夏の終わりに雨の奥高尾を歩く(高尾山口~小仏城山~景信山縦走)

DIARY

本山行記事に掲載の写真はスマホ(前半)とフィルムカメラ(後半)で撮影されたものです。

Camera : Nikon F-801s
Lens : AI NIKKOR 50mm f/1.4s
Film : Kodak Color Plus 200

夏の終わりに

まもなく暑かった今年の夏が終わる。
個人的に暑いのが大の苦手で寒ければ寒いほど身体の調子も良いのであるが、そんな私にとって毎年梅雨が明けて夏を迎えるのが本当に憂鬱である。夏の唯一の楽しみと言ったらアルプスを歩けることぐらいだろうか。

今夏は北アルプス登山を2回ほど敢行した。
年々アルプス登山の回数は減っているが、昨年はゼロだったわけだから今年はまだマシなほうだろう。というのもここ最近の私が趣向する登山や撮りたいものがアルプスとは微妙にミスマッチしてきているように感じているのだ。今夏において敢行したその2回分の山行記事は現在もなお鋭意制作中であるが、テキストの執筆自体は終えているものの、如何せん写真の現像やレタッチ作業に多くの時間を費やしているところで、果たしていつ公開できるのか私自身もわからないというのが正直なところである。

高尾山登山

そんな中、9月も下旬という時期になってようやく秋めいて朝晩も少しだけ過ごしやすくなってきたところで、久しぶりに高尾山を歩きたくなったのである。奥高尾含め高尾山は個人的に好きな山域で、ここ最近は頻繁に歩いているのだが、さすがに夏の高尾山は暑くて私にはとても無理である。涼しくなったら…とずっと思っていたところ、ようやく私でも低山を歩けるくらい涼しくなり始めてきたということで今回歩きに行くことが出来たわけだ。

高尾山に関しては『全天候型の里山』と個人的に思っているくらい、台風でもなければどんな天候でも私には楽しめる山であるが、山行当日は見事に雨となった。予定としては高尾山口から陣馬山まで縦走したかったのだが、それは天気の具合を見て歩きながら決めるつもりでいた。

前回高尾山を歩いたのは2024年の5月下旬である。
その山行自体は当ブログには記事としてはいないが、今年2024年11月に都内にて予定されている共同写真展の出展者たちの “顔合わせ会” といった感じの主旨の山歩きであった。その山行はご想像の通り写真家5人が集まれば当然スタスタと歩が進むわけもなく、高尾山口から6号路を歩き始めて山頂手前あたりで時間オーバーとなって引き返す山行となった。それはそれは内容の濃い山歩きで個人的にも楽しめたし色々と勉強にもなったのだが、それ以来高尾山には来ることが無かった。

登山家・写真家たちとの山行(2024年5月撮影)

数えてみると今年に入って今回が5回目の高尾山域の山歩きとなる。アルプスのような高山帯の山行よりも多いことになるが、それは今の私の趣向が “里山” に向いている証だろう。

高尾山口から6号路へ

確か前日の天気予報は曇りだったように思うが、スタート地点の朝の高尾山口はすでに小雨だった。もちろんだからと言って山行中止などする気もなかったし、雨の高尾山を歩きたい気持ちもあったので願ったり叶ったりであった。

小雨の高尾山口

しかしこともあろうに前夜にザックに入れておいたはずのレインジャケットを出そうと探したが入っておらず、どうやらテント泊用の大型ザックのザックカバーとレインジャケットを間違えて持ってきたことに気付き、仕方なく持ってきておいた折り畳み傘を差して歩き始めた。これでは片手が塞がってカメラを扱いづらくて面倒だが、そもそも6号路に入って少し歩いていくと本降りになってきて写真どころではなくなってきたのである。

この日は3連休の中日で早朝とは言え好天であれば多くの登山者で賑わっていたはずであるが、この日は実に静かなものである。駅周辺からケーブルカー駅前、登山道、すべて閑散としていた。下りてくる登山者も少なくて、道幅の狭い6号路であるがマイペースでじっくり自然観察しながら歩くことが出来た。

