2022年もいよいよ桜が各地で咲き始めた4月。
早くも今年5回目となる天体遠征に行ってきました。
今までは山岳写真が中心で天体写真はあくまで『その合間』、月に数日しかチャンスが無い新月期限定で撮影してきていました。しかしやはり本格的な赤道儀を導入したことで焦点距離も伸び、撮影対象が増えたので精力的に撮影に出かけるようになりました。その分、山へ行く機会が減っては来ましたが、こればかりは体が一つしかないので仕方がないところです。
前回の朝霧遠征から約一月ぶりの遠征となります。
- 天体撮影にも春到来
- 極軸問題の解消
- Sh2-1・Sh2-7
- さそり座アンタレスと青い馬星雲の星野
- 彼岸花と出目金
- The Star Cloud
- フラット補正の威力
- 今後の天体写真
天体撮影にも春到来
天城の季節
4月と言えば夜半過ぎからさそり座が昇り始め、それに引っ張られるようにいよいよ夏の天の川が東からやってくる季節。天文屋、とくに星雲星団を狙っている身としてはもっともワクワクする季節となります。
しかし関東近郊では大都市『トーキョー』がとてつもない光害を放っている関係でなかなか美しい夜空というものは無いに等しく、それも星々が昇ってくる南東方面の夜空は壊滅状態。そこで毎年この季節は静岡県、伊豆半島は天城高原へ遠征していました。
天城への遠征は昨年の4月以来でしたので、ちょうど1年ぶりとなりました。
実は先月3月もあわよくば天城への遠征も狙っていましたが、残念ながら天気の都合で行けずじまい。しかし今回はGPVでは “真っ黒” な快晴予測、Windyでも風が弱い予測。スケジュール的にタイトでしたがこれを逃したら後が無いと思い老体に鞭を打って遠征してきました。
2台体制で挑む
今回は現地到着が21時前後ということで無理をせず1台体制で挑む予定でしたが、やはり天体撮影は自然(天気や月齢)との戦いでもある点を考慮し、2台体制としました。このベストコンディションとも言える美しい夜空を逃したら次にいつ撮れるのかわからないのが天体写真。次回の新月期が絶対に晴れるという保証はありません。天体写真は『撮れるときに撮っておく』のが常套手段。
ただ2台体制と言っても私の場合は一方がポタ赤のSWAT200。
それほどの荷物にもならないし、それに今はどちらともノータッチガイドなので負担は軽くて済みます。ただ実際に2台でやってみて、なかなか忙しくて大変だと感じました。これが2台とも大きな赤道儀を用いてオートガイドやらモノクロカメラやらLRGB撮影やら…と考えたらなら果たして自分は出来るかと言われれば甚だ疑問に感じました。
D7100+サンニッパ on CELESTRON『Advanced VX』
メインであるAVX赤道儀に載せるD7100+サンニッパ。
こちらは焦点距離が換算450mmということである程度は星雲星団をクローズアップで撮れるので今回はずっと撮ってみたいと思っていた『彼岸花・出目金』で知られる『NGC6357』と『NGC6334』を縦構図で狙う予定。
さらにこの高度が低い対象が撮影できるようになる時間まではウォーミングアップとして先月テスト撮影した『青い馬星雲』と対をなす位置にある『Sh2-1・Sh2-7』を撮影してみました。もちろんこの対象は非常に淡い対象で天文屋にとっては結構な “難物” 。わかっていましたがやはりウォーミングアップで撮るようなものではありませんでした…。
GFX+ミルバス135mm on UNITEC『SWAT200』
実は今回の天城遠征はこちらがメインと考えていたGFX50SⅡ+ミルバス135mm。
こちらは逆に換算108mm、44mm×33mmのいわゆるラージフォーマットセンサーを活かしたより広い写野が特徴。 この画角はちょうどさそり座の上部の星雲群を一網打尽にできる画角。さらに広いダイナミックレンジの中判センサーにミルバスのシャープで明るい光学系を組み合わせることでこの淡い領域を狙うには最適。撮影前から期待が高まりました。
さらに短時間でもこのハイスピードさを活かせるということで薄明開始前の30分ほどを使って天の川の中心部付近、いて座の星のクラスター領域のいわゆる『バンビの横顔』を南北に点在する赤い星雲群ごと一網打尽に、という狙いも計画していました。
