出来るだけ早く目的地まで行ってしまいたいところだが、折角の表銀座の美しい稜線漫歩なのだからじっくりと堪能したい。
「ひょっとしたら私にとってこれが最後の表銀座縦走かもしれない…。」
そう思えてならないのだ。
重厚なる大天井岳へ
大天井岳は実にどっしりとした重厚な山容だ。
徐々にそのどっしりとした体躯が近づくにつれ、包容力を感じるのが何とも不思議だ。
大下りの頭には 8:30には到達したが、槍ヶ岳はいまだ遠く感じる。ここから一度ガツンと下った後、アップダウンを重ねながら大天井岳の足元までどんどん近づいてゆく。日が高くなるにつれ高山と言えども登っているとあの40℃近い関東の下界生活のようにどんどんペットボトルのお茶を消費する。このペースだとザックに入れていた予備の水にまで手を出してしまいそうだ。
しかしそれとは裏腹にそこはやはり北アルプス山地、澄み切った青い空を見上げると雲が実に美しい筆さばきで空のカンヴァスに画を描いている。
「あぁ、実に久しぶりの夏の北アルプスだ。」
喜作レリーフのある最後の鞍部をやっつけると、あとは大天井ヒュッテとこれから向かう大天荘への分岐から大天井岳に這いつくばるようにトラバースして登ってゆく。パトロールだろうか、ヘリがけたたましい音を立てながら山の付近を飛び回っている。荷揚げだろうか、小屋に近づいたと思ったらすぐにどこかへと飛んで行く。その羽の音を聞きながら、そして美しいお花畑の山肌を横目に、その最後の登りに息を切らせながらようやく11:00過ぎに大天荘に到着した。
大展望の大天井岳
“山”という場所
まだお昼前に着いたせいか、テント場はかなり空いていた。
大天荘にてテントの受付を済ませた後、折角なのでテントの中に居ながらにして穂高連峰や槍ヶ岳が見える位置にテントを陣取った。設営後は混み合わないうちにすぐに小屋へ戻って昼食を頂いた。
小屋に入ってくる風が実に心地よく、登山の疲れと日ごろの下界での疲れが両方とも浄化されていくような感覚を覚える。それにしても小屋で購入する200円/Lの水の料金入れがあまりに無造作に置かれていて、それでもまったく盗難される様子もないのはさすが山だ。実際、到着時のテント受付の際に小屋前のベンチについ置き忘れてしまっていた私の大切なトレッキングポールが、翌朝の出発時までまったくそのままの状態で置かれていたのも驚いた。
山頂からは槍穂の大展望はもちろん、この日に歩いてきた長い縦走路が綺麗に眺められ、そして反対側には常念岳もはっきりと姿を現していた。
大天井岳はまさに大展望の山である。
・事前予約は不要
・テント場利用料 2,000円/1人1泊
・トイレは山荘のトイレを利用(外履き利用可)
・水は200円/Lで分けてもらえる(ほぼセルフサービス)
・約50張可能
※詳しくは大天荘公式HPでご確認ください
⇒大天荘|北アルプス表銀座 大天井岳の山小屋
一期一会、山で出会う人々
いったん山頂から小屋まで戻って、夕景撮影までまだ時間も有り余っていたのでそのまま常念岳を眺めようと縦走路を散歩しながらスナップを楽しんだ。
南側から眺める大天井岳も凛々しくて、実にイケメンである。
ちょうど常念岳を眺められるところまでなだらかな気持ちの良い稜線歩きを楽しんでいると、一人の女性ハイカーが常念岳方面からやって来た。時間はもう夕方近くなので遅めの到着ではあるが、それもそのはず、窺うとなんと常念岳ではなく蝶ヶ岳から縦走してきたテント泊の方であった。上高地を起点に蝶ヶ岳~大天井~槍ヶ岳~上高地とぐるっと周回するらしいが、これまた羨ましくも凄い山旅である。実はこの方とは3日目以降も再びお会いすることとなり、そして下山後までお世話になるのだから山の出会いと言うものもまさに一期一会、実に奇遇と言うものだ。
夕景に集まる人々
夕景撮影は奇をてらうことなく大天井岳山頂で行った。
私を含め多くの方が山頂でこの日のサンセットを見守ったが、この一日の終わる刹那のような時間が実に貴重な体験である。昨日までいた燕岳や歩いてきた縦走路、北に聳える立山連峰や剱岳、眼前に迫る槍ヶ岳や穂高連峰、そして南には常念岳の重厚な横顔。
陽が落ち切ると皆が小屋やテントへの帰路につき、あっという間に山頂はわずか数人残すのみとなった。
日没後の、この静かな何とも言えない郷愁感が心地よい。
何となくお祭りの後のような空虚な心持。
暑かった一日が終わる。
きっと明日も暑いだろう。
今晩もきれいな星空を見ることが出来るだろうか?
そんなことを考えながら、私もトボトボと山頂を後にした。
(後編につづく)