天体写真への誘い⑤(ポタ赤編)

COLUMN

今回は天体写真撮影で必要になってくる赤道儀についてです。
前回までで天体撮影において必要になってくる基本知識やカメラ、レンズなどの機材について触れてきました。基本的には撮影機材については皆さんがお持ちのカメラやレンズでも十分対応可能です。
しかし天体撮影を始めるにあたり『赤道儀』という機材は初めての方にはかなり敷居が高い機材になると思います。実際、私もそうでしたから。
かなり簡潔に、できるだけわかりやすく赤道儀についてまとめてみました。

赤道儀とは

赤道儀の基本

さて、赤道儀は他のジャンルではまず使用されることはない機材のため、冒頭でも書きましたが一般撮影をされている方々からしたらなかなかに手を出しづらい機材かもしれません。
そもそも「赤道儀って?」という方もおられるかもしれません。

ご存じの通り、星は常に動き続けています。
もちろん “星は” ではなく “地球は” ということになるのですが、1時間に約15°動いています。これを日周運動と言いますが、赤道儀とはこの日周運動のスピードと全く同じスピードで回転する装置のことです。そう、ただ単に一定スピードで回転しているだけ。

私もまだ天体撮影をする前は『赤道儀』と言うとさも高性能な星を追尾する『特殊な装置』というイメージを持っていましたが、なんのことは無い、ただ単に一定の速度で動く回転装置なのです。

赤道儀と経緯台

さて、天体撮影や天体観望で使われる架台、いわゆる望遠鏡や撮影機材を載せる土台には2種類あります。それが赤道儀式架台経緯式架台です。
赤道儀は先述の通り日周運動と同じ速度で動く回転装置に対して、経緯台とは上下左右に動くだけの装置です。つまり一般の撮影で使われる3way雲台に似たものになります。望遠鏡で観望しているともちろん星は動いていくわけなので、上下左右動かして星に合わせながら使用します。
天体撮影で使われるのは赤道儀という架台になります。

経緯線

さてプラネタリウムソフトなどで星空に表示できる線のなかに『経緯線』があります。
経線は簡単に言うと南北の縦線、緯線は東西の横線。玉ねぎを包丁で縦に切るのが経線、みじん切りにするときに横から包丁を入れるイメージが緯線です。

天体はこの縦(経度)と横(緯度)の位置により探し出すことができます。
これを座標と言います。この座標という一種の “住所” があるため、目には見えない天体にも望遠鏡やカメラを向けることができるのです。

赤経軸と赤緯軸

赤道儀の多くはどの天体にも向けても撮影できるように作られているので回転軸はふたつ(経度・緯度)あることになります。星の経度の動きに合わせて動く軸を赤経軸、星の緯度に合わせて動く軸を赤緯軸と言います。

ここで皆さんにイメージしていただきたいのですが、いざ撮影地に行って機材を広げて天体を撮影するとします。その時に途中で別の撮影地に移動することがあるでしょうか?
星景写真のようにこまめに移動して地上景色のパターンを変えるのは別として、まず途中で撮影地を変えることはあり得ません。つまり一晩中同じ場所、同じ位置で撮影するわけですから撮影中の緯度は変わることはありません。

これは『星を追尾撮影する』という観点に絞れば撮影中は赤緯軸の動きは必要ないということを意味しています。つまり『赤経軸の動きだけで星を追尾できる』ということになります。

先ほど赤道儀の多くは回転軸がふたつあるといいましたが、ポータブル赤道儀(以下ポタ赤)はコンパクトさを優先して赤緯軸を省いた一軸駆動(赤経軸のみ)のものがほとんどです。
そして今やそのほとんどがモーター駆動です。

赤道儀の世界

天体撮影にとって必要不可欠な赤道儀ですが、国内外メーカー問わず多くの機種が存在します。数万円のものから数十万円、そして100万円近いものまであります。
では一体その価格差はどこからくるのでしょうか?

