雄大な景色、
色とりどりの高山植物、
健気に生きる逞しくも愛らしい動物たち、
そして、満天の美しい星空。
北アルプスは日本を代表する山岳地帯であり、登山者ならぜひ一度は訪れたいと思う楽園。そんな北アルプスですがやはり朝夕の美しい風景、夜空を埋め尽くす煌びやかな星空などは日帰り山行では味わえないものです。となると必然的に山小屋泊、もしくはテント泊ということになります。
今回はその中でもテント泊に絞って数ある北アルプスのキャンプ指定地、つまりテント場について個人的におすすめする3ヶ所をTPO別に3回に渡って取り上げたいと思います。
(目次)
- はじめに
- 小屋泊か、テント泊か
- おすすめ①白馬大池山荘テント場
- おすすめ②剱沢キャンプ場
- おすすめ③双六小屋テント場
- その他のおすすめテント場
- まとめ
はじめに
このシリーズでおすすめするテント場はもちろん全て私自身が実際に幕を張ったことがあるテント場となります。ただ私は北アルプスのテント泊山行経験があるとは言え、残念ながら北アルプスにあるすべてのテント場で幕営したわけではありませんし、さらに私は好きな山域の山は何回も歩きたいタイプなのでどうしても山行自体がかなり偏ったところがあります。そういうこともあり、あくまで私の独断と偏見にまみれた『おすすめ』となることをご了承ください。
ピックアップしたテント場にはそれぞれある程度の目安として、
・テント場へのアクセスの良さ
・テント場のロケーション
・テント場の利便性
初回の今回はこれから北アルプスでテント泊山行を始めてみたいと思っている方々や、テント泊山行を始めたばかりのビギナーの方々に向けておすすめしたいテント場を取り上げます。
長野県・岐阜県・富山県にまたがる北アルプスは国定公園や国立公園、自然公園となりますので、緊急を要する場合を除いて指定されたキャンプ地以外では基本的には幕営は禁止されています。社会のルール同様、山でも近年は特に登山者のモラルが問われる時代です。美しい自然を守れる否かは、登山者に課せられた大きな使命と言えます。
小屋泊か、テント泊か
おすすめのテント場を紹介する前に小屋泊とテント泊の魅力をそれぞれ取り上げたいと思います。
私が初めて泊りで山を登ったのは燕岳の燕山荘でしたが、その後に山に魅了されてからは白馬山荘や唐松岳頂上山荘、穂高岳山荘に泊りました。実は私が北アルプスの山小屋に泊ったことがあるのはこの4つくらいです。山の魅力に憑りつかれてからすぐに私は山岳テントを購入し、その後はほとんどテント泊となりました。暴風雨でテント泊を断念して、仕方なく山小屋泊に切り替えたこともありましたが、基本的にはほぼテント泊となりました。
小屋泊の魅力
山小屋泊のほうがもちろんテント泊よりも荷物が少なくなるので山登り自体は圧倒的に『楽』です。体力に自信の無い人や小さなお子様連れ、そして天気が急変したときなんかは小屋泊には大きなメリットがあります。
食事付きならば質素ながらも温かいおいしい食事も可能ですし、例えば雨天時は濡れた雨具も乾燥室などがあれば利用することが出来ます。さらに小屋内の談話室や食堂、テラス席などで知り合った同志と楽しい山談義をしたり、小屋によっては夜にちょっとした催し物が用意されていたりします。
料金はもちろんテント泊よりも高くなりますし、素泊まりでもテント泊料金よりもかなり割高になります。基本的には小屋に泊るには前もって予約が必要になりますし、もちろん非常事態のようなときには予約なしでも宿泊できることが多いですが、基本は要予約となります。
それぞれの小屋によって食事の時間や消灯時刻も決まっています。そういう意味では時間を自由に使えるとは言い難いですし、夏の最盛期では混み合えば畳一枚に2人、ないしは3人ということもあります。現在は感染症拡大防止の観点からある程度は予約人数を絞ってはいるとは思いますが。
