白銀の峰々に会いに、初冬の北アルプス『燕岳』テント泊山行

PHOTO TOUR

2022年11月 中房温泉口~燕山荘ピストン(山頂未踏)

燕山荘の小屋閉め直前、新雪を纏った白銀の燕岳に会いに初冬の北アルプステント泊山行。
そこはすでに厳冬の山々、凍てつく寒さが支配する峰々。白銀の表銀座縦走路、美しい落日、満天の星空、そして厳しい環境を肌で感じた貴重な2日間。

(目次)

  • 11月の北アルプス『燕岳』
  • 修行の合戦尾根
  • 白銀の峰々
  • 平和な午後のひととき
  • 薄紅に染まる落日
  • 満天の星空
  • 強風の夜とモルゲンロート撃沈
  • 山行記録まとめ
  • 個人的備忘録



11月の北アルプス『燕岳』

紅葉を終え冷たい風が冬を呼び込み、一日一日と厳冬期の山へと姿を変えていく11月の北アルプス連峰。主要の山小屋は10月をもってすでに営業を終え、残るはごく一部の山小屋のみとなり、いよいよ山は人を寄せ付けない厳しい環境となります。

11月ともなると高山では純白の新雪を纏い始め、日中の強い日差しを受け溶けてはまた積もるを繰り返しながら厳冬の山々へと姿を変えていきます。燕岳の麓、標高約2,700mに建つ燕山荘は例年11月下旬に小屋閉めとなる、北アルプスではもっとも遅くまで営業している貴重な山小屋のひとつです。

私はかつて2回ほど11月の燕岳には登りました。
その直近の2020年11月のテント泊山行では山行直前の週中に燕岳が新雪を纏い、それをめがけて週末に登りましたが残念ながら融雪が進んで “雪山” とは言えない晩秋然とした燕岳の雰囲気でした。それはそれで美しい山景を多く堪能できましたが、やはり真っ白に輝く燕岳にどうしても会いに行きたい…。

晩秋から初冬へ『北アルプスの女王』燕岳

そこで今回は山行日を引っ張りに引っ張って、燕山荘の小屋閉め直前となる下旬を狙って再びテント泊で会いに行きました。

厳冬期テント泊前哨戦

今回の燕岳山行を行うにあたり、燕山荘さんの公式ブログを日々こまめに拝見して山の様子や環境などをしっかりとチェックしていました。それによると本山行前には新雪がたっぷりと降り積もり、テント場は完全に厳冬期の様相を呈していました。

今後予定している厳冬期のテント泊山行のよい準備が本山行で出来そうで、今回の山行はそれもひとつの目的でした。

今回の登山装備は以下の通りです。

【テント】 エアライズ2(アライテント)
【テントマット】 ゾア20R(ニーモ)、Zライト(サーマレスト)、100均レジャーマット
【シュラフ】 ダウンハガー#2(モンベル)
【シュラフカバー】 ゴアテックスシュラフカバー(イスカ)
【ザック】 クーガー75-95(カリマー)
【登山靴】 マウンテンエキスパート(LOWA)
【アイゼン】 6本爪軽アイゼン(マウンテンダックス)
【ウェア】 (上)ソフトシェル(モンベル)、ハードシェル(モンベル) 、(下)オーバーパンツ(モンベル)、上下ダウン(モンベル)
【火器類】 ウィンドマスター(SOTO)

※その他テント場整地用にアルミスノースコップ(中華製)や、ペグを雪山用のものに変更。

完全に冬山テント泊仕様と言うことで下記の撮影機材含めてかなりの重量を覚悟しましたが、パッキングし終わってみればザック重量は意外にも22kgに収まりました。
1泊2日ということで食料が少ないことがかなり大きいですね。

今回の撮影機材

撮影機材に関しては前回の雲ノ平山行時のものとほぼ同じ構成。
雪山撮影だけでなく新月期ということで美しい星空も期待できますし、出会えるならば冬毛を纏い始めた雷鳥も撮影したいところ。

2020年の山行時よりもはるかに雪が多いので、同じ11月でもまるで違うものが撮影できると予想され、前日から期待に胸が膨らみました。

【カメラ】
ニコンZ6Ⅱ
富士フイルムGFX50sii
【交換レンズ】
NIKKOR Z24-120mm f/4S
AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED
AF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VR
AF-S TELECONVERTER TC-14E Ⅲ
GF35-70mm F4.5-5.6
【三脚】
レオフォト LS-284C
【雲台】
マセス  FB-2R
【カメラバッグ】
シンクタンクフォト デジタルホルスター 20 V2.0
NEEWER カメラ保護バッグ

