今回は実に50年以上も前に発売されたオリンパスのレンジファインダータイプのフィルムカメラである『OLYMPUS-35SP』を取り上げてみたいと思います。昨今のフィルム単価や現像料金の高騰もあり、年々フィルムでの撮影を続けていくことが厳しくなっていますが、当方所有のフィルムカメラで唯一現役として使用していた愛機『Nikon FM』が故障したことにより、新たにこのオリンパスのレンジファインダーカメラを中古で手に入れました。
- フィルム再考
- OLYMPUS-35SPの概要
- オリンパス35シリーズ
- 私的35SPの撮影方法
- フィルム写真の残し方
- OLYMPUS-35SPの長所短所あれこれ
- まとめ
フィルム再考
私が初めて手にしたカメラはオリンパスの『OM-30』というフィルム一眼レフカメラでしたが、当時はまだデジタルカメラというものが無かったわけで、フィルムで撮影することが当たり前、それが唯一の手段でした。しかしデジタルカメラが勃興し驚異的なスピードで進化しメインストリームになるとともに、フィルムや現像代の高騰によってフィルムで撮影することはいつしか “贅沢品” となり、一部のフィルム愛好家の方々を除いて世に溢れる写真はそのほとんどをデジタルが担うようになりました。
私自身も最近では年に数本くらいしかフィルムで撮影しなくなり、そのほとんどをデジタルカメラでの撮影で楽しんできました。それでも唯一現役として愛用していた『Nikon FM』はそのコンパクトさやデザインがたいへん私好みで、大切に使ってきました。以前にこのカメラについての記事を投稿しましたが、その執筆した当時とはフィルムでの撮影やフィルム写真について考え方が少し変わって来ています。それが今回のカメラ導入の件にも繋がっていくわけですが、それについても少し触れてみたいと思います。
確かにこの記事の通り、例えば単純に写真の解像度で言えば最新のデジタルカメラや、それに見合った最新設計のレンズを駆使すれば、もはやフィルムを超えている部分もあると言える反面(35mm判フィルムは1,000~1,500万画素程度と言われている)、結局のところデジタルはどこまで行っても突き詰めれば “画素(ピクセル)” の集まりと言えるでしょう。つまるところデジタルとフィルムは比較して云々とそもそも語られるべきものではなく、そこにはお互いを乗り越えることが出来ない壁(違い)が存在すると思うのです。言わばデジタルとアナログの表現の違い、さらに言うならばもはや写真に対する思想や哲学の違いと言えなくもありません。デジタルにはデジタルの、フィルムにはフィルムの、それぞれでしか成し得ない写真表現が存在します。
私は最近このような考え方に深く傾倒し、改めてもう少しフィルムでも写真を残しておきたいと思うようになりました。
そんなときに愛機であった『Nikon FM』の調子が悪くなってしまい、遂にはミラーが上がったまま下りなくなる不具合が頻繁に発生するようになってしまいました。このニコン機はいわゆる機械式のカメラであって、部品さえあれば専門業者などで修理できるカメラではないかとは思いますが、この際もっとコンパクトで軽量でどんな時も気軽に持ち出せるカメラを手にしたら、フィルムでの撮影ももっと多くなるのではないかと考えました。
そこでこのニコン機には思い出のカメラとして勇退させて、新たに一眼レフタイプではない、まだ私が本格的に使ったことが無かったレンジファインダータイプのカメラを使ってみたいと、程度の良さそうな中古を物色し始めました。
そこで出会ったのが今回ご紹介する『OLYMPUS-35SP』でした。
OLYMPUS-35SPの概要
いつものように長い前置きはさておいて、
このカメラのプロフィールを簡単にまとめておきたいと思います。
・シリーズ EE搭載カメラ
・発売年月 1969年4月
・価格 24,800円
(オリンパス公式HPより)
このカメラは昭和44年、実に半世紀以上も前となる1969年4月に発売されたレンジファインダータイプのカメラで、スポット測光と平均測光(いわゆる評価測光)の2種類の測光を初めて可能にしたレンズシャッター機のカメラでした。