テント泊の魅力
逆にテント泊はテント自体(本体・フライシート・グランドシート・ポール・ペグなど)もそうですが、それにまつわる細々したものは当然ながら、食料も含めてすべて自分で担がなくてはならないので山登り自体は『かなりきつい』です。体力に自信がある方、とくにソロではあらゆるアクシデントに対応する責任と能力、計画性、パッキングを含めた準備などある程度の経験が必要になってきます。
しかしテント泊には小屋泊には無い大きな魅力が多いです。
薄い布きれでしか守られていないわけですからより自然を肌で感じることが出来ます。暑さ、寒さ、夜の静けさ、風、雨、時には雪と、小屋の頑丈な建物に守られているよりも圧倒的にダイレクトに自然を感じることが出来ます。
食事や就寝時間などは全て自らの行動計画に合わせて自由に決めることが出来るのも大きなメリットとなります。そしてなにより、山小屋泊と違って狭いながらもテントという絶対的なプライバシースペースを確保できることがかなり大きなポイントとなります。おそらく、これからテント泊にも挑戦してみたいと思われた理由のもっとも大きなポイントがこれではないでしょうか?
以前はテント泊には基本的には予約など必要がありませんでした。
しかし新型コロナウィルス拡散防止の観点から現在ではテント泊でも予約が必要のところも増えてきました。その辺りはそれぞれのテント場を管理する山小屋や山荘のHPなどで確認が必要です。
実はテント泊は予約が必要なく天気や体調などを考えてある程度自由が利くところが魅力のひとつでしたが、残念ながらその利便性が失われたのは大きいと個人的には思っています。
おすすめ①白馬大池山荘テント場
まず最初にビギナーの方々におすすめしたいテント場は白馬岳の麓、白馬大池湖畔に建つ白馬大池山荘テント場です。
アクセスの良さ☆☆☆☆★
ロケーション ☆☆☆☆★
利便性 ☆☆☆☆★
幕の張り易さも抜群で、テント場はフラットでペグも刺さりやすく、テントの扱いに慣れていないビギナーにはそのあたりもおすすめできるポイントです。
さらにこのテント場へは主に蓮華温泉や栂池、白馬岳からの縦走などいくつか登山ルートがありますが、その中でも栂池高原からのアクセスならばゴンドラリフトとロープウェイが利用でき、これも体力的にテント泊装備の重さに慣れていないビギナーにはおすすめできるポイントです。
ご覧の通り白馬大池山荘の脇がすぐテント場となっているため、テント場の受付や売店も近くなりますし、トイレはテント場用に外トイレもしっかりあります。
ただこのようにビギナーにとって非常にメリットが多いテント場のためか、好天の週末や連休なんかではこのテント場は激混みとなります。現在(2021年)はコロナ対策のためテント場も特定日には予約制になっているため、張り数もある程度は絞って受付することになるでしょうから今後は激混みにはならないとは思いますが。
山の上の湖畔でテントで一夜を過ごし、
満天の星々を眺め、
日の出とともに朝露に濡れたテント場周辺のチングルマの群生が陽光を受けてキラキラと輝く清らかな朝を迎える。
こんな贅沢な山旅を味わえるのことが出来るのはこのテント場ならではと言えます。
翌日、このテント場から白馬岳に登るもよし、高山植物が咲き誇る雪倉岳方面へ行ってもよし、このエリア特有の北アルプスのたおやかな静の稜線歩きが大きな魅力の山旅となります。
剱沢キャンプ場
次におすすめしたいのは剱岳の麓、剱沢にある剱沢キャンプ場です。
アクセスの良さ☆☆☆☆☆
ロケーション ☆☆☆☆☆
利便性 ☆☆☆☆★
