2022年9月 美濃戸口~赤岳鉱泉~硫黄岳~横岳~行者小屋~美濃戸口
夏の終焉、いよいよ秋へと突入する稜々たる八ヶ岳連峰へ1泊2日のテント泊山行へ。八ヶ岳山麓が誇る美しい苔森、心地よく響く沢の流れ、そして八ヶ岳主稜線の猛々しい尾根。
晩夏を謳歌する八ヶ岳連峰を満喫する2日間。
- 八ヶ岳連峰
- 今回のコース
- 美濃戸口から北沢を経て赤岳鉱泉へ
- 雨の初日
- 2日目は快晴スタート!
- 横岳岩稜尾根
- 行者小屋から南沢へ
- 山行記録まとめ
- 『深山幻想~Deep Forest Fantasia~』
八ヶ岳連峰
八ヶ岳連峰は北アルプスや南アルプス、中央アルプスなどの日本アルプスと並んで日本のアルピニズムの中心的存在です。長野県と山梨県に跨り、北は諏訪富士として知られる蓼科山から南は編笠山や西岳まで、2,000mを軽く超える山々が連なる一大山岳地帯。
一般的には夏沢峠を境に北部は北八ヶ岳、南部は南八ヶ岳と区分されています。
北八ヶ岳はシラビソやコメツガ、シラカバ、ブナなどの樹林帯が広範囲に広がり、なにより深い苔森が美しい山域で、自然美の魅力にあふれています。
南八ヶ岳は主峰赤岳(2,899m)が聳え、阿弥陀岳や横岳といった岩稜帯の急峻な山々が実にアルペン的な山容を見せています。
私自身、前回この八ヶ岳エリアを歩いたのは2019年の冬季の北横岳でした。
その際に撮影した映像クリップを収録した小作品がYouTubeにて公開されていますので、そちらもご覧いただけると幸いです。
この時は赤岳、阿弥陀岳からの眺望を楽しみました。
今回のコース
今回は実に久しぶりの南八ヶ岳エリアと言うことで、日帰りでなくテント泊で1泊2日という日程で歩きました。今まで南八ヶ岳テント泊では常に行者小屋のテント場を利用させていただいていたこともあり、赤岳鉱泉で幕を張ったことが無かったので今回は赤岳鉱泉でテント泊としました。
テント泊山行自体もずいぶんと久しぶりだったので、コース的にはのんびりするなら赤岳鉱泉から硫黄岳ピストン。体力的に問題無さそうならそのまま稜線を歩いて、地蔵ノ頭から地蔵尾根を下って行者小屋を経て南沢で下山するという予定としました。
結果的にはここのところの体力づくりが上手くいったようで、赤岳鉱泉でテントを撤収してそのまま稜線を歩くコースとなりました。
距離的には20kmほどで、累積標高は約1,600mというコースとなります。
美濃戸口から北沢を経て赤岳鉱泉へ
美濃戸口
八ヶ岳山荘の駐車場に着いたのは4時ころで、車内で軽く仮眠を摂ったのちに支度をして6時に美濃戸口を歩き始めました。
天候は曇りで、残念ながら午後から雨と言う予報でしたが、翌日の晴れ予報に期待。気温は18℃ほどで、さすがにすでに標高1,500mもあり残暑の “ざ” の字も無く快適に歩き始められました。
夏の猛暑がまるで嘘のようです。
個人的には暑いのが苦手なのでこれからは積極的に山に足が向き始める季節到来といったところ。
美濃戸口の登山者用駐車場は八ヶ岳山荘さんが管理していらっしゃいます。もちろん24時間入庫可能で山荘内のチップ制トイレもいつでも利用でき、さらに24時間入れるフリースペースもあり特に雨天時などはとても助かります。バス停もあり公共機関を利用した登山の強い味方でもあります。
駐車料金は早出の場合は下山後に支払うことももちろん可能で、駐車券はそのままコーヒー1杯分のチケットとして使えるサービスがあります。
