年始の新機材でのテスト撮影を経て、いよいよ2022年の本格的な天体写真遠征に出かけてきました。星果的には残念でしたが、遠征ならではの有意義な時間を過ごせました。
さらに後日、追加遠征も敢行し今後の撮影に向けての地固めを行いました。
- さそりの季節
- 朝霧アリーナ
- 極軸合わせの手段を無くした天文屋
- おとめ座銀河団
- 『霊峰富士』新星景
- 追加遠征
- IC4592『青い馬』
- 今後の天体写真
さそりの季節
1月・2月は季節柄、系外銀河を中心とした長焦点が活躍する時期のため短焦点のカメラレンズで天体撮影している私にとってわずかな休止期間となります。しかし3月、早春と言えるこの時期からいよいよ未明前から夏の天の川を引っ張るようにさそり座が昇ってきます。
このさそり座がまずは新たなシーズンの幕開けとなりますが、きれいに仕上げるにはやはり南天の暗さが欲しいところ。昨年、一昨年、そしてこのブログ以前もそうですが早春はこの南天の暗さを求めて天城方面へ遠征していました。
昨年4月の天城遠征 ↓
今回も天城方面でさそりを迎撃するべく準備を進めていましたが、残念ながらこの日は天城方面は強風予報が出ていました。焦点距離の短いカメラレンズなら多少の風でもイケそうに思いましたが、暴風に近い予報が出ていて諦めました。
関東では南方面に大都市が点在するためどうしても南天が暗い撮影地と言うのはこの天城か、房総方面くらいしか思いつかないのが毎年の悩み。特にあの天城の南天の暗さを体験してしまうと、他の撮影地で低空のアンタレスを撮影する意欲が湧いてきません。
“贅沢な悩み”ではありますがその天城が無理そう。
と言うことで今回は中途半端にさそりを狙うくらいなら、最近ご無沙汰していた富士山界隈で早春の富士山を絡めた星景でも良いかなと思い始めました。さらにAVX赤道儀を導入したことで焦点距離も300mmに若干伸びたので、今まで敬遠せざるを得なかった早春の銀河団も合わせて撮ってみたいと思っていました。
朝霧アリーナ
富士山周辺に関してはまだ本格的な星野写真にのめり込む以前、富士山を絡めた星景写真の撮影でたびたび足を運んでいました。天体撮影地として有名どころも多いこの富士界隈ですが、以前に撮影で訪れたことのある『全国育樹祭記念広場』や天文界隈では通称『ガリバー』として知られる撮影地へ下見してみましたが、最終的には今回は『朝霧アリーナ』に落ち着きました。
春霞
この日は下見の関係もあって昼過ぎには河口湖ICに着きましたが、なんとここまで来てみても間近に「ドドンッ」と見えるはずの富士山が春霞でモヤって真っ白。晴れてはいますが青空ではなく白みがかった、実に透明度の悪い空…。
ここ数日の急激な気温上昇もあるでしょうし、ひょっとしたら黄砂の影響もあるかもしれませんが、とてもとても今夜はきれいな星空が拝めるとは思えない悪条件でした。
山岳写真を多く撮影する私ですがあまり富士山は撮影対象としないタイプなので、今回折角の富士山のお膝元なのだからと、この空の状態もあって今回は星景をメインに撮影していこうとはっきりと決めました。
大盛況の朝霧アリーナ
今回が初めての撮影地ということもあり不安もありましたが、新月期の週末と言うことでここ朝霧アリーナは天文ファンで大盛況でした。到着がまだ夕方の明るいうちだったと言うこともあって、みるみるコンクリートの地面から生えるようにごつい赤道儀に載った大型の望遠鏡が立ち並ぶのを目にすることが出来ました。私のような天体写真万年ビギナーからしたら頭がくらくらしてくるような一品ばかり…。
