晩夏の白馬岳、北アルプスの美しき稜線と白きブロッケンアーチ

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2019年9月 栂池自然園~白馬大池~白馬岳

栂池からゴンドラリフト、ロープウェイを乗り継ぎ栂池平へ。天狗原を通り白馬乗鞍岳、白馬大池、そして晩夏の白馬岳へ至るアーカイブ。北アルプス北部が誇る絶景の稜線と、白馬岳エリアの奇跡『白きブロッケンアーチ』の出現。

(目次)

  • 北アルプス北部の名峰、白馬岳
  • 栂池高原から一気に栂池平へ
  • ガス煙る白馬大池
  • 夜明けの白馬大池から白馬岳へ
  • 丸山山頂、山岳風景の窓『極み』
  • 白馬岳を目指すその光跡




北アルプス北部の名峰、白馬岳

日本の屋根とも称される北アルプス連峰。
南北に約150kmにもおよぶ山脈は長大にして雄大。中でも北部に位置する白馬岳周辺のエリアは日本海に近いだけあって積雪量が飛びぬけて多く、そのぶん雪解けを迎えると多くの花が咲き乱れ、まさに高山植物の宝庫として知られています。

本来ならば7月下旬に予定していた白馬岳でしたが、天候など諸事情により入山が9月にずれ込んでしまいました。残念ながら高山植物を愛でるにはさすがに遅すぎで、最後まで行こうかどうしようか迷いましたが、今回は高山植物というよりは美しい晩夏の北アルプス北部の稜線や、秋空が始まりつつある情景を撮ることに主眼を置こうと入山を決めました。

今回は私が白馬岳へ登るときにたびたび使うルート、栂池高原を起点とするルートとしました。白馬岳に向かうには最も標高差が少なくて済むので、撮影機材やテント泊装備一式を背負う私には体力的にとても助かるルートです。

栂池高原から一気に栂池平へ

『栂池高原』
この名を聞いて若かりし頃を思い出す方々も多いのではないでしょうか。学生時代、アウトドア派の方なら一度くらいは行ったことがあるであろうスキーのメッカ『栂池高原スキー場』。それから年月が過ぎ、白馬岳の登山の起点として再びこの地を訪れる方が非常に多い印象です。

栂池パノラマウェイ

栂池パノラマウェイはゴンドラリフト『イブ』とロープウェイを乗り継ぎ、労せずして一気に標高1,850mの栂池平まで連れて行ってくれます。ゴンドラリフト『イブ』は6人乗りで間隔もなく乗車でき、栂ノ森まで約20分。ロープウェイはその栂ノ森から少し歩いて乗り継ぎ、20分間隔で運行され約5分の乗車で栂池平に着きます。乗客が多いときは臨時便も出るようです。

栂池平は栂池自然園という花好きにはたまらない美しい高層湿原が広がっているため観光客の方々がたいへん多いのですが、早朝の栂池パノラマウェイの始発あたりはほとんどが登山客のため、意外とスムーズに乗車できます。(もちろんチケット売り場は長蛇の列ですが)

栂池自然園

白馬岳エリアが誇る広大な高層湿原、栂池自然園。
それこそお花の時期ともなると高山植物の宝庫、パラダイスとなります。湿原はいくつかのエリアに分けられ、すべて木道が整備され、ミズバショウやワタスゲをはじめニッコウキスゲ、コバイケイソウなどすべて列挙していったらきりがないというくらい高山植物が豊富です。

さらには展望湿原まで足を延ばせば、晴れていれば白馬岳など北アルプス北部の美しい展望を目の前に見ることが出来ます。

ただ園内を1周すると約5.5km、3時間半~4時間ほどかかるのでなかなか登山の合間に、とはいきません。ましてや花の写真を撮りだしたら止まらなくなってしまうので、今回は園内散策はしませんでした。ここへ来るなら完全に1日かけてお花三昧としたいところです。

いちばん美しいところ栂池自然園HP

ガス煙る白馬大池

栂池パノラマウェイの終着駅、栂池自然園駅からが実質的な登山となります。平凡な樹林帯を1時間ほど登ると程なくして高層湿原、天狗原に着きます。

天狗原を見下ろす

この天狗原を過ぎてからが意外とたいへんで、岩々の急登や巨石がゴロゴロしたエリアなど変化に富んでいますが、けっこう体力を削られます。この日は運良くガスが出てくれて涼しくて登りやすい気候でしたが、風もガスもないような日はかなりたいへんかもしれません。

白馬乗鞍岳

エアリアマップなどでは単に『乗鞍岳』と記されていますが、一般的には北ア南部の秀峰『乗鞍岳』と区別するため『白馬乗鞍岳』と言われます。標高は2,436m、栂池平からおよそ3時間弱でこの標高ですから、いかにこのコースが短時間で楽に登れるかがわかると思います。

