2020年7月 裏磐梯スキー場~銅沼~磐梯山~裏磐梯スキー場周遊
梅雨の晴れ間を狙って会津の名峰『磐梯山』ワンデイ。緑輝く美しき裏磐梯の大自然と活火山の荒々しさを併せ持つ会津の名峰に癒されるアーカイブ。
- 会津の名峰『磐梯山』
- 緑深き裏磐梯
- 裏磐梯からの周遊コースで
- 裏磐梯登山口(裏磐梯スキー場)から美しき銅沼へ
- 銅沼から中ノ湯分岐、弘法清水小屋へ
- 磐梯山山頂からの圧巻の眺望
- 山野草と荒ぶる磐梯山火口壁
- 東北の緑の美しさは国内随一
会津の名峰『磐梯山』
磐梯山は福島県耶麻郡猪苗代町、磐梯町、北塩原村にまたがる今もなおけたたましく活動する活火山(成層火山)です。南側の会津盆地から望むと美しく整った山容で『会津富士』とも呼ばれ、日本百名山にも選定されている福島県の象徴的な山です。
独立峰である磐梯山の標高は1,816m。
東北の山々は2,000mクラスの山がズラリと並びますが、厳しい自然環境や雪深い気象状況によってアルペン的な美しさと牧歌的な穏やかさの両方を併せ持つ山が多く、日本アルプスや八ヶ岳連峰などとはまた少し違った雰囲気を持っています。
独立峰のため麓の街からも容易に眺められるため、民謡などでは宝の山として『会津磐梯山』と詠まれ親しまれていますが、今もなお噴煙を上げる活火山なのでそれを留意しておく必要があります。磐梯山は独立峰のためか、山野草も磐梯山でしか見ることができない固有種もあり、花の名山としてもたいへん有名な山でもあります。
緑深き裏磐梯
関東からですと東北はとても遠いですが福島県の猪苗代湖や磐梯山、そして裏磐梯は遠いながらも東北の玄関口と言えるくらい比較的遠征しやすい印象があります。そのため私は登山を要しない美しい自然風景の撮影で若い頃から『裏磐梯』には足繁く通っていました。
四季折々にとても変化に富んだ美しさに魅せられ裏磐梯三湖(桧原湖・秋元湖・小野川湖)やエメラルドグリーンが美しい五色沼、紅葉が見事な中津川渓谷などフォトジェニックな美しい風景の撮影をしていました。
五色沼から見上げる磐梯山は南側から眺めるのとは全く山容が異なり、荒々しく猛々しい『活火山然』とした美しさがあり、その火山活動によって造られたであろう裏磐梯には他に類を見ない独特な深さの緑が存在します。
裏磐梯の美しい風景に魅せられて幾度もこの辺りに足を運んでいましたが、いざ登山となるとどうしてもテント場や山小屋が豊富にある北アルプスが中心になってしまい、なかなか東北の山には登る機会が少なかったです。
しかし数年前に集中的に東北の山々も歩くようになってますます東北の美しい自然に魅せられて、機会があれば積極的に東北の山へ足を向けるようになりました。
そんなこんなで東北の山々の中では私的には最も頻繁に歩いているのがこの裏磐梯エリアで、前回の東北遠征も磐梯山にほど近い西吾妻山でのスノーモンスター山行でしたから、あれから約5ヶ月ぶりの東北ということになります。
裏磐梯からの周遊コースで
磐梯山は以前に南側の猪苗代スキー場から赤埴山、沼ノ平を経るコースを歩いていましたので、今回は反対側(北側)の裏磐梯スキー場から登るコースとしました。
磐梯山は独立峰のため登山地図を眺めてみると登山コースが東西南北、縦横無尽に延びているのを見てとれます。
南側から
以前に私が登った猪苗代スキー場~赤埴山コースのほかに猪苗代リゾートスキー場から磐梯山に直登するコースもあるようです。赤埴山を経るコースはスキー場に沿って登る区間が長かった思い出があって、赤埴山からの見事な磐梯山の山容がとても美しかったという印象です。稜線に上がる手前には沼ノ平と呼ばれる湿地帯を通る見どころの多い登山コースです。
西側から
西側には八方台登山口があり、この登山口がもっとも人気のあるコースのようです。磐梯山山頂に一番近い登山口のようで標高差もおそらく一番少なく、手軽に登る、もしくは周辺の山々とダブルヘッダーで登るような方には最適な登山口と思われます。