名前の “SP” はそのスポットの略。
プログラムAEでもマニュアルでも撮影可能な、本格的なレンジファインダーカメラと言えるでしょう。光を検知するCdS素子も独自のW素子を開発し搭載することで最適な光量を測光します。
価格は24,800円という設定でしたが、当時の大卒の初任給が平均35,000円程度でしたから、現在で言うと16万円くらいの感覚でしょうか。レンズは固定式で当時では高級レンズと言える大口径の単焦点『G.ZUIKO 42mmF1.7』レンズを装着しています。
ピント合わせは本格的な二重像合致式を採用しており、ピントは非常に合わせやすい機種です。シャッタースピードは1/15~1/500秒のレンズシャッター方式で、シャッター音はレフ機のそれに比べて非常に小さく、シャッターショックはほとんど感じません。重量は600g弱ということで軽いというよりは、心地よい重さが手に伝わるという部類でしょうか。
使用電池はMR9(H-D)というタイプで現在では手に入れることが出来ないいわゆる水銀電池(環境負担により1995年に製造中止)ですが、代替電池としてLR625があります。
ネットで調べてみてわかったことですが、本来露出計を作動させる目的で使われるこのMR9という電池は電圧が1.35Vですが、この電池とサイズが全く同じ互換電池のLR625は電圧が1.5Vなので露出計の示す値が1段分ほど高く表示されると言われています。よってISO感度設定を1段下げると良いという情報を見つけました。(この件については自己責任でお願いいたします)
オリンパス35シリーズ
このカメラはオリンパスが世界的にハーフカメラというものを広めたと言われる 『PEN』 シリーズの真骨頂である “コンパクト” というイデオロギーを35mm判に取り込んだシリーズと言えます。
このシリーズの実質的な初代は1968年に発売された『オリンパストリップ35』という機種ですが、これはいわばそのオリンパスペンEESシリーズの35mm判として登場したと言われていて、発売後はロングセラーとして人気を博しました。
その後に高機能化した今回の機種35SP(’69年)が発売され、翌1970年には『35RC(愛称はリチャード)』という付属レンズを開放F2.8とし、よりコンパクトさを売りにした機種が発売されました。1971年には『35DC』というSPとRCの良いところ取りをした完成度の高い機種が発売されました。
オリンパスのこのシリーズはニコンやキャノンという2巨頭とはまた一味違うカメラとして存在感を放ち、写真撮影をより身近に、手軽に楽しめるコンセプトで製品開発を行っていることが窺えます。
私的35SPでの撮影方法
レンジファインダーと一眼レフ
今回一眼レフタイプではなくあえてレンジファインダータイプのカメラにしたのは、いくつか理由があります。先述の通りもちろん私自身が過去に本格的にレンジファインダータイプのカメラを使ってこなかったので選んだこともありますが、なにより気軽さを優先させたくてこのカメラを手に入れました。
一眼レフタイプは確かに高機能で光学ファインダーで被写界深度を確認しながら撮影したり、時にはレンズを交換したりと、とても自由度が高く、じっくりと撮影したい時には良いシステムですが、そのようなシチュエーションで撮影する場面や、作品作りとして撮影したいシーンではやはり今まで通りデジタルカメラで腰を据えて撮影したいと思っています。
そういうこともあってフィルムではあえて気軽なスナップ目的として使用用途を限定することで、デジタルカメラとの棲み分けをしようと思っています。ということで折角マニュアルでも撮影できる機種ではありますが、このカメラでは基本的にプログラムオートでサクサクと撮影していければと思っています。
135フィルムの超インフレ
ただ、よくよく考えてみるとフィルムがこれだけ高騰している現在ではそんなにサクサク撮影もしていられないな、とも思ってしまいます。なにせこの記事を執筆している2024年3月時点で、もっともポピュラーで標準的なフィルムとして私も好んで使用しているKodakの『ColorPlus 200』の36枚撮りの価格が1本1,600円という時代です。
