2020年11月 中房温泉登山口~燕岳(山頂未踏)
すでに紅葉が終わった11月の北アルプス連峰の山々。厳冬に向かわんとする晩秋の山々を愛でにテント泊で『北アルプスの女王』燕岳へ。
- 今回の山行目的
- 実践に勝るトレーニングは無し
- 晩秋然とした美しき燕岳
- 暮れなずむ晩秋の北アルプス連峰
- 冬山テント泊対策
- 美しい星空と大雲海の朝
- 北アルプスモルゲンロート
- 振り返って
今回の山行目的
もうすっかり紅葉シーズンを終えた11月の北アルプス。今秋は何かと立て込んでいたため紅葉の山々に会いに行くことができませんでした。
前回のテント泊山行は夏の北穂高岳でしたが、あれから月日が流れもう2か月半。季節は巡りに巡ってもはや晩秋。まもなく雪山シーズンを迎えようとするこの時期、鈍った体に喝を入れるべく選んだのは北アルプスで私が最も頻繁に登っている燕岳。
直近で燕岳に登ったのは2019年5月、まだ残雪が残る春でした。
新雪に輝く峰々の撮影
今年は『ラニーニャ』の影響で寒くなるためなのか、10月下旬に早々に寒波がやってきて北アルプスをはじめとした高山は新雪で覆われました。近年は小雪の年が多くて、11月を前にして北アルプスがきれいな雪景色となるのは最近では少なくなりました。
燕山荘のスタッフブログでもその新雪をまとった見事な燕岳の状況が掲載されていて、
「これは行かないといけない!」
と思い計画しました。
以前に日帰りでやはり11月に燕岳に登っていましたが、その時は暖冬で立山や槍穂こそ白くなっていましたが燕岳に雪はありませんでした。
今年は周りの3,000mの峰々とともに新雪をまとった美しい燕岳が撮影できるかもしれないと期待が膨らみました。
(しかし…笑)
厳冬期テント泊の準備
私はテント泊ばかりでもう最近ではすっかり山小屋には宿泊しなくなりましたが、それでも冬の寒さに怖気づいて冬季のテント泊はしませんでした。冬はもっぱら自分のレベルの範囲内で雪山を日帰りで撮影していました。
しかし日帰りではやはり朝夕の美しい山々の風景は撮影できませんし、それに何シーズンもやっていると日帰りだと毎年同じ山ばかりループしていてマンネリ気味でした。この状況を打破するには山小屋泊かテント泊しかないわけですが、どうも小屋泊は性に合わない。重い腰を上げて冬季のテント泊を始めようとここのところずっと準備をしてきました。
雪山テント泊をするにはいくつかのハードルを越えないといけないですが、中でも『寒さ』のハードルが最も高いです。以前にも5月の立山雷鳥沢や燕岳、蝶ヶ岳で雪上テント泊したことは何度もありますが、それはあくまで雪上とは言え “残雪期” となると思います。
5月でも北アルプスではそこそこ寒いのですが、やはり時期的に陽も長いですしその他湿度などを考慮するとあくまで “残雪期”。
実はここのところ新たな雪山用の装備を少し揃えたのでその使用感、そして自分の低温順応性がどれほどのものなのか、それを通いなれた燕岳で試してみたかった理由がありました。
実践に勝るトレーニングは無し
数えきれないほど来ている中房の燕岳登山口。
この時期だし、平日だし、テント場も予約制だし、これなら駐車場も空いているだろうと舐めていましたが意外や意外、第一駐車場は早朝時点ですでに満車。第二駐車場に駐車して時間もいつもよりも遅めで8時半ころ歩き出しました。
雪山テント泊となると必然的に荷もさらに重くなるわけなので、自分でできる範囲ではありますが下界でトレーニングはしていました。テント泊は2ヶ月半ぶりなので荷も余計に重く感じながら、それでもゆっくりゆっくりと登ります。
テント場の予約制は賛否ありますが、いわゆる “テン場競争” にならない面は非常にありがたい。雪は第二ベンチあたりからチラホラ、もうすでに営業を終了している合戦小屋から先は念のため6本爪の軽アイゼンを装着しました。
合戦沢ノ頭からは久しぶりに間近で見れた白く輝く槍ヶ岳に元気をもらいながら、ヘロヘロ状態でなんとか燕山荘に着きました。しかしいつもの事ながらかなり体力的にきつい…。
前回、北穂高岳テント泊山行時の涸沢までの登りもそうでしたが、私の場合は体力的な部分というよりも『シャリバテ』『シャリギレ』が特にひどい。エネルギー不足で足に力が入らないような感覚があるので、この辺のコントロールはトレーニングではどうにもならない。こればかりは実践で計画的にカロリー摂取しなくてはならない。