北側から
私が今回選んだのがこの北側から登る裏磐梯コース。磐梯山はどうしても“日帰りピストン”になりがちなのですが、この裏磐梯コースは磐梯山を周遊できる唯一のコースかもしれません。磐梯山の美しさと荒々しさ、山野草、銅沼などとても見どころが多い素晴らしいコースです。
西側から
ファミリースノーパークばんだいというスキー場から登るコースですが、地図を眺めてみるとおそらくこのコースが最もタフなコースと思われます。そのぶんとても静かな山歩きになると思います。
裏磐梯登山口(裏磐梯スキー場)から美しき銅沼へ
早朝、登山口である裏磐梯スキー場の駐車場に車を止めそそくさと準備をするも、駐車場は貸し切り状態。確かに今年は長雨でいまだにこの日まで梅雨は明けていませんでしたが、それでも駐車場にポツンと一人でいるのはちょっと想定外で拍子抜け。
こんな時に限って熊鈴を忘れるという自分にため息をつきつつ、トボトボとスキー場を登っていきます。駐車場でこそブヨやら蚊やらに纏わりつかれてこの先どうなることかと思いましたが、案外登り始めるとそれほどでもなく、梅雨とは思えないさわやかな空気に包まれながら登っていきます。
このコースの見どころの一つは何といっても銅沼(あかぬま)からの荒々しい磐梯山火口壁や櫛ヶ峰北壁の景観。この日は風も穏やかで鏡のような水面に映る山並みが美しくて、誰もいない静かな緑の森と相まって時が止まったような感覚を覚えます。
聞こえるのは朝の野鳥たちの歌声だけ…。
きわめて贅沢な時間だけが過ぎていきます。
この景観に出会えただけでも、
「あぁ、来てよかった…」
と心底思います。
磐梯山という火山は約70万年前から活動を開始し、過去に幾度となく噴火による山体崩壊を繰り返してきた歴史があります。その山体崩壊をして大小さまざまな岩が斜面を流れ下りる“岩なだれ”により山の麓には“流れ山”と言われる小高い丘が形成されている。(磐梯山ジオパークより抜粋)
銅沼から中ノ湯分岐、弘法清水小屋へ
登山道はここのところの雨続きもあってか銅沼前後から避けようのない泥濘状態で苦労しましたが、ミソサザイの美しい歌声広がる小さな沢付近からは通常の歩きやすい登山道の状態に。静寂に包まれた美しい樹林帯と活火山特有の赤茶けた沢筋を登り詰めていきます。
とにかく裏磐梯、五色沼周辺の緑の美しさは群を抜いていて、私も山を通じていろいろな森を散策していますが、これほどの美しさを持つ森はそうはないと思っています。
これまで誰にも出会わない静かな山行でしたが中ノ湯分岐で八方台登山口組の方々と合流してからは一転、賑やかな山行となります。磐梯山の森林限界は山頂部だけなのでまだまだ遠くを見渡せるようなところもなく黙々と樹林帯を登っていきますが、所々で展望の開けたところも出てきて、裏磐梯三湖や五色沼方面の美しい景観がぽつぽつと見え始めます。
しばらくして四合目にあたる『弘法清水』に到達すると北側が大きく開け、雄大な裏磐梯の景色と存在感ある櫛ヶ峰(1,636m)の雄姿に一気に疲れも吹き飛びます。
今夏はどこの山小屋も営業が危ぶまれているし、利用する側としても営業しているのかいないのかが分かりにくく不便ですが、弘法清水小屋や岡部小屋は営業されていました。
山小屋といっても宿泊できるような施設ではなく休憩所兼売店という形態ですが、それでも登ってきて疲れた登山者にとっては温かで大きな存在。そして小屋の脇から流れ出ている『弘法清水』は登山者の火照った体を癒してくれる有難い清水です。
