名峰を結ぶ南岳と天狗池が誘うもうひとつの世界

PHOTO TOUR

2019年9月 上高地~槍沢~氷河公園~南岳

山岳リゾート上高地を起点に、槍沢ルートで氷河公園から南岳に至るアーカイブ。美しき天狗池、そして槍ヶ岳や穂高連峰の絶景を求めて北アの穴場とも言える南岳へ。

(目次)

  • 槍でもなく、穂高でもなく、南岳という選択
  • 山岳リゾート、上高地
  • 奥上高地自然探勝路
  • 槍沢ロッジとババ平槍沢キャンプ場
  • いざ、天狗原に
  • 南岳稜線と南岳小屋
  • 眼前に迫る穂高連峰
  • 槍ヶ岳モルゲンロート
  • Magic World




槍でもなく、穂高でもなく、南岳という選択

槍ヶ岳と穂高連峰

山歩きや登山をするものにとって北アルプスは『永遠なる憧れ』と感じている人も多いと思います。世間一般的にはやはり山といったらまず富士山かもしれません。日本一標高が高く、日本一知名度も高いだけに。しかし誤解を恐れずに言うならば、山を楽しんでいらっしゃる方ならきっと富士山よりも北アルプスに対する憧れのほうが大きいのではないでしょうか。

その中でもやはり槍ヶ岳と穂高連峰は1位と2位を争うようなとても人気のある山です。どこから見てもそれと分かる鋭鋒槍ヶ岳は、いわば『優美なる北アルプスのお城』。ゴツゴツとした重厚感のある岩山の穂高連峰は、いわば『北アルプスの難攻不落の要塞』といったところでしょうか。

南岳の魅力

そんな北アルプスのツートップとも言える槍ヶ岳と穂高連峰に挟まれているのが南岳です。“挟まれている”ということは槍ヶ岳の眺望も、穂高連峰の眺望も、両方楽しむことが出来るということです。

南岳は特徴的な山容ではないですし位置的にどうしても槍から穂高、または穂高から槍への縦走路の中間地点となるため、“南岳単体”としてはなかなかクローズアップされにくいですが、『南岳を目指す』というのもなかなか楽しめる登山となります。

そして何より今回の槍沢ルートでは90%近くの登山者が槍ヶ岳を目指すため、途中の分岐(天狗原分岐)からはとても静かな山歩きを楽しむことが出来ます。

氷河公園

本ルートのもうひとつのハイライトは氷河公園とも称される天狗原。そこでひっそりと登山者を待つ天狗池は残雪の多い年なら9月以降でないと出現しないとも言われる山上池。そこに映る槍ヶ岳はもうひとつの世界への誘いとも思える美しさ。

静寂と神秘の天狗池…。大人気の槍ヶ岳登山のメインルートから少し外れるだけで味わえる至高の贅沢。

槍ヶ岳も素晴らしい、穂高連峰ももちろん素晴らしい。

でもその両方に挟まれた南岳もやはり魅力たっぷりなわけです。

山岳リゾート、上高地

日本において最も有名な山岳リゾート上高地は、誰でも気軽に北アルプスの魅力、高山の魅力に触れることが出来ます。そして登山者にとっては槍穂登山の玄関口でもあります。

焼岳の噴火によって形成された大正池や田代湿原、槍ヶ岳を水源とする美しき清流梓川。見上げれば緑と岩のコントラストが素晴らしい穂高連峰。四季折々楽しめる動植物たち。森の中でひっそりと佇む小梨平キャンプ場。

槍ヶ岳や穂高岳、蝶ヶ岳、霞沢岳などの登山の起点として、ただ通過するにはもったいないほどの多くの魅力が詰まっています。

朝靄に煙る河童橋と美しい穂高連峰

日程的に余裕があればそれこそ2、3日は滞在したい上高地ですが、それはまた次の機会とし、今回は朝の北アルプスの清らかな空気をこの上高地で吸うのみにして先を急ぐことにしました。

