『紅を紡ぐとき』晩秋の黒部源流、北アルプス最後の秘境雲ノ平(前編)

PHOTO TOUR

2022年10月 新穂高~双六岳~黒部源流~雲ノ平~祖父岳~黒部源流~新穂高

北アルプス黒部源流の晩秋。
賑やかな夏山から一転、閑散とした静かな山を求めて冬支度をする山々を歩く4日間。たおやかな稜線美、金色の紅葉、満天の星空、愛らしい雷鳥、そして朝夕の茜色に染まる美しい山景。
天と地を紅で紡ぐ、北アルプス最後の秘境『雲ノ平』テント泊山行。

前編は新穂高から雲ノ平で迎える夕景までの2日間。

(目次・前編)

  • 晩秋の黒部源流
  • 山行計画
  • 撮影計画
  • 晩秋の小池新道
  • 樅沢岳からの槍穂
  • 快晴の2日目
  • 黒部源流へ
  • 北アルプス最奥、秘境『雲ノ平』へ
  • 『紅を紡ぐとき』
※本記事中の上下黒帯写真が『Z6Ⅱ』での、アスペクト比4:3の黒枠写真が『GFX50sⅱ』での撮影のものになります。

↓ 後編は下記のリンクへ

『紅を紡ぐとき』晩秋の黒部源流、北アルプス最後の秘境雲ノ平(後編)




晩秋の黒部源流

北アルプスの秘境

冬支度が進む北アルプス連峰。
今回はそんな高山帯の紅葉が終わりを告げる時分、10月中旬の北アルプスを撮影しようと日本最後の秘境とも称される雲ノ平黒部源流を歩いてきました。

数ある北アルプスの山小屋の中でも最も早く小屋閉めが行われるこのエリアですが、今回はそんなタイミングでの撮影山行となりました。黒部五郎岳(五郎カール)とともに私が最も好む愛すべき山域でもあり、2019年8月以来、実に約3年2ヵ月ぶりに歩くことになります。

『雲上仙彩』天の川架ける黒部五郎のカールと北アルプス最後の秘境、雲ノ平(前編)

『雲上仙彩』天の川架ける黒部五郎のカールと北アルプス最後の秘境、雲ノ平(後編)

新型コロナ以前

まだ世が平常運転されていた頃、毎年のようにこの雲ノ平と黒部五郎岳を交互に歩いていた時期もありました。

そう、
あまりに美しく…、

あまりに雄大…。

この山域に魅せられた方ならきっと皆さんそう感じられるでしょう。

まさに北アルプスの最奥の秘境

しかし新型コロナ以後はそう易々と山を歩けなくなってしまい、私もこの山域からしばし足が遠ざかってしまいました。ようやく少しずつではありますが、山小屋の方々のたいへんなご尽力もあって以前のように、とまではいきませんが再びこの山域を気軽に歩けるような状況になってきました。

もちろん今回も最低限の感染防止策を講じて、テント泊山行で歩くことになりました。

山行計画

3泊4日の山歩き

今回の山行は新穂高を起点にして黒部源流『雲ノ平エリア』を歩いて名だたる峰々たちの晩秋の空気をたっぷりと味わおうという計画。私がこよなく愛する黒部五郎カール有する黒部五郎岳は黒部五郎小舎がすでに小屋閉めされているということで、今回は単に雲ノ平を目指す計画となりました。

途中、双六岳三俣蓮華岳祖父岳(じいだけ)鷲羽岳、そして水晶岳といった山々も含めてどれだけ登頂できるかは撮影計画と自らの体力を天秤にかけて、あくまでも撮影優先で歩くことを前提としました。

宿泊は基本的にすべてテント泊として、双六小屋・雲ノ平山荘・三俣山荘の各テント場を利用させていただいて3泊4日(+予備日)という日程としました。

①新穂高⇒ 秩父沢⇒ 鏡平⇒ 双六小屋(テント泊)
②双六小屋⇒ 双六岳⇒ 三俣蓮華岳⇒ 黒部源流碑⇒ 日本庭園(雲ノ平)⇒ 雲ノ平山荘(テント泊)
③雲ノ平山荘⇒ 祖父岳⇒ 岩苔乗越⇒ (水晶岳・鷲羽岳)⇒ 三俣山荘(テント泊)
④三俣山荘⇒ 双六小屋⇒ 鏡平⇒ 新穂高

