初冬の谷川岳、美しき爼嵓山稜(マナイタグラ)

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2019年12月、初冬の谷川連峰。

谷川岳ロープウェイを利用し、天神平から天神尾根を登り谷川岳山頂トマノ耳へ至るアーカイブ。

(目次) 

  • 谷川連峰
  • 谷川連峰の主な山々
  • 初冬の谷川岳
  • 谷川岳ロープウェイ
  • 準備不足の典型 “忘れ物”
  • 天神尾根
  • 雪山装備

 

谷川連峰

谷川連峰は群馬県と新潟県を分かつ上越国境の長大な山脈。西端の三国山・平標山から東端の朝日岳・白毛門まで2,000m級の山々が連なっています。
2,000m級というとそれほど高いイメージは持たれないかもしれませんが、谷川連峰の山々は森林限界が低く、その山並みは3,000m級の北アルプス連峰を彷彿させるような荒々しい稜線が連なります。

私にとって谷川連峰は北アルプスとともに愛すべき山々となっています。
幼少のころの天神平での雪遊びに始まり、その後に山をやるようになってからは毎年必ずと言っていいほど谷川連峰のどこかしらの山を登っています。

谷川連峰の主な山々

平標山

標高1,984m。谷川連峰には有人の山小屋はそれほど多くなく、半分以上が避難小屋的な山小屋が多い中にあって数少ない有人の山小屋『平標山の家』が山頂直下にあります。
国道17号沿いの登山口には広々とした駐車場があり日帰りピストンはもちろん、バス停もあるので公共機関を利用した主脈縦走の起点や終点とすることもできます。
稜線や山頂からは東へと延びる谷川連峰主脈の美しい山並みが、そして西側には雄大な苗場山の眺望がすばらしいです。

仙ノ倉山

標高2,026mは谷川連峰の最高峰。平標山から延びるたおやかな稜線美は上越国境随一の美しさを誇ります。
春の雪解けを迎える時期の稜線は高山植物の宝庫となり、仙ノ倉山登山ではもっともおすすめの時期と言え、多くの登山者で賑わいます。
平標登山口からでも十分日帰り山行可能。谷川連峰の中では谷川岳とともに私が最も好きな山。

万太郎山

標高1,956m。谷川連峰主脈縦走路のちょうど中間、中枢に位置する山。
万太郎山登山は基本的には縦走での登山が一般的。JR土樽駅から延びる吾策新道でもピークを目指せますが、かなりの体力を要求されると言われている。
中枢の山らしくどっしりとした重厚な山容が登山者を魅了する。

マナイタグラ山稜

もともと谷川岳はこのマナイタグラを指していたとされていて、国土地理院の地図の誤記のために現在のオキノ耳とトマノ耳が谷川岳となったのは有名な話。
マナイタグラ山稜は主脈縦走路から外れていることもあり、登頂するには藪漕ぎが必要なようです。(私は未踏です)
天神尾根から見上げるその荒々しい岩峰群は谷川連峰のハイライトの一つであり、その山並みをひと際輝かせている。
天神尾根を登って初めて谷川岳を目指したときから私はマナイタグラの美しさに魅了され、四季折々のマナイタグラを撮影することが北アルプス撮影とともに私のライフワークとなっています。

谷川岳(オキノ耳とトマノ耳)

標高1,977m(オキノ耳)。谷川連峰の主峰にして日本百名山。
オキノ耳とトマノ耳と言われる双耳峰が特徴的で、登山コースもいくつかのバリエーションがあり初心者から上級者まで楽しめる山。
私は天候が安定しない厳冬期以外でそれぞれ何回も登っていてどの季節も素晴らしいと思っていますが、やはり稜線が美しく赤に染まる秋は圧巻です。
山頂直下には山小屋『肩ノ小屋』があり、そこから西へと延びる稜線の眺望はとても美しい。
JR土合駅と土樽駅を利用した縦走や、体力がある方なら“馬蹄形”と呼ばれるルートはとても濃密な山歩きができる。

朝日岳・白毛門

マナイタグラ山稜と並んで谷川連峰のもう一つの岩峰群『一ノ倉沢』。その荒々しい岩壁を眺めるなら白毛門からが圧巻。
ただ登山は延々と続く登り一辺倒のため、体力的にはけっこうきつい登山となります。

初冬の谷川岳

私はほぼ毎年の恒例のごとく雪山シーズンは初冬の谷川岳から始めています。自らの体力のチェックや雪山装備のチェック、低温度順応など通いなれた谷川岳で毎年確かめるように登っています。

