先日のことになりますが、新しい富士フイルムのGFX用の広角ズームレンズ『GF20-35mmF4 R WR』(2022年9月発売)を使用しての星空のテスト撮影をようやく敢行できたので、今回は実際に撮影したその画像を振り返りながら、この新レンズの星空における描写性能チェックをしたいと思います。
このレンズは待望のGFX用の超広角ズームということで、このレンズを使ってGFXで星景写真を撮影してみたいと思っている方々や、その星の写りが気になっている方々も多いと思いますので、本記事がご参考になれば幸いです。
すでに当方のYouTubeチャンネルにて同内容の動画もありますので、お時間がありましたらそちらも併せてご覧ください。(本編約22分)
今回はひとまず本レンズでの星空の描写性能のみの速報的な内容に留めて、また日を改めて総合的なレンズレビュー記事を掲載する予定でいます。
- 『GF20-35mmF4 R WR』の概要
- テスト撮影の条件
- 今回の使用機材
- 実写画像
- 星空撮影時の本レンズの欠点
- 完成イメージ
- 総評
『GF20-35mmF4 R WR』の概要
GFXユーザー待望の初の広角ズームレンズ
2017年に産声を上げてから早6年以上経過したGFXシステムですが、今までGFX用の純正の広角レンズは『GF23mmF4 R LM WR』(35mm判換算約18mm)というレンズのみの状態でした。それ以外ですと標準ズームの『GF32-64mmF4 R LM WR』の広角端である32mm(35mm換算約24mm)を使うか、あとはマウントアダプターを使って他社製の中判用を含む広角レンズを使うくらいしか選択肢がありませんでした。
かく言う私も広角で撮影したいといった場面ではマウントアダプターを介してニコンのFマウントの広角ズームレンズ『AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED』の望遠端の24mmを使っていました。もちろんニコンのFマウントレンズは一眼レフ35mm判用のレンズのわけですが、このレンズの場合は望遠端の24mmならば辛うじてケラレずに使用できました。
GFXはご承知の通り中判デジタル、富士フイルム曰く “ラージフォーマット” という35mm判よりも大きいセンサーを搭載しているシステムになります。センサーサイズ約44×33mmというフォーマットはたしかにフィルムの頃の中判に比べて少し小ぶりなサイズではありますが、その絶対的なフォーマットサイズの優位性はあるわけで、こればかりはひっくり返ることのない物理的事実ということでニコン使いであった私も気になっていたシステムでした。その背中を後押ししてくれたのがいつか出てくるであろうレンズロードマップ上にあったこの『20-35mm』の文字でした。
『GF20-35mmF4 R WR』のスペック
それではごくごく簡単にこのレンズのスペックをまとめておきたいと思います。
焦点距離 f=20~35mm(35mm判換算約16~28mm)
最大口径比 F4(最小絞りF22)
外形寸法 Ø88.5mm×112.5mm
質量 725g
フィルター径 Ø82mm
FUJINON GF20-35mm F4 R WR|富士フイルム
このレンズが正式リリースされてまず私が驚いたのは公式の製品ページにある『MTF特性曲線』のグラフでした。GFXでの『20-35mm』というレンジは35mm判換算で約16-28mmに相当するネイチャーにとっては非常に扱いやすいズームレンジになりますが、その広角端16mm相当や28mm相当の焦点距離においてこのMTF曲線はもはや “異常” とさえ感じた驚愕のグラフでした。
このくらいの広角域だと今まではどんなに素晴らしいレンズでも周辺部に行くにしたがって急激に画質(結像性能)が落ちるのが常でした。私がそれまで愛用していた広角レンズの中で最も素晴らしいと感じていたニコンのFマウントの『14-24mm』でさえ周辺のMTF曲線はガクンと落ちていました。
それがこの『GF20-35mm』では空間周波数の10本に至ってはほぼ直線、20本、40本と条件が厳しくなるにつれ次第にグラフは落ち込んでいきますが、それでもこの程度の落ち込み具合。ましてやこれは中判用の超広角ズーム。このグラフの形状は何かフルサイズ用に開発された中望遠単焦点レンズのそれかと見間違うくらいのグラフになっています。
「ほんとなのか?」
と言うのが実は初めてこのMTF曲線を見た時の正直な感想で、このレンズを待っていた甲斐があったとつくづく思いましたし、GFXに移行したのは間違ってなかったと星を撮る前からすでにワクワクが止まりませんでした。
テスト撮影の条件
開放F値の問題