磐梯山弘法清水には2軒の小屋がありますがトイレがありません。登山口の数か所にはトイレがありますが、歩き始めてしまえば山中にトイレがないため、この磐梯山では『携帯トイレ』が導入されています。弘法清水の小屋にはトイレブースが設置されていて携帯トイレを小屋で購入し、そのブースで用を足します。その後に使用済みの携帯トイレを登山口数か所に設けられた回収ボックスに捨てる、もしくは自分で持ち帰って可燃ごみとして出すというものです。詳しくは「磐梯山 トイレ」で検索すれば情報は入手できると思います。
磐梯山山頂からの圧巻の眺望
弘法清水から山頂までは登山道が狭く、道を譲りあいながらの登りとなります。一部切れ落ちたような箇所もあるので、とくにそのような箇所では注意が必要です。
程なくして視界も開け磐梯山の頂、1,816mの山頂に到達します。
数年前に登った時は晴れてはいましたが“モヤッ”とした天候だったため今一つの眺望でしたが、今回は梅雨の合間ではありましたが遠くの山々まで見渡せる素晴らしいコンディション。時折ガスがかかって一面真っ白になることもありますが、風もあってすぐにまた眺望が開けたりと慌ただしい天候でした。
山頂にはアキアカネでしょうか、トンボが気持ちよさそうに泳いでいて、その光景が前回の山行でも目に焼き付いていて数年前の記憶も蘇ってきて妙なノスタルジックに浸りました。
何といってもこの山頂からの眺めはたいへん素晴らしくて、南側に見える巨大で美しい猪苗代湖はとくに大きな存在感を放っています。西側は高山植物の宝庫として名高い高層湿原『雄国沼』や遠くにはいまだ残雪の飯豊連峰、北側は登山途中も目にしていた五色沼や裏磐梯三湖、そして眼下には荒々しい櫛ヶ峰と、本当に素晴らしい展望が広がっています。
独立峰ならではの贅沢極まりない景色を見ながらドッカと腰を下ろし、のんびりと休憩します。
山野草と荒ぶる磐梯山火口壁
午前中は梅雨に似合わず青空広がる山歩きを堪能できましたが、GPVによれば午後から下り坂。休憩もほどほどに下山に取り掛かります。下山は弘法清水まで戻り、そこからは櫛ヶ峰方面へ下りて行きます。
磐梯山は花の名山でもありますが、さすがに7月下旬ともなると多くの花は終盤へ向かっているのか、ここまではぽつぽつと花を愛でることができる程度でした。しかし弘法清水から沼ノ平方面に向けての登山道にはまだまだ山野草も多くみられました。
今回のコースは沼ノ平までは向かわず櫛ヶ峰方面へ進み、そこから銅沼方面へ直接下りるコース。
登山地図などでは破線コースになっていますが、足元に気を付ければ難なく登降できるルートです。
このコースの登山道からは振り返ると磐梯山の『動』の側面を堪能することができます。一部噴煙も上がっている箇所も確認でき、山の呼吸を存分に感じることができます。さも火星かどこかの惑星にワープしたかのような景観…、ついさっきまで花々を愛でていた山とは思えないこのギャップが磐梯山の大きな魅力の一つ。
最後広々とした枯れ沢まで下りてくると櫛ヶ峰から磐梯山にかけての屏風のような圧巻の火口壁に圧倒されます。
東北の緑の美しさは国内随一
再び裏磐梯スキー場に戻ってくると、数か月ぶりの山歩きに疲弊しまくる体とは裏腹に、心には大きな満足感と充足感に満たされているのを感じました。
今回の山行は距離にして11㎞、累積標高は1,018m。
それほどきつい登山ではありませんが久々の山だったためか疲労感はハンパなかったですが、スキー場をのんびりと下りながら
「遠いけど、本当に来てよかった…」
と純粋に思えたし、
「やっぱり山はいいなぁ…」
としみじみと感じました。
なにより今回この山を自粛明け後の『久々の山』に選んだのは、前回登った時に目の当たりにした稜線からの裏磐梯の圧倒的な『緑の美しさ』をまた目にしたいと思ったからでした。銅沼から五色沼、そして裏磐梯三湖。そこから繋がる西大巓や西吾妻山の峰々は筆舌に尽くしがたい美しさを誇っています。
民謡に詠われた会津磐梯山は自然を愛する我々にとってまさに『宝の山』であることは間違いないでしょう。