2026年5月 春の天体写真遠征(さそり座のアンタレス付近ほか)

DIARY

はじめに

先月にあたる2026年5月、週跨ぎを含む計3夜にわたって天体撮影に行ってきました。昨年2025年8月の天城高原への遠征以来、天候不順や多忙という理由に天文活動はほぼ開店休業状態でしたが、備忘録的に残した前回の記事のとおり水面下では着々と次の撮影遠征に向けて準備だけはしていました。具体的な準備の内容はその記事 (『備忘録:天文活動あれこれ』) をご覧いただければ幸いですが、ざっくり言うと鏡筒やカメラ、架台というメインどころの変更はせずに撮影の効率化を図ったり、反射望遠鏡の光軸調整の追い込み、そして主鏡保持のための爪を隠す絞り環を作成したという内容でした。

備忘録:天文活動あれこれ (撮影の効率化と『ε-130D』の絞り環作成)

3月と4月に実際に撮影現場にてテスト撮影をしながら春から初夏にかけての対象が本格的に上ってくるこの5月に向けて万全の態勢で臨めるようにしていました。

新たな撮影地

春から初夏にかけて、いよいよ待ちに待った煌びやかな星々とともに鮮やかな星雲群も上がってきます。とくにさそり座のアンタレス付近は全天一カラフルな星域と言われ、天体写真ファンには大人気の対象であり、私も過去何度も撮影してきました。

しかし我が日本では残念ながらさそり座は南の低空を高度も上げずにそのまま西へ傾いて行ってしまうため天頂に輝く対象に比べて露光時間をかけられませんし、夏至間近のため薄明開始時刻も冬に比べれば圧倒的に早い時期になります。しかもアンタレス周辺の星雲群は淡いこともあって南方面の低空まで暗い撮影地で撮りたい対象の筆頭です。そのため今までは天城高原や遠く東北まで遠征して撮影してきましたが、たまたま準備期間中に群馬でテスト撮影していた際にご一緒した天文ファンの方に長野県にある八千穂高原を勧めていただきました。調べてみると甲府が南方面にはありますが、標高は栃木県奥日光の戦場ヶ原よりもさらに高い1,700mもあり、そのメリットはかなり大きいのではと思いました。関東からも比較的行きやすい地域で、特に高速のICからも近いということでアクセスの良さもあり、今後とくに夏場の気温が高い時期はメインの撮影地にしたいくらい素晴らしい撮影地です。天体撮影を快く受け入れてくださる環境づくりもたいへん嬉しく、有難く使わさせていただきました。この場を借りて関係各位の皆様には感謝いたします。

八千穂高原で迎える夜明け

八千穂高原というと八ヶ岳連峰の麓、美しいシラカバやシラビソの森が広がり、そして日本有数の苔森で有名な白駒池にも近いことで山に登る私にとっても身近に感じます。手前味噌ですが、以前YouTubeに投稿した雨の苔森のロケ地こそその白駒池なのです。

ということで4月の新月期にて天文仲間の“しょきさん”を誘って初めて八千穂高原に天体遠征してみました。この日は残念ながら途中から曇られてしまい、ほとんど撮影できずテスト撮影くらいしか出来ませんでしたが、全天にわたり暗い撮影地で透明度の高さを感じました。ただ南方面に関しては単純な暗さだけを比較するならやはり天城高原のほうが上回っていると感じました。反面とくに明るい方角というものもなく、関東甲信地方のなかでは全天にわたって撮影に適した星空の聖地と言えると思います。

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Rho Ophiuchi Cloud Complex

徹底的にアンタレス付近を

さて今年に入ってからの準備期間、じゃあ実際に本番となる春から初夏にかけては何を撮ろうかと考えていたわけですが、今までまともに露光をかけられなかった『さそり座アンタレス付近』を徹底的に撮ってみようと思いました。以前まだニコンのサンニッパで撮っていた時に、天城高原で2夜連荘でアンタレス付近を撮影したことがありました。その時に感じたのは、当たり前ですが1晩で撮ったものよりも2晩で撮ったものをブレンドしたもののほうが圧倒的な画質の差があるということ。いわゆる“露出は正義”というものですが、このような淡い天体はそれを痛烈に感じました。

