天体写真への誘い②(天体写真の基礎)

COLUMN

連載の第2回目は天体写真を撮影するうえで知っておきたいことを取り上げてみました。

(目次)

  • 天体写真の基礎知識
  • 季節的要因
  • 役立つ天文ツール
  • 撮影地の地理的要因
  • 月齢的要因
  • 天体の動き

天体写真の基礎知識

さて、天体写真というのは他のジャンルと違って撮影が非常に特殊になってきます。前項でも述べましたが天体写真はカメラの “オート機能” を使えば誰でも撮れるようなものではないですし、自分の都合に合わせて好きな時に夜空にレンズを向ければ撮れるものでもありません。

まずは撮影する際に必要になる天体の前知識を知っておく必要があります。

季節的要因

風景写真において夏に雪景色が撮れないと同じように、天体写真も夏にオリオン大星雲を撮影することは出来ません。それはつまりオリオン座は夏では昼間に昇っているからです。なのでその季節ごとに撮影できる天体は変わっていきます。

おおまかな一年の流れを見ていきましょう。

1月~2月

この季節は系外銀河の季節と言えます。
この時期から早春にかけておとめ座の銀河団などに代表されるこの系外銀河(我々が住む天の川銀河の外の銀河)を撮影するにはかなりの長焦点が必要になり、天体撮影を始めたばかりの段階だとなかなか美しい写真に仕上げるには機材的にも難しいと言えます。冬の王者オリオンも西に傾いてゆく時期になりますので、撮影するなら1月の新月期が狙い目となるでしょう。

そしてこの時期の夜はかなり冷え込むのであえて撮影を休んでみるのも良いかもしれませんし、早春に向けての準備をしても良いですし、季節柄雪山や雪景色を入れた星景写真撮影なども良いかもしれません。

3月~梅雨前

この季節は星雲や星団を狙う天体撮影においては “お祭り” のような時期です。
3月には早くも東からさそり座が上がってきます。そのさそり座が夏の天の川を引っ張ってくるように煌びやかな夜空が広がります。梅雨に入ってしまうと天体写真はなかなか撮れないのでこの時期に量産したいところです。

・さそり座アンタレスのカラフルな星雲群
・さそり座南部の赤い散光星雲群
・いて座~たて座にかけての星のクラスター(バンビの横顔など)
・M8(干潟星雲)やM20(三裂星雲) 、M16(わし星雲)、M17(オメガ星雲)に代表される赤い星雲群
とくに夏の天の川の中心部付近はかなり明るいので初めての方でもそれほど難しいと感じずに撮影できるおすすめの時期となります。

梅雨明け後~秋

梅雨が明けると夏本番ですが、水蒸気の多い日本の空だとなかなか撮影出来る機会も多くはないかもしれません。その中でも夏の天の川が早い時間から上がってきて天頂にははくちょう座が見えます。

・デネブやサドル周辺の赤い星雲(北アメリカ星雲やペリカン星雲)
・ケフェウス座には “創造の柱” を内包する淡くて巨大なIC1396
・カシオペアの赤い星雲群
・アンドロメダ大銀河

秋~12月

秋になって空気が澄んでくると天体撮影は再び “お祭り” の時期となります。

“すばる” ことおうし座のM45(プレアデス星団)
・五角形が美しいぎょしゃ座の中にはIC405(勾玉星雲)
・冬の王者オリオンにはオリオン大星雲、馬頭星雲、燃える木
・バーナードループ、M78、魔女の横顔
・冬の大三角の中のバラ星雲やかもめ(わし)星雲
と人気対象が目白押しの季節です。

役立つ天文ツール

基本的にはどの季節も天の川に沿って主要な星雲がひしめき合っています。天体がどの季節に、どの方角に、いつ動いているのか、これを把握するのに役立つツールをふたつ紹介します。

①Stellarium

プラネタリウムアプリ『Stellarium』

これは無料で見ることができるオープンソースのプラネタリウムアプリです。基本的にはパソコンにアプリをダウンロードして閲覧しますが、インターネット環境があるならばパソコンでもスマホでもWEB版を見ることもできます。

時間を戻したり進めたりして、撮影する晩に撮影したい対象がどのあたりを、いつ動くのかをシミュレーションできます。さらにディープスカイの星雲などの対象の位置(座標)も確認できますし、無料にしては何かと便利なアプリです。条件によっては自動導入も出来てしまうようです。

初めからあまりお金をかけたくない人はまずこれをオススメします。

②ステラナビゲータ

アストロアーツ『ステラナビゲータ11』

かのアストロアーツ社から販売されている有料の天文用のシミュレーションソフトです。このソフトはさらに踏み込んでカメラやレンズの情報を入力するとそれに合わせた写野が表示され、構図の細かな確認もできます。さらに自動導入可能な望遠鏡ならば、このソフトを接続することで自動導入ができます。有料ですが内容も充実しているので持っていて損はないかと思います。

そのほかにもスマホ用のアプリには有料無料ともに多くのアプリがあり『SkySafari』『SkyWalk』をはじめとして星空をシミュレートできるものがあるので、このようなものを使って撮影計画を立てるだけでも楽しいものですし、それにともない星空の知識も自然と深まっていくと思います。

スマホ用天文アプリ『SkySafari 6 plus』(有料)

撮影地の地理的要因

天体写真を撮影するには暗い場所のほうが適します。このあたりは星景写真を撮っておられる方はとても詳しいでしょう。街のど真ん中で夜空を見上げても星は明るい1等星や2等星くらいしか確認できません。そこで仮に絞り開放で30秒露出したとしたらおそらく撮像は真っ白になっているはずです。天体写真を美しく仕上げるには夜空の暗いところまで行って撮影しなければなりません。
とにかく暗ければ暗いほど良いです。