さらにフィルムでの撮影時代、私も風景撮影でお世話になっていた富士フイルムのリバーサルフィルム『FUJICHROME Velvia 100』(36枚撮り)は1本3,300円、さらに『Velvia 50』に至ってはなんと1本4,200円という、実に1コマが100円前後という高単価となっています。
もちろんこのデジタル全盛の時代にあってまだこのようなフィルムを手に入れられること自体を喜ばなければいけませんが、実は海外ではまだまだフィルムの需要も多く、新製品もたびたび発売されていると聞きます。
こればかりは仕方ありませんが、このコストの面を考えるとサクサクと撮るというよりは、1枚1枚大切に撮影しなければなりません。
雰囲気重視のスナップ
このマニュアルでも撮影出来る機種にも関わらずオートで撮るとは言え、時にはアンダー目に撮影したい、逆にハイキーで撮影したいシーンなんかもあると思います。その時は露出補正ダイヤル代わりにISOダイヤルを回して対応するつもりです。(感度を上げることでアンダーに、感度を下げることでハイキー気味に、といった風に)
今までの撮影行を振り返ってみますと、私が登山や風景撮影で目的地へ赴く際に途中途中でデジカメで撮影しているスナップなどはブログ用の記録として適当に撮っているような節があって、何だかもったいないように感じていました。つまりそのようなシーンにおいてもスナップ写真としてしっかり作品として言えるようなものを残していけたらとずっと思っていました。私にとって山岳やネイチャー系の撮影は腰を据えてじっくりデジタルで高精細に残したいという考えがあり、逆にスナップは高精細や高解像よりも雰囲気重視、速写性重視としたいので、フィルムでの撮影の方が相性が良いのでは、と思っています。
フィルム写真の残し方
今回手に入れたこのカメラを手にし眺めながら、さてこのカメラで撮影した写真をどのように残そうかと思いを巡らせてみました。デジタルカメラへ完全移行する以前はフィルムスキャナーを使ってPCに取り込んでデジタル処理していたり、お店やラボの銀塩プリント(いわゆるラムダプリント)などで残してきました。当時はリバーサルフィルム(ポジ)での撮影も多かったわけですが、リバーサルフィルムは原版自体がある意味写真としての価値のすべてと言える部分がありましたが、ネガフィルムはやはりプリント出力をして初めて鑑賞できるという観点から、今後撮影するものもプリント出力したいと考えています。
実は再びフィルムでの撮影を多くしようと考えた当初は、フィルム原版をライトボックス上に載せて、それをデジカメで撮影する方法(デジタイズ、デュープ撮影)を考えていました。昨今のデジタルカメラにはピクセルマルチショット(呼称は各メーカーで異なる)機能が付いており、静物であればさらなる高解像に加えてベイヤーセンサーの弱点であった偽色を低減しリアルカラー化できるようになりました。その機能を使えば解像度では勝っているはずのデジタルでフィルム情報を余すところなく包括出来るだろうと考えていました。
しかしそれではそもそもデジタルで撮影すれば良いだろうとなってしまいます。やはりフィルムの良さはそのアナログ然としたところにあると個人的には思います。そこに一寸でもデジタル要素が入り込んでしまうとフィルム本来の良さがスポイルされてしまうように感じるのです。
つまりゆくゆくは暗室で手焼きプリントをやってみたいということです。
OLYMPUS-35SPの長所短所あれこれ
導入してからすでに数回持ち出して撮影し、現在はフィルムも3本目に突入しているくらいの出動率ですが、その使用期間中でこのカメラの良いところ、気になるところがあったので、そのあたりも取り上げておきたいと思います。
“42mm”という絶妙な焦点距離
昨今良く呼称される“フルサイズ”とはつまり35mm判(俗にいうライカ判)のカメラを指しますが、その標準レンズの焦点距離は50mmと言われています。実際に私が初めて手にした『OM-30』には50mmの単焦点レンズが付いていましたし、各メーカーの安価ないわゆる “撒き餌レンズ” と言われるレンズは大体が焦点距離50mmのレンズだったりします。