私が剱岳に登ったのは2013年の夏、この剱沢キャンプ場をベースとして幕営し別山尾根から前剱、そして剱岳という行程で登りました。実はこの時の山行が私にとっての唯一の剱岳登山で、後にも先にも剱岳とは縁が無く、このテント場でテント泊してからかなりの年月が経ってしまいました。
たしかこのテント場は地面がかなり固くてペグが刺さりにくかったという記憶があります。立地的にテント場自体が剱沢の斜面なので全体が斜めになっています。ただ張りにくい、寝にくいという印象もそれほどありませんでした。しかし張る場所によってはペグに頼れないかも知れませんので、石を使ってテントを固定することも想定したほうが良いと思います。
このキャンプ場へのアクセスは非常に良くて、立山黒部アルペンルートを利用し室堂へ、その後は雷鳥沢へいったん下って、剱御前小屋が建つ別山乗越まで雷鳥坂の急登ですが、それをこなせばあとはキャンプ場までなだらかに下って行きます。室堂からのコースタイムもそれほど長くは無いので、ビギナーの方にもおすすめ出来ます。コースタイムは長くなってしまいますがキャンプ場へは立山三山を経て向かうこともできます。
もちろん岩山が苦手、そもそも剱岳のような険しい山は登山対象でない方もおられるかもしれません。しかし剱岳に登らなくても、このテント場でテント泊するだけでも十分剱岳の魅力を味わえると思い今回おすすめとしています。
双六小屋テント場
最後におすすめするのは双六岳の麓に建つ双六小屋テント場です。
アクセスの良さ☆☆☆★★
ロケーション ☆☆☆☆★
利便性 ☆☆☆☆☆
さらに双六小屋のすぐ裏手がテント場となっていて買い物やトイレ、水場、そして軽食なども含めて利便性もとても良いです。どうしても険しい稜線にあるテント場の場合、飲料水が必要になった時はペットボトルを山小屋で都度購入することが多いのですが、このテント場はその心配が無いところも良いポイントです。
このテント場(双六小屋)は双六岳と樅沢岳の鞍部にあるのですが、小屋前からは鷲羽岳の迫力が素晴らしく、テント場近くには控えめながら双六池もあったりで、とても良い雰囲気のテント場です。このテント場から展望が素晴らしい双六岳や、樅沢岳、その樅沢岳をさらに行けば槍ヶ岳へ通じる西鎌尾根への美しいルートに繋がっています。
ただこのテント場へのアクセスは結構大変で小池新道と言われる登山道は新穂高温泉から左俣林道を含めてかなりの距離を歩かなくてはなりません。途中のわさび平小屋にこそテント場はありますが、中間地点と言える鏡平小屋にはテント場が無いため、テント泊のみだと長い長い1日の行程となってしまいます。
とは言えやはり双六岳や樅沢岳から望む槍ヶ岳はとても美しく、その登山の苦労に見合うだけの価値は十分にあります。
個人的にこのテント場は黒部五郎岳(黒部五郎カール)や雲ノ平山行の際に必ず利用するテント場になるのでかなりの回数利用していることもあり、非常に思い入れのある大好きなテント場ですが、ビギナーの方々にもとてもおすすめできるテント場です。
その他のおすすめテント場
その他にもいくつかビギナー向けのおすすめテント場をピックアップします。
燕山荘テント場
私は燕山荘のテント場は主に5月の残雪期によく利用していますが、まだその時期は雪の上に張ることになるのでテント泊を始めたばかりの方々にはまずは夏以降をおすすめします。
ただ燕岳は非常に人気がある山だけに、それほど大きくはないテント場と言うこともあって週末や連休などでは到着が遅くなると日によっては最悪張れないということもあるかもしれません。
現在は新型コロナウィルス拡散防止の影響で予約制(特定日など)となっているテント場も多く、この燕山荘のテント場も昨年(2020年)から予約制になったのでしっかりと予約を入れることが出来れば到着が遅くなっても張れないという悲劇が無いことは良いことです。
