『遥か、蒼天に連なり』冬の白毛門、谷川岳東壁の圧巻の眺望

PHOTO TOUR

2020年2月 土合駅~東黒沢~松ノ木沢の頭~白毛門

厳冬の谷川岳東壁の絶景を求めて、土合駅から冬の白毛門へ。
終わりなき急登とも思える登山道の先に待つ、谷川連峰随一の展望の山に癒されるアーカイブ。

 

(目次)

  • 山岳写真目的の山
  • 展望の山
  • 土合駅からの修行道
  • 白毛門山頂へ
  • 困難なる下山
  • 奥深き谷川連峰

山岳写真目的の山

自然豊かな日本には様々な山があります。
北アルプスの剱岳や槍ヶ岳、穂高岳など登山者憧れの名峰。
春になると登山道が一面お花畑となる花の山。
小さいお子さんを含めた家族連れで楽しめる低山。
冬のなると霧氷や樹氷に埋め尽くされる山。
いつでも気軽に歩きに行ける里山。

私は山を始めたころはそれこそ槍ヶ岳や剱岳、穂高岳、赤岳、そして木曽駒ケ岳や谷川岳など、とにかく名峰と呼ばれる山のピークに立つことを前提とした山行、いわゆる『ピークハント』を中心にしてきました。
しかし山を始める前からやっていた風景撮影の一環として山岳写真に本格的にのめりこむに従い、ピークハントということよりも展望の良い山、もっと細かく言うと『名山を眺めることに特化した山』というものに関心が向かいました。

山を撮っておられる方ならみなさんそう思われると思いますが、『山岳写真目的の山』と『ピークハント目的の山』は微妙に違ってきます。
簡単に言うと『槍ヶ岳に登ってしまうと槍ヶ岳が撮れない』という単純明快な原理なわけですが、その槍ヶ岳を撮るにしても、どの方角から撮るとカッコいいかとか、陰影の出方が変わってくるとか、そういうことに拘りを持つようになります。

なので私は日々ピークハントのことよりも、

『あの山はどの時間帯に、どの方角から、どのくらいの焦点距離で撮影するとより美しいか…』

ということばかり考えて登る山を選定したり、調べたりしています。

展望の山

展望の山というと例えば北アルプスでは蝶ヶ岳という山はその典型でしょうか。
蝶ヶ岳自体は他の山から眺めてもそれほど特徴的な山ではありませんし、いわゆる今風に言うなら『写真映え』する山ではありません。
しかしその山頂や稜線からは穂高連峰と槍ヶ岳が真正面に眺められる素晴らしい『展望の山』です。
(贅沢な話ですが、最近は蝶ヶ岳からの眺望はあまりにも槍穂が真正面過ぎて面白みに欠けると思っていますが…)

今回登った白毛門もそういった『展望の山』で、国内でも有数の荒々しさを誇る谷川岳東壁を眺めるには最高のロケーションとなります。
白毛門は以前に無雪期に何回か登ったことがあり、その眺望の良さは間違いなく“谷川連峰随一”と思いました。

登山道は登り一辺倒で、登山者の心をへし折りに来るような厳しいものですが、それを越えた者のみが目にすることができる山頂からの眺望はある種の麻薬的なもの。

「もう二度と来ない…」

と登りながら愚痴が出ても、山頂からの眺望がすべての苦しみから解放してくれるような、そんな凄みすら感じます。
積雪期の白毛門は過去にも計画は立ててはいたものの、諸般の事情でなかなか実現せず、ようやく今回チャンスが巡ってきました。

土合駅からの修行道

登山ベースとしての土合駅

今回の白毛門登山の起点となるのはJR土合駅。
ここを起点として白毛門登山やその先の『馬蹄形』、谷川岳登山、谷川岳を越えてJR土樽駅までの縦走などいろいろなコース設定が可能となります。

私はここから西黒尾根~谷川岳~茂倉岳~土樽駅(土合駅まで電車で戻る)という縦走が好きでたびたび歩くので、この土合駅にはとても馴染みがあります。
駅前には広々とまではいきませんが駐車場もありますし、トイレも寒い時期は暖房完備で、あたかも登山者をあたたかく迎えてくださるような、そんな駅。
駅の待合室にはしっかりと登山届の用紙や筆記具まで用意してありますので、ネットなどで登山届を出さなかった方はここで提出できます。

今回は自家用車でここを利用しましたが、公共機関を利用して山を歩く方にとっても、駅がほぼ登山口と言えるのでたいへん助かるところです。群馬県水上町が誇るアルピニズムの玄関口と言えるでしょう。

