Velbon プレシジョンレベラー

CAMERA&LENS

今回は三脚や雲台、カメラバッグなどを数多く製造・販売している日本の撮影機材メーカーVelbonさんから販売されているプレシジョンレベラーといういわゆる“水平出し”を行うレベラー(レベリングベース)を取り上げます。
水平出しを行う機器は様々な種類が各メーカーから出ていますが、このプレシジョンレベラーという製品もひとつの選択肢と言えますので、導入を検討されている方のご参考になれば幸いです。

目次

  • ネイチャーフォトにおける水平出し
  • 三脚設置時の水平出しの必要性
  • 意外と面倒な三脚の水平出し
  • ネジ(ギア)式とボール式
  • プレシジョンレベラーの利点・欠点
  • (番外)ポータブル赤道儀の微動雲台として
  • まとめ




ネイチャーフォトにおける水平出し

山岳写真や一般的な風景写真などのネイチャー系の撮影はすべて屋外での撮影となるため、三脚設置の際の水平出しというのものにとても苦労します。

とくに山での撮影となりますと三脚を据えるのに適した平坦な場所というのがほとんどありません。しかも撮影対象には建造物などは基本的にありませんので、水平・垂直の目安となるもの、基準となるものが画角に入らないということが前提にあります。

よって建造物が水平・垂直に建てられていると仮定した場合、その建造物にファインダー内に表示される格子枠などを合わせて水平を合わせるということが出来ません。(地平線や水平線が画角に入るのであれば別ですが)

ただ逆に考えますと、水平・垂直を推し量るのものが画角に入らないということはそれほど水平・垂直を厳密に合わせる必要もないとも言えます。しかしながらパノラマ撮影を行いたいときや、どうしても基準となる水平を出さなければならないときなど、ネイチャーフォトでも何らかの水平出しを行う機器が必要となります。

三脚設置時の水平出しの必要性

写真撮影であれば、いわば『ワンショットの静止画』なのでそもそも三脚を水平に設置する必要性は低いかもしれません。1コマごとにカメラに内蔵されている電子水準器やカメラのホットシューに取り付けてある水準器を見ながら雲台で都度水平出しを行ってから撮影すれば事足ります。

しかし動画撮影で頻繁に行われる『パンニング撮影』では三脚をあらかじめ水平に設置していないといけません。三脚レベルで水平が出ていないと、初動時は水平でもパンニングするに従い水平が保てなくなるからです。そのため動画撮影用の三脚には雲台の下にレベラーという水平出しを行う機構が別に用意されていることが多いです。

動画ではなく静止画である写真ならば先述したとおり1コマずつの撮影なので三脚レベルでの水平出しは重要ではないかもしれませんが、以下の理由で私は雲台以前の三脚設置レベルでの水平出しは必要と思っています。

パノラマ撮影

雄大な山並み、延々と続く稜線、など山ではパノラマで撮影したいときが頻繁にあります。

その他にパノラマのような横長の撮影ではなく、中望遠レンズを使って縦位置でそのまま横にずらしながら数枚撮影し、それを後から合成ソフトなどで横位置で3:2の写真のアスペクト比になるように合成して切り出し、広角にも関わらず解像度を飛躍的に高めるというような撮影方法もあります。天体写真でよく使われるモザイク合成を風景写真に流用したような方法です。

モザイク合成
2,000万画素のカメラによる中望遠レンズでの縦位置画像3枚を合成し、横位置3:2で切り出すと重ねしろを考慮しても約5000万画素相当の解像度を得ることができます。(中望遠の焦点距離による高解像度の恩恵とも言えます)

雲台での水平方向の操作の簡略化

三脚を水平に設置できれば、一般的な3WAY雲台での水平合わせのレバー操作は最初の1回だけで済みます。その後、三脚を動かさずに画角の調整やフレーミングの調整、レンズ交換をするのであればもう水平合わせは必要ありません。縦位置に切り替える場合は別ですが、それもアルカスイス互換のL型プレートを使えば解決します(L型プレートの品質にもよりますが)。

撮影中はあれこれとフレーミングやカメラの設定を考えたり変更したりするため結構忙しいものなので、ひとつの項目(この場合なら水平)を排除できれば、より撮影に集中できるものです。