テントの予約制は利用者からしたら確かに不便で自由度が極端に落ちると考えていますが、その反面いわゆる『テン場競争』にならないのは良い側面だと思っています。テント場の状況が気になって心に余裕をもって山を楽しめないというのは “テント泊あるある” です。
中房温泉からのテント泊ピストンはもちろん、ここを起点として槍ヶ岳に向けて表銀座縦走や常念岳方面へ縦走するなど、人気ルートの起点・終点としての利用など北アルプスを満喫できる“玄関口”とも言えるテント場です。
雷鳥沢野営場
立山の雷鳥沢野営場は室堂からのアクセスも良くビギナー向けです。
ただ、あまりにアクセスが良すぎて純粋な山ヤだけでなく、いわゆる“キャンパー”の方々も多く利用するキャンプ場です。そのためか夏の最盛期は非常に賑やかで、時には山岳テントだけでなく下界のキャンプ場で使用するような大型のテントやタープまで張る方もお見かけします。
純粋な山ヤとしてはこういった光景には少し違和感も感じることもあり、さらに個人的には静かな山行が好みなので夏の最盛期で雷鳥沢野営場を利用することは少ないです。
しかし山のテント場としては非常に利便性もアクセスも良いのでビギナーの方々にはおすすめ出来ます。テント場の管理棟には水洗トイレや水場、受付など揃っていますし、最寄りの山荘で日帰り温泉まで入浴可能な、ある意味なんでもありのテント場になります。
嘆かわしいことですが近年では高額のテントを狙った盗難も頻繁にあるらしく、そのあたりは十分気を付けないといけません。
私はほとんどの利用が燕山荘のテント場と同様に残雪の時期が多いです。
涸沢キャンプ場
涸沢キャンプ場もビギナーの方々にはおすすめできます。
何と言っても穂高に抱かれているかのような雄大な涸沢カールのテント場ですからロケーションは最高です。とくに紅葉シーズンの涸沢カールは大変な賑わいで、週末には数100張り、多い年は1,000張にも及ぶカラフルなテントで敷き詰められます。
始点の上高地からは横尾までほとんどが林道で、本格的な登りは本谷橋を過ぎてからということもあり、アクセス的にもそれほど大変でもないことが人気のひとつかもしれません。
ただその分、朝の時間帯には小屋のトイレ待ちが1時間とか聞きますし、そういう状況では携帯トイレを利用したほうが良いでしょう。
さらにテント場にはゴロゴロした大きな石が点在していることもあり、それこそ場所によってはその上にテントを張ることにもなります。コンパネ板を借りることは出来ますがそのあたりも含めると人気のあるテント場の反面、実はある程度テント泊経験が多い方向けのキャンプ場とも言えるかもしれません。
まとめ
今回はこれからテント泊を始めたい方々や、まだテント泊を始めて間もないビギナーの方々に向けた北アルプスのおすすめのテント場を紹介してみました。このほかにもロープウェイでアクセス可能な西穂山荘のテント場や、それこそ高地の清々しい雰囲気の良いキャンプ目的だけでしたら徳沢のキャンプ場もビギナーにはおすすめできます。
とにかく北アルプスにはテント場が非常に豊富なので、縦走を含めテント泊計画を立てて妄想登山するだけでも楽しいものですし、自分の体力や日程に合わせて様々なルートを選定できるのがこの北アルプス登山のもっとも素晴らしいところです。
山小屋泊もテント泊もそれぞれ一長一短ありますが、私は自由度も含めてテント泊ばかりになりました。私もそうでしたが、テント泊の経験が少ないころは期待と不安が入り混じっています。しかし様々な経験を積むことで、自分だけの登山、自分にしかできない山歩きが出来るのはやはりテント泊の方だと思っています。
今後は感染症の感染拡大防止の観点からテント泊需要が見込まれると思います。この記事が皆様の良き登山ライフのお役に立てれば幸いと思います。
次回は北アルプスのおすすめのテント場『絶景のテント場編』です。