私は過去、白馬乗鞍岳の周辺では何回も雷鳥に遭遇していますが、残念ながらこの日は会えませんでした。

大きなケルンが建つ山頂を緩やかに下ると蒼く美しい白馬大池が姿を現します。池のほとりには鮮やかな赤が山並みに映える白馬大池山荘が建っています。

白馬大池

北アルプスには数多くの山上湖がありますが、この白馬大池はその名のごとくとても大きい山上湖の部類となります。水自体も清らかで、晴れていればたいへん美しい『蒼色』を見せてくれます。大きい池というよりはもはや湖という感じの白馬大池、その畔まで近づけばここが本当に標高2,000mをゆうに超えるところかと錯覚してしまいます。

天上の湖、白馬大池と山荘

残念ながらこの日は夕方になるにつれどんどんガスが上がってきてしまい、その美しさを堪能できる時間がとても短くて残念でした。

混み合うテント場

白馬大池のテント場は狭くもなく広くもなくという感じで、フラットでテント自体はとても張りやすいのですが、きっと混み合うだろうなとは思いました。ただ私は昼過ぎに到着したのですが、その時点ですでに70%くらいは埋まっているとまでは思いませんでした。さらに午後になってもテント泊の方々は次々とやって来られまして、最終的には激混みのテン場となりました。

たしかに良く考えると栂池自然園から標高差わずか600m弱でこのロケーションですから混まないわけありません。改めて人気なコースだと認識させられました。

今後、白馬大池にてテント泊する場合は日程をよく考える必要がありそうです。



夜明けの白馬大池から白馬岳へ

夕方は夕景を撮影しようと展望の良い『船越ノ頭』まで上がりましたが、やはりガスは濃くなる一方でまったく夕景は撮影できませんでした。幸先の悪い初日でしたが、登っていく途中で運良く雷鳥に出会うことが出来ました。

白馬エリアは北アルプスでも有数の雷鳥遭遇エリア

北アルプスの中でも白馬岳への稜線は雷鳥の遭遇率が高く、とくにこの『船越ノ頭』あたりは別名“雷鳥坂”とも言われ、ガスや霧が濃いような日は出会えるチャンスが多くなります。

朝日に照らされるチングルマ

私は早朝の白馬大池ではいつも大池周辺のチングルマを撮影しています。『船越ノ頭』などもう少し上に上がってから日の出を狙うのも良いですが、白馬大池周辺のチングルマが夜露に濡れ、朝の陽光が白馬大池越しにそのチングルマに当たってくる時間帯は本当に美しい情景となります。

『Schweigen~白馬大池の夜明け~』

清らかな朝の空気、暖かく柔らかな光、美しくも蒼い白馬大池、そして瑞々しいチングルマの綿毛。

朝の陽光に瑞々しいチングルマの綿毛が輝く

白馬岳まではそれほど長い距離ではありません。慌てず急がず、朝の美しい白馬大池での贅沢な時間を楽しみました。

日が完全に昇ったあともテント場のテントの70%近くはいまだに張られたままでしたので、おそらくテントをテント場にデポしたまま白馬岳をピストンする登山者が多いように感じました。

北アルプス北部の美麗なる稜線

白馬大池から白馬岳への稜線は北アルプスの稜線の中でもトップクラスの美しさを誇ります。槍ヶ岳や穂高連峰、大キレット、不帰ノ瞼などゴツゴツした険しい稜線が最高峰の『動』の稜線としたら、この稜線は間違いなく最高峰の『静』の稜線となります。

稜線を振り返ると白馬大池が美しい

船越ノ頭~小蓮華山~三国境の美しい稜線からは北側には雪倉岳~朝日岳の美しい山並みが、南側にはこれから向かう白馬三山や八方尾根、後立山の山々が見え、時折雷鳥に出会ったり、終盤となった高山植物たちが稜線歩きに彩を与えてくれます。

白馬三山と八方尾根

小蓮華山
新潟県の最高峰2,766M。位置的に白馬村か小谷村と思われがちですが、新潟県糸魚川市の山。新潟県の山というと苗場山や巻機山、越後駒などの百名山を思い浮かべますが、まさか最高峰が白馬大池と白馬岳を結ぶ小蓮華山とは、私も最近になって知りました。

とくに北側に連なる雪倉岳から朝日岳のたおやかな稜線はいつも私を惹きつけてくれます。思わず予定を変更して三国境から先はあちらの稜線に足を向けてしまいそうになるくらい魅力的な稜線です。天気が良ければさらにその先、栂海新道の向こうには日本海も見えます。

白馬岳と白馬山荘

三国境からは少し急登となりますが、そこを登り切るとあとは山頂へのなだらかなプロムナードとなります。山頂付近になるとお隣の秀峰、旭岳が眼前に凛々しく聳え、山頂からは巨大な“山上のホテル”とも言える白馬山荘が真下に見えてきます。

白馬岳山頂から三山への稜線。奥には剱岳、立山連峰も。

白馬岳は標高2,932m、その山容はすこし変わっていて西側はなだらかに山頂に向けて尾根が延びていますが、東側は山頂を境に突如として切れ落ちています。そのため遠くからでも分かりやすく、周りの山々からは比較的簡単に山座同定が可能です。

