日本の四季と星空(1月~3月編)

COLUMN

日本は温暖で湿潤な気候で、非常に変化に富んだ四季が特徴的です。しかし温暖とはいえ北海道では冬になれば氷点下が日常的ですし、本州平野部でも軽井沢や嬬恋などの比較的高地になると-15℃にもなりますし、豪雪で有名な青森県酸ヶ湯では毎年4M近い積雪があります。

一方で、沖縄や小笠原諸島では南国さながらの気候になりますし、真夏になれば昨今のヒートアイランドの影響もあり埼玉県熊谷をはじめとして40℃を越える酷暑になるところも多くなりました。

季節の変化を気温や景色、植物など風土で感じることが出来る日本。そしてそれとともに夜空を見上げればそこにもまた季節の移ろいを感じることが出来ます。

四季とともに変化する風土と重ね合わせながらそれぞれの季節ごとの星空(天体)を楽しめるのも日本の特徴でもあります。今回は1月~3月の冬の対象を取り上げます。

目次

  • 1月
  • ぎょしゃ座付近の星雲・星団
  • M45 すばる(プレアデス星団)
  • NGC1499(カリフォルニア星雲)
  • オリオン座にある散光星雲群
  • NGC2237(バラ星雲)
  • 2月
  • 3月

1月

日本の冬は大陸からの寒気と西高東低の気圧配置の影響により、日本海側では雪雲に覆われ厳しい寒さが続き、なかなか晴れず綺麗な星空を眺めることは出来ません。辺り一面は銀世界、空は日常的に雲に覆われてしまいます。一方で太平洋側は乾燥した晴天が続き星空観測や天体撮影には適した気候になります。

山は極寒の世界と化し閉ざされます。高い山では樹氷や霧氷が形成され、一部の滝は氷瀑し天然の彫刻と化し、極寒の地ではダイヤモンドダストも見ることができます。動植物たちはじっと寒さに耐え来たる春を待ちます。

そんな冬に夜空を見上げてまず目に入ってくるのは冬の星座の王者オリオン座です。おそらく日本において誰もが知っている最もメジャーな星座ではないでしょうか。都市部でもオリオン座なら十分確認できます。光害の少ないところでは『冬の大三角』を確認できます。

冬の大三角と冬のダイヤモンド
ベテルギウス(オリオン座左上の赤い恒星)
シリウス(おおいぬ座の全天で最も明るい恒星)
プロキオン(こいぬ座のα星)
の三つの星を結んだ三角形が『冬の大三角』、

シリウス
リゲル(オリオン座右下のβ星)
アルデバラン(おうし座のα星)
カペラ(ぎょしゃ座のα星)
ポルックス(ふたご座のα星)
プロキオン
の六つの星を結んだ六角形が『冬のダイヤモンド

『冬の大三角』や『冬のダイヤモンド』を確認できればその中を流れる冬の天の川も見ることができます。夏の天の川と違って冬のそれは淡く青白く見えるので、それがまた日本の寒々しい冬の景色とマッチします。“南天に輝くオリオン座と荘厳な雪山”など冬の風景とオリオン座はよく撮影されるテーマのひとつです。

冬の天の川に沿うように撮影対象として人気のある星雲・星団がひしめき合っています。

ぎょしゃ座付近の星雲・星団

秋から冬にかけて天頂に輝く5角形が特徴的なぎょしゃ座。ぎょしゃ座の一等星カペラはおおいぬ座のシリウスについで明るい星ですので、この時期に天頂を見上げれば比較的簡単に見つけることが出来ます。その5角形の中に多くの散光星雲や散開星団があります。

散光星雲 IC405(勾玉星雲)とIC410

その形が勾玉のようなので勾玉星雲と呼ばれるIC405と、そのすぐ横に見えるIC410は冬の対象の中では人気のある星雲です。肉眼では捉えられない波長のため眼視観望は出来ませんが、天体用に改造されたカメラであれば綺麗に赤く写る対象です。

IC405は赤く大きく広がった星雲ですが、中心部は青白く輝き、その赤と白のコントラストがとても美しいです。

散開星団M36、M38

ぎょしゃ座付近の観望であればIC410のすぐ上に散開星団M36とM38を見ることができます。

この領域はその他にも淡いガスや分子雲が複雑に入り組んでいますので、撮影の腕を上げたり機材の入れ替えを行ったり、または異なった焦点距離で撮ってみたりと毎年ごとに楽しめる領域です。