※その他フィルター各種やアクセサリー類、交換バッテリーなど

修行の合戦尾根

もはや数えきれないほど来ている登山口である中房温泉の登山口。すぐ下の第1駐車場にはまだ暗い6時に到着。
天候は快晴、気温は0℃でそこまでの寒さは感じませんでした。

※槍ヶ岳矢村線(通称:中房線)
11月いっぱいでここまでに至る林道(宮城ゲート~中房温泉間)は閉鎖されるので、この長い林道を歩かずに白銀の燕岳に登ることが出来るのはこの時期だけ。もちろん凍結などの可能性はあるので冬用タイヤ必須です。(当方は念のためチェーンも合わせて携行)
平日登山となった今回ですが、2020年11月の山行時と同様に今回も駐車場にはこの時期、この時間でもすでに車が結構多い。
さすが人気の燕岳です。

そそくさ準備を整えて6時半に駐車場を出発して、少し上の中房温泉にて登山届の提出及びトイレを済ませて7時前に改めて登り始めました。

お馴染みの中房登山口

登山道の雪は第2ベンチを過ぎたあたりからチラホラ、第3ベンチからはほぼ雪の上を歩きました。前回の雲ノ平山行からひと月以上の間が空いたためか、はたまた北アルプス三大急登のためか、すでに富士見ベンチまででかなりの疲労感…。

上部の樹林帯からは雪がちらほら

樹林帯の左手の木々の間から真っ白な大天井岳から延びる支尾根が見え始めるころ、ようやく傾斜も緩んで合戦小屋が近づいてきます。

ここまでは短いながらもまさに修行のようなきつい樹林帯。
今回もたっぷりと汗を絞られました。

あと少しで合戦小屋

合戦小屋にてトイレおよび補給休憩のついでに、ここで軽アイゼン(6本爪)を装着しました。さらにこの先は風もあると予想されるのでウェアも高山仕様に変更し、天候が良いので日焼け止めとサングラスも準備しました。

合戦小屋周辺は雪が多い

合戦小屋からの樹林帯を抜け、展望の開ける合戦沢ノ頭まで上がると目に飛び込んでくるのは白銀の北アルプスの峰々 !

真っ白な燕岳の稜線

青く澄んだ快晴の空に映える、なんとも美しい山並み。
槍ヶ岳大天井も、針ノ木岳も、そして目指す燕岳も、見事な輝かしい純白の姿で迎えてくれました。

左から大天井~穂高~槍ヶ岳の山並み

燕山荘直下はすでにこの日は夏ルートではなく冬ルート。

気温が高いため霧氷の美しい花々は残念ながら見れませんでしたが、それでも眩しいばかりの新雪の輝きとともに、久しぶりの「ギュッ、ギュッ」という雪の踏み心地が実に気持ちいい。

山荘への直登の冬ルート

最後の急登に苦しんでなんとか12時半に無事に燕山荘の建つ稜線に到着しました。駐車場を出発して実に6時間…、相変わらずの亀足ぶりです。

燕山荘と真っ白な燕岳

急登を登ってきたため、この景色とは裏腹に寒いどころか暑い。
いや、この景色を目の当たりにして『熱い』のか…。



白銀の峰々

稜線に立つとさすがに西から吹き上げる風を受けて寒さを感じましたが太陽光が燦々と降り注ぎ、それほどの厳しい寒さは感じませんでした。

白銀のドレスを身に纏った北アルプスの女王

何と言ってもこの稜線からの山並みはいつみても圧巻。

穂高連峰も槍ヶ岳も、鷲羽水晶も、野口五郎も、遠くツルタテも。そして鹿島槍をはじめとして針ノ木サーキットの山々も真っ白で本当に美しい。残雪期も含めて何回も登ってこの山々を眺めていますが、やはり雪の白さが全然違う!

白銀の水晶岳から野口五郎岳の稜線

燕岳も間違いなく今まで見てきた中でもっとも白くて、まさに厳冬期のそれに近い雰囲気で山頂への登山道もトレース伝いに真っ白。表銀座縦走路もフカフカの新雪を纏いこちらも真っ白。どちらもそう易々と稜線散歩という雰囲気ではないもはや厳冬期の様相。

下界の雑多で浮世のそれなど、この雄大で純白の景色が洗い流してくれるようでした。

平和な午後のひととき

早速燕山荘にてテントの受付を済ませてから、雪で埋もれて手狭になっているテント場にてテントの設営作業に。ちょうど前日のテント泊客の方の “居ぬき物件” を有難く拝借。

若干狭かったのでスコップでエアライズ2が張れるくらいに拡張してから設営。登山用の各有名メーカーのスノースコップはあまりに高価なので、今回は安価なものを購入して使ってみましたが軽量で使用上特に問題はありませんでした。(今後の耐久性は未知数)