若い頃はこのあたりは勢いと若さでカバーできたのかもしれませんが体は実に正直だ…。今後は年齢とともにもっとクレバーに歩かなければならない。
合戦沢ノ頭からは目的地の燕山荘がすぐそこに見えているのですが、ここからが意外と長く感じる。登った方ならお分かりかと思いますが、山小屋や山頂が見えているのになかなかたどり着かない…、これは典型的な “山あるある” だろう。
この日はすでに燕山荘へは夏道ルートではなく冬道ルートとなっていましたが『階段をあと20段くらい』というところで最後の休憩に入るほどにヘロヘロでした。
晩秋然とした美しき燕岳
あの数週間前の白銀に輝く燕岳は何だったのか…。
残念ながら一時的な寒波で雪山と化していた燕岳はもうすっかり融雪が進んで通常の晩秋然とした佇まいの燕岳になっていました。それでもやはり『北アルプスの女王』と呼ばれるくらい本当に美しい山容だ。
ノロノロと登ってきたのため14時ごろ到着したのでもう西日に近い光が当たって、それが余計にこの燕岳の美しさを際立たせていた。
この陽の短さは明らかに春とは違い、そしてどことなく空気感も少し寂し気で、晩秋の匂い溢れる北アルプスという雰囲気。
テント場はこの日は10張程度でガラガラ。
私は残雪期にしかここでテント泊したことはありませんが、それほど広くはないテント場なので夏の最盛期にはとても混みあうだろう。
想定していた雪上のテント泊とはならず、融雪の進んだ若干ゆるんだテント場という感じで少し残念でした。
サクッとテントを張ったあと空腹を満たすともう陽が西に傾きつつありました。この時期は本当に陽が短い。いつものように表銀座稜線をゲーロ岩(蛙岩)方面に歩いてお気に入りの撮影スポットへ。ここだと立山も槍穂も、そして燕岳もきれいに撮影できる。
さぁ、まもなく陽が沈もうとしている。
暮れなずむ晩秋の北アルプス連峰
日が傾くと急激に寒くなる。
手はジンジンと悴んでくる。
しかしここから眺める雄大な北アルプス連峰はなんて美しさだろう…。
目の前に雄大に聳える大天井、
槍穂から笠ヶ岳、鷲羽に水晶、
そして立山・劔、そして鹿島槍も。
そのどれもが新雪を纏い輝いていた。
いつここに来ても、何回ここに来ても、美しいと思う。
そう、美しいと思える…。
空気の澄んだ晩秋は大気の透明度も抜群で、夕焼けの美しさも際立っている。立山や五色ヶ原には冬らしい雪雲が迫っている。ほんの3か月前、あそこに居たんだと思うと感慨深い。
苦しい思いをしてでもここまで登ってくるのはこの美しい情景を目にするため。これだから山はやめられない。
どんなにつらくとも…。
今夜は星もきれいに眺められそうだ。
胸に吸い込む空気は冷たいけれど、期待に胸は熱くなる…。
冬山テント泊対策
夜の帳があたりを包むと一段と寒くなる。
日没を過ぎるとすでにテント内は氷点下の寒さ…。
今回の山行目的のひとつ『冬山のテント泊に向けた対策』はざっとこんなものでした。
①モンベルのシュラフ『ダウンハガー#2』
私は残雪期から夏山、そして秋とモンベルの『スーパースパイラルダウンハガー#5』(すでに旧製品)を使ってきました。夏はシュラフに入らず掛布団のようにかけて使ったり、残雪の雷鳥沢や燕岳、蝶ヶ岳もこのシュラフでした。ダウンを着込めば雪上となる残雪期のキャンプでもなんとかいけましたが、けっして快適とは言えませんでしたのでもっと暖かいシュラフを追加購入しました。
モンベルのダウンシュラフは独自のスーパースパイラルストレッチ システムを使用することで伸縮性が保たれ、シュラフ特有の窮屈さを緩和しています。多少の寝相の悪さも感受され、良質な睡眠をサポートしてくれます。
スペック的には、
【リミット温度】-6℃
【エクストリーム温度】-23℃
【重量】733g(759g)※()内は付属のスタッフバッグを含む総重量
今回はこのシュラフに今までも使ってきたイスカのゴアテックスのシュラフカバーを霜対策として併用しました。
※現在はこの製品は旧製品となっているようで、モンベルから新たに上部に縫い目のない作りとなったシームレスバージョンがラインナップされています。
詳しい製品スペックや製品の解説はモンベルおよびイスカ公式HPをご覧ください。