ただ個人的には50㎜という焦点距離は苦手意識があり、何となく狭く感じるところがあってほんの少しだけ後ろに下がりたい、みたいな感覚を覚えます。標準域の単焦点レンズでは私は焦点距離35㎜レンズが使い心地が良く、しっくる来る焦点距離です。
この35SPには42mmの単焦点レンズが付いていますが、使ってみるとこれが絶妙な焦点距離と感じます。一眼レフカメラの交換レンズには50mmや35㎜などは非常に多いですが、42㎜という単焦点レンズって意外と少ない焦点距離です。良く言われるのはセンサーやフィルムのサイズの対角線の長さが標準レンズですが、なるほど、その論理で言うとこの42㎜という焦点距離は50mmレンズよりも35㎜判カメラ(対角線44㎜)ではしっくりくる焦点距離なわけです。
スナップではこの直感的な “しっくり感” は大切な要素なのかもしれません。
スポット測光が使える
私がこの機種を選んだ大きな点として機種名にもなっている “スポット測光” が使える点です。このカメラでの撮影ではサクサクと直感的に撮影してみたいと思ってマニュアル撮影ではなくプログラムオートで撮影しようと思っていますが、このスポット測光機能があることでオートとは言えある程度は自分好みの画作りが出来るのではないかと思います。
あまり難しいことは考えずに、ふとした瞬間にカメラを構えて構図を取り、ピントを合わせながら画作りを直感的に思い描きながらシャッターを切る。スナップではこの直感的な操作性が心地よいですし、あまりダイヤル操作を多く必要としないこのカメラではそのような使い方が合っているように思います。
あまり寄れない
非常にコンパクトにまとまったデザインなのはこのカメラの良いところで、特に付属のレンズは長さも無いことから取り回しや収納の面でもありがたいですが、残念ながらあまり被写体に寄って撮影することが出来ません。レンズ自体は5群7枚という贅沢な作りで写りもシャープ、F1.7という大口径のわりにコンパクトなのは素晴らしいですが、最短撮影距離『85cm』ということでテーブルフォトや山野草など寄った撮影は出来ません。
そもそもこのあたりは構造上レンジファインダーカメラの宿命でもあると思いますが、せめてレンズの “焦点距離×10 (=40cm)” くらいは最短撮影距離があれば本当に使い勝手の良いカメラとなっていたでしょう。
ストラップ環の位置が微妙
カメラがコンパクトなので登山での携行時はショルダーバッグや小さめなポシェット、サコッシュのような入れ物に入れて、撮りたい時にサッと取り出せるようにしています。
逆に街歩きや森の散策、日帰りの旅行時などの大きな荷物を持ち歩くような場面でなければカメラストラップを装着して首から下げて持ち歩いていますが、ストラップ環が他のカメラと比べてかなり下目の位置に付いているので、首からぶら下げた時にカメラの正面(つまりレンズ側)が上を向きやすくなります。
この位置にストラップ環があると確かに構えた時にシャッターを押す右手人差し指の邪魔になりにくいという利点があるのですが、重量バランスは良いはずのカメラなのにこれはかなり気になるところです。
まとめ
今回は今から半世紀以上も前に発売されたオリンパスのフィルムカメラ『OLYMPUS-35SP』を取り上げてみました。製造されてからこれほどの年月を経ているというのに未だに現役として使用できるあたり、さすがは我が日本の工業製品と言いたくなりますが、実は若い世代の方々もフィルムカメラを愛用していると良く聞きますし、フィルム文化も未だ健在であることもたいへん喜ばしいことです。
昨今のデジタルのような高解像・高精細という一方向だけに写真表現が突き進むのは個人的には何となく寂しいとも思いますし、この機会に私もフィルムでしか成し得ない写真表現というものにもう一度深く触れてみたいと思っています。
今回の記事は以上になります。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。