設営した後は燕山荘にて昼食を頂きました。

テント場も今までで一番の積雪量

燕山荘テント場
・テント場利用は小屋泊と同様に事前に要予約
・幕営料 2000円/1人1張
・トイレは山荘内のトイレを利用(外トイレは建設中とのこと)
・水場はなく山荘で購入(500円/L)
・スコップは自力で持たなくても山荘のものを拝借できます
燕山荘は私が宿泊したことがある数少ない山小屋のひとつですが、いつも気持ちよく利用できます。絶品のビーフシチューで身体を温めたあとはふたたびテントに戻って、暖かい日差しが降り注ぐ平和なテント場で身体を休めました。

絶品のビーフシチュー(¥1400)

※詳しい燕山荘の詳細は公式サイトを参照ください ↓
燕山荘|北アルプス表銀座の山小屋 燕山荘グループ

夕景まえに付近を散策がてら、カメラを抱えて夜の星撮りのためのロケハンへ。

燕岳の定番『イルカ岩』も雪化粧

見慣れた山頂直下の『イルカ岩』も雪を被ってイルカというよりは “シャチ” のような姿に。今回も燕岳山頂はパスして、この時期の早い夕景撮影の準備にかかりました。

薄紅に染まる落日

いつもここの夕景では表銀座縦走路を蛙岩(ゲーロ岩)手前まで、またはその中間あたりまで足を延ばして撮影していました。しかし今回は雪も深くてそこまで行くのにかなり時間がかかりそうで、夕景に間に合いそうになかったので山荘の直下で撮影しました。

陽が傾き始めると徐々に山々の表情が刻一刻と変わっていきます。山荘からも多くの登山客の方々がカメラを手に思い思いのところでこの夕景ショーを捉えようと、その瞬間待っておられました。

落日間近…。

真っ白な表銀座稜線が薄紅色に染まって、それはそれは美しい表情を見せてくれました。悴む手を感じながら、心が熱く感動している。

『Surrounded』

稜線に沈もうとしている西日の儚い光の粒に包まれる、
その僅かな永遠にも似たこの時間。

北アルプスの雄大な山々が創り出す、
目の周りに現れるこの空間。

美しい。
本当に美しい。

燕岳もほんの少しだけ夕日を受けてその雪面を極薄紅に、まさに冬の女王さながらの美しい表情をしていました。まるで新しい白銀のドレスを着て、顔を赤らめて恥じらいを隠せないでいるような、そんな美しい山容。

『Northern Alps Queen’s Blush』

美しい今日という日を忘れずに、

この心に留めて…。

『淡く、儚く。』

満天の星空

陽が沈むとあたりは一気に夜の帳が支配してきます。
気温もグングン下がって、夕景撮影からテントに戻って気温計を確認するとすでにマイナス10℃。下がってくれるのは願ったり叶ったり。

テント内で餅入りうどんで空腹を満たすころには燕山荘の真上には美しい星空が広がっていました。
本当に陽が短い。
18時にはもう真っ暗。
眼下には安曇野や松本の夜景が煌々と輝いていました。

今回の星景撮影はイルカ岩を絡めた構図と決めていました。

『Sea to Universe』

雪のたっぷり着いたイルカ岩と西へと沈みゆく天の川のコラボを撮影できるのはこの時期だけで、この夜はその美しい星空と思う存分戯れました。

燕岳の真上、北天にもその天の川が続き、こちらもまた素晴らしい星空。

『Star-Spangled Night (星屑山景)』

この美しい星空と、
居た堪れない寒さ、
きっと、忘れることはないだろう…。




強風の夜とモルゲンロート撃沈

それまで比較的穏やかだった天気も22時を過ぎたあたりから時折テントが大きく軋むほどの強い風が出てきました。バタバタとうるさくて、その後はほとんど寝付けず…。

夜の帳に包まれるテント場

まだ暗い午前4時に改めて外に出しておいた気温計を確認するとマイナス6℃。ただ風が強いので体感は前日夕方よりも寒い。

少しずつ明るくなってきた6時前に改めてカメラを抱えて日の出の撮影のためテントを抜け出してみると西側には分厚い雪雲が裏銀座や槍ヶ岳を飲み込んでいました。東側も雲が多く、残念ながら日の出の撮影はダメそう。それでも今回も山荘から多くの方が日の出を撮影しようと小屋前に集まりました。

日の出撮影は撃沈…。

期待したモルゲンロートは撃沈…。

残念ですが山岳写真は自然が相手のものなのでこればかりはどうすることも出来ず、今回は縁が無かったと思うしかありません。

テントにいったん戻って朝食を摂ったあとは、みるみる天候が怪しくなってきました。稜線だけでなくテント場にも強風が吹き荒れて、まだ天気が持ってくれている今のうちに撤収しようと決めました。