美しい沢筋も水量が増している

雨に匂いがあるとしたら、と想像して頂ければ辺りはその想像通りの匂いが立ち込めていた。傘を叩く雨音も徐々に強くなり始め、カメラを出すのも憚れるくらいに本降りとなる時間も出てきて、途中からはスマホでちゃちゃっと撮って、あとは無心に歩だけを進めた。

雨天登山の良さのひとつはこの “無心になれるところ” かもしれない…。一般生活において無心になれる瞬間は実に少ないもので、それを体験できるのは日々瞑想を習慣づけている方々くらいであろう。

6号路も川の如し

雨の山は良い。
何がって、晴れの日には決して見ることが出来ない山の景色を目の当たりにできるから。晴れ同様これも山の景色である。山のキレイな部分だけ見ていては、山の、自然の本質を知ることはできないと個人的には強く思っている。

スリップに注意しながら歩いていく

無心に登っていく

山頂から先は

この日はいつにも増して身体が重かった。
いつも登り始めて30分から1時間くらいがもっともきついが、日ごろの運動不足か寝不足か、はたまた当日の補給不足か、どうも身体が一段と重く感じ足も前に進まなかった。蒸せるような暑さはないし、雨とは言え気分も悪くはなかったが、人の身体というものは複雑なものだ。

山頂直下の長い階段

時にカメラも出せないくらいに雨足が強いこともあって、いつものように撮影と称して実は息を整えていた習慣がこの日は出来なかったかもしれない。かなりオーバーペースだったかもしれない。山頂直下にある階段も息を整えながら休み休み登った。

人も疎らな高尾山頂

山頂には 8:00過ぎに着いた。
私にとって高尾山口駅から1時間ちょっとでの到達は今までで一番早い部類だ。行き会う登山者も少なかったし、撮影もほとんどしなかったし、なによりただただ黙々と登ったからかもしれない。いつも賑わう山頂もこの天候ではガラガラで数えられるくらいに登山者は少なかった。

もちろん富士山など拝めるはずもなく、トイレを借りて軽く行動食を胃に流し込んでから小休止した。濡れていることもあって留まっていると身体も少し冷えを感じ、よっぽどこのまま1号路で下山しようかと考えたがせっかくの高尾山、このまま帰るのは勿体ないと小仏城山までは行ってみようともみじ台へと歩を進めた。



奥高尾縦走路①

雨は小振りになったり、また強く降ったり。
この奥高尾の縦走路は粘土質の箇所も多く滑りやすいので注意しながら歩いたが、登山者ともほとんど行き会わなかったのでのんびりと歩くことが出来た。

彼岸花が咲いていた

途中、一丁平園地の東屋で雨宿りがてら小休止していた時なんかはかなり激しい雨足となった。ここ最近の山の天気予報はまったく当てにならない。まぁそもそも山の天気とはそういうものだが。

平均台のような登山道

小仏城山に着いたのは10:00。
『城山茶屋』さんはこの天候のためか営業されておらず、今年の3月に景信山頂から移転されてきた『青天狗』さんは営業されていたのですぐに “なめこうどん” を注文。この温かくて美味しい料理が今一つ本調子ではなかった身体を元気づけてくれた。

1時間弱ほど休憩していると雨もようやく上がってきたので、ここまでほぼザックの重りと化していた古き良き一眼レフカメラ『Nikon F-801s』を取り出した。ここから先の縦走路はこのフィルム時代の良き相棒に風景を切り取ってもらおう。

看板犬のももちゃん(Film)

Nikon F-801s

1988年に発売された『F-801』のマイナーチェンジ版として1991年に発売。イケイケどんどんのバブル期のカメラということで大量生産時代の強化プラ製で、所有欲よりも実用性に振った機種と言えよう。フィールドへ持ち出すには実はプラ製は軽くて良い。

『Nikon F-801s』

最高速1/8000sのシャッタースピードを誇り、フィルムは自動巻き上げ(オートワインダー)、測光モードも3種用意され(分割・中央重点・スポット)、AFはシングルとコンティニュアスを選択でき、MFレンズ使用時でもフォーカスエイドが使えるというほぼ現代のデジタル一眼レフと遜色ない機能を有している。電源はどこにでも売っている単3電池なのも実に汎用性が高い。

当時はF501やF401の上位機種として位置づけられていたこの機種。私もオリンパスの『OM30』というフィルムカメラからこの機種に乗り換え、その後『FM2』をサブとして導入し、そしてデジタル移行後もずっとニコンを愛用してきた。