遠征では撮影ももちろんですがこのような方々と天文談義したり、機材拝見したりするのも楽しみのひとつで、撮影地の情報共有や画像処理、撮影方法なども含めて本当に有意義な情報を頂けます。以前も遠征記で書きましたが私はどこかの天文サークルに所属しているわけでは無く、ひとりで細々と、それこそ撮影地でも彼らの邪魔にならぬよう隅っこで撮影を楽しんできました。そのような境遇の私からすると、多くの気さくな天文ファンの方々と交流できるのが遠征の大きな醍醐味、モチベーションにもなっています。
今回も年始や昨年12月にご一緒させていただいた天文同志まささん(現しょきさん)をはじめとして、多くの方々の中に混じって楽しく撮影させていただきました。
極軸合わせの手段を無くした天文屋
あくまでメインは明け方前に昇ってくる夏の天の川と富士山の星景写真でしたが、それまで何も撮らないのももったいないので今回初めて銀河団にチャレンジ。もちろん焦点距離が焦点距離なので、どのみち銀河団は米粒のようなものしか撮れませんが…。
しかし今回、今までだましだまし使ってきたポールマスターについに根負けしました。初めてこのポールマスターを使ったときはまさに “チートアイテム” とさえ感じていましたが、ここ数回の遠征ではまったく機能してくれません。
ドライバーが悪いのか、
撮影用のPCが悪いのか、
そのお互いの相性が悪いのか…。
周りの皆さんはすんなりと極軸合わせを終え、すでに撮影の準備が出来ているご様子。かれこれ1時間ほどPCと睨めっこ状態でしたが、
「もう、こりゃ無いわ…」
と見限りました。
撮影されているベテランの方々の不具合は、
「ガイドが安定しない…」
「シーイングが悪くて…」
「風で…」
という文言ですが、私の場合そこにすらたどり着いていないことにもう嫌気がさし、自分に苛立ちました。光学式の極軸望遠鏡も無いので、この夜は星野撮影はほぼ詰み。
(この時点ではAVXにポーラーアライメント機能がある事は知りませんでした。)
このポールマスターの不具合の件ですが、これを執筆している現在、どうもポールマスター自体がかなりPCのパフォーマンス状態に影響を受けるという情報をネット上にて拝見いたしました。やはり私の不具合も “カクカク” してしまい使い物にならないという状態です。拝見した情報の中にWindowsアプリにある『3Dビューアー』を同時に立ち上げておくとPCが半強制的に高パフォーマンス状態となりポールマスターもスムーズな動きになるとのことで試してみたところスムーズに動くことを確認しました。次回の撮影時にはこの方法で使用してみたいと思います。
おとめ座銀河団
もはや適当に極軸合わせをスルーしたということでこの日の前半戦の銀河団撮影は改めて “お試し” と言うことで撮影しました。2021年12月のレナード彗星撮影時もそうでしたが、いかんせん銀河の知識がゼロに近い人間なので、今回もまずは撮ってみるということが大切。
今回は露光時間を短くして枚数を稼ぐ作戦でしたが、そもそも極軸が合っていないのでガイド成功率が低くて使える画像はわずか25%ほど。来年はもう少しマシな撮影が出来るようにしたいところです。
カメラ Nikon D7100(IR-custom)
鏡筒 AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR Ⅱ(f/3.2)
架台 CELESTRON Advanced VX(ノータッチガイド)
ダーク減算 RStacker(8枚)
フラット補正 RStacker(64枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(90秒×14枚 計21分 iso1600)
画像処理 ADOBE Photoshop CC