白馬三山
後立山連峰の最高峰である白馬岳を筆頭に、三角木馬のような特徴的な山容の杓子岳、下界から見上げると三山の中で最も尖った白馬鑓ヶ岳。この三山を総称して白馬三山と言います。
巨大な白馬山荘は数少ない私が宿泊した山荘のひとつでもあり、山を始めた初期の頃の良き思い出があります。収容人数は公式には800名ですがもちろん最盛期にはその3倍くらいは宿泊できてしまう日本最大級の山小屋です。

今回はテント泊なので昼食のみ山荘のおしゃれな食堂『スカイプラザ』で頂き、すぐに白馬山荘のさらに下の白馬岳頂上山荘のテント場に向かいます。

丸山山頂、山岳風景の窓『極み』

白馬岳頂上山荘とテント場

白馬岳登山の際の宿泊施設は巨大な白馬山荘とこの白馬岳頂上山荘のふたつがあります。私は頂上山荘のほうは宿泊したことがないのですが、多くの方は白馬山荘を利用するようで、この頂上山荘は意外と宿泊するには穴場なのかもしれません。

今回、週末でしたが宿泊予定の方に窺うとそれほど混み合うことなくゆっくり眠れそうとおっしゃっていましたので、とくに大雪渓を登って来られる方はこの頂上山荘のほうに先に到着するので良い選択と思います。

テント場は昨日の白馬大池とは違いそれほど混み合うことなく快適に張ることが出来ました。テント場自体は山荘裏の窪地にあるため展望はよくありませんが、稜線にすこし上がれば展望も開け、杓子岳方面への縦走路の途中にある丸山まで登れば素晴らしい展望が広がっています。

丸山での山岳風景ショー

テント場にはその日の午後、どこからともなく笛の音が聞こえてきていました。晩夏の北アルプスの稜線、風も穏やかな午後、美しいその笛の音は丸山からのものでした。

丸山からは白馬三山はもちろん、剱岳や立山連峰、裏銀座の山々、槍穂、そして遠く白山も見ることが出来ます。

この日の丸山山頂では本当に様々な山岳風景を堪能することが出来ました。

白馬岳とブロッケンアーチ

白馬鑓ヶ岳の先にはなかなか見ることが出来ない滝雲がナイヤガラの滝のように雄大に流れていました。そしてガスの多い白馬岳エリアではよく見ることが出来るブロッケン現象。今回はそのオーラのようなブロッケンの周囲に純白のアーチも見ることが出来ました。

『Evening Of Nashira』

そして夕刻、雲海がまさに大海のように広大に広がり、沈みゆく太陽の光を受け美しく黄金色に輝きます。

茜色の雲海と滝雲、

美しい剱岳のシルエット、

赤く染まる杓子岳のアーベントロート、

そして沈みゆく夕日。

本当に夢のような時間…。

人間には到底作り出せないその雄大な造形美、美しい山岳風景に、改めて自然の圧倒的な表現力に身震いしました。

『美しい…』

ほかに何も言葉が出てこない、とても贅沢な時間。

『Cloudfall Sunset』

晩夏の北アルプス、

僅かな寂しさと美しい景色。

『来て良かった』

そう思える瞬間です。



白馬岳を目指すその光跡

今回の撮影山行において、どうしても撮りたいカットがありました。白馬岳は何度も登っていますが、最後に登ったときに思いついたカットで、このカットは日の出前の白馬岳山頂直下でないと撮れないものでした。

そのためテントの撤収はいつものようにまだ星が煌々と輝く時間帯となりました。といっても残念ながら天候は秋の台風の影響のためか下り坂のようで、星が“煌々”とは言えませんでしたが…。

テント場から2,30分ほどの登りを終え、白馬岳山頂直下で撮影機材をセット。ガスが東側から強い風とともに杓子岳に乗り上げ、夜明け前の荘厳な山の情景を作り出していました。

『Passage of Lighting Trail』

御来光を山頂で迎えようとまだ暗い中、テント場やふたつの山荘から多くの登山者がヘッドライトの明かりを頼りに登ってこられます。そのひたむきで純粋な想いがライトの光跡となり、白馬岳への稜線を繋ぎます。

『Passage of Lighting Trail』

夜明け前の荘厳なる白馬三山と我々登山者が紡ぎだす山岳風景。

静寂な稜線と、

新たなる一日。

杓子岳と白馬鑓ヶ岳の稜線

晩夏の早朝、僅かながらの寒さに震えながらファインダーから見える美しい情景にまた身震いを覚えました。

朝日に照らされる美しい山並みは残念ながら見れませんでしたが、栂池への下山時も時折薄雲が作り出す繊細で柔らかな光が山々を浮かび上がらせ、美しい北アルプス北部の稜線に命を吹き込みます。

雲間から柔らかな光が小蓮華山の稜線を包む

 

きっとまた、色とりどりのお花の時期に…』

雪倉岳への稜線を眺めながら美しい稜線美を目に焼き付けました。

美麗なる雪倉岳と朝日岳の稜線