新潟県の魚沼地方は日本有数の米どころであり豪雪地帯で知られていますが、それは北のシベリアからの強い寒気が谷川連峰にあたってそれが雪雲を形成するためです。
よって冬本番になると谷川連峰をはじめとした上越国境の山々は天気が不安定であるため、私のような山岳中級者にとっては雪の谷川岳を味わうには初冬か、もしくは寒気が弱まり天気が比較的安定しだす3月の残雪期が絶好の機会となります。

天神平から見上げる谷川岳

いつもの谷川岳なら11月下旬には新雪が積もり雪山となりますが、今年はなかなか降雪せずに12月に入ってからの入山となりました。
温暖化と言われる昨今ですが、雪山のシーズンインが少しずつ遅れているのを実感します。

谷川岳ロープウェイ

谷川岳は2,000mに満たない山ですが、その気象の激しさや森林限界の低さも手伝ってアルペン的で初冬でも本格的な雪山を楽しむことができます。
谷川岳というと多くの遭難者を出した世界に名だたる『魔の山』と恐れられいますが、それは一ノ倉沢などの一部の岩登りを要するコースによるもの。
天神尾根コースを選択すればこれから雪山を始めてみようという雪山初心者でもしっかりと事前準備さえ押さえておけば比較的安全に登ることができます。

その天神尾根コースをさらに容易にしてくれているのが『谷川岳ロープウェイ』の存在です。もちろんロープウェイの頂上である天神平は人気のスキー場なわけですが、谷川岳登山においてもロープウェイはとてもポピュラーに利用されています。

ロープウェイ利用での登山はある種 “標高を金で買う” と揶揄もされますが、私は雪深い時期には積極的に利用しています。
ただ今回はまだまだそれほど降雪量が多くなかったこともあり、天神尾根ではなく西黒尾根で麓から登り下山でロープウェイを利用する予定でいました。

谷川岳ロープウェイ
・メンテナンス期間以外は通年営業
・営業時間は夏季や冬季、曜日によって変更
・往復料金は2,100円(小人は1,050円、団体割引あり)
・駐車料金500円(12月は1,000円ですがまだスキー場営業前ということで)
・その他詳しくは公式HP参照 http://www.tanigawadake-rw.com/

準備不足の典型 “忘れ物”

登山においてもっとも恐ろしいもののひとつは忘れ物。
着替えを済ませて登山靴に履き替え、しっかり準備運動もして『いざ』とザックに手をかけたその瞬間。
『あれが無い、これが無い』というのは最悪です。

私の場合、入山目的は山岳写真を撮影することが主なので登山用具だけでなく撮影機材も担ぐのでどうしても持ち物が多くなってしまいます。
そのため“忘れ物”というのはとても怖いことなのでしっかり事前準備、装備チェックはしているつもりなのですがたまにやってしまいます。
特に今回のようなその年の『雪山はじめ』であるとか『テント泊はじめ』は気を付けるようにしているのですが、この日はピッケルを忘れるという大失態。
もちろんまだ初冬の新雪なのでピッケルは必要ないと思えましたし、ストックとアイゼンで十分登れそうでしたが、やはりここは準備不足をしっかりと認めて潔くロープウェイ利用での天神尾根に切り替えました。

天神尾根からは朝の清々しいピリッとした時間帯にマナイタグラ山稜を撮影できることもあって、すぐに気持ちも切り替えました。
ただ残念だったのは12月に入ってしまうとロープウェイの始発は8:30からとなってしまうことでした。

天神尾根

天神峠谷川岳展望台

無雪期の天神尾根コースは谷川岳をピストンしても7㎞ほど。岩場や鎖場もありますが比較的登山初心者にも優しいコースですが、初冬の天神尾根は装備さえしっかりしておけば雪山初心者でも登りやすいコース。
まだ営業日前の天神平スキー場を横目に、谷を挟んだ反対側の薄っすらと雪化粧をした白毛門や朝日岳を眺めながらの登り始めとなります。

谷を挟んだ反対側、谷川連峰の東端の朝日岳・白毛門

本来なら熊穴沢避難小屋までは樹林帯の巻き道を進みますが、スタートが遅れたことから今回はマナイタグラ山稜や谷川岳の眺望がすばらしい稜線の展望台まで直登しました。

新雪を纏った雄大なる谷川岳

斜度のきつい登りに息を切らせば程なくして天神尾根の稜線に出ますが、この稜線からの谷川岳やマナイタグラ山稜はとても美しいです。

登山者を魅了するマナイタグラ山稜

天神尾根からは基本的にマナイタグラ山稜の絶壁を左手に見ながらの登りになるのですが、どうしても手前に藪があってスッキリと写真に収めることができないことも多く、中腹のいくつかの露岩(天狗の留まり場やザンゲ岩など)からの撮影になるのですが、そうなると今度は角度的にかなり斜めからのフレーミングになってきますのでこの展望台はとても貴重な撮影地となります。