さて、このレンズを手にすることが出来ていよいよ星を撮る段になって考えるに開放『F4』というレンズの暗さが気になっていました。もちろん中判用のレンズなのでフルサイズ用にあるようなF1.4とかF1.8という明るさは到底期待できません。設計上は可能なのでしょうが作ったところで巨大で重量級、おいそれと手に出来るような価格で収まるわけも無く、やはりこのF4というのがひとつの中判レンズの良い落としどころなのかもしれません。
星(星景写真)を撮影されていらっしゃる方ならお分かりかと思いますが、F4というのはかなり暗いF値になります。そうなるとそれを補填するには二通り手段があって、
①露光時間を長くするか、
②ISO感度設定を高くするか、
このどちらかで対応することになるかと思います。
GFXは中判システムですが今まで使ってきてみてどうもGFXは世間一般で言われている『センサーサイズが大きいから感度をガンガン上げられる』という印象は個人的には持っていません。逆に中判であるからこそ低ISOで最高画質を狙いたいと感じていました。
そこで今回は感度は上げずに①の露光時間を長くすることで対応しようと思いました。
ポータブル赤道儀による追尾撮影
もちろん露光時間を長くすると広角域と言えども日周運動の影響を受けてしまって正確な性能テストが出来ない(星が流れてしまう)と思って今回はポータブル赤道儀に搭載して追尾撮影しました。このようにすることで星を流すことなく、しかも低ISOで撮影することが出来ます。
実際に撮影してみて個人的には本番の撮影時もポタ赤を使ったほうが高品位の結果を残せるという結論に達しました。
今回の使用機材
今回はあくまで “星空の描写性能テスト” ということが目的なので多少取り回しが悪くても本番撮影時よりはカッチリとしたシステムを用いて撮影しました。
SWAT200
ポタ赤は今まで長らく使ってきた『SWAT200 (UNITEC)』を使用しました。
追尾精度(ピリオディックモーション)は実に±7秒程度というポタ赤としては異常なほどの高精度を誇っていますが、さすがにテント泊登山を伴うような本番の撮影では重量的(約1.4kg)に厳しいので、現在はより軽量なポタ赤を本番撮影用に物色しているところです。
今回はオプション品である簡易赤緯体やバランスウェイトなど拡張キットは使用せずに自由雲台(マセス)を赤経軸に直付けして撮影機材を搭載しました。もちろん広角での撮影ということでオートガイド等は使用しませんでした。
GFX50SⅡ
カメラは現在私がメインで使用している『GFX50SⅡ』を使用しました。
有効画素数5,140万画素の高画素機の部類ですがフォーマットが大きい分、画素ピッチ的にはフルサイズの約3,000万画素相当になります。それこそが中判デジタルの優位性のひとつと言えます。
このカメラはマニュアル撮影時はSSを30秒を越えて設定できる点も星空の撮影では使い勝手が良いポイントでもあります。(30秒、1分、2分、4分~などが選択可能)
SS-one POLAR 3
極軸合わせに関しては広角レンズでの撮影と言うことで5分や10分など余程の露光時間でもなければ粗々で合わせても問題ないだろうとは思いましたが、こちらも極軸のズレによって星像に影響が出ては正確なテストにはならないと思ったので、今回は『SS-one POLAR 3』という電子極軸望遠鏡を使用しました。
こちらはその界隈ではたいへん有名な “ほんまか” さんが開発されたもので、PC接続など必要のないいわゆるスタンドアローンタイプの電子極軸望遠鏡になります。実際の山岳地帯での本番撮影では荷物になるので使用しないとは思いますが、登山を伴わない星景写真や中望遠レンズでの星野写真等ではとても活躍してくれそうなコンパクトなアイテムです。
プレシジョンレベラー
実際の極軸の操作はこちらも以前から長らく使用している『プレシジョンレベラー(ベルボン)』をポタ赤と三脚の間に噛ませて使用しました。以前にこちらはレビューしましたが、軽量でコンパクトなのでほぼ三脚に付けっぱなしの状態です。とくに仰角の操作がやり易いので今回のような微動雲台としてもじゅうぶん使えています。
Gizto GT2542
三脚はこちらももうかなり使い込んでいるジッツオのマウンテニア『GT2542』を使用しました。ただこのテスト撮影の夜は風がかなり強くて、もう少し頑丈な星野写真で使っていたビクセンのAP赤道儀用の三脚にすれば良かったかなと思いました。
実写画像
前置きが長くなってしまいましたが、実際の撮像をチェックしてみましょう。今回のテスト撮影では広角端の20mm(換算約16mm)と望遠端の35mm(換算約28mm)の2パターンで撮影してみました。
下が今回の撮影設定になります。
②35mm 露光時間2分 絞りF4 ISO感度3200