もちろん単純に材質や大きさに起因する搭載重量の違いも大きいのですが、なによりその工作精度の違いも大きいです。先ほどの項でも取り上げましたが、赤道儀は基本的には回転軸のギヤがモーターで動くだけの単純なものです。単純なものゆえにその工作精度がそのまま追尾精度に直結します。
・ギアのかみ合わせの精度
・ギアの歯数
・ギア自体の素材や工作精度
・どのようなモーターで駆動するのか
・ベアリングの有無やその数
・バックラッシュの大きさ
・ウォームホイールの大きさ
などなど、様々な要因で追尾精度は決まってきます。

ピリオディックモーション
ピリオディックモーションとは赤道儀の追尾精度を数値化したものです。
赤道儀には多くの部材が使われていて、そのギヤ自体の工作精度、その部材の組み立て精度によって回転装置の動きにムラが出てしまいます。
この回転ムラの大きさを角度の秒で表した数値で、この数値が小さければ小さいほど追尾精度の良い赤道儀となります。
一般的な赤道儀は±15秒くらいが標準的な数値と言われています。

オートガイド

もちろん追尾精度は焦点距離が長くなればなるほど要求されます。
しかし現在は長焦点撮影では『オートガイド撮影』をすることが多くなっています。オートガイド撮影とは撮影機材とは別に、監視用の小型のカメラ・レンズを同じ赤道儀上に搭載して追尾のズレを検知しながら補正信号を赤道儀に送る装置を使う撮影方法です。

以前は小型と言ってもそこそこの重さを撮影機材とは別に支えなければいけませんでしたが、最近では超高感度のカメラを使った非常に小型のオートガイドシステムを組むことができるようになりました。これによって多少赤道儀の追尾精度が悪くても『オートガイドで補正する前提』という概念も増えつつあります。

自動導入

さて先述のとおり、天体はそれぞれ座標という住所のようなものを持っています。明るい星のそばにある天体や、広角~標準域での撮影ならば “どこにカメラを向ければ良いか(導入)” はさほど難しい問題ではありません。多少の慣れは必要になりますがカメラのファインダーを覗きながら向ければ可能なものです。

しかしこれが長焦点であったり、淡い天体を撮影するとなるとその天体を導入することは非常に困難になります。そのようなときに活躍するのが座標です。
ある明るい基準星を入れておき、その基準星の座標から目的の天体の座標に向けて目盛環を見ながら動かせば良いのです。

そしてそれらを自動で行ってくれるのが『自動導入機能』です。
あらかじめ自動導入ソフトには何千もの天体データが入っていて、ボタン一つ(実際はもう少しややこしいですが)で目的の天体に向けてくれます。今やスマホとwifiで接続して、そのスマホの導入アプリから自動導入できる時代になりました。

ポタ赤のすすめ

この記事をご覧になっている方々は様々だと思います。
この記事の目的である一般撮影の延長線上で天体撮影も少しやってみたい方、それこそいきなり大きな天体望遠鏡で本格的なディープスカイの撮影をやってみたい方。
もちろんいきなり長焦点の本格的な撮影鏡筒を使っての天体写真からこの世界に踏み込んでも良いのですが、なかなか苦労も投資する金額も多くなると思います。天体写真は一般的な撮影と違いかなり専門的な知識や技術が必要になってきますから、いきなりそういった難しい諸問題に対峙するにはかなり根気がいります。

それに機材が大きく重くなったり、複雑なものになったり、問題をなかなか解決するのが難しくなったりしたら、億劫になってしまうことも出てくるかもしれません。

そこで私がおすすめするのは『ポタ赤を使った標準~中望遠域の星野写真』です。

晴れない日本

日本は黒潮の影響で非常に湿度の高い国です。日本海側と太平洋側で天候は大きく異なりますが、基本的には晴天率の低いお国柄です。
そういうこともあって現役世代はとくに天体撮影するチャンスというもの自体が非常に少ないものです。

そこで仮にいずれ本格的な撮影鏡筒で撮影するにしても、その横でポタ赤を使った広めの写野である星野写真を同時に撮影することが出来れば、少ない撮影機会を有効に使えることになります。広めの写野であればそれほど高精度で大掛かりな赤道儀は必要ないですし、それこそノータッチガイド(オートガイドを使わない撮影)でじゅうぶん運用可能です。
なのでポタ赤は『持っていて損はないもの』になるはずです。