主な装備

今回の登山装備は10月中旬の北アという微妙な気候に合わせるため、かなり迷いましたが下記のような装備としました。

【テント】 エアライズ2(アライテント)
【テントマット】 ゾア20R(ニーモ)、百均のレジャーマット2枚
【シュラフ】 スーパースパイラルダウンハガー#5 (モンベル)
【シュラフカバー】 ゴアテックスシュラフカバー(イスカ)
【ザック】 クーガー75-95(カリマー)
【登山靴】 タホープロⅡ(LOWA)
【レインウェア】 〈上〉Convey Tour HS Hooded Jacket AF Men(マムート)、 〈下〉レインダンサー(モンベル)
【火器類】 ウィンドマスター(SOTO) 、アルコールバーナー(トランギア) 、ポケットストーブ(エスビット) 、ヘキサゴンウッドストーブ(バーゴ)
基本的な登山装備はいつものラインナップ。
シュラフはモンベルの冬用の#2とかなり迷いましたが、寒ければ上下ダウンを着込んで対応するつもり。冬用のシェル各種は持たず。今回の新入りはマムートのレインウェア。長年使ってきたモンベルのストームクルーザーが前回の奥劔山行で経年劣化と判断し入れ替えました。

機材含めてザック重量トータル25kgと軽量化を進めて動いているのになぜかいつもと同じ重量にはもはや苦笑いしかありません…。

撮影計画

今回はいまだに天気の関係で個人的に満足のいくものが撮影できていない雲ノ平周辺の情景を撮影する計画。頻繁に来れるエリアではないですし、今回はこのテーマをメインとしました。

もちろんいつものように樅沢岳双六岳からの槍ヶ岳や、鏡池に写り込む槍ヶ岳、鷲羽岳や水晶岳などそれこそ撮りたい山景が満載のこのエリアですが、あくまでも雲ノ平をメインとしました。

月が比較的大きい月齢のため、月下の山景やその月が上がってくる前であれば天の川を絡めた星景も撮影できるので、天気次第ではかなりの撮れ高が期待できる暦となります。幸い、事前の天気予報も上々で期待に胸が高鳴りました。

主な撮影機材

機材に関しては今回から軽量化のためニコン機の大幅な入れ替えを行い、長年の相棒であったデジタル一眼レフ『D5』からミラーレス一眼『Z6Ⅱ』へとシフトさせた最初の撮影山行となりました。またレンズは『NIKKOR Z 24-120mm f/4 S』を導入し極力レンズ交換の頻度を減らすとともに軽量化。

この『Z6Ⅱ』と富士フイルム『GFX50sii』で高画質に山の情景を捕らえようというものです。それにともない三脚もGitzoの『GT2542』から新しくLeofotoの『LS-284C』に入れ替えこちらも軽量化を図りました。

GFX50sⅱとZ6Ⅱ

基本的には『Z6Ⅱ』でスナップしながら山を歩き、撮影適地や朝夕などではGFXをスーパーサブ的に使ってより高画質に残そうという狙いです。

【カメラ】
Nikon Z6Ⅱ、富士フイルム GFX50sii
【交換レンズ】
NIKKOR Z24-120mm f/4 S
AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED
AF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VR
AF-S TELECONVERTER TC-14E Ⅲ
GF35-70mm F4.5-5.6 WR
【三脚】
Leofoto LS-284C
【雲台】
Marsace FB-2R
【カメラバッグ】
シンクタンクフォト デジタルホルスター 20 V2.0
NEEWER カメラ保護バッグ

※その他マウントアダプター『FTZⅡ』や各種フィルター類(PLおよび減光)、アクセサリー類、交換バッテリーなど

晩秋の小池新道

この時期になると北アルプスでは夏や秋に比べて登山者がガクンと減ってきます。それもあってか、今回は自家用車を登山口にほど近い新穂高の無料駐車場に止めることが出来ました。今までは毎回この駐車場が満車のため鍋平まで廻らなければならず、新穂高に下りるのも、下山後にまた登るのも一苦労でした。

まだ暗い新穂高のビジターセンター

まだ暗いなか 5:00に駐車場を出発し、目と鼻の先の新穂高センターにて登山届の提出や軽い朝食、トイレを済ませて 5:30に改めて出発。気温は3℃ほどで、じっとしていると寒いけど歩き始めればこのくらいの気温の方がむしろ歩きやすい。早いものでもう季節はそんな巡りに。