奥上高地自然探勝路

上高地バスターミナルからは梓川沿いに奥上高地自然探勝路が伸びています。砕いて言うといわば整備された林道歩きなのですが、これがかなりの長さがあります。

バスターミナル~明神~徳沢~横尾とそれぞれ約1時間、合計3時間ほどの林道歩きとなります。もちろん上高地周辺のみの散策であればとても楽しめる区間です。

前穂高岳の前衛的存在の明神岳や美しき明神池、井上靖の山岳小説『氷壁』の舞台となっている徳沢、ひっそりと来訪者を待つ古池。と、時間があればいくらでもレンズを向けていたい被写体が満載ですが、ここもやはりグッと抑えて先に進みます。

以前、穂高岳などに登ったときは上高地やこの奥上高地自然探勝路などでも写真を撮っていたのですが、そうするとどうしても時間的に後で苦しくなってきて痛い目に合った事が何回かありましたので、最近はすべてを撮ろうとはせずにある程度撮影対象を絞るようにしています。見るものすべて美しいわけですが、それらすべてを撮っていたらそれこそきりがありません。



槍沢ロッジとババ平槍沢キャンプ地

横尾にて穂高岳組と槍ヶ岳組に分かれて、いよいよ本格的な登山道が始まるという感じです。とはいっても依然としてほぼフラットな登山道で上高地からほとんど標高は獲得できません。

途中、一ノ俣谷と二ノ俣谷にかかる橋を渡るとようやく登りが始まりますが、程なくして槍沢ロッジが見えてきます。

槍沢ロッジ

槍ヶ岳登山のベース的存在の槍沢ロッジは槍沢沿いの森にひっそりと佇む山小屋です。私は泊まったことはないですが雰囲気もよく、機会があればぜひ泊まってみたい山小屋です。

キャンプ地はここからさらに登山道を15~20分ほど登ったところにあるので、テント泊の場合はこの山小屋で先に受付を済ませたほうが良いです。

槍沢キャンプ地(ババ平)

私は槍沢を登るときはここ、ババ平でいつもテントを張ります。健脚の方なら(テント装備でも)一日で殺生ヒュッテや槍ヶ岳山荘まで上がってしまいますが、私はババ平までで精一杯です。ただ決して健脚ではない私でもさすがに昼頃着いてしまいますので、結構手持ち無沙汰感があります。

テント場はそれほど広くはありません。沢の方へ降りたところもテント場になっていますが、今回は増水の影響で沢の方は張らないようにと槍沢ロッジで説明を受けました。

テント場の状況
その年や、同じ年でも月によって状況は変化していますので、槍沢ロッジで張れる箇所をしっかり確認したほうが良いです。
トイレは何年か前に新しく立て替えられていてとても綺麗に整備されていますし、水はもちろん沢沿いのキャンプ地なので豊富です。小屋が隣接していない野営地なだけに、当たり前ですが必要最低限のものはきちんと整備されているという印象です。

周りの方々に伺うと、ここババ平にテントを2日間張って、2日目にサブザックで槍ヶ岳や南岳をまわってテントに戻り、3日目に撤収&下山する予定でいる方が多い印象でした。確かにピークハントだけでしたらそれでも良いですが、朝夕の美しい稜線での風景が見れなくなってしまうので一長一短のように思います。テント場自体が沢にあって展望がなく美しい景色が見られないということで余計にそう思ってしまいます。

いざ、天狗原に

翌朝、いつものように夜明け前に撤収作業を始めて、5時過ぎに天狗原に向けて出発します。

登山道はわかりやすく、単純に槍沢の左岸を登って行くだけです。この日は天気は上々で、朝の光が槍沢を包みます。昨日から延々と流れる沢を駆ける水のサウンドに、野鳥の囀りが加わり、朝の北アルプスの美しい風景が広がります。

野鳥の囀りとともに槍沢に朝の陽光が差し込む

天狗原分岐まではテント泊と小屋泊の方々が入り乱れて登っていきますが、天狗原分岐を天狗原方面に進むと本当に静かな登山道となります。

分岐を過ぎれば鋭鋒槍ヶ岳も姿を現し、清らかな朝の空気とともに絶景が広がってきます。

分岐を過ぎれば槍ヶ岳も顔を覗かせる

天狗池が誘うもうひとつの世界

登山者がめっきり減った天狗原分岐から3,40分、ひっそりと佇む美しき天狗池に到達します。

ひっそりと佇む美しき天狗池

朝の清々しい空気と静寂に包まれた天狗池。

清らかな池にはもうひとつの槍ヶ岳が美しく、

まるで池の中にもうひとつの世界が存在するような、

神秘的で、

透明感溢れる世界で…。

天狗池がもうひとつの世界の扉を開く

一日中、ずっと見ていられるような。

 

