2020年10月 上日川峠~雷岩~大菩薩峠周遊
秋色に染まる大菩薩嶺。秋の星空と稜線美、そして初冠雪の富士山を求めて紅葉の奥秩父アーカイブ。
- 明確な山行目的
- 雲上に輝くオリオン
- 清らかなる朝の大菩薩稜線
- 紅葉と雲が織りなす稜線
- 奥秩父の紅葉
- 『タホープロⅡGT』の初陣
明確な山行目的
このサイトでは2019年の立ち上げから現在まで、北アルプスをはじめとして東北や新潟、群馬などの山々を歩いてきた記録を残してきました。そのどれもがその時に撮りたい山、触れたい自然、見たい景色を直感的に選定して歩いてきた撮影山行記録です。
今回は日本百名山のひとつである大菩薩嶺を歩いてきた記録ですが、今回だけは少しばかり選定した理由が今までの山とは異なっています。もちろんこの時期になると山では紅葉が見ごろを迎え、この大菩薩嶺も美しい錦秋に染まり、歩いてみたい山であるのは間違いではないのですが、他にも明確な理由があってこの山を選びました。
奥秩父の紅葉
忘れもしない昨年2019年の秋。
九州地方はもちろん、関西や関東甲信、そして東北と全国的に大きな被害をもたらした度重なる台風。平野部で計り知れない甚大な被害が多くありましたが山間部ももはや登山などと悠長なことは言っていられなくなり、多くの林道が崩壊しその先にある幾多の登山口も登山者を受け入れるような状態ではなくなりました。
それでも何とか松姫峠・鶴寝山でほんの少しだけ秋の山に触れることが出来ましたが、本格的な紅葉は見れずに消化不良で冬を迎えました。今年こそは大好きな奥秩父の紅葉する山を愛でに行きたいと思っていました。
北アルプスや東北、上信越などの山も行きたかったのですが、いろいろと立て込んでいたため比較手軽に行ける山に限られました。この大菩薩嶺は私の中では『困った時の大菩薩』としてお気に入りの山。前回の登山が8月下旬の北穂高岳山行でかなり間が開いたこともあり、体力的にもこの手軽さは助かるものがあります。
オリオン座の南中と富士山
この大菩薩嶺は言わずと知れた富士山の大展望地。
たおやかな稜線から大菩薩湖を眼下に、見事な富士山を撮影することができます。富士山を眺めるならもちろん他にもスポットは多く存在しますが、個人的にはこの稜線からの富士山がとても好きで、特に錦秋に染まる奥秩父の山並みとセットで撮影できるこの時期はとても美しい撮影地となります。
そして秋の丑三つ時を越えるころにはオリオン座が南中しその富士山の上空に輝きます。この稜線で星を見るとなるともちろん日帰り山行ならばナイトハイクになるわけですが、大菩薩嶺は私が山歩きを始めて間もない時からずっとお世話になっている山。もはや何回登ったか数えられないくらい登っているのでナイトハイクでも歩ける山です。
『タホープロ Ⅱ GT 』の試運転
以前このサイトで2020年春にモデルチェンジしたタホーを購入した記事を書きました。購入してからもう2か月弱経っていますが、その間に数回に分けて乾燥させながらワックスをかけたり、防水ジェルやローションなどで使用前の手入れをしていました。
ようやく試運転の準備が整ったということであまりハードではない山、試運転に適した軽めのコースということでこの大菩薩嶺はうってつけでした。この山ならば樹林帯はもちろん林道歩きもあるし、稜線では少しだけ岩場もあるし、試運転にはもってこいの山です。
今回は以上の3つの明確な理由をもって秋色に染まる大菩薩嶺を歩いてきました。
雲上に輝くオリオン
登山口『上日川峠』
今回は時間的な制約などもあり大菩薩嶺にもっとも手軽に登ることができる上日川峠を登山口としました。標高1,500mの上日川峠へ向かう前夜の車中、下界では濃い霧が立ち込めていました。前日の雨からの当日晴れ予報だったこともあり、この気象条件は高確率で雲海が出現すると思われたので期待に胸を膨らませていました。
