フォーカスブリージングについて

CAMERA&LENS

今までこのサイトでは使用しているニコンの純正レンズを私なりに取り上げてきました。レンズレビューといった大層な内容ではありませんし、かなり主観の入った記事でした。さらに私はスチールをメインに撮影している関係から、動画用途としての観点では取り上げていませんでした。最近はスチールだけでなく映像の方も撮影するようになり、スチールでは特段気にしていなかったことも気になり始めました。
それが今回取り上げる『フォーカスブリージング』の問題です。

フォーカスブリージングとは

さて、そもそもフォーカスブリージングとはどのような現象かというと、

『ピントの位置によって焦点距離(実焦点距離)が変化する現象』
と言うことです。

具体的には無限遠にピントを合わせた時よりも、近距離にピントを合わせた時のほうが画角が広くなります。つまり近距離のほうが実焦点距離が短くなるわけです。

主な原因はレンズのフォーカス方式の関係で起きてしまう現象ですが、実はこの現象、スチールではほとんど問題にならないものです。というのも、そもそもスチールでは一瞬を切り取るものなので『時間の経過』が存在しません
対して映像(動画)と言うのは写真のように一瞬のものを切り取るものではなく『時間の経過』を記録することができます
これがスチールと映像の最も大きな違いです。

スチールではほぼ問題にならない

スチール撮影ではたとえピントが合焦したときに実焦点距離(つまり画角)が多少変わったとしても、それに合わせて撮影位置を前後に移動したり、ズームリングを回して自分が撮影したい画角に合わせ直せば解決するものです。

厳密に構図をとりたかったり、画角をきっちり決めて撮りたい風景などでは、ピント合焦後に構図を微調整した後にシャッターを切れば問題ありません。実はこのような関係からスチール用に開発されているレンズの多くは多少なりともこのフォーカスブリージングは存在します。



映像では大きな問題となる

対して映像では『時間の経過』を記録する性質上、このフォーカスブリージングは大きな問題となってしまいます。特にカメラを動かしたり撮影位置を固定しないアクティブな撮影ならそれほどの問題ではないかもしれませんが、FIXでの撮影時ではこの問題は映像品位を損なう原因となってしまいます。

例①

例えばカメラを固定し画角も固定、動く被写体(人物や動物)を像面位相差で追い続ける場面。
最近のミラーレス一眼カメラの性能の進化は目覚ましく、人間の目や動物の目の動きを追従する『瞳AF追従』という撮影まで可能としています。一昔前では『顔認識』という程度でしたが、今では瞳、それも左右どちらの瞳に合わせるかまで任意に選択でき追従可能となっています。

そういった撮影時に撮影対象が前後に動くたびに背景の画角が変わるのは映像的にかなり見辛いものになってしまいます。

例②

カメラを固定して、前後にピント送りを行うような場面。
映像では視聴者の視線誘導を促すために『ピント送り』という撮影方法があります。これもスチールではできない『時間の経過』を表現できる映像ならではの撮影手法の一つです。
このときに、ピントを前後に送っていくに従い画角が変わってしまうのは撮影者の意図ではないはずです。

・ ・ ・

このようにスチールでは問題にならないことでも映像では問題になるケースは結構あります。最近のミラーレス一眼カメラはスチールだけでなく動画性能にも気を配った製品が非常に多くなりました。
やはりその構造上、レフレックス機よりもミラーレス機で映像も撮影したいという層に向けた開発が行われているはずです。

よってそのミラーレス機に装着するレンズもまたフォーカスブリージング問題の対策を施した製品開発が行われているようです。私は映像の専門家ではありませんが、そもそも映像用に特化したシネマレンズと言うのはこのフォーカスブリージングを抑えられたものが多いと聞きます。

フォーカスブリージングの実際

私は主にニコンのカメラとレンズを使用してスチール写真(山岳)を撮影していますが、実際にこれらのレンズのフォーカスブリージングがどれほど現れるものなのか、改めて検証してみました。
ほぼスチールしか撮影してこなかった私自身、最近では映像の方も撮影するようになって初めてこの問題に対峙することになりました。

検証

フォーカスブリージングは映像でこそ問題となるものなので、ここでも映像として検証してみました。

カメラは全てNikon D5での撮影。
今回テストしたレンズは以下の4本。

・AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED

AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED

・AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED(旧製品)

AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED

・AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VRⅡ(旧製品)

AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR Ⅱ

・ZEISS Milvus 2/135 ZF.2

半分がすでに旧製品になっているもので恐縮なのですが、単焦点以外のズームレンズではそれぞれ広角端と望遠端を検証し、すべてFIX固定で手動にてピント送りをしています。(※多少のブレはお許しください)

結果

AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED
1mmの差が大きく左右する超広角ズームレンズにも関わらず広角端・望遠端ともにフォーカスブリージングはかなり抑えられています。スチールだけでなく十分映像でも使っていける、やはり『神レンズ』と言って差し支えない素晴らしいレンズです。

AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED
望遠端においてはフォーカスブリージングは皆無ですが、広角端の24mmではかなりの画角変動を伴います。

AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VRⅡ
望遠端の200mmではかなりの画角変動を伴います。
広角端でもそこそこ画角変動も見られ、今回テストしたレンズの中では最もフォーカスブリージングが顕著にみられました。望遠域のレンズだから、ということも関係しているのでしょうか?

ZEISS Milvus 2/135 ZF.2
特筆すべきはやはりこのMilvusで、その他のレンズがピントが手前に来るほど画角が広がっていきかなりの違和感と気持ち悪さを覚えますが、Milvusだけは反対にピントが手前に来るほど画角が若干狭くなっていくように見えます。これならば自然と視線誘導もピント位置である手前に引き寄せられていくような感覚があり、非常にナチュラルなフォーカス方式であると感じます。

Milvusは昔ながらの全群繰り出し方式によるフォーカシング、NIKKORは高速のAFを優先したインナーフォーカス方式であることが大きな違いを生んでいると思われます。
もともとこのMilvusは天体写真(星野写真)を目的として購入しましたが、映像でもかなりの表現力を持ったレンズということでちょっと『棚ぼた的』でした。

まとめ

非常に簡単ではございますが私が現在所有しているレンズのうち、ニコン純正のf/2.8通しのズームレンズと単焦点レンズのツァイスのMilvusでの比較検証でした。検証にはチャートなどを用意して厳密に行ったほうが良いですが、あえてより実践的なありきたりな風景での検証としました。

やはりこうして改めて見てみるとフォーカスブリージングが顕著に出てしまうレンズでの映像はどこか気持ちの悪さを感じますし、下手をしたら酔ってしまう方もおられるかもしれません。

私自身こうして実際に検証してみるまで、スチールだけでは気付かなかった自分の所有するレンズのさらなる『クセ』を発見できたのは大きいですし、今後のレンズ選択の際のひとつの指標としていきたいと思っています。

ちなみにニコンのZマウントレンズの多くはフォーカスブリージングが抑えられているという評判ですので、機会があったらこのあたりの製品も映像で使ってみたいと思っていますが、本格的にZに移行することになるのはまだ先のようですし、そもそもミラーレスシステムを本格的に導入となればニコン以外も検討したいと思っています。(長年愛用してきたニコンと言えどもマウントが変わることになるので…)