瞬く間に雪煙に巻かれるテント場

撤収作業を早めに終えた直後からついには吹雪いてきて、あっという間にまるであたりは厳冬期の荒れ狂う高山の雰囲気に。

下山前、周辺はあっという間に吹雪に…

午前8時過ぎ、後ろ髪引かれる思いで早めに下山し始めました。

朝の鹿島槍ヶ岳

山行記録まとめ

転げる下山

降っていた雪は富士見ベンチあたりで止んで、ここまで装着していた軽アイゼンは第3ベンチで外し、その後は穏やかな下山となりました。下から登って来られる方々とあいさつを交わしながら、転げるように下りました。

登りに6時間かかったこの登山道も下山はわずか3時間
中房温泉口に下りてくる頃には青空も見えて、今回の登山の無事の完了に安堵しました。

今回の山行ログ(YAMAPより転載)

今回はまたいつものように燕岳山頂には登らず、テント場周辺での撮影と散策に終始しました。そのため山行ログは登山口から燕山荘までのピストンのみを残しました。その距離わずか片道4.5kmながら実に標高差1,360m、さすがアルプス三大急登だけのことはあります。

11月の燕岳の装備

今回は燕山荘の小屋閉め直前と言うタイミングでの登山となりました。
11月の燕岳登山となると装備が非常に悩ましいところです。とくに足元の装備は悩ましく、同じ11月でも上旬や中旬くらいまでならば暖かく小雪の年によっては夏靴でいけそうですが、今回くらいの雪量ではやはり冬靴が推奨されます

また小屋泊りか、テント泊か、はたまた日帰りかでも状況は変わって来るかと思います。アイゼンも雪慣れしている方であれば必要ないかもしれませんし、今回は12本爪アイゼンで登られていらっしゃる方も多くお見受けしました。もちろん大天井岳までと言うことであれば、今回よりも雪が少なくても完全な雪山装備で臨んだ方が無難でしょう。

本山行の2日目の早朝がそうでしたが、天候が崩れると11月でもあっという間に辺りは厳冬期の北アルプスの様相に豹変します。この時期の登山装備は悩ましいところですが、私は『悪い状況に合わせる』を基本としています。

冒頭でも2020年11月の燕岳山行の記事のリンクを張らせていただいておりますが、同じ11月でも数日違うだけで山の状況にこれほどの差があることを念頭に山行を計画する必要があります

終わりに

今回は念願であった真っ白な燕岳に会いに行くことが出来ました。やはり北アルプスは雪を纏うとその美しさに一層磨きがかかると感じました。日の出の撮影は残念でしたが美しい初冬の北アルプスの情景を堪能できましたし、より厳しい環境下でのテント泊の経験も出来たので非常に実りの多い山行となりました。

今回の経験を今後の冬季山行に活かしていこうと思います。

 

本山行でお会いし、お話しさせていただいた多くの方に感謝申し上げつつ、そろそろペンを置きたいと思います。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

個人的備忘録

ストックの破損

今回の山行中に今まで愛用していたブラックダイヤモンドのストックが破損しました。先端部分が抜け落ちてしまいました。

ストックが破損…

実はこの破損は以前に一度あって、この先端部分だけ修理してもらいました。しかしまた今回も同様の破損となってしまったので、さすがに買い替え時期かなと思っています。このストックはもう何年も酷使して、私の撮影山行を助けてもらいました。とりあえずは強力な接着剤で応急処置しつつ、新たなストックを物色しようと思っています。

登山に対する体力づくり

実は今年の夏前から冬山登山に向けて筋力トレーニングを中心に体づくりを見直し、体重を7kgほど増やしました。食事はもちろん、筋トレ、サプリメント(プロテイン)などを取り入れ、それまで瘦せ型だった基本的な体形を標準にまで増やしました。

その効果が本山行でいかに影響するか自分でも楽しみでしたが、少なくても今までよりも亀足ながらもまともに登れたように感じました。それに本山行にて今までよりもそれほど過酷な寒さは感じませんでした。これは筋肉量と同様に脂肪もある程度増えて、ハンガーノックになりにくい体、そして寒さからある程度クッションになってくれる脂肪が付いたからではと思っています。

今回の山行のザック(約22kg)

ただ下山後は太腿や脹脛が筋肉痛になってしまって、あまりに登山の間隔が開き過ぎるのも良くないと分かりました。(前回の雲ノ平山行時は25kgを背負い50km弱を歩いたのに不思議と筋肉痛にならなかった)

ひと月に2度くらい山に入っていればさらに楽に撮影山行の荷を担ぎつつ登れると思っています。