前回、前々回と北アルプスにあるビギナー向けのテント場と絶景のテント場を紹介してきましたが、今回は全3回の最後となる秘境感を味わえるテント場を紹介します。
秘境編ということでどうしても紹介するテント場へのアクセスは大変になりますが、個人的に北アルプスの数あるキャンプ指定地の中でもっともおすすめしたいテント場でもあります。
この記事をご覧になった方が少しでも多くこの素晴らしい北アルプスの自然に抱かれる経験をされ、より自然を慈しむ方が増えれば幸いと思います。
ビギナー編及び絶景編もあわせてご覧ください。
- はじめに
- 憧れは経験してもなお憧れのまま
- おすすめ①雲ノ平キャンプ場
- おすすめ②五色ヶ原キャンプ場
- おすすめ③黒部五郎小舎テント場
- その他のおすすめテント場と今後行ってみたいテント場
- 最後に
はじめに
北アルプスというとそれこそ全国から多くの登山者が入山し、夏の最盛期は非常に華やかで賑やかな山になります。しかし私はどちらかというと静かな山旅を好むこともあって、今回紹介するテント場が実は北アルプスの数あるテント場の中で個人的にベスト3となります。
もちろん好みは人それぞれ。
これまで紹介したテント場以外にも北アルプスには魅力的なテント場は多いです。
「なんであのテント場を取り上げないんだ?」
と思われる方も多いとは思いますが、初回でも述べた通りどのテント場もあくまで私の独断と偏見にまみれた『おすすめ』になります。
ただ今回紹介する3つのテント場は強くおすすめしたいです。
もしまだ利用したことが無いテント場でしたらぜひ利用してみてください。もちろん登山は自然相手のものなので、天候が悪ければ魅力も半減してしまいますが、それを差し引いてもなお素晴らしいテント場であることは間違いないと思います。
憧れは経験してもなお憧れのまま
今回取り上げる秘境感漂う3ヶ所のテント場のうち、2ヶ所は何回も利用したことがあるテント場です。私はどちらかというといろいろな山を歩くよりも、好きな山域へ何回も歩きに行くタイプです。
おそらくこれは私が山に登る目的というのが山岳写真を撮影するためだからなのかもしれません。
山岳写真は突き詰めていくとあちこちでいろいろな山を撮影するよりも、自分で“ここ”と決めたある撮影地で拘りに拘って撮影したほうが良いものが残せる可能性が高くなる部分があります。とは言え、もちろん山岳写真は自然が相手のものなので、刹那的で偶発的な側面もあります。同じ場所に10回撮影に行ったからと言って、その場所に1回しか撮影に行っていない人よりも美しい写真が撮れるわけでもありません。
それがネイチャーフォトの実に難しいところでもあり、面白いところでもあります。
そういうこともあって憧れの山、憧れの撮影地は何回言っても飽きるということはありません。10回行けば10回とも違う写真が撮れますし、同じ写真と言うのは二度と撮影することが出来ません。
撮影を何回経験してもなお、ずっと憧れのまま。
純粋な登山(山頂に向けて山を登る)だけならば“登頂”というのがひとつのモチベーションでありゴールと言えます。日本百名山完登にこだわる人はそれを100ヶ所、100の山で行うことになります。
しかし山岳写真にはゴールという概念がありません。
だから私は飽きもせず、好きな山域、撮りたい山に何回もチャレンジするのだと思います。
おすすめ①雲ノ平キャンプ場
まず最初に紹介するのは、北アルプスの秘境と言えば『雲ノ平』と言われるほど有名な雲ノ平キャンプ場です。
アクセスの良さ☆☆★★★
ロケーション ☆☆☆☆☆
利便性 ☆☆☆★★
このテント場の一番の売りはやはりその素晴らしいロケーションにあります。
薬師岳、黒部五郎岳、鷲羽岳、水晶岳とまさに北アルプスが誇る名だたる名峰たちに四方を囲まれています。とくに雲ノ平から眺める水晶岳の存在感は圧巻の一言。
溶岩台地によって形成されたその高層湿原には木道が整備され、その木道の脇には高山植物が咲き誇り、展望の良いところには『スイス庭園』や『アラスカ庭園』、『アルプス庭園』といったおしゃれな名前が付けられています。
もちろん北アルプスの最奥地ということでどこを見渡しても山、山、山。