登山は決してピークを目指すだけじゃない…、

 

鏡に映る美しい山岳風景を眺めながら、

改めてそう思います。

天狗原から稜線へ

美しき天狗原から先は一転、徐々に岩場も増し、横尾尾根のコルまで来るとついに穂高連峰、北穂高岳の荒々しい東稜、北壁が姿を現します。その圧倒的な存在感はまさに北アルプスの要塞といった感じで、荘厳で、人を寄せ付けないような存在感があります。

横尾尾根のコルからは北穂高岳の東稜、北壁の眺めが圧巻

横尾尾根のコルから先は完全に岩山と化し、慎重に進まないと身の危険も感じるような高度感があります。山をやっているのに高所恐怖症ということもあって、いつまでたってもこの『落ちたらヤバイ感』には慣れません。

振り返ると大天井岳や燕岳、常念岳など表銀座の山々が見事。

とくに稜線に上がる最後のクサリやハシゴは短い区間ではありますが嫌な汗をかきます。過去、剱岳や槍ヶ岳、奥穂高岳ではそれこそ荷物をデポしてある程度空荷に近い感じで登ったのでまだ体力的にも気持ち的にも楽でしたが、今回のような機材やテント泊フル装備を担いでのクサリやハシゴは、一瞬一瞬気が抜けません。

ストックはザックの横にしまい、岩場の基本姿勢『三点支持』で登っていきます。(こういった箇所は登りよりも下りのほうが何倍も怖いですが)

美しいピラミタブルの常念岳。鞍部には常念小屋も見える。

そんな緊張感も最後のヤセ尾根を登れば消えていき、稜線に無事上がれば見える笠ヶ岳や双六岳方面の素晴らしい眺望に癒され、達成感や安堵感に包まれます。

稜線からは笠ヶ岳の眺めが素晴らしい。




南岳稜線と南岳小屋

南岳へは稜線に出てからおよそ10~15分ほどなだらかな登山道を槍ヶ岳を背に登っていきます。この稜線からの眺望はたいへん素晴らしく、中岳や大喰岳を隔てて鋭鋒槍ヶ岳が聳え、西側には先月歩いた小池新道、鏡平から弓折乗越への登山道から双六岳まで見渡せます。

稜線から槍ヶ岳を望む。

清涼感たっぷりの稜線の風を受けながら南岳山頂まで来れば今度は南側の展望が開け、南岳小屋とともに岩の要塞と化した穂高連峰が見えてきます。穂高連峰を間近で眺めるといつもその重厚感に圧倒されます。

南岳小屋

山頂から南へ少し下ったところに建てられた南岳小屋は、立地的にまさに穂高岳の目の前。絶壁の北穂をはじめとして、重厚感のある穂高岳を撮影するには最高の場所です。上高地から見上げる穂高岳は吊尾根が美しく、重厚というよりは流麗といった雰囲気ですが、ゴツゴツした岩稜帯の塊という穂高岳を撮影するなら断然南岳のほうが良いです。

南岳小屋と岩稜帯が圧巻の穂高連峰。

昼ごろ小屋に着きましたが登山客もまだ少なく、テント場にはまだ一張りもテントが張られていませんでした。テントの受付をするも、多くのテン場ではたいてい領収書なりテントに付けるよう受付済みのタグやビニール紐などを渡されますが、ここは特に何もありません。幕営料(1,000円)を払って『好きなところに張ってください』的なゆる~い感じがまた好きです。

混み合う山小屋とは違い、登山者はもちろんスタッフの方々もどこかしらゆっくり時間が過ぎているような、とても良い時間の流れを感じます。ゆったりとした雰囲気や最高のロケーション、テントの張りやすさ、そして“穴場感”など個人的にはとても好きな場所です。