予め断っておきたいのですが、今回はなかなか撮影する日取りや時間を確保することが出来ず、低空に雲がかかって一部撮像にも影響しております。
その辺りはご容赦ください。
①広角端20mm
まずは広角端の20mmでの全体画像です。
パッと見は周辺減光が少しキツめかなというのが第一印象ですが、星の描写、特に分解能はすさまじいものを感じます。とにかく星が精緻に細かく“点”で描写されており、それにより天の川銀河の存在感がまるで星雲のように前に出て見える印象です。WBは軽く合わせましたがもちろん強調処理やシャープ処理、ノイズ処理等は一切行っていない、ほぼ撮って出しの画像です。
次は中央部と左上最周辺の等倍画像です。
↓ こんな感じの『720×720ピクセル』の切り抜き画像です。
まずは中心部です。
ご覧のようにものすごくシャープです。
最近のミラーレス用のレンズはどれも開放から素晴らしい解像度を誇るレンズが多いですが、このレンズも開放から解像性能が非常に高いレンズです。
少し気になるのは微恒星の周りが若干黒く落ち込んでいるように見える部分で、おそらくこれは現像ソフト(ADOBE Camera Raw)でデフォルトでかかっているシャープ処理(+40)によるものだと思います。
次は四隅、画面左上の最周辺です。
周辺部でもこの程度の画質低下で収束しています。
驚くべき周辺画質です…。
確かに色ズレ(とくに青)は見受けられますし、最周辺では星も放射状に伸びてはいますがこの程度の低下で済んでいるのは驚異的と感じます。一昔前の広角レンズの周辺部によくみられた “サジタルコマ収差” 、いわゆる鳥が羽根を広げているような非点収差はかなり抑えられています。この最周辺の一部を強トリミングした画像の中でさえも少し中心部側(つまり右下側)は星の伸びはほぼ無いに等しいです。
換算16mmでF4開放、しかも中判用の四隅の最周辺でこれは素晴らしい結像性能と言えるでしょう。
さらに各四隅をチェックしてみても片ボケなど全く無いのでそのあたりも実に信頼できるモノ作りをされているなという印象を持ちました。
②望遠端35mm
続いては望遠端35mmの全体画像です。
こちらもなかなかにシャープな写りです。
焦点距離が違うので20mm時とは星の大きさが違っていますが、これはこれで素晴らしい結像性能といえます。広角端と同様に周辺減光がキツめに出ています。
次にこちらも同様に中央部と四隅(左上)を『720×720』ピクセルで切り抜いて等倍で見てみます。
まずは中心部のピクセル等倍画像です。
こちらも中心部はものすごくシャープなことが窺えます。
それとISO感度を1段分上げたことで画像の荒れ方が大きく異なります。やはりピクセル等倍鑑賞ですとセンサーサイズの恩恵は無いので低ISOで撮りたいと感じてしまいます。先ほどGFXは極力低感度で撮影したいと申し上げましたが、その感覚が少しお分かりいただける画像かと思います。
続いて四隅(左上)のピクセル等倍です。
さすがにこちらは準広角域だけあって星の伸びはかなり抑えられています。ただ全体的に若干風の影響を受けたような星像も見受けられますし、この35mmでの撮影ではピントもわずかにジャスピンを外しているかもしれないので参考値的な画像であるのが悔やまれますが、このレンズの画面全体の “均一性” の高さを窺える画像になっています。
20mmの画像と細かく比較してみると個人的にはこのレンズは広角側によりその性能の高さを振っているという印象があります。MTF曲線を見てみてもそのようなデータになっているので、そのままの印象です。
あくまでこれらは等倍拡大したときの画像になりますから、実際に引いて鑑賞したり、大伸ばしのプリント出力時では画面全体においてまさに “砂粒” のような星像であることは間違いなさそうです。少なくとも単焦点も含めて私が今まで使ってきたどの広角レンズよりも高画質で、最も素晴らしい結像性能だと断言できます。
星空撮影時の本レンズの欠点
ご覧いただいたように、星空撮影における均一性や結像性能は見事なレンズですが同時に欠点も見えてきました。
周辺減光が大きい
このレンズは開放F4のレンズですが、F4の割には周辺減光がかなり大きいと感じました。この辺りはフルサイズではなく中判のイメージサークル(55mm)をカバーするために設計上このようなものなのかもしれません。
例えばフルサイズ用の大口径のレンズであれば開放絞りから少し絞り込めば周辺減光は良化しますが、このレンズは開放がF4のため露光時間の兼ね合いで正直これ以上絞りたくはありません。もちろん絞り込めばさらなるシャープな星像が期待できますし、どうせポタ赤での運用となるなら露光時間を伸ばせるので絞っても良いかとは思いますが、極軸の精度や天候(風)、取り回し、撮影テンポなどを考えると露光時間を長くするのはそれ相応のリスクもありますから開放で撮影するのが得策のように感じます。
