本記事ではデジタル一眼レフのAF微調整について取り上げます。
工業製品はどれも正確な数値の計測をする機器では校正(キャリブレーション)は必要不可欠です。それはカメラやレンズも同様と言えます。
写真撮影は楽しいことですしワクワクする反面、『調整』とか『校正』と聞くと面倒なイメージが付き纏いますが、結果に直接繋がるものですからなかなか避けては通れないものだと思います。
少し長くなってしまったので記事を2つに分けました。
前編はキャリブレーションの必要性や考え方、そして調整のための撮影のセッティングまで、となります。実際の調整の方法などに関しては後編で取り上げます。
- キャリブレーションの必要性
- 調整に必要なもの
- 『絞り』と『ズームレンズ』の調整について
- セッティング
キャリブレーションの必要性
写真の世界では現像やプリントの現場で使われる“画像モニター”はキャリブレーションを必要とするものの代表格です。正確な色、濃度、コントラスト、色相などはキャリブレーションされたモニターを使わないと正確な結果も得られません。それは写真撮影にも言えることで、しっかりと調整された機材を使わないとしっかりとした成果が得られません。
一眼レフとミラーレス
デジタル一眼レフ(DSLR)とミラーレスが混在する現在、徐々にミラーレスの比率も上がり一部界隈ではDSLRよりも多くなってきています。どちらも長所と短所があるわけですが、ミラーレスの優位性のひとつにオートフォーカス(AF)の正確性が挙げられます。
ミラーレスは文字通りミラー機構が無く、ざっくりと言えば写真撮影時でも実際に動画的に撮像している情報をもとにAFを行っているので(コントラストAFおよび像面位相差AF)、AFの速さは別にしても正確さは “理論上” は信頼のおけるものです。
逆にDSLRはミラー機構を有し、撮像面(撮像センサー)とは別の『AF用のセンサー』があり、そのセンサーを使ってAF(焦点)を合わせています。このセンサーはいわゆる『位相差検出』と呼ばれる方式での測距になるのですが、そのことについては長くなるのでここでは触れませんので、ご興味のある方は調べてみてください。
問題となる事象
さて問題なのはAFセンサーでも、位相差検出方式でもありません。それら自体よりもその『検出結果』と『撮像結果』にズレ(乖離)が生じてしまうことが問題となります。
メーカーが製造するカメラやレンズは言わば『精密機器の権化』と言っていい部類ですが、工業製品である以上は残念ながらある程度の製造上の『ブレ』が生じてしまいます。いわゆる『個体差』とよばれるものです。
以前、具体的にはフィルム時代なんかはそこまでシビアではなかったのですが、日に日に撮像センサーの高画素化が進み、今ではその製造上の『ブレ・個体差』が顕著に確認できてしまう時代です。もちろん市場出荷時には各メーカーで検品していると思われますが、おそらくリファレンスとなる個体を使用しての検査程度だと思いますし、それも『基準内』と判断すれば出荷となっているはずです。工場出荷前にいくら検品したとしても、それが『基準内同士』であっても、やはり少なからずズレが出てくるものです。もちろんその誤差の範囲(大きさ)はメーカーの基準の厳しさにも依るところがあるでしょう。
純正レンズでも
この事象は純正レンズでも現われることで、
- 『写真がなんとなくシャキッとしない』
- 『人や動物の目にピントを合わせたのに鼻や口にピントがきている』
と思ったら、まずはこの現象を疑ったほうが良いかもしれません。
風景写真などは絞り込んで被写界深度を深くとったり、さらには三脚に据え付けてマニュアルフォーカスやライブビューを使ってのコントラスト方式でピントを追い込むことも多いのであまり気になりませんが、ファインダー撮影時においてのポートレート撮影や、スポーツ、動物、そして絞りを開けた近景撮影時はこの事象が現れてきます。
ニコンのカメラにニッコールレンズを、キヤノンのカメラにキヤノンのEFレンズを装着したとしても残念ながらこの事象からは逃れられません。つまりその他のレンズメーカーのレンズを装着する場合は言わずもがな、ということです。
問題の切り分け