そこで今回の遠征では準備期間を経て撮影の効率化もされたことから、徹底的にそのアンタレス付近を撮ってみようと週を跨いで、さらに撮影地も跨いで計3晩にわたり撮影しました。その露光したなかから良像であるコマをスタックし最終的には180秒×135枚(計6時間45分)の作品を仕上げました。私自身1対象にこれだけの露光をかけたことがなかったですから、当然いままでで最も滑らかな天体作品となりました。

『Rho Ophiuchi Cloud Complex』

撮影&処理データ
TAKAHASHI ε-130D
Canon EOS 6D(SEO-SP5)
Vixen SXD2
SVBONY SV165
QHYCCD QHY5L-ⅡM
ZWO Electronic Automatic Focuser
RStacker (ダーク減算&フラット補正)
Astro Arts Stellaimage 9 (スタック、カブリ補正&デジタル現像)
ADOBE Photoshop CC (仕上げ)
180秒×135枚(6時間45分) ISO1600
Dark 40、Flat 240、Flatdark 66 (それぞれ3晩分の合計)
2026年5月 八千穂高原、天城高原

作為意図

今回の実際の露光の内訳ですが、

①180秒×39枚(八千穂高原Day1)
②180秒×27枚(八千穂高原Day2)
③180秒×69枚(天城高原)
となります。
ただ私の経験則ですが、どうも天城高原で撮った夜は透明度が万全ではなかったように感じました。今年の5月の新月期付近は幸いにも3月や4月の天候不順がウソのように晴天に恵まれ、連日にわたり晴れたことから透明度が次第に悪くなってしまったのかと思います。週を跨ぐさいに週中あたりで雨でも降ってくれれば良かったですが、さすがにそれは高望み過ぎかなとも思うくらい5月の新月期は天候に恵まれました。多くの天文ファンにとって5月は良い新月期になりましたね。

もちろんこれだけの露光をかけたのでもっと強調しても破綻の無い画像を保持できるようにも思いますし、もっと言えば過去にこれよりも短時間で撮ったものを本作品よりも強調したこともありました。しかし私自身が一般写真や山の写真なんかにも最近感じていることですが、鑑賞者に対してあっと言わせてやろうとか、すごい!と言わせたいみたいなことをまったく思わなくなったということです。(逆に言えば以前はそのようなことを多少ならずとも考えていた節はありました)

確かに本作品はインパクトはないかもしれませんし、もっと淡い部分が出ている作品も多くあると思いますし、そのようなものが今のトレンドであることも重々理解しています。どちらかと言うと今回私は輝度よりも色をしっかりと乗せようという明確な意図で軟調気味に仕上げました。今はこのような作風が自分らしくて良いかなと思います。もちろん微妙なカラーバランスの片寄りはあるかもしれませんが、そもそも鑑賞写真に正解というものもあってないようなものですから、あまり目くじらを立てて調整するよりもそのときの“勢い”みたいなものを重視して処理を進めました。



M8M20

こちらも春から初夏にかけての大人気な対象です。
淡いアンタレス付近に比べたらたいへん明るいメジャー対象になりますが、この対象も毎年撮っても飽きない実に美しい対象だと思います。通称 “猫の手” と呼ばれる赤い星雲を入れれば『ε-130D』の430mmという焦点距離にベストマッチする構図になりますが、そろそろ各星雲をもっとクローズアップして撮ってみたいですね。
総露光わずか45分の作品ですが、このサイズ感で鑑賞するならじゅうぶんな露光にも感じました。もちろん明るい鏡筒であることも大きいかもしれません。それに古い6Dでもまだまだこれだけ美しい画像を残すことができます。この作品はフラットがしっかり合ってくれて、処理していてもかなり楽でした。