ということでこの2台体制にすることで少ない撮影機会を目いっぱい使って、今回はそれぞれ2対象で計4対象に挑もうと欲張りました。
極軸問題の解消
ポールマスターの不具合
さて昨年から続いたここ数回の遠征でのポールマスターの不具合。
前回の遠征記事でも書きましたがどうもポールマスター自体がかなり使用するPCのパフォーマンス状態に依存するようで、この不具合は使っているバッテリーの弱くなった私のノートPCが原因らしい。
そこでネットで有志の方々がその対策方法をいくつか紹介されていた中から今回は、
実は事前に遠征前にこの方法でソフトを起動したところポールマスターがスムーズに動いていることを確認していましたが、実際の現地でも問題なくスムーズな動きでアッという間に極軸合わせを精度よく終わらせることが出来ました。
「今までの苦行はいったい何だったのか…」
と拍子抜けしたほどでした。
やはり精度よく極軸が合わせられると気持ちがいいですね。
SS-one POLAR 3 導入
赤道儀が2台になったことでこの不具合が解決したポールマスターを2台で使い回しても良いのですが、いかんせん赤道儀に搭載する際に使用するアダプターも付け替える必要があり、これが現地の暗い環境で行うのが面倒に感じていました。さらにまたいつポールマスターの不具合が再燃するとも限りません。
と言うことで新たに電子極軸望遠鏡を導入しました。
導入したのは、かの『ほんまかさん』が運営されている『SS-one SHOP (エスエスワンショップ)』のオリジナル製品の電子極軸望遠鏡『ポーラー3』。なんとこの電子極望はパソコン要らずのスタンドアローン型の電子極望。電源も内蔵の電池を使用するのでコード類が全くないという優れもの。それこそ赤道儀に “ポン付け” して精度よく極軸合わせが可能という製品。
今回はこのスタンドアローン型の電子極望に相性抜群と言えるSWAT200に搭載して使用してみましたが、最初こそ使用手順やスイッチ類の扱いに戸惑いましたが、慣れればポールマスターよりも簡単に合わせられると感じました。
あとは精度の問題ですが、残念ながら今回は極軸微動での最終調整の前にこのポーラー3を正確に水平にポジショニングしなければなりませんが、それが適当に目合わせで行ってしまっためか星が少し流れてしまいました。次回は同封されていた水準器をしっかりとポーラー3に水平に取り付けて使用してみたいと思います。
今後も今回のようにAVXにはポールマスター、SWAT200にはポーラー3を装着して極軸合わせを行っていくつもりです。
※残念ながら現在(2022年4月)はこのポーラー3は売り切れのようです。
SS-one SHOP
Sh2-1・Sh2-7
この日のD7100+サンニッパの最初の対象はさそり座上部の淡い星雲『Sh2-1』と『Sh2-7』を縦構図で。先月撮った先述の『青い馬星雲』よりもかなり淡い星雲。今回はあくまでAVXのウォーミングアップ的なノリで撮影しましたが、やはりまったく露光時間が足らず淡い星雲の複雑で見応えある部分の描出は全く出来ませんでした。
メシエカタログ(M~)やニュージェネラルカタログ(NGC~)などとともに有名な天体カタログの一つで、スチュワート・シャープレス氏によってカタログとして登録された。313もの輝線星雲を網羅したHⅡ領域のリストであり、撮影するには淡くて天文屋泣かせの難物も多い。
カメラ Nikon D7100(IR-custom)
鏡筒 AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR Ⅱ(f/3.2)
架台 CELESTRON Advanced VX(ノータッチガイド)
ダーク減算 RStacker(8枚)
フラット補正 RStacker(64枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(150秒×20枚 計50分 ISO1600)
画像処理 StellaImage9 & ADOBE Photoshop CC
その他
・QHYCCD Polemaster