登山口からの痩せ尾根急登

土合駅から10~15分ほど車道を歩き、アウトドア施設の脇にある登山口から入山。
雪の多い年は車幅も狭くなってきますし、谷川岳ロープウェイに向う車も多いので短いとはいえ車道歩きには注意が必要です。

無雪期であればこの登山口の駐車場を利用することができますが、冬季は除雪がされないため利用することはできません。
谷川岳ほどではありませんが白毛門も比較的入山者が多いのでトレースはしっかりありますが、雪深い山域ですのでドカ雪の後なんかは結構苦労しそうです。左手に武能岳を見ながら沢に架かる橋を渡り雪景色の樹林帯に入っていき、しばらくして登りが始まります。

ここから山頂まで終わりなき登りです。

朝の武能岳

土合駅から白毛門までは4㎞ほど。
しかしその距離以上に重厚な、長い長い登り。
木々の間から早朝の谷川岳を見ながらの急登ですが、いわゆる『痩せ尾根』で慎重に登っていきます。

この日は早朝でもそれほど寒くなく風も無かったためとても暑く、ところどころでレイヤリングを調整しつつの登りとなりました。

振り返ると土合駅。かなり登ってきたがこんなものではない…。

松ノ木沢の頭

登山開始から黙々と登りますが、木々が邪魔でなかなかスッキリと谷川岳を眺められず、悶々としながらひたすら我慢の登り。

もう疲れた…、
荷が重い…、
早く谷川岳が見たい…、
まだか…、
まだか…。

ここのところの雪山登山はどちらかというと『お気楽登山』。
ロープウェイを使ったり、そもそもそんな急登が長く続く山でなかったり。
本当に久しぶりの登山らしい登山、本格的な登りに身体も心もへし折られるような感覚。
でも「あの美しい谷川岳を見たい」という一心で黙々と、足を前に進めます。

麓から天神平にかけての眺望

コースタイム的にはとっくに『松ノ木沢の頭』に立っていても良い時間でしたが、きつい斜度の登りに思った以上に時間がかかってしまいました。

谷川岳に元気をもらいながらのきつい斜度の登り

それでもなんとか展望の良い『松ノ木沢の頭』に到達。
ようやく荘厳なる谷川岳と真っ白な白毛門と対峙します。

真っ白な白毛門

以前無雪期に登った時とはまるで違うその美しさに、あれだけ疲れていた身体に再び力が漲ってきます。ここで一旦ザックを下ろし、水分と栄養補給、そしてアイゼンを装着。

美しい谷川岳マチガ沢

「さあ、あの真っ白な急斜面にむけて、もう一度ギアを入れ直そうか…。」

白毛門山頂へ

雪庇と最後の急登

『松ノ木沢の頭』前後から稜線には風の強い雪山特有の雪庇が出現します。
雪庇は登れば登るほどに大きくなって、あまり際まで行かないように気を付けながらの登りとなります。斜面にはクラックも見られ、ここ数日の気温の高さからすぐに『雪崩れたら…』という不安が募ります。

さすがに白毛門ではバックカントリーの方々はあまりおられないようなので人為的な要素での雪崩の心配は少ないように思いましたが、それでも面食らうような白毛門の急斜面にクラックが見られるとどうしても嫌な連想をしてしまいます。

アイゼンの装着と同時にストックからピッケルに持ち替えましたが、雪面は柔らかくピッケルよりもダブルストックでバランスを取りながらのほうが良いと判断し、すぐにまたストックに持ち直します。

圧巻の谷川岳の眺望

まもなく山頂の稜線という手前、西側の最後の急登は斜度もきつく長く感じ、振り返っては谷川岳に力をもらいながらなんとか登り切り…。
やっとしのげたと思いきや今度は最後のクサリ場。
無雪期ではここはなんて事の無い岩場でしたが、今回はそこをアイゼンを付けたまま上がらなければなりません。
そんなに長いクサリ場ではないのですが、いかんせん私は冬季にこのような岩場のある山にはあまり行かないのでかなり苦労しました。
しかしここが最後の難所。
ここを上がればあとは山頂までのビクトリーロード。
ようやく、長くつらい登りが終わります。

武能岳から七ッ小屋山にかけての真っ白な稜線

展望はSランクレベル

予定していたコースタイムはとうに過ぎて山頂到達。
とてつもない疲労感と、なんともいえない達成感と充足感。

もっと荷を軽くすれば少しは楽に登れるのでしょうけれども、この山頂での絶景を目の当たりにすると、重かろうが何だろうが自分が納得している機材を使いたい。
これほどの美しい風景は、ここでしか撮れないものだから…。