実際にハイアマチュアやベテランの方々でもセカンドやサードとして撮影地にポタ赤を持っていく方々も多い印象です。

天体撮影地での一コマ。

学習用として

先にも述べましたが、天体写真というのは一般写真と比べて非常に特殊なジャンルになります。機材はもちろんのこと、撮影方法や撮影後の画像処理など一般撮影では通常行われないような作業が多いジャンルです。非常にとっつきにくい写真ジャンルだと思います。

そういうことを踏まえて『本格的な天体写真と一般写真の橋渡し』をするにはポタ赤を使った星野写真はうってつけだと個人的には思っています。
天体写真の基礎を学ぶ方法はいくつかあると思いますが、机上で学ぶよりも実際に天体を撮影してみて体感してはじめてわかる部分が大きいですし、実感として経験を積むことがもっとも上達する近道だと思います。

価格が安い

どんな世界でも何かを始めるには初期投資が必要になります。
とくに写真系はカメラやレンズ、三脚、その他アクセサリーなど含めると非常に “高くつく” 世界です。それにネイチャー系の撮影ならフィールドへ出かけるにも交通費としてお金がかかります。

その中でも上を目指せばそれこそ “天文学的” な金額になるのが天体写真というジャンルだと思います。天文系のハイアマチュアの方々の機材ですと数百万円はくだらないと思います。資金が潤沢にある方ならそういった深い沼に入っていけると思いますが、やはり最初のうちは価格が安いものから入っていった方が良いでしょう。そういったときにポタ赤の価格の安さは大きなアドバンテージになるはずです。

ポタ赤をどう運用するか

では、そのポタ赤をどのように運用するべきか。
ポタ赤とはその名の通り “携帯性に優れた” 赤道儀です。

海外遠征などあまり大きな機材は運べないようなときや、身体的に重い機材を運用できない方もおられるでしょう。そして私のように撮影地に行って『さっと設営、さっと撮影、さっと撤収』したい方もおられるでしょう。
そんなときに活躍するのがポタ赤です。

逆に言えばそれ以外では大きくて重い機材のほうが良いです。
一般撮影での経験が豊富な方であれば三脚なんかは重くて大きいほうが “ブレない” ということは体感として経験がおありでしょう。とにかく撮影機材の土台となるものは大きくて重くて、頑丈なものであればあるほど安定します。
赤道儀も同じで、安定した結果を得るには大きくて重い赤道儀のほうが成功率は上がります。長秒露出する天体撮影では風が強い夜なんかはそういったことが非常に大きく影響します。

つまりポタ赤の優位性というのはそのコンパクトさ携帯性の良さにあるわけで、追尾精度の安定性はある程度犠牲になるのは致し方ないわけです。
要するにある程度割り切って運用する必要があるということです。

割り切り①

具体的な割り切りの一つ目は短い焦点距離で撮影するということです。
もちろん追尾精度は機種によって違うわけですが、基本的にはポタ赤には広角~標準、良くて中望遠域のカメラレンズでの撮影を担わせること。
ポタ赤に300㎜の望遠レンズを載せるのはかなり無理がある運用だと思います。

私は最終的にはポタ赤に70-200㎜を載せて運用してきましたが、やはり200㎜ですらかなり条件を選ぶ(バランスをしっかりとる・風が無いなど)運用でした。
時には撮影した画像のうち3分の2が失敗画像だったことがありました。
ポタ赤運用はとにかく欲張らずに長くても焦点距離100㎜前後をターゲットとした運用すべきだと思います。

割り切り②

もう一つの割り切りはシステムを簡素にするということ。
これは私の考え方なので運用自体はもちろんひとそれぞれ考え方が違いますし、簡単に言えば『好きなように運用すれば良い』となってしまうのですが、私はポタ赤であれば簡素なシステムでの運用が良いと思っています。

ポタ赤はその取り回しの良さが一番の特徴・利点なので、その方向で運用すべきと思います。最近ではポタ赤にもガイドポートが搭載され、一軸となりますがオートガイド撮影できるような機種も多いです。実際に私の所有する『SWAT200』にもST-4互換のガイドポートが別売りのコントローラーに付いています。