最近は70年代のレンジファインダータイプのフィルムカメラを中古で漁って(『OLYMPUS-35SP』や『YASHICA ELECTRO 35CC』)、それを好んでフィルムを楽しんでいたが、久しぶりに高性能なフィルム機で撮影したくなったのである。

『Yokohama Film-Logue』みなとみらい~山下公園

レンズは何のひねりもないMFレンズ『AI NIKKOR 50mm f/1.4s』を装着。写りは実に優秀で今回のような開放付近の柔らかな表現からキリっとしたシャープな写りまで楽しむことが出来る、いわゆる “ニコンの良心” とも言える安価な標準レンズである。
フィルムは今回もコダックの『Color Plus 200』を装填した。

茶屋『青天狗』さん(Film)

奥高尾縦走路②

小仏城山からは雲間にわずかに見える青空と立ち込めた尾根にかかるガスを楽しみながら縦走路を歩いた。城山から先はさらに登山者も減って、週末の高尾山域とは思えないくらいに静かな登山道を歩くことになった。

登山道の土も木々も、葉も、花も、そしてあちこちに張り巡らされたクモの巣も、雨上がりの美しさに溢れていた。雨は人には嫌われがちだが、人以外はすべて喜んでいるように見える。すべてが生き生きとしている。

雨上がりの小道(Film)

鞍部の小仏峠から再び登り基調となって、最後の急な登山道を登りきると景信山である。手前の展望台からは歩いてきた尾根筋が雲海に浮かぶように見えていた。雨の中を歩いてきた登山者へのご褒美とも言える素晴らしい山岳風景だ。

雲海に浮かぶ高尾の尾根(Film)

週末には賑わう景信山の山頂部もまた閑散としていた。
山頂のお茶屋さん『三角点かげ信小屋』はこんな天候のためか休業されていた。山頂側の展望台からも雨上がりの雲海が楽しめた。

ヤマアジサイ(Film)

振り返って

景信山からは時間的にも雨による停滞もあって陣馬山方面への縦走は諦め、小仏バス停まで下山することにした。下山時も雨上がりの青々とした植物たちを堪能しながら歩くことが出来て、あっという間に小仏バス停まで下りてきた。ちょうど10分後に出発するバスに乗り込み、その貸し切り状態のバスに揺られながら国道20号沿いのバス停で下りて、自家用車を止めている駐車場へと向かった。

今回の山行ログ(YAMAPより転載)

山行的には約10kmの行程だったが、天候が悪かったため登山者も少なく、いつもよりもマイペースで山を楽しめたような気がする。雨天時の山の空気感、濡れた登山道、増水する沢筋、木々、葉、昆虫たち、そして可憐な花々。こんな天候だから出会える風景。

雨の日の芸術家(Film)

結論。
雨の高尾山はやはり良い。

 

今回は以上になります。
最後までご覧いただき、まことにありがとうございました。

光る森(Film)

個人的備忘録(おまけ)

高尾山口への下山後(というか実は山行中に気づいてはいたが)に、愛用してきた登山靴『LOWA タホープロGT WXL』のソールが加水分解していた。ソールが完全に剥がれるまでは至ってはいないのが不幸中の幸いだった。

ソール最下部が剥げれてしまった

この登山靴は私にとって最初のタホーで、現在は『タホープロⅡ GT』をメインとして使用しているため現在この登山靴はサブとして主に低山やボッカトレーニングの際に使用してきた。過去2回ほどソールを交換して使用してきたが、また交換となれば3回目となる。

この登山靴を使用し始めの頃は私の手入れが行き届いていなかったため革の劣化がかなり進んでしまい、その後にワックスをしっかりとかけるようになった経緯もあって、かなり痛みが目立っている。(実際には購入したショップ定員がワックスではなくスプレーのみによる手入れを推奨していた)

3回目のソール交換に出したいが、果たして今後このサブとして使用している初代タホーをどれくらい履くことになるだろうかと考えてしまうのだ。そもそもこの登山靴が真の実力を発揮するのはアルプスをテント泊縦走するようなシーンなわけで、そのような山行が年々減ってきている身としては躊躇してしまうのである。