谷川岳東壁 (『The Prominence』)

谷川岳、圧巻の東壁の絶景。

『すごい…』

武能岳

一ノ倉岳から武能岳、七ッ小屋山へと連なる真っ白な稜線。

『なんて美しさだ…』

山頂から続く笠ヶ岳、朝日岳

そして白毛門山頂から北へと続く笠ヶ岳から朝日岳にかけての美しい白い山並み。

『素晴らしい…』

至仏山や燧ケ岳も

東側には燧ケ岳や至仏山など尾瀬の山々。

『本当に来てよかった…。』

ここまでの苦労がすべて報われる瞬間。

疲れも空腹も忘れて眺めては撮影、また眺めては撮影。
いくら撮っても撮り飽きない。

白い稜線の先には苗場山も

あぁ、ずっと眺めていたい…、

やっぱり白毛門からの展望は谷川連峰随一だ…。

平ヶ岳

困難なる下山

穏やかな山頂

厳冬期とはほど遠いような日中。
美しい景色を眺めながらの休息をどれくらい取っただろうか。
今日はロープウェイの時間だの、ゴンドラの時間だの、気にする必要はない。
日が暮れる前に下山できれば…、とは言いつつこの白毛門は下山でかなり苦労した印象がありました。

一ノ倉沢の岩峰群

登り一辺倒ということは下山は下り一辺倒。
疲弊した足腰に体重と担いできた荷の重さが圧し掛かるつらい下山。

お昼を過ぎて雪も徐々に重さを増し、気温も上がり苦労しました。
白毛門上部はかなりの急斜面のため、下を見ながらとなる下山時はかなりの高度感を伴います。
しかしそれも『松ノ木沢の頭』まで下りて来れば一安心。

荘厳なる谷川岳

少し西に傾いた日の光を浴びた谷川岳は本当に美しくて、『松ノ木沢の頭』で休憩しつつ再びレンズを向けます。

白毛門の標高は1,720m。谷川岳の1,977mとそれほど標高差はありませんが、『松ノ木沢の頭』は1,500m弱。このくらい標高差があると谷川岳を『見上げる』ことになり、それがまた谷川岳の東壁の荒々しさがいっそう際立ちます。

『MAJESTIC ~so close, so far away~』

斜陽を浴びてマチガ沢や一ノ倉沢の雪と岩のコントラストが最高に美しくて、これほど陰影が美しい山もそうそうないと思わせてくれます。
その荘厳なる存在感に畏怖の念すら覚え、山を愛するものとしてこれほどの贅沢があるのかと…。

『なんて美しさだ…』

まさに心が、魂が震えるような感覚。

我慢の下り

山頂から『松ノ木沢の頭』までは雪も豊富で一気に下りて来た印象でしたが、ここから先の下山がかなり苦労します。
登山道は決して油断できない痩せ尾根、融雪も進みスリッピー、そこに泥濘や木の根っこもミックスしてきて慎重に慎重に下ります。
ここまで来ると積雪期の山というよりは残雪期の山という感じ。

『さて、どこでアイゼンを外そうか…』

と、いつも悩みます。

着けたままだと登山道や木々を痛めるし、なにより何かに引っかかったりして転倒するのも怖い。
外したら外したらで日陰のところはまだ雪が凍結していてそれはそれで怖い。
とにかくゆっくりゆっくりと野鳥のさえずりでも楽しみながら下りてきました。
白毛門登山口に戻って来るころにはもうヘトヘトで、疲労感とともに何とも言えない充足感、そして安心感に包まれました。

奥深き谷川連峰

谷川連峰は北アルプスとともに私の愛すべき山々ですが、本当に奥深い、懐の深い山域。
登って良し、今回のように眺めて良しの谷川岳。
谷川岳は冬季においてもたいへん人気のある山。
おそらくこの日は好天のため、谷川岳登山もたいそうな賑わいと予想がつきますが、白毛門は谷川岳ほど多くの方が入山しないため静かな山歩きが好みの方にはとても良いロケーションとなります。

『遥か、蒼天に連なり』

今回は谷川連峰の東端の山々。
荒々しく実にアルペン的な眺望が楽しめますが、西端の平標山や仙ノ倉山あたりの稜線はたおやかで、のびのびとした開放的な眺望。
そして武能岳や蓬峠、七ッ小屋山あたりのとても静かで牧歌的な雰囲気。

四季折々、奥深き谷川連峰はその日、その時、さまざま表情で我々登山者を待っていてくれます。