駐車料金:普通車800円 バス2000円
詳しくは赤岳天望荘グループHPを参照ください。
⇒赤岳天望荘グループ
美しい北沢の流れ
美濃戸口から美濃戸までは林道を45分ほど歩くことになりますが準備運動には良いですし、なによりこの区間の林道を2駆の自家用車で上がる勇気がいつもありません。美濃戸のいくつかある駐車場も朝早いこともあってまだまだ余裕があるようでした。午後から雨ということもあってか、人気エリアで賑やかなイメージのある八ヶ岳にしては登山者も閑散としていて空いている印象でした。
美濃戸山荘付近にある北沢と南沢の分岐から、今回は赤岳鉱泉に向けて北沢コースを歩きます。北沢コースは分岐を過ぎてもそのまましばらくは林道が続きますが、両脇の樹林帯がとても素晴らしい景観で『日本一美しい林道』とも思えるくらいに緑がとても素敵。
この山行中に終始たくさん見ることが出来たミヤマトリカブトがこのあたりからすでに多くて、花の時期を外していることもあってとても目立つため目を楽しませてくれました。
南沢はどちらかと言うと “涸れ沢” のイメージですが、ここ北沢は水量が豊富で瑞々しい登山道という印象。沢の猛々しい音を聞きながら目まぐるしく変わる登山道の景色は歩いていて飽きることがありません。
雨の初日
赤岳鉱泉にてテント泊
何回か橋を渡って沢を渡渉したあたりから小雨になって来てしまいましたが、これがまた適度な湿度感を演出していて一層緑の美しさに磨きをかけているようでした。このような美しい苔森には小雨が良く似合い、むしろ撮影にはもってこいのように感じます。
もちろん晴れていたほうが歩くのは楽ですし、わざわざレインウェアやザックカバーを使用するのも億劫ですが、このような樹林帯は決して雨も悪くはありません。
ほぼコースタイム通り、AM 9:30に赤岳鉱泉に到着。
気温は15℃ほどで、さすがに2,200mを超えてくるとこの時期でもかなり涼しい。暑がりの私にはちょうど良い、過ごしやすい気温でした。
この涼しさもあってか、はたまた前回の日光白根山登山の際にわざわざテント泊装備でボッカトレしていたこともあってか、ここまで体力的にはかなり余裕がありました。
しばし小屋前で休息したのち断続的に小雨降りしきる中、まだガラガラのテント場にてテントの設営にかかりました。しかしちょうどテントを立て終えた瞬間に本降りの雨に。
そこから夕方にかけて断続的に雨は降り続けました…。
予約は基本不要で、幕営料金は2,000円/1名1泊。
テント受付はAM11:00からと言うことで、早着の場合は好きなところに先に張ってしまっても良いとのこと。テント場はかなり広くて、雨と言うことで林間部にも張られていた方々も多かったです。
残念ながら電波は繋がりませんでした(docomo)。
テント泊でも予約さえすれば食事が可能で、温泉も時間を区切って入浴可能です。
水場および外トイレあり。
ペグは刺さりやすく、比較的平坦で張りやすい立地。
テント場からは横岳の眺望が良い。
詳しくは赤岳鉱泉・行者小屋公式HPにて。
⇒赤岳鉱泉・行者小屋公式HP
テント泊用の火器類
いままで私は日帰り山行はもちろん、テント泊山行の際に使用していたメインの火器はガスでした。好んで使用していたのは登山やアウトドアではもはや定番と言っていいいプリムス『P-153』というシングルバーナーで、登山でこれを使われている方はかなり多いのではないでしょうか?