天候は曇り。
と言っても雨が降りそうなどんよりした感じはなく、雲の向こうには青空があるような、そんな期待感のある天気。風はなく穏やかな朝で、時たま晴れ間が差すという感じでとても登りやすい気候でした。

以前、お盆にこのコースを歩いたときはもう暑くて暑くて、このコースは夏は歩きたくない!って痛感した覚えがあります。

左俣林道を進む

あぁ、清々しい朝だ。
大気が清らかだ。

きっと、今回は天気に恵まれる…。

なんの根拠もないそんな思いに足が少しだけ軽く感じる朝。

不安と期待。
私の山歩きはどこを歩こうが、
日帰りだろうがテント泊だろうが、
その二つの気持ちがいつも交錯する。



少し寂しげなわさび平小屋

登山者がそれこそ全国から集う新穂高ですが辺りを見回しても閑散としていて登山者も疎ら。すっかり秋めいた歩きなれた左俣林道も妙に久しい。笠新道(いまだに踏み込めないでいる…)のその先にあるわさび平小屋もまるで祭りの後のように静かで、名物の冷やし野菜、冷やし果物もどこか淋しげ。

わさび平小屋

名物の冷やし野菜

小屋のすこし先の林道両脇のブナの森も紅葉していて本当に美しい。

熊よけ用に設置してある一斗缶を叩きながら、涼しい朝のうちに勾配が無いことを良いことにグングン進みました。

ブナの森が美しい

秩父沢まではそんな感じで快調に歩けました。
周りの山々もすっかり色付いてパッチワークのような山肌を見せてくれていましたが、どんよりした曇り空のためか派手さはなく、木々たちが静かに冬景色へバトンタッチする準備をしているようでした。

色づく谷合

山に来ると臭覚も敏感になるのか、
木の匂い、葉っぱの匂い、土の匂い、岩の匂い。
すべてを嗅ぎ分けられるように研ぎ澄まされるよう。

秩父沢にて休憩

鏡池と槍ヶ岳

しかし快調だったペースも秩父沢からは次第にいつものスローペースに戻ってしまってシシウドヶ原鏡平までですでに疲労困憊。鏡池は残念ながら微風の影響で鏡面ではありませんでしたが、そんな登りの疲れを癒してくれるような美しい風景を見せてくれていました。

鏡池と槍ヶ岳

ハンガーノックにならないよう途中途中で休憩の際しっかりと行動食を口にしながらの登りでしたが、ちょうどお昼どき(11:30)に鏡平山荘に着いたので軽食(味噌ラーメン)をいただく。

そういえば3年前に来たときは自販機は置いて無かったように思いましたが、新たに設置されていましたし、チップ制の外トイレも新たに増築したようで綺麗になっていました。(以前は小屋の裏手に回った外用?トイレだった)

鏡平山荘

自販機とトイレが新設されていた

鏡平山荘の手前では山荘の方々が登山道の整備をされていました。前回の奥剱山行同様、山小屋の方々のご尽力にはいつも頭が下がる思いで、今回もありがたく歩かせていただいております。

小池新道は距離こそ長いですが、北アルプスの数ある登山道の中でも最も歩きやすいと思えるほどたいへん整備が行き届いた登山道だと思います。

初日の目的地、双六小屋

腹も満たされたのでもう一踏ん張り、双六小屋に向けて12:00に歩き始めました。弓折乗越までの展望の良い登山道からは槍ヶ岳と穂高連峰が見事で、眼下の鏡池周辺や麓の色付いた紅葉とともに何度も振り返ってしまうほどの美しさに満ちていました。

槍ヶ岳と穂高連峰

弓折乗越を越え、たおやかな双六岳が左手に見え始めるとすぐに鷲羽岳も見え始め、ようやくこの日の目的地、双六岳と樅沢岳の鞍部に建つ双六小屋とキャンプ場も見え始めました。

「鷲羽が大きい…!」

双六小屋と雄大な鷲羽岳

双六岳の麓の紅葉も金色に輝くような美しい紅葉が見られました。今年は夏の日照時間が少なくて紅葉に関しては『ハズレ年』と言われていますが、なかなかどうして、北アルプスの紅葉にはいつも目を奪われます。

見事な紅葉の木々

実は小屋が見え始めてからも結構歩かされるのがこのルートの難儀なところでもあって、結局テント場に着いたのは14:30、駐車場を出てから9時間半もかかってしまいました。