星雲屋の私の場合そもそも焦点距離的に狙うのは無理がありますが、それでも処理しながら目を凝らすと渦を巻いた小さな銀河がいくつも点在していて広大な宇宙をひしひしと感じながらも、なんだかその一つ一つの銀河が “かわいらしい” 印象もあって星雲とはまた違う魅力があることに気づきました。
1月のテスト撮影時は開放の f/2.8で撮りましたが、今回は f/3.2で撮りました。さすがに天体望遠鏡には敵いませんが開放でも素晴らしい写りのサンニッパとは言え、やはりすこし絞って撮影するとシャープさはそれほど変わりませんが、星の歪さが消えて丸に近い写りとなります。さらに開放では中間輝星にヒゲのようなものも見られますので、今後は f/3.2で撮影するつもりです。ジャスピンを追い込めるかどうかも今後の課題となりました。
『霊峰富士』新星景
星の写真に関して、ポタ赤(SWAT200)を導入してからは山での山岳星景を除いてすっかり星野写真がメインとなりました。しかしそこは朝霧高原、霊峰富士山が目の前に鎮座するこの素晴らしいロケーション。やはりここで星景写真を撮らないわけにはいきませんでした。
それに富士界隈自体、私は普段ほとんど来ないのでこのチャンスを逃したら次はいつになるのかわかりません。
朝霧の淡い天の川
仮眠を挟んで3時半くらいから撮り始めましたが、やはり朝霧とは言え南東側はかなり明るい。暗い撮影地では天の川がまさに雲のように肉眼でもはっきりと見えますが、ここ朝霧ではカメラで撮らないと分からないくらいに光害に埋もれて淡い。もちろんもっと高度が上げれば肉眼でもきれいに見えるかと思いますが、早春の、まだ始まったばかりの低空の天の川はとても淡かった…。
しかし撮像上、撮影中の背面液晶上ではやはり富士山の裾野から昇る天の川は美しい早春のそれでした。
カメラ FUJIFILM GFX50SⅡ
レンズ FUJINON GF35-70mm F4.5-5.6 (f/5.2)
架台 Unitec SWAT200(ノータッチガイド)
ダーク減算 無し
フラット補正 無し
現像 ADOBE Lightroom Classic
コンポジット・画像処理 ADOBE Photoshop CC
固定フレーム 60秒×4枚 計4分 iso5000
追尾フレーム 60秒×8枚 計8分 iso5000
軟調志向
昨今はこのマスク合成による星景写真も市民権を得て、ネット上(特にSNS界隈)ではゴージャスな星景写真を多く目にするようになりましたが、今回はあえて眼視に近いイメージと言いますか、ナチュラル路線で処理しました。インパクトのある硬調な仕上がりイメージではありませんが、この手法だと最終的にとてもノイズの少ない美しい仕上がりになり、最近はマスク合成に関してはその恩恵だけでも十分だと個人的に感じています。
これは自分自身が星野写真の方で淡いガスや星間物質を強調して楽しんでいるからかもしれません。だから「星景写真はナチュラル志向でいい」と思うようになったのかもしれません。
追加遠征
ポーラーアライメント
さてこの朝霧遠征で直面した極軸合わせの問題。
まだポタ赤メインでポールマスター導入以前にやっていた簡易的なドリフト法で合わせても良いのですが、ちまちま合わせるのが個人的に面倒に感じていました。
それに私のドリフト法は “ここに、これを合わせる” と言うものではないため、いつも落としどころが難しくて下手をすると泥沼に陥る可能性も否めません。
そんな折、自宅に帰っていろいろ調べてみると我がAVX赤道儀には『ポーラーアライメント』という機能が備わっていることを知りました。自動導入のためのツースターアライメントを行った後に行える追加のアライメント機能のようなもので、
純正のVX用の極軸望遠鏡がかなり簡素な仕様なのはこの機能が備わっていることも関係しているのでしょうか?