『M8 M20』

撮影&処理データ
TAKAHASHI ε-130D
Canon EOS 6D(SEO-SP5)
Vixen SXD2
SVBONY SV165
QHYCCD QHY5L-ⅡM
ZWO Electronic Automatic Focuser
RStacker (ダーク減算&フラット補正)
Astro Arts Stellaimage 9 (スタック、カブリ補正&デジタル現像)
ADOBE Photoshop CC (仕上げ)
180秒×15枚(45分) ISO1600
Dark 8、Flat 64、Flatdark 17
2026年5月 八千穂高原

『M20 (三裂星雲)』は比較的小さな星雲ですが細かい構造や色が複雑に絡み合って見応えがありますから、いずれ換算1,000mm以上の画角で撮影してみたいものです。『M8 (干潟星雲)』ももっとクローズアップで撮影するなら中心部の飽和を抑えるために多段階露光を交えながらじっくり撮影してみたいです。

こちらはそもそも明るい対象ですから画像処理も30分ほどでスピーディに仕上げました。今は星雲や淡い部分のコントラストよりも、とにかく星を埋没させない、星を美しく保持することを大前提で仕上げることを心がけています。

GFXによる1億画素の天の川星野

最近はイプシロン光学系に魅了されてしまい、カメラレンズでの天体撮影はほとんどやらなくなりました。たまに夏になると北アルプス登山において広角レンズを使った山岳星景を撮ったりはしますが、ポータブル赤道儀を使ったカメラレンズによる星野写真はまったく撮らなくなりました。ただ今回の3夜目となる天城高原での撮影はアンタレスのみ1点集中であったことから、さすがに手持ち無沙汰だったこともあって久しぶりにポタ赤『SWAT200』を引っ張り出して撮ってみました。

カメラはFUJIFILMのラージフォーマットセンサー(約44×33mm)を搭載した1億200万画素である『GFX100Ⅱ』で、レンズは『FUJINON GF63mm F2.8 R WR』(35mm判換算約50mm)を装着しました。開放F2.8のレンズですが、F3.2に絞ってもコマ収差の良化がそれほどなかったので、そのまま開放で撮りました。極軸微動装置として使ってきたベルボンのプレジションレベラーを忘れてしまって極軸を追い込めなかったので短時間露光になってしまいました。本来なら感度を落として露光時間を2分ないし4分で撮りたかったところです。

『Galactic Bulge』

撮影&処理データ
FUJIFILM GFX 100Ⅱ
FUJINON GF63mm F2.8 R WR
SWAT200
60秒×10枚 ISO2500(F2.8)
SI9 (スタック)
PSCC (画像処理)
2026年5月 天城高原

カメラはもちろん天体改造をしていないノーマル機ですが、フジのカメラは無改造でも赤い星雲が比較的よく写ってくれます。ちなみにGFXシリーズは同社のXシリーズの多くに採用されている特徴的なカラーフィルター配列である『X-trance CMOS』ではなく通常のベイヤー配列のCMOSを採用しています。手持ちの天文用の画像処理ソフトがことごとく対応していないためダーク減算やフラット補正などしていません。DNGに変換すれば処理出来かもしれませんが、そもそもカメラレンズによる天の川写真に私自身が興味が薄れているので、画像処理自体が面倒くさくて仕方ありません。名玉と言われる『GF110mm (35mm判換算約87mm)』や『GF500mm (35mm判換算約400mm)』を持っているなら星野写真にももう少し力を入れると思いますが、まァ今後もそれらを使うことはないでしょう。

その他テスト的に撮影したもの(M13)

5月は3夜にわたって遠征しましたが、メイン対象が上って来るまでの前半は系外銀河や球状星団を撮ってみました。その中でもしっかりめに露光をかけたのはヘルクルス座にある『M13』という球状星団。北天で見える一番大きな球状星団と言われていますが、430mmではまだまだ小さくて迫力やチリチリ感が表現できませんね。