意外と面倒な三脚の水平出し

三脚の水平設置、これはけっこう手間で面倒です。
比較的平坦な場所であればまだ良いですが、山での設置箇所はそもそも選択肢があまり無いような状況も多いです。かなり斜めになっているけどここで撮るしかない、といったように山ではそもそも平坦な場所を選ぶというような概念は通用しません。

三脚に付いている水準器などを見ながら3本の脚の長さをそれぞれ調節して水平を出すわけですが、きっちり合わすにはかなりの慣れと時間を要します。そしてその面倒な作業を三脚の設置のたびに毎回行わなければなりません。

そこで威力を発揮するのがレベラー(レベリングベース)です。

ネジ(ギア)式とボール式

レベラーには大きく分けてネジ(ギア)による調整方式のものと、自由雲台のようなボールによる調整方式のものに分類されます。

ネジ(ギア)式

ネジ(ギア)を回して水平を出すこのタイプにもギアの数によっていくつか種類があります。ギアがひとつだけで1方向のみの調整を行うタイプとギアが3つあって3方向で調整を行うタイプがあります。

Velbonプレシジョンレベラーはギアがひとつのタイプになります。利点としては1方向だけしか動かないのでかえって調整しやすく、ギアなどの部品も少ないので壊れにくい点でしょうか。3方向のタイプは使用したことが無いので使い勝手は分かりませんが、動かせるところが多いということは反面、壊れたりギアのトラブルも3倍になるとも言えます。

ボール式

ボール式は自由雲台のように自由に回して水平をとるタイプです。一見その自由さがいかにも直感的で調整しやすそうに感じますが、最後の追い込みなどを行う際はその自由さが逆に仇となって、ほんの少しの微調整(たとえば仰角方向だけの調整時など)がやりにくいと思います。実際にボール式のレベラーを使ったことが無いので推測でしかありませんが、同様の構造である自由雲台でも同じように感じるところがありますので。



プレシジョンレベラーの利点・欠点

私はこの製品をおよそ3、4年使ってきましたが、使用感も含めてその利点と欠点を簡単にまとめます。

利点

慣れれば簡単に水平出しができる

詳しい使い方はVelbonさんの公式ホームページ『プレシジョンレベラー』を御覧頂くのがよろしいかと思いますが、ざっくり説明しますと、

  1. 大まかに三脚を水平に設置
  2. 台座を回転させて本体にある水準器の気泡を指示線に合わせる
  3. 角度調整ネジを回して気泡が中央の円の中心に来るようにする
  4. 固定ネジを締める

という手順で、慣れると簡単にあわせることが出来ます。ようは台座を回転させて角度調整するだけです。直感的な操作性のボール式より操作行程が多いように感じますが、細かくちょっとずつ動かすよりは一発で水平を合わせられるので私はそれほど苦には感じません。

比較的安価に入手可能

希望小売価格は¥9,600(税抜き)ですが、各通販サイトや量販店ですと実勢価格¥6,000~¥7,000前後(2019年9月現在)と比較的安価に入手できます。少なくともギアが3つのタイプよりはずっと安価です。

軽量

重量は277gとかなり軽いです。この程度の重量ならば雲台の下に取り付けていても三脚全体のトータルの重さ的には持った感じ変わらない印象です。外見的にもコンパクトにまとまっていますし、仰々しさはあまりありません。

しっかりとした作り

質感的にはしっかりとした作りで、重厚感こそありませんが安っぽさはありません。上下それぞれのパンニング機構はトルク感も十分あって、少し硬めに設定されていますがじわっと滑らかに動きます。

欠点

積載重量が少ない

推奨積載重量の3kgというのはこの製品の最も大きな弱点と思います。レベラーは“レベリングベース”というくらい水平をとるだけではなく、その上にある雲台のベース(基礎)でもあります。レベラーの上には雲台、さらにその上にはカメラが載ります。比較的軽量なミラーレスカメラならまだ良いですが、大型の一眼レフ機に重いレンズを付けようものなら雲台もそれなりにしっかりしたものになりますから推奨積載重量オーバーになりかねません。

個人的には水平をしっかりとるような撮影をする方々は大型の機材を使うことが多いと思っているので、あと+2kg、推奨積載重量5kgであれば扱える機材の選択肢も増えて良いと思います。

