山も次第に雪解けの季節となる一年でもっとも自然の生命力を感じられる5月。いよいよ本格的に夏の天の川の季節到来と言うことで、好天が期待される新月期、美しい星空を求めて天城への天体写真遠征を敢行しました。
- 天城高原の美しい星空を求めて
- オートガイド導入
- 遠征1日目
- 遠征2日目
- 遠征を終えて
- 今後の予定
天城高原の美しい星空を求めて
私はカメラレンズを用いての天体写真撮影(星野写真)を本格的に始めてからは春(3月・4月)になると毎年のように天城へ遠征してきました。その様子は過去の遠征記事を見ていただきたいのですが、今年2022年もすでに4月に撮影に行っていました。
↓ 2022年4月の天城遠征
今回の遠征では最近いつもご一緒させていただいているしょきさん(@pvetCc8UFT6FKJM)と2日間お世話になり、さらに2日目は3月に朝霧でお会いした方々も遠征に来られてとても賑やかな夜となりました。
オートガイド導入
年初から本格的な赤道儀セレストロン『Advanced VX』を導入し、サンニッパでの天体撮影を開始しました。明るい大口径のカメラレンズという特徴を活かしてノータッチで撮影してきましたが、やはり打率がどうにも悪い。
もちろん設置時のバランスの追い込み不足や風などの影響もあるでしょうが、ガイド成功率は良い時でも6割強、悪い時は5割という追尾性能で折角の大口径レンズの良さが無駄になっていました。そこで今回の遠征のため、そして今後のために意を決してオートガイドシステムを導入しました。
赤道儀は基本的にはモーターでギアを一定速度(約24時間で1回転)で動かしているわけですが、その回転ムラなど影響によって星が “点” ではなく流れてしまうことが多々あります。そこでその回転ムラを補正するため、撮影とは別の撮影機器(カメラやレンズ)を同じ赤道儀上に搭載してターゲットとした星のズレを監視し補正信号を赤道儀に送ります。以前は補正を手動で行っていましたが今ではそれをすべて自動(オート)でやってくれます。逆にオートガイドを用いない撮影方法をノータッチガイド(和製英語ですね…)と呼ばれたりします。
ガイドカメラ
ガイドカメラはもはや定番と言っていいQHYCCDの『QHY5L-ⅡM』という高感度のモノクロカメラ。出来ることならPC要らずのスタンドアローンの『M-GEN』シリーズが良かったのですが、現在極軸合わせにQHYCCDの『Polemaster』を使っているため結局現場にPCを持って行っていますから、電源含めて荷物はそれほど変わらないのでPCでのガイドスシステムに落ち着きました。
それに現在は『M-GEN』は半導体不足の影響ですぐに手に入らないこともその理由でした。
ガイド鏡
ガイド鏡は言ってしまえばピントが出れば何でも良いと個人的に思っていますが、今回は格安だったSVBONYの『SV165』。口径30mmでF4、つまり焦点距離120mmの最近流行りのコンパクトなガイドシステムとしました。
赤道儀への搭載はカメラ(Nikon D7100改)に装着したL型ブラケットの横にアルカクランプで挟み込むという方法。『SV165』は望遠鏡のファインダー用のクランプに取り付ける規格になっているので、アルカスイス互換ではありませんがクランプで締め付けてやれば無理やりにでも使えそうでした。
この辺りはやはりカメラレンズで撮影する場合の欠点と言えると思いますが、今後の課題となりました。
1万円以内で買える格安のガイドスコープ鏡ですが、使ってみてオートガイドシステム的には全く問題が無いように感じました。ただ迷光防止や夜露対策のためにフードは自作などして工夫する必要はあると思います。
ガイディングソフト
ガイディングソフトはこちらも定番のオープンソースの無料ソフト『PHD2』としました。ガイディングソフトはその他にもいろいろあると思いますが、とくに天文系は多くの方が使っているものを使ったほうがソフトの使用方法や問題が起きた時の対処法など情報がネットに多く転がっています。
セットアップの段階で使用するガイド鏡の焦点距離やガイドカメラの画素ピッチなどを間違いなくしっかり登録しておけば、現場でのソフトの操作自体はとても簡素なものでした。天城遠征前に近場で初めてこのシステムを稼働させてテスト撮影しましたが特に問題なくガイドしてくれました。
下はその時に撮影した『マルカリアンチェーン』。
もちろんガイド成功率100%とはいきませんでしたが、これで今後は捨てコマが減って良質な天体画像が得られるようになりました。このテスト撮影も含めておよそガイド成功率は7割5分~8割くらいにはなりました。
ポータブル電源
電源に関しては今まではMeltecの『SG-3500 LED』と言う比較的安価に入手可能なポータブル電源を使用して赤道儀やヒーターバンド等の電源を賄っていました。しかし一晩中オートガイド撮影でPCを動かすとなるとさすがに容量不足は否めないので、新たにSmart Tapの『PowerArQ2』を導入。
コンパクト設計ですが容量は実に500Wh / 135,000mAhという大容量電源。