キャリブレーションを行い、しっかりと調整してもなお『シャキッとしない』『解像しない』とならばそもそものレンズの不具合や故障を疑えます。(例えば “片ボケ” や “AFの故障” など)
しかしこれがもしキャリブレーションされていないとすればその事象の原因がどこにあるのかが分かりません。キャリブレーションを行うことで『問題の切り分け』が出来ますので原因の究明に繋がります。
調整に必要なもの
AFの微調整に当たっては主に以下のものが必要になります。
- 調整したいカメラとレンズ
- ターゲットとなるテスト用チャート
- 三脚
では、それぞれ見ていきましょう。
調整したいカメラとレンズ
基本的にはCPUレンズであればどのAFレンズでも調整可能となるはずですが、私は現在ニコンのカメラとニッコールレンズのみ手元にあるので、他メーカーのレンズは試したことがありませんが、例えばキヤノンにしてもAF微調整の機能はありますので、純正のCPUレンズであれば間違いなく可能だと思います。
シグマのレンズをお持ちでしたら『USB DOCK』というアクセサリーがシグマから出ています。AFの微調整機能はもちろん、レンズのファームアップなども行える優れもののようで、こういった製品ラインナップはサードパーティならでは。
ただ気を付けたいのはこのAF微調整の機能はどのカメラにも付いている機能ではありません。ニコンの場合、残念ながら中級機以上に限られた機能です。お手持ちのカメラにこの機能が無い場合は直接ニコンのほうで調整してもらわなければなりません。この機能を持つ機種をニコンの公式HPから引っ張ってきましたので参考にされてください。
(2020年5月執筆時点)
なお、他メーカーのカメラをお使いの方はご自身で使われている機種の取説や、メーカーの公式HPなどでご確認ください。
AF微調整用のターゲット(テスト用チャート)
ターゲットとなるテスト用チャートに関しては市販のものもありますし、自作することもできます。
自作の場合は有志の方々がネットに挙げているテスト用チャートの画像をダウンロード&プリントして段ボールや厚紙などに張り付けて作ることもできます。
私はdatacolor『Spyder LENSCAL』というものを使っています。
datacolorはカラーマネジメント・カラーコレクションの機器やツールを多く作っているメーカーで、モニターのキャリブレーションセンサー『SpyderX』が有名です。私はモニターのキャリブレーションセンサーはEIZOのものを使っているのですが、datacolorの製品ですと『Spyder CHECKR24』という製品を銀一のグレーカードとともにカラーリファレンスツールとして使っていることもあり、普段から馴染みがあるのでテスト用チャートもdatacolorのものを使っています。
この製品、正確に合わせることができるので気に入って使っているのですが、すこし価格が高いかなと思います。とは言えモニターのキャリブレーションと同様にAF微調整も『1回合わせればOK』というものではなく、定期的に合わせる必要があるので耐久性のこともあったり、また微調整するには全く同じターゲットで合わせないと意味が無いことから、ちょっと高いのですが私はこの『Spyder LENSCAL』を使っています。
安さを求めるならそれこそ自作するのが良いですが、何回も作ったり、何回も使ったり、ということを考えるとある程度長く使えるものを持っていたほうがトータル的には良いだろうと思います。
それに高価なものを揃えると勿体ないから、
『元を取ろうと頻繁に使う→調整回数が増える→しっかりした結果が得られる』
と無理やり良いほうに捉えています。
三脚
テスト撮影する際は、ターゲットとなるチャートに対してカメラが同じ高さで尚且つ真正面でなくては正確に合わせられません。なのでチャートもカメラも水平に同じ高さに設置する必要があるので、三脚は必須です。チャート用とカメラ用で2本の三脚が必要ですが、チャートに関しては仮に設置する机や台が水平という前提が確保できるなら三脚は1つで事足りると思います。
『絞り』と『ズームレンズの微調整』について
ニコンのカメラを使用していて、AF微調整の際に一番悩ましいのがズームレンズです。単焦点レンズであれば焦点距離に関して選択の余地がないのですが、ズームレンズの場合どの焦点距離にて調整するべきなのでしょうか?