4日間の本山行でこの初日が一番きつい行程ですが、今回も何とかやって来れたことにホッとしたというのが実のところ。

閑散とした双六小屋

テント場はビックリするくらい閑散としていてこの日は20張弱といったところでした。最盛期には何十張ものテントが張られますが、後にも先にもこんなに空いている双六小屋のテント場は見たことがありません。

テント場も閑散としている

双六小屋キャンプ場
幕営料 1泊 2,000円/1人
水場及び外トイレは小屋の設備を利用。
2022年は繁忙期の特定日のみ予約制でした。今回は予約不要。
テント場は比較的平らで水捌けも良く、テント泊ビギナーにもおすすめのテント場です。
※詳しくは双六小屋の公式HPを参照ください
双六小屋|北アルプス 双六小屋グループ

鷲羽岳の雄大な山容

小屋前から眺める鷲羽岳はいかにもアルプス的で、いつも見惚れてしまします。そしてあの山の向こうに雲ノ平があると思うと、つくづく山の奥深い領域に踏み込んできたという実感が湧いてきます。



樅沢岳からの槍穂

テント設営後はしばし身体を休めて、夕暮れ前にこの日のメインの撮影地である樅沢岳まで登って山頂からの槍ヶ岳方面の撮影に向かいます。この日は曇りでしたが日が沈む西側の低空はすっぽりと雲がなく、うまく行けば美しい夕焼けやアーベントロートが見れるのではないかと期待せずには居られませんでした。

光さす晩秋の鷲羽岳が美しい

登る最中も勇猛な鷲羽岳やその稜線伝いにある秀峰、野口五郎岳に光が差し込んで素晴らしい山容を魅せてくれました。北アルプスは油断しているといつの間にか美しい情景を見せてくれますから、常にアンテナを張っていないと見逃してしまいますね。

双六小屋のテント場から約40分、樅沢岳の山頂から少し進んだいつものお気に入りのスポットにて待機。陽が沈み始めると急激に寒さを感じるなかでの撮影となりました。

『The shade of autumn』

想定通り西に沈み行く夕日の斜陽が雲間を通って山々にあたり、素晴らしい風景を見せてくれました。

この柔らかな光が山々を包みはじめてから、日没後のマジックアワーまでがたまらなく美しい、特別な時間です。

斜陽を浴びて浮かび上がる槍穂

ここは名峰たちに囲まれた北アルプスの奥地、
そのある晩秋の夕刻。

まさに、
金色の時間となりました。

『Golden Time』

風もなく、穏やかで、
刻々と変わる山の風景。

何となく時間の進みを早く感じる夕刻。

『The Crimson Peaks “HOTAKA”』

ガスが踊り、
山々を美しく彩る。

温かい光が、ぬくもりが、
山々を包み込む。

『The Crimson Peaks “YARI”』

乗鞍も、焼岳も、笠ヶ岳も、
刹那の斜陽を浴びてとても美しい。

この景色に、
ずっと、ずっと触れていたい…。

『Touch The Sky』

撮影後、すっかり暗くなった下山時には無防備この上ない雷鳥ファミリーに出会えました。この樅沢岳の山頂下部は雷鳥の遭遇率がかなり高いことで有名ですね。

テントに戻って外気温計を確認するともうすでに0℃
やはり10月半ばとなると標高2,500m付近ではこのくらいに下がるのが常のようで、少し肌寒い。

残念ながら満月期で腰を据えての天の川の撮影には適さないと思っていたのでこの日は明日のために早めの休息としました。

『End of a day (Abendrot Nishikama-One)』

快晴の2日目

翌日、4時前に起きてテントに据え付けた外気温計を見てみるとマイナス5℃。風がないのでそれほどの寒さは感じませんが、フライシートは霜が付いて見事にパリパリ。このテント場の側には双六池があるので霜が降りやすいのかもしれません。

翌朝はフライシートが霜でパリパリ

今回のシュラフは迷いましたがモンベルの#5(いわゆる夏用)を持参。マイナス5℃という環境下でも上下ダウンを着込めば寝れないことはなかったという印象ですが、#2のほうがよほど快適だったことでしょう(笑)。

昇るオリオン

テントから顔を出すと夜空には月が煌々と輝いてましたが東の空にはオリオンが、北の空、鷲羽岳方面には北斗七星が月光に負けじと煌めいていました。ヘッドライトが不要なくらい明るい夜空を撮影しているとさすがに手足が冷たくなってきます。