ただ私の個体はもう何年も酷使してきたためか、着火装置が壊れてしまって火をつける際はライターやマッチ、ファイヤースチール(メタルマッチ)等で点火していました。修理に出しても良かったのですが、試してみたいバーナーがあったので新しいものを購入しました。
それはこちらも今や定番となっているSOTO『ウィンドマスター』というシングルバーナー。これは実はずいぶん前に購入していたもので、なかなか外に持ち出して使う機会が無かったのですが今回ようやく日の目を見ました。
使用感は上々で『P-153』よりも燃焼音が非常に静かな印象でした。風にも強い構造(燃焼部分がすり鉢状)になっていますので、風の強い稜線のテント場では心強いかと思います。今後はこの『ウィンドマスター』を火器類の中心に据えていこうと思います。
この『ウィンドマスター』のサブとして今回はトランギアのアルコールバーナーを使いました。アルコールバーナーはコンパクトで軽量なので日帰り山行時でも非常用として常に携行しているのですが、テント泊では火を二口使い時のひとつとして役に立ちます。
さらにソロキャンプ界隈では昔からアルコールバーナーとの定番の組み合わせとなっているバーゴ『チタンヘキサゴンウッドストーブ』を五徳兼風防として使用しています。コーヒーを飲む程度であればガスではなくこのアルコールストーブを使用することも多いです。
雨後の夕方
雨のテント泊では何もすることがなく、ただただ明日のために体を休めるだけでしたが、夕方になるとようやく雨はあがってくれました。雨の中を登って来られた登山客もしだいに増えてきて、テント場も少しずつ八ヶ岳らしく活気づいてきました。
テント場から小屋の上を見上げると横岳の岩峰群の象徴、大同心や小同心の迫力ある姿もガスの中から見えだしました。西に傾きつつある陽の光をほんの少し受けたり、またガスに隠れたりと、まるでかくれんぼしているよう。何度見上げてもこの立派な岩峰群は見応えがあります。
天気が良ければここからほど近い中山展望台にて屏風のように広がる横岳岩峰群のアーベントロートを撮影したいところでしたが、それはまた次の機会に。
夕食はささっと終わらせて、明日のために早めに休息としました。
2日目は快晴スタート!
八ヶ岳主稜線へ
翌朝の起床は夜明け前の午前4時。
風も無く気温は10℃で、とても過ごしやすい朝を迎えました。
空を見上げると東の夜空に雲の切れ目からオリオン座が昇って来ていました。
「もうそんな季節か…、今日はいい天気になりそうだ。」
山でのテント泊は特にこういった時間帯の、新たな1日の始まりを強く肌で感じられます。
軽い朝食後にテントを撤収し、5時過ぎに予定通りまずは赤岩ノ頭へ向かいます。
前日のお昼過ぎから首(頸椎)に痛みがあって、テント泊装備で険しい稜線を歩くのは厳しいかもしれないと思っていましたが、もしダメそうならやはり硫黄岳のみに登って下山することも考えていました。
ますはジョウゴ沢の猛々しい流れを越えてジグザグの九十九折の登山道を登って行きます。木々の間から南側には朝日を浴びる阿弥陀岳の雄姿が、西側には遠く雲海も見えてその朝の山の空気に元気をもらいながらの樹林帯の登り。
登山マップなどでは赤岳鉱泉から赤岩ノ頭までコースタイム1:50となっていますが、撮影しながらのスローペースな私でも1:10で稜線(赤岩ノ頭)に出ることが出来ました。
昨日の雨天が嘘のようにこの日の早朝は快晴で、さらに八ヶ岳にしては珍しく無風。稜線から見える横岳から赤岳、阿弥陀岳のゴツゴツした尾根が実に美しい。
特に朝の陽光を浴びる阿弥陀岳の存在感は主峰赤岳をも退くほどの迫力、存在感を感じました。
西には穂高連峰~槍ヶ岳、後立山連峰をはじめとした屏風のように連なる北アルプス連峰もズラリと見えて、最高のスタートとなりました。
硫黄岳の爆裂火口
赤岩ノ頭から硫黄岳への登りは眺めの良いまさに空中散歩。
南八ヶ岳の絶景を振り返りながら、清々しくも美しい朝の稜線の空気に包まれながら登って行きます。硫黄岳には30分ほどを要し、しばしザックを置いて硫黄岳の迫力ある爆裂火口を覗き込みます。
北には東西の天狗岳や蓼科山も美しい山容を見せてくれていまいた。
硫黄岳山頂からは眼下に見える硫黄山荘に向けていったん緩やかに下り、いよいよここから本コースの核心部へ突入します。
横岳岩稜尾根
険しい横岳山頂 “奥ノ院”
大同心や小同心といった岩峰群を従えるその頂へはかなりの高度感を伴ったコースで、クサリやハシゴはもちろん、切れ落ちた尾根をゆくので基本の三点支持で、足だけでなく体全体を駆使して登って行きます。