人工物は唯一、雲ノ平山荘くらい。
その雲ノ平山荘もこの美しい雲ノ平の景観を損ねることなく建てられていて、まるで北アルプス巡礼の最終地“約束の地”のような雰囲気があります。
ただテント場はこの雲ノ平山荘からかなり離れています(徒歩で15~20分ほど)。
そのかわりテント場は最低限のものは整備されています。
しっかりした作りのトイレ、常にじゃぶじゃぶと流れている水場(もちろん日によって違うでしょうが)などを考えればテント泊なら十分と言えるでしょう。
テント場自体は結構な広さがありますが、雲ノ平自体が溶岩台地ということもあり動かしようがない大小の石がけっこうあって、その中を縫うようにして幕を張らなければならないので、到着が遅くなると張りやすい場所は意外と少なくなります。
もちろんそういった苦労があるからこそ雲ノ平に惹かれるのかもしれませんし、遠いからこそ憧れの対象なのかもしれません。そのぶん、必然的に濃密な山旅になりますので、一生の山の思い出になることと思います。
素晴らしいアルピニズムを体現した景観と、そこを目指して歩いた自らの汗が余計にこの山域のインパクトを強烈に心に残し続けてくれます。
今まで紹介したテント場も含めてすべてそうですが、ポンプで沢から水を引いている水場でも、必ずしも毎年、毎月、毎日水が豊富に出ているとも限りません。最悪、水が枯れているという状況も考えておいたほうが良いでしょう。事前の情報収集は必要になります。
おすすめ②五色ヶ原キャンプ場
次に紹介するのは立山連峰と薬師岳を結ぶ縦走路に位置する五色ヶ原キャンプ場です。
北アルプス立山|五色ヶ原
アクセスの良さ☆☆☆★★
ロケーション ☆☆☆☆☆
利便性 ☆☆☆★★
五色ヶ原は雲ノ平によく似た高層湿原で、こちらも木道の脇は色とりどりの高山植物が咲き誇っています。花の数や種類は北アルプスでも屈指なのではと感じました。まさに花にまみれた山旅で、テント場自体もお花畑に囲まれているような素晴らしいロケーションです。
テント場からは東~南側は素晴らしい眺望で、存在感ある獅子岳や赤牛岳、烏帽子岳をはじめとした裏銀座の山々など、このキャンプ場も北アルプスの美しい稜線を眺めながらキャンプすることが出来ます。反対側は五色ヶ原山荘への斜面となってい展望はありません。
雲ノ平よりもさらに人も少なく、思う存分その秘境感を味わうことが出来ます。
ただこのキャンプ場も最寄りの五色ヶ原山荘からかなり離れています。ちょっとした買い出しなどはかなり苦労しそうですが、テントの受付に関しては翌日の撤収後でも良いとなっていたりと、このあたりの気遣いは大変助かります。
立山室堂からのアクセスではいくつもの山を越えたり下ったりとそこそこ骨の折れるものです。登山地図などでは室堂からさほどの距離もないように感じますが、実際にはいくつもの山を越えるイメージです。とくに獅子岳から一気に下って、鞍部のザラ峠から五色ヶ原への登り返しには苦労させられました。
この五色ヶ原はスゴ乗越とともに立山と薬師岳の縦走の途中で幕営するというパターンが多く、あまりこの五色ヶ原目的で行かれる方は少ないかもしれませんが、縦走でなくとも個人的には十分楽しめる山旅になると思っています。
おすすめ③黒部五郎小舎テント場
北アルプスの秘境感を感じられるおすすめのテント場、最後にご紹介するのは黒部五郎小舎のテント場です。
北アルプス山小屋|双六小屋・黒部五郎小舎
アクセスの良さ☆☆☆★★
ロケーション ☆☆☆★★
利便性 ☆☆☆☆★
山と山の鞍部ということで正直言ってテント場は特別展望が良いというわけではありませんが、薬師岳が遠く眺められますしテント場からは笠ヶ岳方面の眺望は素晴らしいですが、やはり展望だけで言えば他の稜線にあるテント場のほうが良いと思います。
ただこのテント場及び山小屋の売りは何と言っても黒部五郎カールにほど近いことにあります。黒部五郎カールの景観は本当に美しく清らかで、他のカール(涸沢や千畳敷)とは明らかに違います。とくに早朝のカールの空気感は筆舌に尽くしがたく、雷鳥の鳴き声や野鳥の囀り、風の音、朝日がカールを染める時間帯はとくに素晴らしく、その時間を体験するにはこのテント場しかありません。