そういった場合はこの周辺減光は『フラット補正』による補正が有効ですが、換算16mmという広大で均一な光源と言うものを撮影するのがまず大変です。この辺りをクリアできればこの周辺減光の大きさは問題にはならないと思います。それに夏の天の川周辺を撮影するならばそもそもそれほど強調することも無いのでレンズプロファイル補正を適宜使用したり、PSによる円形グラデーションマスクでの補正でも十分かもしれないとも思えます。
ピントの追い込みが困難
ピントの追い込みに関してもかなり難しいものがありました。
AFのズームレンズということでその辺りはMFのレンズほどのピントリングの調整幅はありませんし、ちょっと触れただけでかなりモニター上の星像が変化しますから、いわゆる “神の手” が必要になる部類の、かなり扱いが難しいレンズという印象がありました。この辺りはニコンの14-24mmなんかは非常にピント出しがし易かった印象がありました。
ピントリングに対して減速装置的なものを外付けするなり何か対策が必要とは思いますが、ただピントの山は意外と掴みやすかったと感じました。おそらくレンズの解像度やシャープさあるのでそうなるのでしょうが、例えば大き目な星(1等星や2等星)で合わすとか、あとは経験を積んで慣れていくしか無さそうです。
レンズヒーターを巻くところがない
これは構造上仕方がない部分ではありますが、太さはありますが意外と筐体が短めでコンパクトなレンズのためレンズヒーターバンドを付ける場所が難しいと感じました。ヘタなところ、例えばピントリングに触れるようなところには絶対に巻きたくないですし、この辺りはどうしようか試行錯誤をする必要があるようです。
仮に登山を伴わない撮影地であればヒーターバンドではなく乾燥空気を送風するシステムのほうが良いかもしれません。
完成イメージ
今回はあくまで星空におけるレンズ性能のテスト撮影と言うことで、前景や構図などは拘らずに撮影しましたし、画像自体もスタックせずに1枚モノです。撮影地も星空撮影に適した暗い撮影地に出かける時間を取れなくて関東で撮影していますから、東や南東方向にえげつない光害があるので本格的な画像処理はするつもりはありませんでしたが、折角撮ってきたので粗々ではありますが完成イメージに近い感じで仕上げてみました。
問題の周辺減光はPSでの円形グラデーションマスク、光害は線形グラデーションマスクで処理。あとはRGBのコントラスト調整とカラーバランス調整、輝度マスクを併用したレベル補正による軽めの強調を加えました。ちなみに現像時にデフォルトでかかっているシャープ処理以外のシャープ処理やノイズ処理は今回は一切していません。
スタック無しの1枚モノで既にこれだけの表現力を持った画像を残すことが出来ます。これは一般的な15~30秒露光の高ISO感度でのワンショット撮影ではなく、赤道儀追尾による低ISO感度での撮影による恩恵も多分にあるかとは思います。しかし画像処理してみて思ったのはこのレンズの画面全体の均一性の高さによるものだと改めて思いました。
画面の周辺に行くほど星が肥大して、星のひとつひとつが強い輝度を持ってしまうと強調したときにそのあたりが真っ先に強調されるので画像品位が著しく損なわれることがあります。そういったレンズを使用したときは私は今までマスクを使って凌いでいましたが、このレンズにはそのような苦労はほとんどありませんでした。
処理自体も光害補正は別として非常に楽に出来ました。
元々の画像が非常に均一性が高くナチュラルであることはその後の処理のやり易さに格段の差が出てくると感じました。
総評
今回このレンズで撮影してみて感じたことは開放F4と少し暗いながら星景や広い写野の星野写真では最高の広角ズームのひとつであるということです。
このレンズの星空撮影での良ポイントをまとめてみました。
結像性能及び分解能の高さ、色収差の少なさ、コマ収差がほぼ無い、画面全体の均一性
②野外での使用時の心強さ
防塵防滴仕様、インナーズーム仕様
③使い勝手の良さ
出目金レンズではない、フィルターが使える(82mm径)、絞りリングがある
④筐体のコンパクトさ
太さはあるが比較的コンパクト、軽量(725g)
個人的には全GFXユーザーにおすすめ出来る高性能で万能性のある素晴らしいレンズだと思いました。正直GFXの広角はこれ1本あればもういらない、そう感じます。現在レンズロードマップにあるティルトシフトレンズ以外は…。
今回の記事は以上になります。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
GFXユーザーの皆様のご参考になれば幸いです。
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