曲がりくねった細い林道の先にある上日川峠にはまだ車もなく、翌日の深夜2時の登山開始に備えてそうそうに車中泊としました。
ナイトハイクで稜線へ
しかし目覚ましのセットも空しく予定通りの寝坊…。
実際に歩き出したのは3時前となってしまいました。濃い霧が立ち込める薄気味悪い夜の登山道を登って程なく『福ちゃん荘』で、ここから雷岩に直登する唐松尾根に進みました。
その後は本格的な登山道になってきますが、さすがに勝手知ったる大菩薩とは言え悍ましい野生動物の鳴き声を聞きながら一人真っ暗な森を歩くのは少し怖いものがあります。
樹林帯を歩いている間はそれほど寒さも感じていませんでしたが、稜線上の雷岩の直下付近になるとそれまで遮ってくれていた木々もなくなり急に風が出てきて寒さを感じます。
コースタイム通り雷岩には1時間半を要して到達、時刻は4時20分。
秋になり日の出がずいぶん遅くなったとは言え、星を撮るにはギリギリの時間。何はともあれ防寒のためダウンを着込み、機材をセッティングしてオリオンが輝く星空にレンズを向けました。
それにしてもなんと素晴らしい雲海だ…。
残念ながら巨大な富士山は雲隠れを決め込んでいましたが、それでもこの雷岩の眼下に広がる素晴らしい雲海と満天の星空は圧巻の一言。
この時期ともなると2,000mの稜線上は気温0℃で、とくに開けた南側は風もあって体感的には氷点下。撮影中は身体を動かすことも無いのでみるみる寒さがこみ上げてきて、岩陰に逃げ込んで寒さをしのいだ夜でした。
清らかなる朝の大菩薩稜線
しばらく星空の撮影を続けているとまもなく撮った夜空の撮像が青く写ってきます。早くも天文薄明、体感的にはまだまだ “夜” でしたが確実に新しき1日が始まろうとしていました。
雲海広がる奥秩父の山並み、たおやかな大菩薩の稜線。
雲海はまさに生き物のように絶え間なく動いている。
そう、風が動いている。
空が少しずつ白んできても未だに富士山は雲隠れ。あたりは野鳥たちが朝の挨拶を交わしている。この時間がたまらなく美しくて、愛おしい。この愛おしい時間に山に身を置けるのは本当に贅沢だ。でもそれはほんの短い時間で終わってしまう…。
自然の風景というのは儚きものだ。
陽が出て暖かくなる時間帯にはこの稜線は登山者で人だかりになるだろう。今は時折早出の登山者が数人ちらほらと登ってこられる程度。
予定では軽く朝食を食べてすぐに下山する予定でしたが、もう少し粘って富士山が出てくるのを待つことにしました。
紅葉と雲が織りなす稜線
風がしのげそうなところで休憩しているとようやく富士山が顔を覗かせてくれました。眼下には美しい “蒼” を湛える人口湖『大菩薩湖』。その周りの木々は見事に紅葉している。そこにこの日は終始晴れることが無かったガスが絡みついて素晴らしい山岳風景を見せてくれていた。
実はGPV予測では日が少し高くなるころには雲が取れて快晴の予測だった。
たしかにこの日はその予測に裏切られてしまったが、雲一つないド快晴は写真的にはかえって面白くも何ともないだろう。
依然として富士山は出たり隠れたり。
南アルプスも初冠雪した白根三山が時折その輝かしい山並みを見せてくれていた。
それにしてもこの稜線から見下ろす樹林帯のカラマツの紅葉も本当に見事だ…。
この大菩薩の稜線は短いとは言え相変わらず素晴らしい稜線歩きになります。介山の著で有名な『大菩薩峠』までゆっくりと、のんびりと下ってちょうど峠に着く頃にはかなりの賑わいでした。
介山荘からから聞こえる発電機の『ブーン』という音も聞きなれて、もはやどこか懐かしさすら感じるようになってしまった。
奥秩父の紅葉
私の中では紅葉と言ったら東北。