双六小屋と昇るオリオン

オリオン座が東から昇ってくるのをまじまじと眺めていると、冬の到来を強く感じます。ましてやここは北アルプス。その急速な季節の移り変わりを下界よりも一層強く肌で感じることが出来ます。

双六岳へ絶景トレイル

朝食をとった後、6:00に撤収完了し双六岳に向けて出発。
この日は朝から雲ひとつ無い快晴で、これでは昼間は写真的には良いものが撮れそうにないのでスナップしながら稜線の展望を楽しみに歩き始めました。

月を見上げながらの双六岳への登り

朝のうちはレイヤーの構成に苦しんで陽の当たる双六岳への登りで何回もザックを下ろしては一枚脱いだりを繰り返したためかなりのタイムロスになってしまいました。この季節はこの辺の調整がすごく難しい。朝はかなり冷え込むけど、陽が当たり始めると暑い。この寒暖差が美しい紅葉を見せてくれるのだけれど…。

双六平からの笠ヶ岳方面の眺望

双六平の稜線も草紅葉が進んで気持ちの良いトレイルを楽しめました。槍ヶ岳や穂高連峰、笠ヶ岳、水晶岳、そして鷲羽岳と名峰を眺めながらのこの稜線のトレイルはいつ歩いても気持ちがいい。

立ち止まっては眺めて、
また歩き始めてはすぐ立ち止まって振り返る。

ここはいつもそう。

稜線の先に槍ヶ岳

お馴染みの双六岳からの稜線越しの槍ヶ岳はこの時間帯はどうしても逆光になり、さらに天気が良すぎたので写真的には条件が悪く、今回は潔くあきらめ。次にまた機会があったら撮影したいスポットです。

山頂でしばし休憩したその後は丸山から三俣蓮華岳までアップダウンを繰り返しながら、草紅葉の稜線の展望が素晴らしくて楽しみながら歩けました。

日向は暑くても日陰は霜が降りている

眼下に見える巻道ルートも気持ちよさそうなルートだ。

それにしても、暑い…。
本当に10月中旬の北アルプスか?

水晶岳を眺めながら三俣蓮華岳へのトレイル(奥にはツルタテも見える)

黒部源流へ

10時過ぎ、ガラガラの三俣山荘テント場を通ってこちらも閑散とした三俣山荘にてトイレをお借りして、軽く補給をしてからいよいよ黒部源流へと下りていきました。

このあたりもかなり紅葉が進み、美しい手つかずの自然美を放っていました。この時期になると夏を謳歌したコバイケイソウたちはすでに立ち枯れていて、それがまたどこか寂しげで、晩秋感漂う雰囲気を醸し出していました。

ハイマツに囲まれた三俣山荘

立ち枯れのコバイケイソウが晩秋感を演出している黒部源流域

ここで源流を一旦渡渉。

その後の急坂の登り返しにはいつも苦しまされますが、ここはなんと言っても振り返ると三俣山荘の建つ鷲羽岳へと繋がる稜線越しのバックに槍ヶ岳が雄大に聳える眺望が圧巻で、何度もこの風景を振り返っては元気を貰いながらの登りです。

ロープが渡された源流の渡渉ポイント(雨天時は注意)

最初は稜線から槍の穂先だけが見えていますが、登って高度が上がるにしたがって次第に尾根筋も見えてきて、景色がみるみる変わっていくのも面白い。とくにこの時期は谷筋の紅葉も相まって美しい景観を見せてくれました。

山荘建つ稜線の向こうに雄大に聳える槍ヶ岳

この急坂を頑張ればまもなく雲ノ平の南端、通称『日本庭園』
もう、雲ノ平内に踏み込み始めています。

日本庭園ではチングルマの群生が綿毛化していて、いかにもアルプス的でヨーロピアンな風景で迎えてくれました。三俣山荘から黒部源流に下りてからは、この日本庭園まで誰にもお会いしませんでした。この時期は全行程に渡ってとにかく登山者が少ない、静かすぎる北アルプスです。

綿毛のチングルマの群生と槍ヶ岳 (雲ノ平『日本庭園』)

その日本庭園からハイマツ帯の木道を過ぎればようやく雲ノ平山荘が見えて、そのバックには北アルプスで最も美しいと言われる薬師岳が鎮座していました。この眺望は何度見ても雄大であり、まさに日本最後の秘境という名に相応しい実に素晴らしい景観。

