春になると梅や桜といった日本の美しい花々が咲き誇ります。
すっかり葉を落として色の消えていた冬の野山や里山に、白、ピンク、赤、黄とカラフルな花々が春色を付けてくれます。
私はもちろん梅も桜も好きでたびたび写真も撮りに行くのですが、もっと好きなのが『春の妖精』とも呼ばれる花々。
冷たい土の中で寒い冬をしのぎ、日があたたかくなり始めた頃にぬくっと土から顔を出して春を告げてくれる健気さにはたまらない愛おしさを感じます。
『Spring Ephemeral』
早春に土から顔を出して花が咲き、夏まで葉をつけ、その後は再び地下で過ごす一連の山野草。
その儚さからスプリング・エフェメラル(春の妖精)と呼ばれています。
梅や桜と同様に早春を謳歌するのはほんのわずかな期間だけ。
パっと春を告げたらすぐに土に潜ってしまいます。
とても色彩豊かに咲き、寒さに負けないように地下に根茎や球根をもつものも多く、小柄ながらも生命力に満ち溢れたとても大きな存在。
今回はそんな愛すべき儚い山野草たちを紹介します。
フクジュソウ
福寿草、Adonis ramosa、キンポウゲ科フクジュソウ属の多年草。
フクジュソウは細かくは4種類に分けられるそうですが、エダウチフクジュソウを一般的に『フクジュソウ』と単に呼ぶらしいですが、スプリング・エフェメラルの中では一目散に咲き出す最もポピュラーな山野草。
日が昇りだすと日光を集めるためお椀型に花を開き、その黄色に美しく咲く様は名前のとおり福をもたらしてくれるよう。
花言葉はもちろん『幸せを招く』『永遠の幸福』となるのですが、西洋における花言葉は『sorrowful remembrance(悲しき思い出)』。これは学名“Adonis”がギリシア神話でイノシシに殺された美少年アドニスの名前に由来するため。
西洋と東洋(日本)でまったく花言葉が正反対になるのも興味深いですね。
野山に咲く黄色い花はたいへん美しく目立ちますが、埼玉県秩父地方でみられる固有種『秩父紅』は幻のフクジュソウとも言われオレンジ色に咲き鑑賞者を楽しませてくれます。
セツブンソウ
節分草、Eranthis pinnatifida、キンポウゲ科セツブンソウ属の多年草。
2月に真っ先に咲き始めるセツブンソウは日本固有種であり、本州の石灰岩帯を好む傾向があります。
まだ寒さが残る早春に可憐で健気に咲くセツブンソウは人気が非常に高く私も大好きな花ですが、残念ながら乱獲や環境の変化によって今では希少な春植物で環境省のレッドリストに入っています。
花言葉は『微笑み』『人間嫌い』など。
関東では埼玉県小鹿野町や栃木県栃木市の四季の森星野が自生地として知られています。
基本的には美しい白い花弁(萼片)は5個つきますが、なかには6個ついたり、8個つく個体もみられます(八重咲き)。
年が改まって最初に愛でることができるこのセツブンソウとフクジュソウは、心躍る春の息吹の先頭バッターのような存在。
アズマイチゲ
東一華、Anemone raddeana、キンポウゲ科イチリンソウ属の多年草。
高さ15~20㎝ほどで、白い花弁は3,4㎝で実はセツブンソウと同様に萼片にあたります。
主に日本全国の落葉樹林などの山林、草地に生えます。
アズマは『東』で関東の意。
よく似た『キクザキイチゲ』は本種の葉が深く切れ込んでますが、アズマイチゲは深い切れ込みはなく、さらに花の中心部が紫色になっています。花は酷似していますが葉の形が大きく違い、私はキリっとした印象のキクザキイチゲ、ふわっと柔らかい印象のアズマイチゲとして記憶しています。
カタクリとともに自生することも多く、色彩のコントラストを楽しむことができます。
カタクリ
片栗、Erythronium japonicum、ユリ科カタクリ属の多年草。
高さ10~15㎝ほどで、薄紫や桃色の花が下向きに咲く。
なかには『シロバナカタクリ』という白い花をつけるものもあります。
カタクリの咲く林床にはニリンソウも咲くことが多く、春の美しい共演が鑑賞者を楽しませてくれる。
花言葉は『初恋』。カタクリは下向きに花が咲くことから、『恥じらいによりうまく自分の気持ちを伝えられない乙女』を連想させることから。うつむいて咲くにということでほかに『寂しさに耐える』という花言葉もあります。
カタクリは凛々しく、淑やかに『凛』として咲くイメージ。
その他の『Spring Ephemeral』
上記で取り上げた他にもたくさんの種類があります。
- キンポウゲ科…キクザキイチゲ、ユキワリイチゲ、イチリンソウ、ニリンソウなど
- ケシ科…ムラサキケマン、エゾエンゴサクなど
- ユリ科…キバノアマナ、ヒロハノアマナなど
『Spring Ephemeral』ではない春の山野草
『Spring Ephemeral』は雪解けとともに咲く春植物ですが、同じ時期に花を咲かせる山野草でも『Spring Ephemeral』に含まれないものもあります。同じような時期に咲くので間違いやすいのですが、あくまで『Spring Ephemeral』は新緑や夏の間はもう地上部は枯れて、地面の中でじっとしている植物。雪割草として知られるミスミソウやザゼンソウ、シュンラン、クマガイソウ、ミヤマカタバミなどは夏の間も葉を茂らせています。