去る2024年2月23~25日の3日間にかけて東京都は吉祥寺にありますギャラリー「GALLERY IRO」様にて “SKYART EXHIBITION Transcendence Of Nature 2024 Early” と銘打って開催された写真展『北アルプス須臾邂逅、巡る光』ですが、先般無事終了いたしましたことをここにご報告いたします。
残念ながら今一つパッとしない生憎の天気となった3日間でしたが、そんな足元の悪い中でも本展示会にご来場いただいた皆々様、誠にありがとうございました。
SKYART EXHIBITION 2024|GALLERY IRO
事の始まり
この写真展以前からプリントを通して自らの写真表現と真摯に向き合ってきたつもりでしたが、数年前に例の某流行り風邪が世間を賑わせ気楽に撮影に行けなくなったことで、さらにのめり込むようにプリントというものに深く関わってきました。それはたびたび私が呼称しているマリアナ海溝のような深い深い言わば “プリント海溝” への旅路のように感じていました。ただそれまでその行為はあくまで実に個人的で内向的な行為であって、決してその作品を公的に披露するためという前提ではありませんでした。
そんな折、私の友人でのちに本写真展を支えてくれることになる写真家でありカメラマンの大西慧氏の2023年1月開催の初個展『logos』へ伺い「私にもこんな素敵な写真展ができるだろうか…」と、今まで消極的であった展示に関して徐々に意識し始めたことが事の発端であったと今では振り返ることが出来ます。
制作活動に没入
それまでは撮影と並行してとくに締め切りなど無いプリント制作をだらだらと続けてきたわけでしたが、写真展の具体的な会期を設定したことで今までとは違い「終わらせなければならない」というプレッシャーと闘いながら制作に没入していきました。
そもそも私は写真展開催が明確に決定する以前の2022年の夏から秋にかけて本格的に撮影活動よりも制作活動に重きを置きはじめていましたが、会期が決まってからはほとんど撮影へ行かず、自宅に籠ってプリント制作に没入していきました。
軌道修正
当初は “北アルプスを巡る光” をテーマに展示作品をセレクトし、特に私が北アルプスに魅了された頃からずっと私の心を掴んで離さなかった憧れの山であった “槍ヶ岳” を中心に据えたセレクトとなりました。しかし会期の3~4ヶ月前あたりからその槍ヶ岳のみにスポットを当てた写真展を今回とは別でやっても面白いのではないかというアイデアが浮かび、当初予定していた展示内容から槍ヶ岳の作品をすべて除外し、再び写真を選定し直すことになりました。
それからはさらに私の写真活動のすべてをその差し替えた写真の現像・レタッチ、プリントへと費やすこととなり、もはや世捨て人、隠遁者のような状態となりました。
押さえることが出来ない創作衝動
その前から作品制作自体は撮影と同じくらい好きで、常にプリント制作を意識していましたが、決定した写真展に向けてどんどん新たなアイデアが沸き上がり、展示するプリントだけでなくその新しいアイデアも具現化したくなりました。
そのひとつがフォトブック制作でした。
さらにせっかく制作するのならば単なる写真集・作品集のようなものは作りたくなくて、私の写真活動の根底にある自然哲学(と言ったら聞こえは良いが)や表現方法、思想などのコラムを盛り込んだこの写真展のための図録のようなものを作ったらおもしろそうだと考え始めました。
そこからはプリント制作と並行して執筆活動も急ピッチで進め、最終的には作品解説を含め55,000字を超えるボリュームとなり、自家製本の厚み限界の関係から一部を削除して完成に至りました。
写真展で確かめたかった事
実はこの写真展を開催する目的のひとつとして、どうしても確かめたかったことがありました。
それが写真の額装方法についてです。
私はもともと絵画が好きで、とくにレンブラントやフェルメール、ターナーなどを嗜好し、彼らの作品が展示されるような絵画展にはよく足を運んでいました。そこで目にすることが出来るのは素晴らしい彼らの作品とともに、それを引き立たせている美しい額装でした。
このような額装を写真展でもやってみたらどうか、そう考え始めたのは絵画の影響を大きく受けている私にとっては必然のように感じました。しかし一般的な写真展の額装と言ったらごくシンプルで、主張しない額装がほとんどなのが現状です。
作家さんによっては額装を嫌い、パネル加工で展示される場合も多いくらいです。
もちろん中には、
― 写真額は主張が強いのは良くない、
― あくまで写真を見せたいのだから額装はシンプルにすべきだ、
― 額を見せたいわけではないだろう?
といった考えが写真業界では一般的であろうことは私も重々理解していました。
しかし私はそこをあえて “額装込みの作品” という表現方法、見せ方に挑戦してみたくなりました。果たしてこのような装飾性の強い写真の額装は受け入れられるのだろうか?
私はこの写真展の会期中、足を運んでくださった来場者様に対して写真用のシンプルな額装と、写真に合わせて私がセレクトした特別感のある額装と、どちらが好みであるかをお一人お一人に直接お聞きすると決めていました。
このような額装はくどくはないだろうか?
そもそも写真と額装がマッチしているだろうか?