北アルプスや上信越などもとても美しい紅葉が見れますが、東北の紅葉は色づきがほんとうに鮮やかで見事な紅葉を目の当たりにすることができます。
しかし今秋は何かと立て込んでいて紅葉シーズンに東北へ遠征する時間が取れませんでした。そんな年はいつも私は手軽に美しい紅葉を目にすることができる奥秩父へ足が向きます。
奥秩父の山はどちらかというと派手さがなく苔の匂いのするいわゆる “通好み” な山域。
八ヶ岳にほど近い西端の金峰山あたりは少しアルペン的要素がありますが、いわゆる『奥秩父主脈縦走路』と言われるあたりは本当に渋好みな山で、登山者もそれほど多くなくのんびりと歩ける牧歌的な雰囲気に溢れています。実はこの山域は紅葉も “渋好み” で派手派手な紅葉こそありませんがそれでも美しい情景を目にすることができます。
大菩薩連嶺はその奥秩父主脈縦走路とは少し離れていますが、この辺りもまた奥秩父の代表的な『牧歌的な雰囲気』を持つ稜線。日本百名山でもある大菩薩嶺はたしかに山頂から大菩薩峠あたりまでは好天の週末なんかは登山者で溢れかえりますが、この大菩薩峠からさらに南下する縦走路は筆者おススメのコース。
大菩薩峠から先の石丸峠、小金沢山、そして牛奥ノ雁ヶ腹摺山へと続く牧歌的な尾根は奥秩父然とした静かで『緑と土の匂いのする』ような渋好みの登山道。
残念ながら今回は時間的な都合でそちら方面へは歩けませんでしたが、また機会を作って味わってみたいと思っています。大菩薩峠から『福ちゃん荘』への下山路もところどころ紅葉も見事で、足を止めてレンズを向けたくなる被写体に溢れていました。
紅葉する森はコゲラやヒガラも多く、登山者の目を楽しませてくれていました。
『タホープロ Ⅱ GT』の初陣
今回の短い山行の目的の一つであった『タホープロⅡ』の試し履き。
実は以前、私にとってはじめてのLOWAの登山靴『タホープロGT WXL』を購入して最初の試し履きで低山を歩いた時、足首が痛くなってしまいかなり辛かった経験があります。
このタホーは比較的軽量とは言えアッパーは一枚革のヌバックレザー。下ろしたての革の靴はやはり硬くて、革の登山靴に免疫のなかった当時の私にはきついものがありました。
しかしそれも何回か低山を歩いているうちに靴自体が柔らかくなったのか、私の足が革の靴に慣れたのか、痛みは無くなってどんどん自分の足にフィットしていくかのような感覚を覚え、今では手放せない『登山の相棒』となっていきました。
果たして今回購入した新しいタホーはどうなのか。今回無理せずにショートコースにしたのも時間的な制約もありましたが、この新しい相棒の履き慣らしの “不安さ” もあったからでした。
しかし蓋を開けてみればこの日の8㎞弱の山行においては全く問題なかったですし、真新しい登山靴なのにもうかなり履きこなしたかのようなフィット感には正直びっくりしました。
どうやら思うに、10年近く前に初めて初代タホーを履いた時とは私自身の “歩き方” が変わったのだと思います。この10年で私はアッパーの固いハイカットの革製の登山靴を履いて歩く “コツ” のようなものを自然と身につけたのではないかと。具体的には足の上げ方や地面に足を着けるときの角度、ひざや足首の使い方、そういった “足さばき” が自然と身に付いたのだと思います。
実際に今まで履いてきたタホーは真新しいタホーⅡに比べてやはり明らかに柔らかくなっているし、Ⅱになったとはいえ同じモデルの固い新靴を履いても全く足首が痛くならなかったわけですから。
もうこの日の一回でこのタホープロⅡの試し履き、慣らし運転は終了。
季節的にもう冬靴の出番となってきますが、これからこの新しい相棒にはガンガン働いてもらうつもりです。そしてこれで何の不安もなく今までの相棒の初代タホーは即3回目のソール張替え行き決定です。