2024年5月 平標登山口~松手山~平標山~仙ノ倉山~平標山ノ家~平元新道登山口~平標登山口
青葉眩い新緑の5月中旬、谷川連峰西端のたおやかな稜線を求めて仙ノ倉山を周回コースで歩く。
稜線からの雄大なる谷川連峰主脈の山々の眺望と少しずつ咲き始めた花々、そして輝く新緑のシャワーを浴びる春の稜線山行。
- 谷川連峰西端の山々
- 今回のコースと目的
- 樹林帯の急登を野鳥サウンドを聞きながら(平標登山口~松手山)
- 大展望の稜線漫歩(松手山~平標山~仙ノ倉山)
- 日帰り主脈縦走という選択肢(谷川連峰主脈の大パノラマ)
- 明日は我が身、気を引き締めて(仙ノ倉山~平標山の家)
- 眩い新緑に下山できない…(平標山の家~平元新道登山口~平標登山口)
- 振り返って
谷川連峰西端の山々
谷川連峰
新潟県と群馬県の県境を分かつ長大な谷川連峰。
新潟県の山間は全国的にも有数の豪雪地帯として知られていますが、何を隠そうその雪雲を形成しているのが谷川連峰という山脈の存在です。冬にはシベリアからやって来る寒気と猛烈な北風がこの山々にぶつかり猛烈な雪雲を形成し、南魚沼周辺に豪雪をもたらしています。その雪解けの豊富な純度の高い水こそがこの地域に “米どころ” という恵みを与えているとも言えます。
2,000m級とは言えその山容はゴツゴツとした岩稜帯も形成し、その特異な気象から森林限界が他の山域に比べて極めて低く、アルプス然とした雰囲気を醸し出しています。
谷川岳(トマノ耳・オキノ耳)や一ノ倉沢、マナイタグラ山稜、万太郎山など特に山脈の東側は非常に荒々しい山が連なります。しかしそれもエビス大黒ノ頭を境に一変し、仙ノ倉山から西側はたおやかな稜線美が続く山容となります。
5月下旬から6月頃にかけてはいよいよその稜線は “天空のお花畑” と称されるほどの見事な数の高山植物が咲き誇り、日本の山岳地帯では有数の花の名山として君臨し、各地から多くの登山者を向かい入れています。
平標と仙ノ倉
このブログでは今回の山行記事がこの谷川連峰西端の山々に関する初出となりますが、実のところ筆者自身はこのブログ立ち上げ以前から、さらに言うならば登山を始めたころから好きな山域で頻繁に歩いてきたので個人的にとても親しみのある山です。
登山口へは車はもちろん公共交通機関を使ったアクセスも良く、登山道は登山初心者でも安心して歩けるように整備が行き届き、有人の山小屋が少ない谷川連峰においてはその貴重な1軒がこの山域にあり、かつ登ってみると意外と登りがいがある山です。
この辺りの山は谷川連峰のどちらかというと “静” の趣があり、荒々しい東側の “動” の趣とはまた違った魅力に溢れています。谷川連峰を特別な山にしているのはこの懐の深さがあるからなのかもしれません。
谷川連峰の山々に登るのは私自身2022年2月厳冬期の谷川岳以来となります。
今回のコースと目的
さて今回、この時期にこの山域にお邪魔しようと計画したのは大きく分けて2つの理由がありました。ひとつは本格的な夏山に向けたトレーニングと、もうひとつが雪深い山域の雪解けの美しすぎる新緑を愛でたかったからです。
①ボッカトレ
様々な理由があり最後にテント泊装備を担いで撮影山行と称して山に入ったのが2022年11月の北アルプス燕岳山行でした。
改めて2024年は山へ積極的に撮影に出かけようと思ってはいますが、残念ながら私は歳をとってしまいました。若いころのように勢いやノリだけで即テント泊装備や撮影機材を担いで再び北アルプスへと入山できるわけありません。この落ち切った体力と筋力をもとに戻し、重い荷を担いで山を歩く感覚を思い出さないといけません。ここのところ里山でスナップ撮影を楽しんでいますが、そろそろ夏山に向けて重い荷を担いである程度標高のある山でトレーニングしておきたいところでした。
そんな時ふとこの山域が頭に浮かびました。