先述しましたがこの領域は一晩中たっぷりと露光をかけるべき対象で、ウォーミングアップで撮るような代物ではありません。ただ今回この対象を撮ってみて淡いながらも星の特徴的な並びもあって構図の微調整の練習にもなりましたので、次回撮る機会があったらたっぷりと時間をかけて撮ろうと思います。こういった淡いガスが魅力的な対象は本来ならモノクロ冷却カメラが威力を発揮するのでしょう。
さそり座アンタレスと青い馬星雲の星野
上記のD7100+サンニッパの撮影を仕掛けた後、いよいよこの日のメインの撮影であるGFX+ミルバス135mmによるさそり座上部の撮影を開始。さそりは毎年撮影していますが今年は昨年よりも写野が広がったことでアンタレス下部の淡い赤い領域から上部の青い馬星雲まで横構図で一網打尽にできます。
カメラ FUJIFILM GFX50SⅡ(無改造)
鏡筒 ZEISS Milvus 2/135 ZF.2 Apo-Sonnar T*( f/2.8)
架台 UNITEC SWAT200(ノータッチガイド)
ダーク減算 RStacker(12枚)
フラット補正 RStacker(72枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(120秒×46枚 計92分 ISO2500)
画像処理 StellaImage9 & ADOBE Photoshop CC
その他
・SS-one ポーラー3
この撮影の構図合わせの段階で長年酷使してきたSWAT200の限界がいよいよ近づいてきたように感じました。とくにドイツ式ユニットを導入してからというものの、このポタ赤は常に過積載気味に使用してきていました。赤経クランプを締めてもグラグラと動くような遊びが年々ひどくなっていて、このさそり座アンタレスの撮像を見ても実は点像ではなくて、流れたコマが多く完璧とは程遠いものになってしまいました。
この対象には可能ならばあと60分ほど露光をかけたいところでしたが、この時期は薄明もすぐにやってきてなかなかじれったいのがこの低空の対象。次の新月期も撮り増したいところですが、球面収差の激しいカメラレンズでは写野が広くて別日のコマをうまくスタック出来る気がしません。
彼岸花と出目金
ポタ赤でアンタレスを狙い続ける間、ウォームアップで『Sh2-1・Sh2-7』に向けていたD7100+サンニッパを『彼岸花星雲(NGC6357・Sh2-11)』と『出目金星雲(NGC6334・Sh2-8)』に向けてみました。場所は『さそりの毒針』と言われる尻尾部分に相当するλ星(シャウラ)付近。分類的には彼岸花星雲は散光星雲、出目金星雲は超新星残骸となります。
カメラ Nikon D7100(IR-custom)
鏡筒 AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR Ⅱ(f/3.2)
架台 CELESTRON Advanced VX(ノータッチガイド)
ダーク減算 RStacker(8枚)
フラット補正 RStacker(64枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(150秒×21枚 計52.5分 ISO1600)
画像処理 StellaImage9 & ADOBE Photoshop CC
その他
・QHYCCD Polemaster
画像処理的には今一つで、特にレッドが色飽和気味でSI9でのデジタル現像における色彩強調マスク『SSS』によるためでしょうか。このあたりの調整も今後もう少し詰めていきたいところ。
The Star Cloud
今回のメインであるGFX+ミルバス135mm。
さそり上部の星野のまま突っ走っても良かったのですが、雲のように肉眼でもはっきりそれと確認できる天城の美しい天の川中心部が上がってくるとそちらにもレンズを向けたくなってしまうのが悪い癖。
今回は薄明開始までの30分強を使って撮影しました。
カメラ FUJIFILM GFX50SⅡ(無改造)
鏡筒 ZEISS Milvus 2/135 ZF.2 Apo-Sonnar T*( f/2.8)
架台 UNITEC SWAT200(ノータッチガイド)
ダーク減算 RStacker(12枚)
フラット補正 RStacker(72枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(120秒×12枚 計24分 ISO2500)