ささやかな軽量化

私は撮影で山に入ることがほとんどで、さらにテント泊ということでどうしても荷が重くなってしまいます。少しでも軽量化しようと工夫していますが、食事において昼食は山小屋で頂くようにしています。連泊するような場合、昼食分を担がなくなるだけでもかなりの軽量化になりますし、ましては毎回ラーメンやらアルファ米では飽きてしまいますので。

今回、南岳小屋ではうどんとおでんを頂き、失ったカロリーを充填しました。下界では特に変哲もない食事ですが、やはり山ではこういった温かい食べ物がとてもありがたく感じます。疲れた体に栄養分が染み渡るのを感じます。

眼前に迫る穂高連峰

この南岳、もちろん山頂は山頂で素晴らしい眺望ですが、何といってもここの最高のビューポイントは有名な『獅子鼻展望台』でしょう。眼前に迫る絶壁の北穂北壁や、えげつない大キレットの切れ込み、天候によってはガスが奥穂やジャンダルムにかかり、荘厳なる穂高連峰を眺めることが出来ます。

ただこの『獅子鼻展望台』はひとり、良くても二人くらいで眺めるくらいの狭いスペースですので、あまりこういうところで三脚を広げて陣取るのは好きではありません。私は今回、『獅子鼻展望台』のお隣、常念平と呼ばれるところから夕刻の穂高連峰を撮影しました。こちらのほうがより大キレットの切れ込みが良く見えます。

ガス纏う大キレット縦走路。

夕刻、沈みゆく夕日に照らされ、穂高連峰はアーベントロートを迎えます。雲海の一部がガスとなり、時折穂高の岩峰にかかり様々な表情を見せてくれます。

ガスと圧巻の岩稜帯、そしてその岩稜帯が作り出す岩陰の陰影。それらが美しく混ざり合い、穂高連峰の人知を超えた彫刻作品は夕日という天然のスポットライトを浴びます。

国内最高峰の岩稜山塊、穂高連峰。夕刻の斜陽を受け、岩と影が織り成すハーモニーが美しい。

 

穂高の眼前、この時に、ここに立っていられる幸福。

まさに山をやっていて至福の瞬間。

 

美しさを感じ、

晩夏の夕暮れ、すこし肌寒さを感じ。

『Transcendence 3,190』

 

ここまでの長い道のりを思い、

いつものように『来て良かった…』。

 

日没後、笠ヶ岳方面は猛烈な夕焼けに。

 

その後、日が沈んだ後も笠ヶ岳方面はワインレッドに染まり、長い長い一日が終わりました。

槍ヶ岳モルゲンロート

夜明け前、オリオンが東の空に昇り始めたころ、満天の星空の下、そそくさと撤収作業を始めました。槍ヶ岳のモルゲンロートを撮影することもそうですが、今回2日間で登ってきた道を1日で下りなければなりません。

しかも今回は『上高地』があるので最終バスの時間(16時)に間に合うように下山しないといけませんから、結構タイトなスケジュールとなります。

モルゲンロートは南岳から少し槍ヶ岳側へ下ったところから狙いました。染まり方はまずまずと言ったところでしたが、やはり出来ることならもう1日稜線に滞在したかったというのが本音。

槍ヶ岳モルゲンロート

 

山岳写真は撮影技術や撮影機材、経験といったことも重要ですが、それよりも『その瞬間、その場所に』立てるかが大切になってきます。大切であり、実はそれが一番難しかったりするわけですが、逆説的に言うと『その瞬間、その場所に』立つことが出来れば撮れるのもまた山岳写真の大きな魅力。

 

『きっと、また来よう…』

 

赤く染まる槍ヶ岳や笠ヶ岳をファインダー越しに見ながらいつもそう思うのです。

Magic World

 

『Magic World』

 

この世界は真実?

鏡の中こそ真実?

 

水面に映る美しい風景、

現世が変われば、鏡の世界もまた変わる。

 

未来への遺産、

残すべき美しい自然、

現世が美しければ鏡の向こうもまた美しい。

 

の鏡を覗いてごらん?

そこに映る心は美しいかい?

 

この世界は、鏡の世界。

鏡の世界は、魔法の世界。

 

Masterheart / Sep.2019 at Tenguike “in the mirror”