私も一時はこの『SWAT200』でオートガイド撮影を導入しようかとオートガイダーを物色していた時期もありましたが止めました。この『SWAT200』には明るい大口径のカメラレンズを載せて、天体望遠鏡には無いその “明るさ・ハイスピードさ” を活かしてオートガイドを用いない、いわゆる “ノータッチガイド” で運用すべきだろうと…。
少なくとも私にはその運用がポタ赤での星野写真における最適解と判断しました。

主なポータブル赤道儀の紹介

さて今現在入手可能なポタ赤をいくつか取り上げてみたいと思います。
もちろん私は『SWAT200』しか使用したことが無いので実際の使用感や追尾精度などは分かりませんのでご了承ください。

ビクセン

天文系の国産メーカーの雄、ビクセンからは『ポラリエ』という最も有名なポタ赤が販売されています。最近では派生モデルの『ポラリエU』という機種も併売されているようです。

Vixen『ポラリエ』

Vixen『ポラリエU』

両機種ともとてもコンパクトで軽量です。
しかし軽量がゆえにあまり重い機材は載せられません。
ただポラリエにはオプションで純正の拡張キットも出ているほか、サードパーティからも拡張キットが出ていたりするので、カウンターバランスを取ることができるのは大きな利点です。

Vixen 星空雲台 ポラリエ
Vixen 星空雲台 ポラリエU

ケンコートキナー

ケンコートキナーからはビクセンのポラリエと人気を二分する『スカイメモシリーズ』が販売されています。

Kenko Tokina『スカイメモS』

やはりこのスカイメモシリーズにもポラリエと同様に様々なオプション品が用意されており拡張性も高いようです。
標準で明視野照明装置がついた極軸望遠鏡が搭載されているのも大きなポイント。
比較的低価格帯であることや最低限の機能がすべて揃うなど、初心者にはおススメだと思います。

Kenko Tokina スカイメモS

ユニテックSWATシリーズ

私が現在使用している『SWAT200』をエントリー機としたユニテックが展開するSWATシリーズ。
大型のウォームホイールを採用したり、アルミ削り出しが美しい各種オプションパーツが豊富であったり、とにかく追尾精度に拘った製品。

Unitec『SWAT350 V-spec』

出荷前に全品のピリオディックモーションを測定して、基準内であるものを出荷しているという拘りよう。現在はすでに『SWAT200』は生産終了のため、『SWAT310』がエントリーモデルとなったためポタ赤としてはかなり高額になってしまった。

Unitec SWATシリーズ

トーストテクノロジー

トーストシリーズは、SWATシリーズと源流は同じということもありSWATと似たポタ赤。ただSWATとは思想が異なり、とにかく “シンプルな運用” に拘っているようでSWATのように拡張パーツというのはそれほど多くはありません。
現在では『TP-2』という機種が入手可能で、価格的にも『SWAT200』と同じような価格帯で販売されています。

TOAST TECHNOLOGY TP-2

サイトロンジャパン

サイトロンジャパンからは超小型の『ナノトラッカー』(現在は『NEWナノトラッカー』)が販売されています。

小型軽量な『NEW ナノトラッカー』

なんと重量はわずか400gでコンパクトなポタ赤。
ただ搭載重量は約2㎏なので軽量機材限定という使い方になると思いますが、山岳地帯などに歩いて撮影地にもっていく場面では大活躍しそう。ミラーレスの台頭で撮影機材もどんどん軽量になってきていますのでこういった製品でも運用が可能だと思います。
とくに山での本格的な天の川星景や新星景など、超小型ならではの使い道がありそうです。
個人的にも登山のお供に欲しい機材。

SIGHTRON New ナノトラッカー

この他にも現在多くのポタ赤が入手可能ですのでググってみてください。
様々な機種がありますが、自分の用途に合わせて選ぶとよいです。
軽量さやコンパクトさを優先するのか、追尾精度や搭載重量を優先するのか、このあたりは所有機材も含めて人それぞれなので。
こういった機材選び、機材の悩み自体も天体写真の大きな楽しみの一つでもあると思います。