そしてぎょしゃ座は天頂付近まで高度が上がるので、光害カブリの影響が少ないというところが撮影や画像処理のし易さという点でビギナー向けでもあり、ぜひ狙いたい領域です。

ぎょしゃ座IC405とIC410

Nikon D7100(改)

山は雪と凍りの世界に

Nikon D810

M45 すばる(プレアデス星団)

こちらも晩秋から冬にかけて人気のあるおうし座の散開星団。視力の良い人であれば肉眼でもはっきりと見える巨大な星の集まりで、その星々の周囲にガスが纏わり付いていてそのガスに星の光が反射して青白く見えます。そこがまたどこか寒々しく寂しげで冬の日本の風土にマッチしています。

白く寒々しい雪山と青く光る散開星団は最高のコラボレーションと思います。夜半過ぎに西に傾くすばると雪山の稜線という構図になるでしょうか。

撮影してもよし、望遠鏡での眼視観望もよし、と晩秋から冬にかけての代表的な対象です。ちなみにM45は散開星団の中でも際立って大きな星団ですので、天体望遠鏡をお持ちでなくともバードウォッチングやスポーツ観戦などで使うような双眼鏡をもしお持ちであれば、それでも十分綺麗に見えますのでオススメです。

NGC1499(カリフォルニア星雲)

M45(すばる)の北側にあるペルセウス座の赤い散光星雲。米国カリフォルニア州の形に似ていることからその名前が付いています。こちらもメジャーな星雲ですが肉眼では観望することは出来ません。ただ天体改造していないノーマルなデジカメでもしっかり露光すれば薄っすらと赤く写ります。

オリオン座にある散光星雲群

冬の王者オリオン座付近は超メジャーな冬の散光星雲のオンパレードとなります。冬の観望・撮影のハイライトと言えます。

IC434(馬頭星雲)

冬の対象としては最も有名な馬頭星雲。暗黒部が馬の頭の形に似ていることからそう命名されています。オリオン座の三ツ星(オリオンベルト)の左側のゼータ星アルニタク付近にあります。カリフォルニア星雲同様、この星雲もノーマルカメラでも露出時間さえしっかりかければ薄っすらと赤く写りますし、すぐそばの“燃える木星雲”はそれほど長秒露光しなくてもけっこう写ります。

天体写真を撮っている方で、馬頭星雲を撮ったことがない人はいないのでは?と言えるほどのメジャーな対象です。

M42(オリオン大星雲)

馬頭星雲と肩を並べる冬の定番です。三ツ星の南に煌々と輝き視力の良い人ならば肉眼でも捉えることが出来ます。双眼鏡や望遠鏡による観望、そしてもちろん撮影でもとても美しい煌きを目にすることが出来ます。

ノーマルカメラでも中心部は写りますが、天体改造したカメラで撮ると赤い星雲の広がりまでしっかり写すことが出来ます。Hα領域の代表的星雲です。

デジカメの天体改造
もともとデジタルカメラに使われるCMOSセンサーはそのままだと赤外線域まで写ってしまい画像が赤くなってしまいます。そのため市販のデジカメには人の目に見える色に合わせる目的で赤外線域をカットするフィルターがセンサーの前面に取り付けられています。しかしそれが天体撮影では逆に仇となってしまい赤外線域(Hα域)の波長で光る天体を写せなくなってしまうので、そのフィルターを再び取り除いて光路長を合わせるために別のクリアフィルターに置き換える改造を施します。
改造は天体ショップなどを通じて専門業者が取り扱っていますが、もちろんメーカー保証外なので自己責任となります。2019年8月現在、メーカーの純正品としての天体用カメラはNikon D810Aしかありません(過去CanonからEOS 60Daなどが販売されていました)。

M78

三ツ星の北側にある散光星雲です。こちらもメジャーな対象で中心部は比較的明るいですが、星雲の広がりや暗黒部まで綺麗に写すにはかなり難易度が高い対象です。

バーナードループ(Sh2-276)

オリオン座の左側を大きく半円を描くようにあるループ状の散光星雲。淡い対象のため肉眼では見えませんし、またノーマルカメラではほとんど写すことが出来ません。上記で取り上げた三ツ星や馬頭星雲、オリオン大星雲、M78などがこのバーナードループに囲まれています。

以上のようにオリオン座付近だけでもかなりのメジャー対象がひしめき合っています。さらに周辺にはもっと淡い対象も多くNGC2170やIC2118(魔女の横顔)、Sh2-264(エンゼルフィッシュ星雲)など本当に賑やかな領域です。