そしてその撮影地ごとに “どの方角が暗いのか” もある程度知っておいたほうが良いと思います。関東全般でしたらやはり東京方面は明るくなりますし、地方でも大都市の方面は明るいと思います。それがどの方角なのか知っていれば撮影する対象を変えたり、撮影する時間帯を変えたりして、より良い条件で撮影することができます。

戦略

撮影する対象がどのような軌跡を辿って東から西に動いていくか把握していれば前準備として万全だと思います。

この撮影地ならが暗いから南の対象を狙おう
逆にこの撮影地はが暗いから北天の対象を狙おう。
といった撮影する方角の戦略を立てることも可能になります。

この撮影地は東側が暗いから昇り始めた時間帯を狙おう
逆に西側が暗いから沈んで行く時間帯に狙おう。
といったように撮影する時間帯をうまく変えることでより良い条件を選択する工夫も大切です。

もちろん撮りたい対象が南ならば南が暗い撮影地に行くといったように狙う対象によって撮影地を変えるという考え方もできます。星空がどの季節にどのように動き、どの時間にどこにあるのか、というのは基本中の基本ですが撮影においてもとても重要な知識です。

光害

明るいということは天体撮影では害とされていますので『光害(こうがい・ひかりがい)』と言われます。光害的にとても条件の良い撮影地でも、近くに街灯がないことも重要な条件となります。そしてあまり人や車が通らないところが良いです。

とにかく光害による『光害カブリ』は無ければ無いほど良いですが、残念ながらなかなか日本ではそういう場所は少ないのです。

月齢的要因

天体写真を成功させる基本的要因の最後は『お月様』の状態です。
月明りは都市に居ればそれほど感じませんが、街灯などの無い真っ暗な撮影地や山岳地帯などでは本当に明るいと感じるものです。北アルプスなどの3,000mの稜線だと満月の夜なんかはヘッドライトが無くても歩けるくらいに月は明るいです。
その月明りは都市による光害と同様に天体写真では大きな問題になります。

出来ることなら新月の前後数日、または上弦・下弦とも月が上がって来る前や沈んでから撮影するほうが良いです。この月齢は月齢カレンダーを参考にすれば前もって準備することができます。

ナローバンド撮影とは

さて光害や月明かりは天体撮影に悪影響を及ぼしますが、それを避けたとしても撮影に適した日が天気が良いとも限りません。それに現役世代の方々にはもちろんお仕事の関係で、撮影に適した日に撮影に行けないこともあるでしょう。特に晴天率があまり高くないこの日本においては天体撮影というのは非常に撮影するタイミングが少ないジャンルになってしまいます。

そこでよく用いられる撮影法として『ナローバンド撮影』というものがあります。“ナロー” とは “狭い” という意味で “バンド” とは “帯” という意味です。簡単に言うと “狭い帯域の撮影” ということです。

光の波長には様々な波長があります。人間の目に見える波長、逆に目には見えない波長。通常のブロードバンドの撮影では広い帯域の波長を撮影しますが、このナローバンド撮影では特殊なフィルターを使って限られた波長のみを撮影します。

フィルターには様々な種類があり、ナトリウムなどの光害が発する波長だけを通さないものや、ある波長に限定して通すフィルターなどがあります。私も光害に悩まされていた時期はこの中の一つである “光害カットフィルター” に興味があったのですが、それを使用することによる “負” の部分などが気にかかって結局導入はしませんでした。

天文用の特殊なフィルターは高価なものが大半ですし、光害カットフィルターではない本格的なナローバンド撮影は基本的にはモノクロカメラを使用しますので、通常のブロードバンドでの撮影に慣れてきたら導入してみるということで良いと思います。

天体の動き

北極星

天体撮影をするにあたり “天体の動き” というのは把握していなければいけません。先述した通り今はシミュレーションソフトなどで簡単に把握することができます。北半球の日本においては天体は北極星を中心に東から西へ1時間に15°ずつ動いています(日周運動)
この北極星の位置というのがとても大切になります。

“北極星を中心に” と言いましたが、実は正確には『天の北極を中心に』というのが正解です。というのは北極星というのは正真正銘の中心軸である天の北極とわずかなズレがあります。現代における北に見える北極星というのは “便宜上の北極星” で正確には『天の北極に最も近い恒星』ということになります。

撮影地と北極星

天体写真を撮影するにあたりこの天の北極(北極星)はとても重要なものになります。なぜなら天体撮影で使用される架台は “赤道儀” と言い、その回転軸をこの “天の北極” に正確に合わせないといけないためです。これを『極軸合わせ』と言います。

そのため撮影地に行って暗くなったらまずはこの北極星を見つけないと先に進めません。ということは必然的に撮影地は『北極星が見えること』が条件となります。北側が山や森で見えない撮影地はあまりオススメできません。実は北極星が見えない撮影地でも極軸合わせをすることは出来るのですが、天体撮影を始めたばかりの方には難しいものなので最初のうちは北側が開けている撮影地を選ぶと良いでしょう。

北極星の見つけ方

北極星の見つけ方はとても簡単です。
簡単に言うと方位磁石(スマホアプリなどでも)が指す方向を向いて、その土地の緯度(東京都新宿なら35度)の高さを見上げれば見つかるはずです。北極星は2等星で明るい恒星で、幸い北極星の周りにはそれほど明るい星はありませんから簡単に見つけられるはずです。

そのほかに星座の星の並びで見つける方法もあります。以下の画像のように誰にも馴染みのある北斗七星やⅯ字のカシオペアの位置から見つけることもできます。

北斗七星とカシオペアの位置から北極星を見つける

この北斗七星とカシオペアは北極星を挟んで対極に位置するのでどの時間帯でも必ずどちらかは見えているはずですのでオススメの見つけ方です。