樹林帯の急登あり、展望の良い稜線歩きあり、2,000m程度ではありますが里山とは違いある程度の高度順応もでき、何より過去の自分との体力比較するにはもってこいなのではないかと。もし可能であれば仙ノ倉山から先、エビス大黒ノ頭までピストンしてしまおうという計画です。
②樹林帯の新緑スナップ
雪国、雪山の融雪後にやってくる芽吹きの時期の新緑の美しさは別格であります。関東の里山の新緑もたいへん美しいものがありますが、暗く寒い冬をじっと耐えた森の雪解けの美しさはまた次元の違う美しさを誇っています。
実は “山スナップ” というものは個人的に苦手な分野で、今まで積極的にやってこなかった撮影です。それまではいわゆる “ザ山岳写真” と言われるモルゲンロートやアーベントロート、山岳星景、ガスを狙った稜線撮影など、そのような目的を第一として山に登って来た部分がありました。そういうこともあって必ず稜線にたどり着く途中で通るであろう樹林帯、つまり森という登山行程は “単なる通過点” としての認識が個人的に強かったと思っています。
しかし最近、とくに2023年に入ってからは登山道を形成する樹林帯、森を撮影対象の大きな一部として捉える心境の変化がありました。これは私が主催した北アルプス写真展を開催したことで自分の中で何か吹っ切れたというか、いわゆる典型的な “ザ山岳写真” というものにひとつの区切りが付いたような感覚と言えるかもしれません。2024年に入って里山という舞台で新緑のスナップ撮影を勉強してきたわけですが、その成果を以前に頻繁に歩いてきたこの山域で試したい、この山で過去の自分の撮影したものと比べてみて、果たして成長出来ているのだろうかと確認したいと思いました。
樹林帯の急登を野鳥サウンドを聞きながら(平標登山口~松手山)
登山口にある有料駐車場にはまだ暗い午前3時頃に到着。
外を見上げると満天の星空が見えていたので「きっと今日は良い天気になる」と確認して軽く1時間ほど仮眠。空が白み始めた4時半前にノソノソと起き、着替え準備をはじめましたがここでひとつトラブル発生。私は登山時はモンベルのトレッキングパンツを愛用しているのですが、付属ベルトのバックル部分がベルトから外れていることに気付き、応急処置的なことを四苦八苦してみましたがどうしても直せず、結局穿いてきていたパンツ(たまたまカーゴパンツタイプであったのは不幸中の幸い)で代用することに。
出発前にトイレに寄りましたが、以前来たとき(前過ぎて正確な日付が思い出せない…)よりもすごくきれいになっていてびっくりしました。
・24時間出入り可能
・駐車料金
-普通車 600円/日
-マイクロバス 1,000円/日
-大型車 2,000円/日
-バイク 200円/日
※駐車料金は出庫時後払い可(係りの方は17時まで在中らしい)
・トイレあり(冬季は閉鎖)
駐車料金その他は2024年5月時点のものです。最新情報は湯沢町公式HPの谷川連峰登山情報をご参照下さい。⇒登山情報|湯沢町公式ホームページ
序盤はいきなりの急登をこなさなければならないコースですから、本当にゆっくりと新緑の木々を観察しながら、そして明らかに関東の里山とは違う野鳥の美しい歌声を聞きながら登って行きました。
野鳥の鳴き声だけでその種類すべてを確認できるほどの豊富な知識はないのですが、とくにコマドリと思われる囀りは特徴的で耳に残りました。
しかし今年はびっくりするほど雪解けが本当に早い。
この時期に登ったことは何度もありますが、この鉄塔から先の急登から残雪があった年もありましたし森林限界を越えたあたりから雪庇上の残雪を歩いた記憶も何度もありますが、今年は終始雪を踏むことはありませんでした。昨年度に引き続き、今年度も結局雪を踏む山行をしなかったので少し残念に思いました。