オリオン座の賑やかな散光星雲群 Nikon D7100(改)

さらに星景写真としてもオリオン座は魅力的で、広角レンズにソフトフィルターを併用しオリオン座に雪景色などを絡めたりすると日本の冬らしい凜とした情景を表現できます。

煌くオリオンと厳冬の浅間山

NGC2237(バラ星雲)

冬の大三角の上部、いっかくじゅう座にある散光星雲です。こちらもとても人気のある冬の対象の代表格です。その名のとおり赤いバラが宇宙空間に咲いているかのような星雲はとても美しく魅力的な対象です。ノーマルカメラではなかなか写りにくい対象で、私が初めて改造機を手にしたときに最初にレンズを向けた対象でした。

上記の作例『煌くオリオンと厳冬の浅間山』に写っているオレンジ色に輝くベテルギウス。そのベテルギウスの左側(東側)にある赤い星雲がバラ星雲です。

年老いたベテルギウス
冬の大三角をシリウス、プロキオンとともに形成するオリオン座の赤色超巨星。その直径はなんと木星の太陽系軌道の直径に匹敵すると言われています。まさしく想像を超える天文学的な大きさ。若い星は蒼く、年老いた星は赤く(オレンジ色)見えるため、ベテルギウスはまもなく超新星爆発を起こすほど年老いた星と言われています。地球から約600光年も離れているのでもしかしたら今現在、もうすでに爆発しているのかもしれません。

その他、このバラ星雲の北側にはクリスマスツリー星団(コーン星雲)、南側にはかもめ星雲などもあり、冬の天の川沿いには多くの魅力的な対象が詰まっています。

2月

賑やかな冬の天の川やオリオン座が西に傾いてくると、主要な星雲はいなくなってしまい夜空は閑散とします。気候も一段と寒くなり、まさに外は地上も夜空も閉塞感が漂います。

星座では東から春の使者しし座や、北天にはおおぐま座の北斗七星がようやく昇ってきます。

全天一明るいおおいぬ座のシリウスの南、南の地平線付近にはシリウスに次ぐ全天で二番目に明るく輝くカノープスを見ることができます。

さらにこの時期、長焦点の望遠鏡を用意できればさまざまな系外銀河を楽しむことが出来ます。しし座のトリオ銀河やおとめ座銀河団『マルカリアンチェーン』、 子持ち銀河など2月の寒空に浮かぶディープスカイの世界を堪能できます。

3月

3月になると日に日に寒さは和らぎ、梅は咲きほこり、桜も徐々に咲き始めます。日も少しずつ延びてきて寒さにじっと耐えた動植物たちも同じように少しずつ活動を始めます。

夜空も閑散とした日々が2月から続きましたが、オリオン座が西に沈むと同時に3月中旬から下旬にかけての夜明け前、いよいよもっとも賑やかな夏の天の川を引き連れてくるかのようにさそり座が東の空から昇ってきます。

オリオンとさそりの神話
冬の夜空を謳歌するオリオン(狩人)ですが夜空に昇天する生前、大さそりに刺されて殺されたことで、星になった今でもさそりを恐れてさそり座が東から昇ってくると同時に西に沈んでしまうと語られています。
日本海側を荒らしていた寒気も弱まり、地上では気温の上昇とともに桜前線が北上し、それにともない人々の心もどこか暖かく開放されてきますが、それでも高い山はまだまだ雪山。その残雪の山々と春の象徴であるさそり座と夏の天の川は最高の組み合わせとなります。
一般的には『夏の天の川』(いて座付近)というと“夏”や“七夕”をイメージしますが、実は3月から撮影できます。もっと言えば3月から梅雨入り前までが撮影するには最適と思います。梅雨時期はそもそも晴れませんし、梅雨が明けても夜間は快晴になりにくく、いて座付近は比較的低空なので西に傾いてしまうのも早いです。
地上では二十四節期の『啓蟄』。

暖かい地域の低山では3月になれば少しずつカタクリの花も咲き始めます。

冬の星座たちが西へ沈むと動植物たちも寒さから解放され、我先とばかりに土の中から顔を出し始めます。

 

『いよいよ春が、夏がやってくる』

寒さの象徴である雪山の稜線を越えて、明け方前に東の夜空に昇ってくる夏の天の川に毎年そんな期待感のようなものを感じます。