展望台から先は一度標高を下げてから通常の登山道に合流しすぐに熊穴沢避難小屋となります。

熊穴沢避難小屋~肩ノ小屋

熊穴沢避難小屋はその名の通り小ぢんまりとした小屋で水場もトイレも無いいわゆる“避難小屋”。
休憩の際の風よけや雨宿り的利用がメインとなりますが、たまにこの時期でも泊まりで利用される方もおられます。
本格的な雪山シーズンとなると積雪量が多い山域ということもあり、この避難小屋は雪に埋もれてしまうことも多いです。

天神尾根から眺めるマナイタグラの絶壁

この避難小屋から先は本格的な登山道となり、無雪期であれば岩場やクサリ場の連続となります。
初冬はその年の積雪量によりますが岩場やクサリ場が雪で覆われていたり、ところどころ出ていたりとその時の状況に応じての対応となります。
雪ですっぽり埋まっていれば楽なのですが、その岩やクサリに雪と氷がミックスしているような状況は一番厄介となります。
ただその区間を過ぎれば再び歩きやすい登山道となります。

途中途中にある露岩、『天狗の留まり場』や『ザンゲ岩』はまさに天神尾根からの雄大なビューポイントとなります。
振り返れば登ってきた美しい天神尾根、遠くには赤城山塊や上州武尊山が鎮座しています。

登ってきた天神尾根を振り返る

見上げれば谷川岳から西へ延びるオジカ沢ノ頭~マナイタグラ山稜にかけての美しい谷川連峰の稜線。
この日は少しずつ雲が出てきてしまいスッキリとしたウィンターブルーとはいきませんでしたが、久しぶりの谷川連峰主脈の雪景色に見入ってしまいました。

登山道の霧氷とマナイタグラ山稜

ザンゲ岩を過ぎると山頂直下の肩ノ小屋まであと少しとなりますが、それまでのポカポカ陽気から一転、風が強くなりはじめ、気温も急激に下がってきます。
このあたりは北アルプスの山々に似ていて、森林限界を越えると急激に気象が変わってくるので注意が必要です。

肩ノ小屋~トマノ耳

最後の急登をしのげば山頂直下の肩ノ小屋となります。
肩ノ小屋は無雪期には管理人の方が常駐していて食事付きで宿泊できる山小屋で、私も数回宿泊したことがあります。
冬季は閉鎖されますが避難小屋としては利用できます。
小屋や小屋前のベンチ、道標にはエビの尻尾が少しずつ発達していて稜線の風の強さと寒さを物語っています。

風雪をまともに受ける寒々しい肩ノ小屋

小屋前からの眺望は西へ延びる主脈の稜線がたいへん雄大で美しく、登ってきた苦労が報われる瞬間です。

雄大なる谷川連峰主脈縦走路

小屋から山頂(トマノ耳)へは程なくして到着しますが、山頂からは上越国境の雄大な山並みも見ることができます。

谷川岳オキノ耳

今回はスタートが遅れたこともありオキノ耳には行きませんでしたが、久しぶりに谷川連峰の雪景色を肌で感じられて『やっぱり谷川連峰はいいなぁ』と…。

ただやはり12月に入ってもこの程度の積雪量はここ数年で最も少なく感じ、すこし残念な印象も持ちました。

主脈縦走路の中枢の万太郎山、そして白銀の仙ノ倉山

主脈縦走路の先には苗場山が美しい

雪山装備

今回は新雪でしかもかなり積雪量が少ないということで、ピッケル忘れもありほとんど雪山装備は着けずに歩きました。
もちろんザックには12本爪アイゼンも入っていましたし、バスケットを雪山仕様に替えたストックも持参しました。
しかし今回は登山靴だけは雪山用のものを履きましたがピッケルもアイゼンもストックも、すべて使いませんでした。

初冬は日が傾くのも早く、午後には西日を受けるマナイタグラ

雪山装備はどういう状況でどのような選択をするかは判断が難しい部分もありますし、『これが正解』というものもないのでしょうけれども、こればかりは経験を多く積むしかないように思います。
もちろんフル装備に越したことはないのでしょうけれども、あまりにそれが過ぎると効率が悪いように思います。

そして何より今回の谷川岳は森林限界が低いこともあり、気象の急激な変化にしっかりと対応する必要性を改めて感じました。
中盤までは気温も高めで風もなくそれこそ汗だくでしたが、後半は一気に強風低温となったため雪山での『レイヤリングの重要性』を再確認しました。