『M13 The Great Globular Cluster in Hercules』

『M81M82』もそうでしたが、系外銀河や球状星団は星雲とは違う画像処理テクニックが必要になるなと感じましたので、まだこの辺りも経験不足でした。1,000mm近辺で撮れるようになったら銀河も今後どんどん撮ってみたいと思います。

遠征で感じたこと(備忘録)

撮影について

まずもって天体撮影専用のソフトウェアの導入に伴い撮影が一気に楽になったと言いますか、まさに宇宙の微弱な光を効率的にセンサーに叩き込むことができるようになったと感じました。プレートソルビングがその恩恵の大部分ですが、そのほかZWO社『EAF』によるオートフォーカスや画像の確認も含めて、そのすべてが今回の露光に繋がっていると感じました。

個人的に懸念事項であった子午線越えの撮影についても3夜目にしてようやく克服できました。いままでは子午線反転させて撮っていましたが、光軸の状態が反転の際に変わったり、構図がズレたりして継続撮影してもうまくいませんでした。ビクセンのスターブックワイヤレスだと初期設定が子午線を越えたら事故防止のため追尾の強制停止になりますが、アプリのほうでそれを変更すれば撮影ソフト上でも子午線を越えても追尾し続けることが分かりました。もちろん筒が三脚に干渉する、しないはしっかりと自己責任的に撮影中に常に監視する必要がありますが、3夜目にアンタレス付近を3時間以上撮れたのはこの子午線対応 (いわゆるイナバウアー) ができたからです。この設定を透明度の良かった八千穂高原の2夜目 (子午線越えで撮影停止した) もできていたら合計8時間を超えるさらに良質な画像を得られたはずで、ここだけが今回の遠征の心残りになりました。

『ε-130D』の写りについて

準備期間に光軸調整を追い込んだり、主鏡抑えの爪を覆う絞り環を作成して回折対策をしたりしましたが、実は期待したような結果が得られませんでした。光軸調整に関しては純正のセンタリングアイピースとセンタリングチューブを使用して行っていますが、私の調整がまだまだ未熟なのか、もっと高精度に調整できるようにも思えます。光軸を追い込むサポート機器もいくつか出ていますからそれらを併用してみるかを検討しています。

撮像を拡大して見てみると星の位置によってヒゲのようなものの出方が均等ではないようにも思えますし、絞り環をインストールしたときにネジを強く締めて主鏡を圧迫してしまっているのかもしれません。屈折式の望遠鏡よりも反射式の望遠鏡の方が個人的に好きなので、こればかりはずっと向き合っていかなくてはならないことではありますが。

一期一会?

ここ最近、撮影遠征では先述のとおり天文仲間である “しょきさん” とご一緒することが多いですが、天文趣味の世界は広いようで実は狭いのか、たびたび撮影地でお会いする方々が増えてきました。直近では4月と5月に八千穂高原でお会いした、4台とか5台体制で撮影されている方で通称 “ランサーさん” 。(私はご一緒した天文屋さんを忘れないように自分の中で特徴を紐づけて勝手に愛称を付けさせていただいています笑)
実はこの方とは昨年11月の戦場ヶ原でもお会いしていました。

八千穂高原の翌日である3夜目の天城高原では昨年2025年5月に同じ天城でご一緒した方で通称 “横浜の自作名人さん” と偶然ご一緒しました。あと最近はお会いしていませんが、以前は遠征地ではめったに見ないタカハシの『TOA150』で撮影されていた方とも天城高原や朝霧アリーナでお会いしたことがありました。

このような天文屋さんとはもちろんご一緒する予定を立てているわけではないですが、それなのにたびたびご一緒するというのはなにか縁があるというか、そういうものを感じます。一期一会とはよく言ったものですが、今後は撮影も大切ですがそのような方々との出会いや、そしてもちろん星空との出会いも大切にしていきたいと感じました。撮影だけに集中してしまうと肝心の美しい星空というものを味合う余裕もなくなってしまいがちですが、今後は眼視観望も含めてこのあたりも楽しんでいきたいと考えています。

 

今回の記事は以上になります。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
どうぞ良い天文ライフを。