それと後述しますが、この製品をポータブル赤道儀の微動雲台として使っている方々もいます。私もその一人ですが、そうなるともう完全に推奨積載重量オーバーです。そもそもそういう使い方は想定されてはいないのでしょうけれども、構造上は微動雲台としてとても使い勝手が良いだけに残念な部分です。

しかしながら積載重量を増やすならばおそらく本体の剛性を上げる必要があるため重くなってしまうでしょう。屋外、とくに山岳での使用となると軽量化も考えなくてはならないですし、ひょっとしたらこのくらいの積載能力が最適解なのかも知れません。

目盛の刻みが大まか

上部の回転台座には簡易目盛が付いていますが、この目盛が15°刻みです。個人的には5°刻みであればより使い勝手が良いと思っています。(とくに赤道儀の微動雲台用で扱うときですが)

雲台の取り付けネジが細ネジ(UNC1/4)

日本の三脚メーカーの悪しき伝統なのか分かりませんが、雲台の取り付けネジが相変わらず細ネジ(UNC1/4)です。一般的なカメラが細ネジなのは仕方ありませんが、三脚と雲台の取り付けネジは国内外ですべて太ネジに統一して欲しいものです。剛性は太ネジのほうが上でしょうし。まあ自社の雲台が細ネジですから、この製品もそれに習うしかないのでしょうけれども、海外の雲台の多くはほぼ太ネジです。

太ネジ仕様の雲台との接続には変換アダプターを使うわけですが、雲台を交換したり付け替えたりするときにいちいち変換アダプターをはめたり外したり、ましてやあんな小さなもの、落としたり無くしたりしてしまいます。(私は変換アダプターを付けっぱなしにしています)

ベースの分だけ重心が上がってしまう

これはこういった機器を使う上で仕方が無い部分であって、プレシジョンレベラー固有の欠点ということではないかもしれませんが、やはり重心が上がってしまうのはバランス的に良くありません。

機材の安定度を高めるには低重心を徹底すべきです。幸いベースの分だけアイレベルも上がるので、その分三脚の一番下の細い脚を伸ばさないようにするなど、運用次第では重心問題は解決できる欠点でもあります。

(番外)ポータブル赤道儀の微動雲台として

おそらくメーカー的には想定していない使い方かもしれませんが、この製品をポータブル赤道儀の極軸合わせ用に微動雲台として使っている方も多いかと思います。

私も手持ちのSWAT200の微動雲台としても使用しています。そもそもSWAT200には純正のオプションパーツとしてSWAT専用の微動雲台もありますが、もちろんSWATシリーズにしか使えない代物であることと、広角での星野写真や星景写真においてはそれほど厳密に極軸を合わせる必要性が無いことから、このプレシジョンレベラーを微動雲台として流用しています。

使い方は至って簡単で、赤道儀の回転軸とレベラーの角度調整ネジの方向をともに北極星(天の北極)に向けるように設置し、あとは極軸望遠鏡なりSWAT本体の北極星の覗き穴を見ながら東西(左右のパン)と仰角(角度調整ネジ)を調整するだけです。露出時間にもよりますが広角レンズでの撮影であればこれでじゅうぶん星を点像にすることが出来ます。

ただ先述したとおりこの使用方法ですと推奨積載重量はとうに超えており、これによる不都合や不具合、落下、破損は自己責任となってしまいます。私も撮影しながらそのあたりが気になりますので、今後は望遠や重い機材での撮影では素直に純正の微動雲台を使おうと思っています。

まとめ

本製品について私なりに簡単にまとめてみました。他のネットでの口コミや評価では『がたつく』とか『気泡に問題あり』といった評価が散見されますが、いまのところ私の使っている個体はとくにそういった問題はありません。

まあ個体差がある時点で製品管理としてどうなのかという問題もありますが、ほかに代わりが無いだけに今後も使っていきますが、重量が重くなってもかまわないし価格が上がってもかまわないのでので、もっと積載重量があってがっしりした上位モデルが選択肢としてあってもよいかと思います。

ただかなりニッチな分野だけに、なかなか今後の製品開発には期待できないかもしれませんね。