やがて木々の高さが低くなり目指す平標山が見え始めるころに本日最初のピークである松手山に到達。
大展望の稜線漫歩(松手山~平標山~仙ノ倉山)
この日は本当に天気が良く、しかも数日前に雨が降ったばかりなのか空気の透明度も良く、お隣の名山苗場山はもちろん、その山々の奥に残雪豊富な北アルプス連峰まできれいに見えていました。さらに南方面には遠く富士山も見ることが出来、まさに大展望を楽しめました。
登山道から平標山頂は見えているのに歩いても歩いてもなかなかつかない印象でしたが、よく整備された木道の急登をこなせばあとは山頂まではなだらかな稜線登山。
最後に深い笹原を抜けてようやく平標山頂に到達。
展望の良い山頂からは南側にはポツンと建っている平標山の家、そして赤城山塊、浅間山もきれいに眺められました。北側にはいわゆる上越国境と言われる山々に続き巻機山や越後三山、そして東側には大きな仙ノ倉山がどっしり鎮座して見えます。
そのままほぼノンストップでその仙ノ倉山に向けて木道を下りていきました。
この区間はまさに天空散歩と言える絶景歩き。この日も好天予報ということで多くの登山者で賑わいましたが、もう少し季節が進めば登山道の両脇がハクサンイチゲやミヤマキンポウゲ、ハクサンコザクラが咲き競うようになるので、さらに多くの登山者が訪れることでしょう。逆に今時期は花には少し早いのでまだまだ登山者はそれほど多くはないので、週末ハイカーにとっては歩きやすいとも言えます。
前仙ノ倉山あたりまで歩き進めるといよいよ東方面に荒々しい谷川連峰の主脈を形成する山々が見えてきます。特に目前に迫るエビス大黒ノ頭は実に峻険な山容で、ひときわ登山者の目を引きます。
山頂までの最後の木道を登りきってようやく仙ノ倉山に到達。ここまで稜線上は日差しも強くまだ5月というのに暑さも感じましたが風が実に心地よく、ブヨの発生もまだのようでとても気持ちの良い、気分の良いトレイルとなりました。
中型ザックにテント泊装備を詰め込んだ荷を担いで久しぶりの本格的な登山という割には体力的にはまだまだ余裕がある感じで、そのままその先へ下って行きました。
日帰り主脈縦走という選択肢(谷川連峰主脈の大パノラマ)
私はいつも仙ノ倉山山頂からエビス大黒ノ頭方面へ少し下ったところから谷川主脈の景観を撮影するのが好きで、今回もそこまで足を延ばしてみました。先述の計画のとおり可能であればエビス大黒ノ頭までピストンしようかとも考えていましたが、改めてこうやってこの峻険な山容と、まるで真下に見えるような避難小屋とそこからせり上がる尾根道を見上げると冷静な気持ちになるものです。
標準タイムでここから往復すると約2時間。
止めておこう…。
お気に入りのそのポイントで主脈の撮影を楽しんでいるとちょうどソロの登山者が真下に見える避難小屋のほうから急坂を上がって来られました。
時間はまだ10時前。
早出の登山者がエビス大黒ノ頭までピストンして戻って来られたのかと思い、お声を掛けさせていただきましたが、なんと夜中の2時過ぎに谷川岳西黒尾根を登り始めて、ここまで縦走してきた方でした。もちろん日帰りで縦走する方もいるのは存じていますが、それにしても時間が早すぎる。これはどうやら自家用車の回収のためのようで、平標登山口からバスでJR土樽駅に戻るためらしい。
それにしてもこの体力や精神力、モチベーションなどは敬服するばかり。実はここで撮影中このような方々が3人いらっしゃって、若さって素敵だと改めて思ってしまいました。
明日は我が身、気を引き締めて(仙ノ倉山~平標山の家)
谷川主脈の大展望をひとしきり楽しみながら休憩をして、その後はきた登山道を戻り平標山からは泥濘に悪戦苦闘しながら山小屋まで下りていきました。
その途中、前仙ノ倉手前あたりの上空に遭難者救助のためのヘリが来てホバリングしていました。どうやら途中で足を痛めてしまった登山者がいるらしく、その救助のためということでした。