その結果ですが、驚いたことにほぼすべての方々がこのような特別感のある額装のほうが良いというご意見でした。
もちろん、今回の来場者様の中には普段写真をまったく撮らない、山にも登らない方も多くいらっしゃいました。そして私のような無名作家が写真展を開催しても、いわゆる著名な写真家の方々やその筋の関係各位の方々は足を運んでいただけないのは承知していました。
しかし私にとってどのような立場の方々であっても、そのご意見の大きさ、重さは同じものと考えています。とても貴重な “生の声” をお聞きすることが出来たのは、このような催しを開催したからだと改めて思いましたし、同時に大きな手ごたえも感じました。
新しい試み
もうひとつ、この写真展でやってみたかったことは私以外の方が撮影した写真データをお借りして、私が現像およびレタッチ、プリント出力した作品を展示することでした。
自らが開催する個展において他人様が撮影した写真を展示するなど、もはや正気の沙汰ではないことは私にも分かりました。しかしこれはまったく新しい個展の試みとして、まだ誰もやったことが無いエキサイティングな展示になるのではないかと思ってチャレンジすることにしました。
もちろんそれまで他人様の写真を手掛けることなどやったことがないことでしたし、私のそれまでの経験と知識、技術をフル動員してプリント作品化しました。結果、私にとってはとても貴重な経験になりましたし、新たな自信を得ることも出来ました。
(もちろん撮影者ご本人様たちの本心は私には推し量ることは出来ませんが…)
このような機会を与えてくれた写真提供者であるまさ太郎さん、Daikiさんにはこの場を借りて感謝申し上げます。
所感
今回の展示は私の個展というよりは “北アルプス展” として開催いたしました。
それは私が撮影した、プリントした作品は私が一から作り上げたものではないという思想を持っているためです。それは北アルプスの美しい大自然が私に撮影するチャンスを与えてくれたものに過ぎず、私はある意味その大自然からのメッセージの通訳者に過ぎないとの思いがあるからです。
ですから今回の展示作品をご覧になった方々が「私も北アルプスの山々に登ってみたい!」と思ってくれたのでしたら、もう手放しで大成功と言えます。しかし現実は期待や想像とかけ離れることはよくあることで、残念ながら来場者数ということであれば決して満足のいく結果ではありませんでした。それでも少ないながらもこの私のプリント作品を観てそんなふうに思ってい頂いた方々がいらっしゃったならば、私がその方々の人生に何かしら影響を与え、大きく転換させたことにもなり得ることです。
この写真展を開催したことで様々な犠牲を払いましたが、何ものにも代えがたい大きな経験として今後私の中で新しい芽を生み出すことでしょう。
今後の課題
展示会の課題
今回の展示に向けた制作工程やその制作物、そして来場者様から頂いた貴重なご意見や好意的なご感想を考えると、自らに対し一定の評価を与えても良いかと思いますが、先述の通りやはりもう少し多くの方々に観ていただきたかったというのが本音です。もちろんこればかりは私の実力不足、努力不足による部分も多く、反省しなければならないところがあります。
わざわざ私の展示のために貴重な時間を作っていただいて足を運んでくださる方々というのは、やはり普段からこのような催しに積極的に出掛ける方々であると改めて認識させられました。つまり希薄になりがちなネット上だけの繋がりよりも、自らの足で各ギャラリーを廻って案内状を置かせてもらって多くの方々に認知していただくほうが、このネット時代においても最優先で考えるべきプロモーション方法であるということです。
幸い今回は友人に大きな助けを頂いて多くの案内状を配布することができ、それを見て足を運んでいただいた方々も多かったので、今後もしこのような催しを行うときは可能な限りもっと自らの足を使っていきたいと思います。
プリント作品の課題
今回の展示作品のすべては、現段階の私の “限界点” と言えるものと自信を持って展示させていただきました。しかし中には作品制作を終えてからすでに数ヶ月を経過している作品もあり、実はこれを執筆している今では「もっともっと先がある」と思っていますし、それは具体的なビジョンを持って私の中で沸々と煮えたぎるものがあります。
それはアートプリントそのものの技術や技法、方法論もさることながら撮影方法や、もっと言えば撮影テーマにも及んでいます。以前にも記事にしたことがありますが、今回のようなキャッチーで言わば絵柄的なインパクトを追い求めた山岳写真よりも、自然の絶え間ない生命感であるとか、生の伝達、循環などもっと普遍的な『生命の美』というものを積極的に撮影していきたいと思っています。
最後に
このような貴重な場を貸していただいた吉祥寺のギャラリー「GALLERY IRO」様およびスタッフの方々、
貴重な写真を提供していただいたまさ太郎さん、Daikiさん、
そして展示初心者であった私に様々な知識とアドバイスを与えていただいただけでなく、都内の各ギャラリー様への案内状の配布、まさ太郎さんとともに雨の中の搬入や設営設置、2日間の在廊、そして撤収まで手厚いサポートを快く引き受けていただいた写真家大西慧氏に、この場を借りて深くお礼申し上げます。
ありがとうございました。
またいつか、このような催しが出来ることを願って、ペンを置くことにいたします。
2024年2月末日 Tenma