montbell
ISUKA
②ニーモのエアマット『ゾア20R』
雪上キャンプとなると底冷えがハンパないです。
これはいくら暖かいシュラフを使ったとしても底面は体の重みでダウンが潰れてしまうので別途対策が必要となります。
私は全シーズンを通してサーマレストの『Zライト』という定番の折り畳み式のマットを使っています。しかしこれだけでは残雪期の雪上キャンプにおいて不十分だと感じました。
そこで今回は新たにニーモのエアマット『ゾア20R』を追加購入し、『Zライト』も併用して対策しました。さらに100均で買った薄手の銀マットとレジャーシートも敷いて4重で対策しました。今回は残念ながらテント場の雪が溶けてしまっていて雪上ではなかったですが…。
※こちらの製品も旧製品となっているようで、現在は同等の新製品がラインナップされています。
NEMO| ZOA™REGULAR MUMMY
③上下ダウン
残雪期はダウンの上着を着ていましたが、今回はパンツもモンベルのダウンパンツを用意しました。
主に今回は上記の3つを新たに低温対策としました。
結果ですが、テント内は結局この夜から朝にかけてマイナス8℃まで下がりましたが、全く寒くはありませんでした。それどころかむしろ暑いくらいで、おそらくこれならばマイナス10℃くらいまでは余裕で凌げそうに思いました。若干足先に不安を感じたので、いわゆる “象足” を追加で対策する予定です。
ただ、私はこのような装備でしたが人によっては暑すぎるでしょうし、逆に寒いと感じる人もいると思います。こればかりは人それぞれですし、男女の違いや、年齢の違いなどによっても対策は変わってくると思いますのであくまで参考程度ということで。
美しい星空と大雲海の朝
日が暮れて1時間くらい経過すると空は真っ暗に。
この時期は賑やかな秋の天の川がすでに西に傾いています。春の銀河は深夜の2時、3時に燕山荘の上空に昇りますが、晩秋は19時にはもう西の槍ヶ岳の上に輝いています。
代わりに3時、4時ころにはオリオンが槍ヶ岳の上を賑わせます。とにかく美しい夜空に目を奪われるばかりですが寒さも厳しく、とくにテント場から稜線側に移動するだけで風の影響をもろに受けて体感はもはや極寒。手と足が悴んで辛かったですが本当に美しい星空だ。
そして夜明け前、反対の東側は素晴らしい大雲海が広がっていました。その大雲海の上空には細い月、そして『地球照』と呼ばれるなんとも美しい情景を目に出来ました。
日の出近くにはその大雲海の先に富士山がどっしりと存在感を示していました。北アルプスでこれほどの大雲海は久しく見ていなかったし、これほどまでに素晴らしい山岳風景はそうは見れない。こればかりは気象条件と運が絡み合わないと出会うことができない情景。
寒さなど忘れて心を奪われてしまいます。
北アルプスモルゲンロート
まもなく日の出。
夜から吹き始めた風がバタバタとフライシートを叩く音で熟睡など出来なかった。朝もその風はやむことは無く十分な防寒対策をして日の出の撮影へ。
どこで撮ろうかと考えましたが、今回は燕山荘の裏側で三脚を立てました。燕岳山頂や夕方の撮影をした稜線のポイントでも良かったですが、居た堪れない寒さに負け…。
小屋前はご来光を待つ多くの方々で賑わうので、彼らの邪魔にならないように裏に回りました。真っ赤に燃えるような槍穂にはなりませんでしたが、薄紅色の鋭鋒と要塞が一際輝いていました。
なんて美しさだ…。
時たま吹く強い風で三脚を使ってもブレてしまう。でもいつまでもこの美しい風景が心に残るよう、写真ではなくこの目に焼き付けるつもりで対峙しました。大雲海の先には富士山が美しく、最高の一日の始まり。
まさに筆舌に尽くしがたいとはこのこと…。
振り返って
いつもの事ですが結局は燕岳山頂には登頂せずに、テント場の周囲で朝の清らかな北アルプスを撮影したのち下山しました。
1泊2日、それもテント場のある稜線にいたのは実質は丸1日もなかったわけですが、じゅうぶん満足感を得られる撮影行となりました。冬季テント泊の低温対策もまずまずの結果を得られ、あとは冬季装備の重量をいかに抑えるか、機材の取捨選択も含めてもう少し煮詰めたいところです。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。