本遠征が初投入で、しかも “2連荘” ということもあり今回はPCのみの電源としましたが、容量は十分すぎるほど余裕で、5つあるメモリインジケーターのうち1メモリしか減っていませんでした。外気温は5℃くらいまで下がっていましたが、この環境下でこの結果であれば冬場でもかなり心強い容量と感じています。
私の撮影システムを考えれば一晩程度ならこのポータブル電源1つですべての電源を賄えそうです。
価格的にはもちろん安価な『SG-3500 LED』に比べればかなり高価で痛い出費でしたが、今後のことを考えればよい電源を手に入れたと感じています。
ポータブル電源はこういった屋外での天体撮影はもちろん、キャンプや車中泊でも大活躍しますし、さらに停電などの緊急事態でも心強い存在なので1台持っておくと何かと重宝します。とくにコンパクトで大容量のこの『PowerArQ』シリーズは個人的にもおススメです。
遠征1日目
GPVでは遠征する前日夜の時点では快晴の予測でしたが、出発の朝に改めて確認すると微妙な予測に変わっていました。不安を持ちつつも途中の高速や小田厚、伊豆スカの渋滞もなくスムーズに現場に着くことが出来たことは幸いで、到着後はすぐに夜の撮影に備えてそのまま仮眠。夕方にはしょきさんも到着されてすぐに機材を組んで、日没後には極軸合わせも難なく終了。その後はさそり座が上って来るまでは待機、周りの方々と天文談義としました。
ポールマスターには年末年始に辛酸をなめましたが、今回は『3Dビューワー』の起動も必要なく使えました。ひょっとしたら寒さでPCのパフォーマンスが低下していたからなのでしょうか?
この日の天気はGPV予測ほど悪くはなかったですが風がかなり強くて寒い夜で、近くで撮影されていた方のバーティノフマスクが飛んでくるような夜でした…。
さそり座の星野
4月の時はGFX+ミルバス135mmで横構図でさそり座を狙いましたが今回は縦構図で撮影してみました。しかし残念ながら4月の横構図の時よりもピントが微妙で、さらに薄雲もあったりで撮像は今一つとなってしまい、画像処理する意欲も湧かずボツとしました。
アンタレス付近のカラフルタウン
メイン機であるD7100(改)+サンニッパ。
4月は『彼岸花・出目金』と『Sh2-1・Sh2-7』でしたが、この日はアンタレス付近のカラフルな星雲群、いわゆる全天一美しいとも言われる『カラフルタウン』一点狙い。
ただご覧のようにフルサイズ換算450mmでは少しぎゅうぎゅう構図気味。この領域はモザイクするか、もしくは300~400mmくらいがちょうど良い構図となるでしょうか。下はこの初日の露光分のみの暫定処理版ですが、それでもやはり南天の暗い天城の空に助けられ1時間強ほどの露光でもそこそこ写ってくれています。
カメラ Nikon D7100(IR-custom)
鏡筒 AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR Ⅱ(f/3.2)
架台 CELESTRON Advanced VX
ガイド鏡 SVBONY SV165(30mm F4)
ガイドカメラ QHYCCD QHY5L-ⅡM
ガイディングソフト PHD2
ダーク減算 RStacker(16枚)
フラット補正 RStacker(64枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(180秒×24枚 計72分 ISO1250)
画像処理 StellaImage9 & ADOBE Photoshop CC
その他
・QHYCCD Polemaster
残念ながら2時半ころから完全に曇られてしまい、途中の薄雲の影響もあって満足に露出をかけられませんでした。ダークを撮りながら、この時点で予定を変更して翌日も同構図で撮り増ししようかと思い始めました。
少し気になったのは輝星アンタレスの周りにゴースト・ハロが出てしまいました。最初は薄雲の影響かと思いましたが、快晴の2日目でも同じようなゴーストが出ていました。
それにしてもやはり天城のさそり座から天の川にかけての美しい星空は何度見ても感動モノ。天城への遠征は距離もあって大変なのですが、この星空がすべての苦労を和らげてくれます。
遠征2日目
翌朝はいったん機材をばらして昼まで仮眠しました。
今までも遠征で連夜の撮影(ポタ赤時代)をしたことはありましたが、その時は撮影地を転々と移動しての撮影でした。今回は初めて同じ撮影地での連夜の撮影で、昼間はさすがに手持無沙汰があるかと心配しましたが、そのぶん体をしっかり休めることが出来ました。
2日目の夜の天気予測は快晴で、しかも天城特有の風もかなり弱い予報に期待に胸が膨らみました。そんな好条件を狙ってか、夕方にはぞくぞくと天文屋さんも到着してとても賑やかな夜となりました。
カラフルタウンの撮り増し
この日のメイン鏡の対象は『M8・M20』の予定でしたが、この対象が上って来るまではやはり前日の薄雲の通過で今一つ露光時間を確保できなかったカラフルタウンを撮り増ししました。この領域の複雑も美しい構造を表現するには3時間くらいは撮りたいところ。
最終的には1日目の72分、2日目の87分、総露出時間2時間39分となりました。
カメラ Nikon D7100(IR-custom)
鏡筒 AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR Ⅱ(f/3.2)