画像処理 ADOBE Photoshop CC
その他
・SS-one ポーラー3
さすがツァイスの名レンズと中判センサーの合わせ技だけあって緻密で繊細な写りで、かつ無改造でも赤い星雲がしっかりと表現できる。とは言ってもマゼンタ寄りのピンクっぽい写りで、これはこれで天体改造機とは一味違うところです。
贅沢を言うならこちらの対象もあと30分ほど露光をかけたいところでしたが、残念ながら薄明が始まってしまいました…。
フラット補正の威力
さて、ここで天体写真における『フラット補正の重要性』について少しだけ触れたいと思います。このフラット処理が天体画像処理においてどれほどの利点、威力があるのか。
下の写真はGFXにフルサイズ用のミルバス135mmをマウントアダプターを介して装着して撮影した天体画像の1枚モノ撮って出しです。このレンズのイメージサークルは当然44mmなので55mmのイメージサークルを誇るGFXに装着するとご覧のように周辺減光がかなりきつくなります。
ただ周辺減光が大きいとはいえ『ケラレ』までいかないのがこのレンズのすごいところで、もちろん周辺画像は非点収差、コマ収差などが見られ悪化しますが多少目を瞑ればGFXでも使っていけるレンズです。
しかしこの周辺減光は何とかしなければなりません。
仮に周辺減光を放置でそのままレベル補正で諧調を上下切りつめても、当然ご覧のように周辺減光も一緒に強調され、見るに堪えない画像になってしまいます。
もちろんLightroomやCamera Rawフィルターなどにある周辺減光補正やPhotoshopの円形グラデーションマスクなどを使って補正できなくもないでしょうが、一般的な写真とは違いここまで超強調する天体写真の画像処理ではきれいに補正するのは至難の業ですし、淡い対象ではさらなる強調を施すこともあります。
そこで『フラット補正』を強調する前段階で行いますが、その補正を行ってから強調すると下のように全く周辺減光は強調されません。もちろんレベル補正の切りつめ量は上の画像と同じにしています。
ヒストグラムを見ても山の左側がフラット処理を行っていないものはダラダラと裾野が広がっていますが、フラット処理が施された画像のヒストグラムの山の左側はきれいにスパッと切り立って、バックグラウンドがフラットになっているのが見てとれます。
フラット補正はたしかに面倒な作業ですし、フラットダーク含めフラットフレームをライトフレームとは別に撮影しなければなりませんが、天体写真の画像処理工程において必須の補正と言えると思います。
今後の天体写真
2台体制の強み
今回の遠征において本格的に2台体制で撮影を試みましたが、やはり貴重な晴れ間を有効的にモノにするには非常に心強いものがあります。例えば一方を別の対象に向け、改めてピントや露出の設定、構図の微調整している間も、もう一方はずっと露光しているわけですからロスが圧倒的に減りますし、自然と残せる成果も2倍となります。
もちろん今回のようにそれぞれ2対象ずつではなく、それこそ両方とも1対象に一晩中露光をかけたとしても2対象の成果を残せるわけです。
何度も言いますが、天体写真は他のジャンルに比べて撮影できるチャンスというのは非常に少ないジャンルです。ナローバンド撮影も含めればまた別ですが、ブロードバンド撮影しかしない私のような天文屋は2台、3台と欲張りたくなります。
オートガイド撮影
100mm前後のカメラレンズで2、3分くらいならば今まで通り極軸さえ追い込んでしまえばノータッチでも運用可能でしたがやはり300mm、換算450mmくらいになるとノータッチではきついと感じています。
実際に私のAVX赤道儀はノータッチで2、3分露光だと打率は良い時でせいぜい6~7割程度、悪い時で5割5分くらいですから非常に損をしている計算になります。光学系のF値で例えたなら1段分暗いレンズを使っているのと同じになってしまいます。
今後は本格的なアストログラフの導入を考えていますが、まずはその前にオートガイド撮影を導入してから、と思っています。
最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。