「あぁ、ここまで来たか…。」

薬師岳と雲ノ平(手前がテント場、左に山荘)

谷を挟んだ水晶岳の存在感も圧倒的で、まるで赤牛岳を従えるようにしてこの雲ノ平の北側の景観を我が物にしているよう。南にはこちらも雄大に聳える孤高の名峰黒部五郎岳が鎮座し、まさに四方を名峰たちに抱かれていると表現できる雲ノ平。

水晶岳の存在感が圧倒的

そのロケーションは北アルプスの中でも一歩抜きん出ているという印象を抱かざるを得ません。



北アルプス最奥、秘境『雲ノ平』へ

13時半、最後は気持ちの良い木道のプロムナードを歩いて本山行の最終目的地、雲ノ平山荘に到達。この雲ノ平、いつも『スイス庭園』辺りまで来るとまるで聖域に踏み込むような心持ちになり、山荘まで続く木道がまるで巡礼地の様相。

山荘テラスからの眺め。右は祖父岳。

北アルプス最奥の山小屋のひとつ『雲ノ平山荘』

山荘にてテントの受付と軽食(チキンライス小と温うどん)をいただいて体力の回復を待ってから、改めてここから20分ほど離れたテント場に引き返しました。

この山荘はこれだけ山深い中にあって牧歌的な佇まいで、おしゃれで、心落ち着けるとても雰囲気の良い山荘で、きっといつかここに宿泊したいと思っています。そう、私は何度もこの雲ノ平に来ていますが、いまだにこの素晴らしい山荘に泊まったことがありません…。(受付の際、宿泊予約のキャンセルが出ていたということを知って今回泊まろうと思えば泊まれましたが)

小屋閉め間近の雲ノ平山荘

山荘内もこの時期は閑散としていて静かな雰囲気でしたがキャンプ場も同様で、私含めてなんとこの日はたったの6張で晩秋の雲ノ平の人の少なさに驚きました。

黒部五郎岳の眺望が良いテント場

雲ノ平キャンプ場
幕営料 1泊 2,000円/1人
トイレ及び水場あり
2022年は繁忙期の特定日のみ予約制。今回は予約不要でした。
ロケーションとしては最高な雲ノ平ですがキャンプ場としてはそれほど張りやすい立地ではなく、特に雨天時にはキャンプ場を流れる小さな沢が増水することもあるので張る場所は考慮したほうが良いでしょう。ビギナー向けと言うよりは玄人向け、玄人好みなワイルドな(笑)テント場と言えると思います。個人的にはテント泊を好みますが、こと雲ノ平に関しては山荘に宿泊する方が良いかなぁといつも思います。
※詳しくは雲ノ平山荘の公式HPをご覧ください
雲ノ平山荘|天上の庭、雲ノ平
設営後はいつものように夕景の撮影に。
今回はどこで撮ろうか迷いましたが、とりあえずはスイス庭園から水晶岳を狙おうかと行ってみるも、たちまち水晶岳はガスって雲隠れしたので少し戻ったところから雲ノ平山荘を絡めた夕焼け狙いとしました。

期待を胸に夕暮れを待つ…。

そして日没。

次第に西の空がみるみる焼けてきて素晴らしい夕焼けに。
振り返ると木道越しに水晶岳も見事なアーベントロートとなり、まるで浮き上がるように赤く染まりました。

なんて美しさだ…。

『Abendrot in Farthest Region』

刻々と色彩が変化する美しい雲ノ平の夕景。

その瞬間に立ち会えてつくづく幸運だったと思いました。雲ノ平では今まであまり天候に恵まれませんでしたから…。

でもそれも含めてこの美しい情景を前に、今までの山がすべてこの瞬間に結びついていたように思えてなりませんでした。

この日を、ありがとう…。

『紅を紡ぐとき』

『紅を紡ぐとき』

この少し冷たい風が見えるかい?
その山の匂いに触れてみたかい?

山が紅を紡ぐとき、
その燃えたぎる色は、きみの色。

山は、きみのその赤ら顔を見ている。
赤く光るきみの瞳は、山を見ている。

その色は過ぎ去りし日々の贈り物。

その色が聞こえるかい?

 

 

(後編に続く)

『紅を紡ぐとき』晩秋の黒部源流、北アルプス最後の秘境雲ノ平(後編)