架台 CELESTRON Advanced VX
ガイド鏡 SVBONY SV165(30mm F4)
ガイドカメラ QHYCCD QHY5L-ⅡM
ガイディングソフト PHD2
ダーク減算 RStacker(16枚)
フラット補正 RStacker(64枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(180秒×53枚 計2時間39分 ISO1250)
画像処理 StellaImage9 & ADOBE Photoshop CC
その他
・QHYCCD Polemaster
『M8・M20』
『M8・M20』はさそり座とともにこの時期の最も人気の対象のひとつ。私もご多分に漏れず昨年ミルバス135mmで撮りましたが、今回はサンニッパでのクローズアップ撮影。
カメラ Nikon D7100(IR-custom)
鏡筒 AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR Ⅱ(f/3.2)
架台 CELESTRON Advanced VX
ガイド鏡 SVBONY SV165(30mm F4)
ガイドカメラ QHYCCD QHY5L-ⅡM
ガイディングソフト PHD2
ダーク減算 なし
フラット補正 RStacker(64枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(180秒×27枚 計81分 ISO1250)
画像処理 ADOBE Photoshop CC
その他
・QHYCCD Polemaster
天の川の中心部付近(縦構図)
サブのGFX+ミルバス135mmのほうはこの日は天の川一点狙い。
先月は横構図で撮りましたがこの対象は縦構図のほうが収まりが良いので再チャレンジでしたが、先月同様星が少し流れていて満足できず1日目に続いてまたもボツとしました。
現場では点像に見えたのですが、どうもGFXの再生画面の拡大率があまり良くないようで、この辺りは今後の改善案件となりました。
遠征を終えて
私はデジカメのダークはいつも薄明開始直後から撮影しているのですが、2夜連続の撮影ですっかり疲れてしまって2日目は周りがすっかり白んでくる頃、周りの方々が撤収作業されている頃まで寝てしまいました。
実は3日連続撮影(天城から好天予測の北関東へ移動)も考えていましたが、帰りの高速道路の渋滞に見事にハマって疲れてしまい止めました。
天体撮影に関しては夜間の撮影になります。
途中で仮眠する人、仮眠しない人、いろいろかと思いますが私は数枚ごとにしっかり撮影できているか気になって確認したいので基本的にはほぼ仮眠せずに撮影しています。と言うことで夜通しだいたい起きていることになりますが、これが結構体力を奪われます。
登山とはまた違う疲労感で、これにはなかなか慣れません。
登山はトレーニングなどで基本的な体力は強化できますが、徹夜の監視撮影というのはなかなかトレーニングでどうこう出来ない部分です。天体遠征での連泊はあまり無理しない範囲内で収めていきたいところです。
2台体制の限界点
赤道儀を買い増してからは2台体制で撮影できるようになりましたが、やってみるとなかなか骨が折れると感じています。片方はポタ赤でノータッチで撮影していますが、AVXでオートガイド撮影を始めてみると監視することが増えてこれ以上は手に負えないと個人的に思い始めています。
実は2日目は隣で撮影されていたしょきさんも撮影開始直後はFSQ106とμ250の2台体制で撮影されていましたが、両方ともガイド撮影(PC2台)、それも片方は冷却モノクロと言うことで相当に苦労されているようでした。
1台体制にして撮影は一点集中、手が空いたら星空を眼視観望で楽しむという無理のない運用が実はもっとも幸せになれるように感じています。
悩ましい100mm前後のカメラレンズ
サンニッパで撮影できるようになりGFX+ミルバス135mmがサブに回って写野角的には換算108mmとなりましたが、間違いなく今後撮るものが無くなってくると感じています。少なくとも今回の天城遠征では先月と構図を横から縦に変えただけで、2日間とも先月と同じものを撮りました。今後は夏のはくちょう座付近、秋のケフェウスからカシオペア、冬のオリオンくらいしか残っていません。
明るい広角の単焦点レンズを用いての星景写真であれば景色の部分を変えながら言ってしまえば無限に撮れると思いますが、中望遠レンズの星野写真は1、2年でほぼ撮り終わってしまうでしょう。
今後の予定
オートガイド撮影を始めたことで今後はカメラレンズの明るさよりも、より星像の美しいアストログラフ(写真鏡)の導入を考えています。サンニッパは明るくてシャープと言うところが最大の利点ですが、やはりどうしてもレンズ構成枚数が多いことによる輝星像の歪さには不満があります。
それからオートガイダーを導入したことでAVXのPEC機能が使えるので、それも今後試してみたいところです。PEC機能を使うことでさらにガイドが安定するのかは分かりませんが、やれることはやっておきたいところです。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。