私は登山を始めて15年をゆうに越えているため、このような場面は何度も遭遇したことがあります。そのほとんどが北アルプスでのことなのですが、今後このような救助を受ける可能性というのは自分にも当然あるかもしれません。もちろんそのようなことに遭わないために事前準備も含めて気を付けてはいますが、登山は何が起こるか分かりません。
落石や滑落、捻挫、熱中症など急な体調不良など、これらは3,000m級でなくても中低山でもじゅうぶん起こりうることで、いつもこのような救助支援場面を目の当たりにするたびに『明日は我が身…』といつになく気を引き締めて山と向き合おうと初心に戻るような思いを感じます。
平標山の家はこの時期はまだ閑散としていました。
もちろん途中立ち寄る登山者は多いですが、テント泊客はこの時点で10張程度でここでのんびりテント泊するには良い時期かもしれません。
眩い新緑に下山できない…(平標山の家~平元新道登山口~平標登山口)
山小屋ではトイレをお借りして、軽く糖分補給を済ませて下山に向けて準備しました。その後のコースとしては樹林帯を下り元橋登山口に出て、そこから約1時間くらいの長い林道歩きとなります。一般的には稜線での大展望を満喫してあとは安全に下りるのみ、という典型的な下山コース。私もメインカメラはもうザックに収めて怪我の無いように下ろうと下山にかかりましたが、この下山時のブナをはじめとした新緑のなんとも美しいこと…。
光に照らされた青々とした新芽にはじまり、
ブナの木立、
のびやかな枝、
木漏れ日、
ところどころ咲いていたヤマアジサイやミネザクラ、ミツバツツジ。
光は当然ながらその影すらも春の息吹をたなびかせていて、まったく足が進みません。
まさに “眩い” とはこのこと。
予定していた下山時刻も当然ながらあったのですが、これではまったく足を前に出すことが出来ず、山行計画が崩壊。雪国の山が迎える新緑こそ本山行の最大の難所となりました。
さすがにこのペースでは夕暮れを迎えてしますし、まだ支払っていない駐車料金の件もある。そもそも撮影していても永遠に撮影できそうでキリがない。残りのコースタイムを計算して、平元新道登山口の手前付近からは逆にハイペースで歩き、15時頃には無事に駐車場に戻ってきました。
振り返って
今回は久々に平標山~仙ノ倉山を周回してきたわけですが、やはり改めて良い山だなと感じました。距離的には14km、累計標高は1,300mを越えているので日帰りとしては少しきつめと言えるコースかもしれませんが、とにかく整備が行き届いた登山道ですので体への負担も少なく意外と歩けてしまうコースで、とくに残雪等が無ければ特段気を付けるポイントはありません。
しかしそこは2,000mの山。
今回救助ヘリが来ていたということもあって、改めて山に入る時は気を引き締めて入山しないといけないなと感じました。山はほんの些細な出来事でもそれが自力での下山にも影響が出てきてしまうことも十分に可能性としてあります。今まで事故に遭っていないからと言って、今後も事故に遭わないと考えるのは危険。慢心せず、山を歩くときは集中力を持って歩かねばなりません。
平標山への登山ということであれば他にロングコースとなりますが仙ノ倉谷を詰める平標新道コースや三国峠や三国山から三角山を経る上信越自然歩道を北上するコースがあります。次のステップアップとして、または静かなコースを歩きたい方はこのような山行ルートを検討するのも良いでしょう。
今回はあえてテント泊装備を中型ザックに詰め込んだトレーニングを兼ねて歩きましたが、程よい疲れと下山後に感じた「まだまだ全然余力を残している」という感覚がありましたから、このまま良い状態で夏山へ繋げていけそうな弾みを感じました。
今回の記事は以上になります。
最後までお付き合いいただき、まことにありがとうございました。