さらに前日が雨だったこともあり岩面がウェットで滑りやすく余計に気を使いましたし、ただでさえこのような岩稜帯は個人的に苦手でして、加えてテント泊装備と言うことでそのあたりも厄介でした。
ストックやカメラもザックに格納して慎重に横岳山頂である奥ノ院を目指しました。
山頂(2,829m)に着くころには完全にガスってしまい、残念ながら360°の眺望を楽しむことは出来ませんでした。八ヶ岳の主稜線は阿弥陀岳や赤岳も含めて何回も歩いていますが、いつもガスってしまう…。
どうも八ヶ岳とは相性が悪いようです。
続く難所から地蔵尾根へ
奥ノ院を過ぎても横岳の稜線はまだまだ気が抜けない箇所が多く、クサリやハシゴが続きます。ガスも時折切れてくれたりして、その迫力ある岩稜帯の岩肌が露わになります。と思いきや、またすぐにガスに覆われて真っ白になったりを繰り返していました。
その目まぐるしい様はまさに何度も白い大蛇が岩壁を喰らいついているように見えました。
稜線からも雲の切れ間から下界を見下ろせたり、目まぐるしい天候の変わり目を楽しむように歩けました。
地蔵ノ頭へ下る最後の岩場、石尊峰の急降下をこなせばようやく一安心。地蔵ノ頭で小休止して、行者小屋に向けて地蔵尾根を下りていきます。
行者小屋から南沢へ
行者小屋
行者小屋は南八ヶ岳縦走や、主稜線周回の際の基地として赤岳鉱泉とともに多くの登山者に利用されています。稜線から見下ろすこのふたつの小屋が南八ヶ岳の “箱庭的” な雰囲気を醸し出しています。今回は赤岳鉱泉で幕営となりましたが、今まで幾度となくこの行者小屋のテント場は利用させていただいています。この小屋から見上げる横岳の荒々しい尾根もとても迫力があります。
ここまで下って来るとさすがに安堵感に満たされ、あとは南沢を下るだけなので気分的にはかなり楽になりました。
小屋のテラスで最後の休憩を入れた後は、いよいよ南沢へと下って行きます。
南沢の美しい苔森
今回のコース設定ではこの南沢が下山ルートとなりますが、この南沢も北沢に負けず劣らず素晴らしい八ヶ岳の自然を満喫できる登山道です。実際に歩いてみると北沢とはまた一味違う魅力に気づかされます。
雨天であったこともありましたが、北沢はどちらかと言うと沢のダイナミックな流れを感じながら。
対し南沢は静寂な美しい苔森を両脇に見ながら歩くといった雰囲気。
さらにこの南沢コースの下部には可愛らしい『ホテイラン』の自生地があります。残念ながら花期は5~6月と言うことで今回は出会うことが出来ませんでしたが、凛とした非常に小ぶりの蘭で、また花の季節に会いに行きたいと思っています。
ラン科のホテイラン属の多年草。
唇弁がふっくらしており、その様が七福神の “布袋様” に似ていることから『布袋蘭』という和名が付けられた。
基本種はヒメホテイランで、分類上ホテイランはその変種とされています。
環境省レッドリスト、絶滅危惧種に指定されています。
山行記録まとめ
南沢の登山口から林道に出ると、あとは前日歩いた美濃戸口までの林道をトボトボと40分ほど歩いて、14時ころ無事に駐車場まで戻って来れました。久しぶりの1泊2日のテント泊山行と言うことでかなり疲れました。とくにこのコース設定だと2日目がそこそこの距離となりますし、とくに主稜線の険しい尾根もあって、かなり歩きごたえがあります。
もちろん健脚な方であれば地蔵尾根で下るのではなくて、そのまま赤岳まで回って急こう配の文三郎尾根を下って南沢で下山するというコース設定もじゅうぶん可能かと思います。
八ヶ岳登山に関しては個人的に実はそれほど強い思い入れはなくて、北アルプスの数日にわたる山行前のトレーニング目的であったり、美しい苔森に癒されたいときなんかに訪れる程度でした。北アルプスほど長大な山域ではないですが、とくに南八ヶ岳のコンパクトで魅力がグッとつまった箱庭的な印象は北アルプスよりももっと気軽に訪れることが出来る雰囲気に溢れていると個人的に思っています。
1日目は天気が思わしくありませんでしたが、そんな天候でも抱擁感あふれる美しい自然に包まれていて、有意義な時間を過ごせてしまうのが八ヶ岳の素晴らしいところではないでしょうか。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
『深山幻想~Deep Forest Fantasia~』
光と戯れる、淡い森の、輝く音色。
森に生き、森に眠る。
深き森に、永久に宿る、いのちの色彩。
森に眠り、森に生きる。