正解があるのかどうかわかりませんが私は望遠端で合わせるようにしています。f値変動のズームレンズは別として、f/2.8通しのズームレンズならば『望遠端の絞り開放がもっとも被写界深度が浅くなる』からです。つまりそのセッティングでの調整がもっともシビアな状態での調整のはずだからです。それよりも焦点距離が短くなる、あるいは絞りを絞っていけば『ズレ』もそれに応じて少なくなると考えられます。
人によってはそのレンズに対して自分が一番よく使う焦点距離、具体的には70-200㎜レンズならポートレート撮影などで『100㎜あたり』を頻繁に使うようなら100㎜で合わせてもよいと思います。ただ絞りに関してはやはりその時の焦点距離の開放で調整したほうが良いでしょうし、何より絞りは開けたほうが調整しやすいと思います。
AF微調整機能については各メーカーで呼称は違うのですが、キヤノンの場合はニコンと違いズームレンズでの調整時では広角端と望遠端とでそれぞれ別々に調整することができるようです。結果としてキヤノンとニコンのどちらがうまく微調整できるのかはわかりませんが、調整する際にわかりやすくて迷わずに作業できるのはキヤノン方式だと思います。
セッティング
まずは調整のための撮影をする前のセッティング方法。
セッティングはとても大切で、ここでコケるとこの先の作業が無駄になってしまいますのでしっかりとセッティングしたいところです。
注意点をいくつかまとめてみました。
- ターゲットとなるチャートとカメラを水平垂直、かつ真正面に設置
- 基本的にターゲットとなるチャートとカメラは『焦点距離×10ほどの距離』で設置
- 場所は屋外よりも明るい室内のほうが良い
- レンズの手振れ補正機構はオフに
- カメラのAFモードはAF-S、シャッタースピードは速めに
ざっと、こんなところでしょうか。
『Spyder LENSCAL』には幸い底面に水準器がついていますので三脚&雲台を使用して水平を出し、カメラは電子水準器(あまり正確ではないと言われていますが)やホットシューに付けるタイプのものを使うことで水平を出します。ファインダーに格子線を表示させてチャートの直線と合わせてもいいと思います。
ターゲットとカメラの距離もあくまで目安なのでそれほど正確でなくてもよいと思います。実際の写真撮影では様々な距離で撮影するわけですから。仮に焦点距離200㎜で微調整するなら『200㎜×10』で2000㎜なので目安で2mということで良いと思います。ただこれに関してもポートレートなどを多く撮影されている方なら最もよく使う距離があると思いますので、その距離でセッティングしても良いのではと思います。
撮影距離についてはテスト用チャートのdatacolorとニコンとでは意見が分かれているようですが、調整を繰り返してみて自分にとっての最適解を見つけるのが一番良いと思います。
AF微調節は、普段の撮影でよく使用する撮影距離で行うことをおすすめします。たとえば、近い距離でAF微調節を行った場合、遠い被写体に対してはAF微調節の効果が低下することがあります。(ニコンHPより)
この記事では便宜的に屋外での作業の写真ですが、日光がチャート面に当たると白飛びしたり、光の当たり方が変わるとチャートの見え方も変わってきますし、時には風で揺れたりするので屋内のほうが無難です。屋外で行うなら曇り空の日を選ぶとよいと思います。
三脚に据えているので手振れ補正は必ずオフにして、AFが合焦したら動作が止まるAF-S(シングルAF)モードにして、少しでも機構ブレを軽減するためシャッタースピードは1/500秒以上にするとよいです。そのほかレリーズなんかも用意できると良いでしょう。
今回はここまでと致します。
次回の後編では実際の調整方法のほか、フォーカスシフトについてにも少し触れたいと思います。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。