そこでこの極軸合わせやアライメントを行う際にテレコンを使って焦点距離を伸ばして行えばさらに精度も高まるかもと考え、それをすぐにテストしたくて後日に妙義へ追加遠征しました。
カメラレンズでのポーラーアライメント
実際のアライメント作業では望遠鏡に備わった『ファインダー』と『アイピース』を使って指定した星が『中央に来るように補正しろ』とコントローラーにメッセージが出ますが、私は生憎カメラレンズでやっています。
そこで私は独自のやり方として、
『アイピース』 → 背面液晶で拡大(ライブビューにて中央点表示)
これによりドリフトでちまちま合わせるよりも “ここに、これを合わせろ” という基準があるので、とりあえずは極軸合わせの落としどころを決定することが出来ます。もちろん電子極軸望遠鏡よりも精度は劣るかもしれませんが、テスト撮影してみると大口径の短焦点のカメラレンズであれば十分許容範囲に収まると感じました。
将来的にはオートガイダーと併用すれば極軸望遠鏡はおろか、北極星が見えない環境でもそこそこ設置・撮影も可能なのではないかと。それにこの方法だとPCを現場で開く必要も無いので、現場での悪夢と言えるPCトラブルを回避できるのも私にとって重要なポイントと感じました。
電子極軸望遠鏡は赤経軸の実際の回転軸を割り出し、その回転軸を天の北極に合わせることが出来るので理論上はたいへん精度高く調整が可能です。光学式の極望は前提条件として極望自体の光軸が合っている、回転軸と極望の光軸が合っている必要があるわけなので、これがそもそもズレていたら極軸は正確に合いません。
IC4592『青い馬』
青い馬星雲テスト撮影
この日は月没後にさそり座が狙える月齢ということで妙義の南東方面の光害を考慮してアンタレスよりも高度が上がる『青い馬星雲』にレンズを向けました。焦点距離300mm、フルサイズ換算で450mmという写野角のノータッチガイドになりますが、このポーラーアライメントのおかげもあってそこそこの成功率(7割くらい?)でした。
ただこの写野角ですと青い馬星雲には少し狭くぎゅうぎゅう構図で、フルサイズで撮影するとちょうど良い画角になると思います。と言うことで『GFX50SⅡ』の35mm判モードで撮っても良かったのかなと…。
この対象は淡いガスがメインの反射星雲なので露光時間が全く足りていませんが、ポーラーアライメントでのテスト撮影としては個人的には大成功と感じました。
カメラ Nikon D7100(IR-custom)
鏡筒 AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR Ⅱ(f/3.2)
架台 CELESTRON Advanced VX(ノータッチガイド)
ダーク減算 RStacker(8枚)
フラット補正 RStacker(64枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(100秒×32枚 計53分 iso1600)
画像処理 ADOBE Photoshop CC & StellaImage 9
このIC4592は『青い馬』と言われますが、確かに上下をさかさまに見ると馬の首から頭にかけてに見えますね。露出時間がトータル1時間弱だったこともあり、これ以上強調してもノイズまみれになって見るに堪えないので途中でやめました。
ステライメージ9導入
画像処理では今回初めて『ステライメージ9』も使用しました。
実際にはDSSから出てきたコンポジット済みのTIFF画像をこの『ステライメージ9』に取り込み、オートストレッチとデジタル現像を施したのみ。コンポジットも含めてダーク・フラット処理や最終調整(カブリ処理含む)、強調処理などは今までどおりDSSやRStacker、Photoshopで行っています。
DSSから出てくるTIFF画像は超軟調で、今まではこの状態からいきなりPhotoshopでカブリ補正後に強調処理していたのですが、この『ステライメージ9』を間に挟むことでかなり処理が楽になりましたし、より自然な仕上がりになるように心がけました。
ということで私は今後もステライメージはPhotoshopを補完するような立ち位置での運用を考えています。
なお『ステライメージ9』に関しての詳しい情報・仕様は販売元のアストロアーツ社様の公式ページをご覧ください。Stella Image 9 |Astro Arts Inc.
今後の天体写真
2022年の天体遠征は追加的な遠征も含めて今まで以上にハイペース。これはやはり本格的な赤道儀を手に入れたことが大きくて、焦点距離が伸びたことで撮影対象が広がったからでしょう。どうしてもポタ赤搭載の中望遠のカメラレンズでは年間で10対象ほど撮ったらあとはマニアックなものにレンズを向けるしかなかったですから。
ただやはり焦点距離が伸びたことで今まで以上に撮影のシビアさが要求されるとも感じました。300mm、フルサイズ換算で450mm程度でそう感じるのですから、1,000mmを超える焦点距離で撮影されている方々は大変なんだなと思います。
すぐにというわけではありませんが、やはり本格的なアストログラフを載せることが可能になったことで、いよいよ私もその物色・選定にも真剣に向き合いようになりました。まずはその日がやってくる前に更なる撮影の精度や、画像処理についてもステップアップできればと思っています。
最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございます。