2022年8月 菅沼~日光白根山~前白根山~五色山~菅沼
盛夏の奥日光、雲上の奥白根ワンデイ。
菅沼から関東以北最高峰の日光白根山へ。美しき五色沼を見下ろしながら、前白根山から五色山を周回。夏を彩る奥白根の雄大な自然、色とりどりの山野草を求めて。
- 日本百名山『日光白根山』
- 菅沼登山口から弥陀ヶ池へ
- 弥陀ヶ池から奥白根山頂へ
- エメラルドグリーンに輝く五色沼
- 避難小屋から前白根山頂~五色山縦走
- 登山を終えて
日本百名山『日光白根山』
関東以北最高峰
今回訪れたのは関東以北最高峰となる日光白根山。
標高は2,578mあり、この日光白根山より北にはこの山を超える高さの山は存在しないことになり、北関東および東北圏ではもっとも高い山となります。別名 “奥白根山” とも言われ、男体山とともに日光火山群の象徴的な山のひとつに数えられ、北関東を代表する日本百名山と言えます。
“白根”と名がつく山は他にも存在しますが、白根とはもともとは “冬になると雪に白く覆われる” ということからそのように名付けられたこともあり、他の白根山と区別させるため “日光白根山” と一般的には呼ばれています。
山頂部は活火山の山らしく見事なカルデラを形成し、その火山活動の名残として菅沼や丸沼、弥陀ヶ池、そして五色沼などの火山湖が点在しています。また、実に日本的な美しさを持つ淡い紫色の山野草である『シラネアオイ』はこの山が基準産地となっていますが、残念ながら過去も含めて本コース上では見ることが出来ませんでした。
日光白根山活動状況|気象庁
日光白根山の主な登山口
日光白根山頂への主なアプローチは4つあります。
①日光白根山ロープウェイ
もっともポピュラーと言えるロープウェイを利用したアプローチです。ロープウェイ山頂駅はすでに2,000m弱の標高をほこり、山頂までの距離はありますが比較的楽に歩くことが出来ます。残念ながら私は一度もこのロープウェイを使ったことがないので実際のところは良く分かりません。
ロープウェイの詳細等は丸沼高原、日光白根山ロープウェイ公式HPをご覧ください。
日光白根山|丸沼高原
②菅沼登山口
ロープウェイを利用しない登山としてはもっともポピュラーなアプローチとなります。それでも登山口は標高1,740mあり、山頂までは約1,000mの標高差があります。弥陀ヶ池までは展望はほぼありませんが、コメツガやシラビソの木立が美しい深い森を黙々と登るという印象です。
登山口に駐車場あり(有料)。
③金精峠
国道120号線の金精峠トンネルの湯元側の出入口付近にある駐車場からのアプローチとなります。駐車場は標高1,849mあり、金精峠から金精山を越えていきます。登山者も少なく、前白根山までは静かな山歩きが堪能できる登山道となります。
④湯元
湯元温泉からのアプローチとなるこのコースも金精峠からのアプローチ同様、静かな山歩きが出来ると思います。ネット上においてもこのコースで登られている方の記録はそれほど多くは拝見しませんし、私も残念ながら一度も歩いたことはありません。
湯元温泉(湯治)を利用しつつ日光白根山を登るといった昔ながらのクラシカルなアプローチが魅力となります。
菅沼登山口から弥陀ヶ池へ
半年ぶりのガチ登山
今年は早春に低山をちょこちょこ登ったりしてはいましたが何かと忙しく、なかなか山へ行くことが出来ませんでした。がっつり歩く登山としては半年前の厳冬期の谷川岳、西黒尾根登山以来となりました。
西黒尾根で登る厳冬の谷川岳|Shades of Heart
私は日光白根山登山に関して過去無雪期に2回、初冬の積雪期に1回、計3回いずれもこの菅沼登山口から登ってはいましたが、最後の登山がその初冬の2013年11月だったので約9年ぶり、本当に久しぶりの日光白根となりました。
菅沼登山口の駐車場は有料化(平成24年6月~)されていますが、登山時および下山時ともに係りの方がご不在でしたので帰りに登山ポストに駐車料金(1,000円)を払いました。ちなみに登山バッチも販売しているようで、ここで登山届の提出も出来るようです。(用紙および筆記具あり)
天候は曇り、気温は20℃ほどで真夏としてはとても涼しい朝でした。
今回の設定コース
今回はボッカトレも念頭に入れたコース選択として、
もし無理そうなら避難小屋からそのまま五色沼にエスケープ出来るように時計と反対周りの外輪山周遊コースとしました。
ただ黙々と弥陀ヶ池へ
午前6時。
久しぶりの重いザックのため登り始めはゆっくりと、雨後のさわやかな朝の空気を楽しみながら歩き始めました。時折「ヒィヒィ」というキビタキ(?)と思われる囀りや「キュ、キュルルル」というコマドリの地鳴きなど、野鳥の美しい歌声を聞きながらゆっくりと体を慣らしていきます。
この山行において終始見ることが出来た黄色い花(ハンゴンソウ)を登山道の両脇に見つつの序盤の登りとなりますが、弥陀ヶ池までの中間地点、約1時間ほど登ったところから活火山の山らしい大ぶりな溶岩石がゴロゴロした急坂にかなり苦労しました。
久しぶりの登山では体が山に慣れるまでの最初の1時間くらいが一番きついところ…。この後、体が上手く山に順応し出すと次第に疲れのたまり方も一定となるような気がします。
前日が雨だったこともあり登山道の状態が心配されましたが、泥濘などはほとんど無く快適に登れましたし、雨後の瑞々しい深森にはとても美しい “自然美” を感じました。「あぁきれいだ…」と思ったら何でもかんでも足を止めてレンズを向けてしまうので、いつも時間が押してしまいます。
コメツガやシラビソの樹林帯が実に美しい登山道ですが残念ながら花は少なく、代わりに菌糸類(キノコ)が多く、弥陀ヶ池の手前ではヒカリゴケなども見られました。
弥陀ヶ池から奥白根山頂へ
いざ、核心部へ
およそコースタイムどおり2時間を要して弥陀ヶ池に到達。
ここまでは我慢の樹林帯でしたがこの弥陀ヶ池まで来れば視界も開けて晴れ晴れとした気持ちで歩くことが出来ます。弥陀ヶ池越しの奥白根はいつ見ても圧巻の存在感で、山頂部の岩々感が高山の雰囲気を醸し出しています。
風が無ければ湖面に映る “逆さ白根” が見られますが、残念ながらこの日はさざ波立っていて見ることはできませんでした。
この辺りからようやく色とりどりの山野草も目にすることが出来ました。
ミヤマトリカブトやシラネニンジン、アザミ、トウヤクリンドウ、カニコウモリ、コバノイチワクソウ、ハクサンフウロなどが登山中に目を楽しませてくれました。
夏山登山は個人的には苦手で暑さはもちろん、飛ぶ虫(蜂・蚊・ブヨ)やクモ、ヤマビルなどが特に苦手なのですが、この健気に咲き乱れる山野草はこの時期の登山でないと出会えないもの。登山中の大きな癒しを与えてくれます。
これらはもちろん現地では半分ほどしか名前は分からず、後日にネットや山野草図鑑で名前を調べるわけですが、出来ることなら現地ですべて名前が分かっていれば山歩きは一段と楽しくなるだろうなといつも思います。
登る前日にその山域で見られる山野草の予習などしてみても良いでしょう。
弥陀ヶ池から山頂直下の核心部はまさに北アルプスや八ヶ岳のような岩山感に溢れ、高度感もそれなりにあります。いつもながら重いザックでこういった箇所を登降するのは大変で、登山者も次第に増えてきたことから、とくに落石などを起こさぬよう、遭わぬようゆっくりと注意しながら安全第一で登って行きます。
核心部は瘦せ尾根になっている箇所もあり、特に雨天時の登降には慎重さが求められます。ガレ場も多く、登降時には切れ落ちた深い谷となっているところにも注意が必要です。
山頂からの雄大な眺望
相変わらずのスローペースのため、山頂に達するころにはロープウェイ組の登山者とちょうどかち合う時間帯となってしまって、山頂は満員御礼の大賑わい。さすが休日の日本百名山です…。
と言うことで山頂はサクっとこなし、360°の大展望を満喫しました。
とくに西側に見える中禅寺湖と男体山の存在感が素晴らしく、その男体山の北側には大真名子山や女峰山、太郎山など日光連山の名峰たちが連なっています。
深田久弥氏の著書『日本百名山』ではこの日光連山を一つの家族と例えられています。男体山(お父さん)と女峰山(お母さん)という夫婦の間に生まれたのが太郎山(長男)で、つづいて大真名子山(次男)、小真名子山(三男)であると言われています。
広々とした、また殺伐とした山頂の火口部から西側に連なる緑が美しい稜線もまた見事。天気も山頂に着くころには次第に晴れ間も見えてきて、遠く富士山も見えています。山頂部は風もあり、真夏とは言え一枚羽織らないと寒いくらいの体感でした。
本コース的にはまだ前半となりますが、ここまで登って来た達成感は本当に気持ちいい。ここまで自分の足で歩いてきたことが、この美しい山岳風景をより特別なものにしてくれているようにいつも感じます。
エメラルドグリーンに輝く五色沼
日光白根山登山をより魅力的にしてくれているのは何と言っても稜線から見下ろす美しき『五色沼』の素晴らしい眺望。おとぎ話の世界にでも迷い込んだように、突如として登山者の目に飛び込んできます。
“魔女の瞳”と称される一切経山の五色沼や、
同じく東北の蔵王山の御釜、
草津白根山エリアの湯釜など、
東日本エリアだけでも美しい火山湖は他にも多く存在しますが、この奥白根の五色沼もまた本当に美しい火山湖です。
この美しい景色が見えるところでザックを下ろし休憩としました。
今回はこの五色沼には下りずに、この五色沼を囲むように連なる山々の稜線をグルっと周回することとします。休憩後は五色沼避難小屋に向けて急坂を一気に下って行きます。
避難小屋から前白根山~五色山縦走
絶景の前白根山
標高2,500m以上あるとは言えそこは夏山、やはり陽が出てくると暑くて夏の登山らしい厳しさを感じました。久しぶりの登山すぎてこの山頂部から避難小屋のある鞍部への急坂の下りですでに足がプルプルと…。
「情けねぇ…。」
避難小屋に着いた時点でよっぽどこのまま五色沼に下ろうかと思いましたが天気も悪くないし、せっかくここまで来たのだからともうひと踏ん張り、前白根へと登り返します。
目先にある殺伐とした雰囲気満載の前白根山の山容もまた見ごたえあり、久しぶりの展望の良い天空散歩に疲れも吹き飛びました。
「稜線を抜けるさわやかな風が気持ちいい…。」
山頂直下の砂礫状の登山道を登り切って、本日2座目の前白根山(2,373m)に到達。この周辺の砂礫にはコマクサが多く咲いていました。
コマクサは “駒草”、つまり花の形状が馬の頭部に似ていることから名付けられた高山植物。比較的高い山の砂礫を好み、草津白根山や北アルプスなどに多く咲いていますが、近年では盗掘なども心配されています。
登山時の栄養補給
登山者もめっきり減ったこの前白根山頂で再びザックを下ろし休憩とし、撮影しつつ栄養補給しました。筆者は歳も歳なので最近では一部界隈で “合法なドーピング(笑)” とも言われるアミノバイタル(味の素)を利用しています。実際の効果のほどがどの程度あるのか分かりませんが、少なくともこれを飲むと足が攣るようなことが減ったと感じています。
過度に疲労しているときはモノが喉を通らないことがよくありますが、これであれば容易に効率的にアミノ酸を補給することが出来ます。その他、登山中は手軽に摂取できるチョコや羊羹、ゼリーなどで小まめに栄養補給しています。最近の日帰り登山では、ガスやコッヘル等の出番がほとんどなくなりました。こまめに食べてハンガーノックにならないように気を付けています。筆者のお気に入りは登山中に手軽に食べることが出来て、いろんな味や食感も楽しめる新宿中村屋のミニ羊羹。中でも“柚子”と“黒光”は至高。
五色山から弥陀ヶ池
前白根山でひとしきり眺望を楽しんだ後は本日3座目、最後となる五色山(2,379m)へと歩を進めました。前白根~五色山間は五色沼を見下ろしながら狭い尾根を歩きます。この間はほとんど人には会いませんでしたが、奥白根山頂の賑わいからは想像できないくらい静かな山歩きです。
五色山頂はところどころ木があって360°の大展望とは言えませんが、相変わらず五色沼と奥白根山塊の眺望がすばらしい山頂です。
五色山から弥陀ヶ池へはクマザサの細い登山道を下って行きます。この尾根の下部には鹿除けネットが設置されていましたが、実際にシカに遭いました。
尾根筋や山頂では夏の山らしくトンボが多く飛び交っていましたが、足元には秋の始まりを告げるトウヤクリンドウも見られたので山は短い夏を終えようとしているようでした。
弥陀ヶ池へ下りて小休憩したあとは転げるように菅沼へと下山しました。
登山を終えて
想定の範囲内
6時に登り始めて駐車場に戻ってきたのは15時半ころ。
じつに総行動時間が9時間半を超える長い長い一日となりました。当初の想定通りへとへとで下山してきましたが怪我もなく、無事に予定していたコースを歩ききることが出来ました。
さらにボッカトレと言いつつ奥白根の美しい自然の中に身を置くことが出来、とても満足感・充実感を得られた山行となりました。
本コースは日光白根山登山としては少し長めのコースですが、個人的にとてもおすすめのコースではないかと思います。私は写真撮影をしながらかなりゆっくりとしたペースで、一歩一歩を楽しむように歩いているので、普通に山歩き(ピークハント)するのであればこれほどのコースタイムにはならないかと思います。
行動マップのログを見返してみて、五色山から金精山を経て菅沼へ下山する完全な周回コースとするのも良いかなと思います。機会があれば次回はその周回コースか、湯元温泉から登ってみたいと思いました。
年相応の山歩き
私もかれこれ登山を始めて15年ほどになります。
数年前に思っていた通り、歴がこれだけ長くなると年齢とともに山行回数がかなり減ってきました。振り返ってみると登山を始めたころは若さと無知に任せた山登りでした。回数やピークを極めるためだけの淡白で薄っぺらい山歩きだったように感じます。実際に初めてこの日光白根山に登った時は菅沼から山頂をピストンしただけでした。
最近は回数が減ったその分、1回1回の山歩きを深く楽しむと言いますか、その山域の魅力を存分に味わって帰ろうという気持ちで歩いています。少し大袈裟ですが、毎回毎回これが最後の山歩きと思って。実際に4回目となる今回の日光白根登山は今までの日光白根登山で最も中身の充実した山歩きだったと思いました。登山の間隔がかなり開いてしまいましたが、今後はもう少しペースを上げて今後の秋冬の登山に備えていきたいと思います。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。