私は初めてこの黒部五郎カールを訪れた時からこの美しい景観に魅せられ、それから数年にわたって撮影のため通うようになりました。特に2019年夏、深夜の黒部五郎カールと天の川のコラボレーション撮影からそのままカールで夜を明かしたときの山行は心行くまで北アルプスの大自然を堪能できました。
ただこのテント場を利用する人自体がそれほど多くないこともあって、余程の好天の大型連休でもなければ張れないということは無いでしょう。トイレは小屋裏手の外トイレを利用、水場は小屋前にありじゃぶじゃぶと出ていますのでそれを頂けます。
アクセスはやはりどこから歩いてもテント泊装備ならば2日はかかると思います。
まぁ秘境感を求めるならばどうしても歩く行程が長くなってしまうのは仕方ありませんし、それだからこその秘境感なのですが。
個人的に毎年でも行きたいと思う素晴らしいロケーションのテント場だと思います。
その他のおすすめテント場と今後行ってみたいテント場
今回をもって北アルプスのおすすめのテント場の紹介は最後となりますが、その他のおすすめするテント場とこれから行ってみたいテント場も少し取り上げたいと思います。
針ノ木小屋テント場
蓮華岳と針ノ木岳の間に建つ針ノ木小屋にあるテント場です。
私はこのテント場はそこそこ穴場感があって好みです。
蓮華岳、針ノ木岳と北アルプスのエース級の山々と比べて少しマイナー感があり、人もあまり多くは無く、静かな山旅が好みの方にはおすすめしたいです。
ただそのぶん、テント場自体もそれほど広くはなく、平坦で開放的というよりテント場は急斜面に段状となったところに整備されていて、すこしせせこましい印象があります。
テント場から50分ほどの距離にある針ノ木岳山頂からは立山連峰や剱岳の圧倒的な存在感に目を奪われ、眼下には黒部湖を見下ろすことが出来ます。私自身もまだ1回しかこのテント場を利用したことはありませんが穴場感のあるおすすめのテント場です。
これから行ってみたいテント場
朝日小屋テント場
こちらのテント場は以前から気になっているテント場で、今後ぜひ行ってみたいところです。登山者もかなり少なく静かな山旅が好む私のような登山者にはもってこいのロケーションだと想像されます。
さらに雪倉岳周辺は高山植物の宝庫とも言われているので、花まみれの山歩きが出来そうで一生の思い出になるのでは、と思っています。
笠ヶ岳山荘テント場
未だに未踏の笠ヶ岳。
最寄りの双六方面の分岐でもある弓折岳付近は何回も通っていますが、いまだにその分岐を笠ヶ岳方面へ南下したことがありません。私の場合、山岳写真を撮影しているのでどうしても機材関係も担いでいるため、荷が重くコースタイムが常に押し気味のところがあります。
北アルプスのなかでも有数の重量感ある笠新道に恐れをなして、登るなら鏡平を経由したいのですがそうすると距離を考えると時間的にきつい。鏡平にテント場があればすべて解決するのですが、こればかりはどうしようもありません。
名峰笠ヶ岳に抱かれがら、テントで一夜を明かす。
いつかは行ってみたいテント場です。
最後に
3回にわたって私なりの視点でTPO別におすすめのテント場を紹介しました。
山小屋は夏の最盛期などはかなり混み合いますし、感染症の影響で今後は三密を避けるため山小屋泊からテント泊に切り替えようかと考えている方も多いと思います。ただそうなってくると今度はテント場が逆に混み合ったり、ただでさえ逼迫していると言われている山小屋の経営にも影響が出てくると思います。
山小屋は宿泊客に対応するだけでなく登山道の整備や、自然保護、登山者の救護などもされている、登山には無くてはならない大きな存在です。そんな山小屋の負担を少しでも軽減するため、テント泊客もしっかりとテント場を管理されている小屋の指示に従いキャンプを行う必要があります。
いつまでもこの美しい北アルプスの自然を後世にまで残す義務は、我々登山者ひとりひとりにあります。今後も我々登山者、テント場利用者の高い意識が必要だと思います。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。