AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR Ⅱ

CAMERA&LENS

本ブログではニコンFマウントのレンズをテレコンやツァイスレンズ含めて取り上げてきましたが、
今回はサンニッパこと『AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR Ⅱ』を取り上げます。

今まで取り上げてきたレンズはもちろん筆者が所有し実際に撮影で使用してきたFマウントレンズのわけですが、メーカーの製品開発姿勢や私自身の撮影システム的に余程のことが無い限り今後Fマウントレンズを拡充する機会は少なくなっていますし、世の流れもそのような潮流になっています。

今まで通り今更感満載ですが、今回も偏向的かつ主観的なレビューが中心となりますのでご了承ください。かなり長い記事になってしまいましたので、少しずつ読み進めていただくか、気になる部分だけでも見ていただければ幸いに存じます。

(目次)

  • ニコンの歴代サンニッパ
  • AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VRⅡのスペック
  • サンニッパの導入
  • 外観チェック
  • 作例 (風景・山野草、野鳥、天体)
  • 使用してみての印象
  • まとめ



ニコンの歴代サンニッパ

さて今回取り上げるサンニッパ『AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR Ⅱ』ですが、まずはこのレンズがニコンの歴代のサンニッパのどの位置づけ、どのタイミングでリリースされたレンズであるかを改めてみていきます。

発売された当時のカメラも含めて確認してみましょう。(今回は2000年以降、つまりデジタルカメラ以降のサンニッパのみ取り上げることとします)

AI AF-S Nikkor ED 300mm F2.8D Ⅱ(IF)

『AI AF-S Nikkor ED 300mm F2.8D II(IF)』(ニコンHPより)

2001年にリリースされた俗に『DⅡ』と言われるレンズで、前身となる『Ai AF-S VR Nikkor 300mm f/2.8D(IF)』が1996年にリリースされ、その後継機種となります。1996年時点ではデジタルカメラとしては『Nikon E2』『Nikon E3』などはありましたが、まだ『D一桁機』は存在していませんでした。

『Nikon D1』がリリースされたのが1999年なので、この『DⅡ』が本格的にデジタル以降のFマウントのサンニッパと言えるかもしれません。

『Nikon D1』(ニコンHPより)

筐体にマグネシウム合金を使用して3.1kgであった前モデルから大幅な軽量化を果たし、2.56kgとなりました。光学系は前モデルと変わらずで、このサンニッパまではライトグレーボディの設定もありました。

とくに天文界隈ではあえて手振れ補正機構(VR)が無いこのレンズも好まれて使われるケースもあります。

AF-S VR Nikkor 300mm f/2.8G IF-ED

『AF-S VR Nikkor 300mm f/2.8G IF-ED』(ニコンHPより)

2005年にリリースされたレンズで光学系も一新され、新たに手振れ補正機構(VR)が採用された初のサンニッパ。さらに今ではニコンの代名詞となっているフレアやゴーストを抑えてよりコントラストが高い撮像が得られる『ナノクリスタルコート』が施されたレンズでもあります。

このレンズから絞り環のない『G』タイプへと変更され、より現代的なレンズとなりました。VRが採用されたためか、前モデルから重量は増して2.87kgとなりました。

それまでせいぜい600万画素程度のデジタルカメラが多かったですが、このレンズと同じ2005年にリリースされた『Nikon D2X』が1,200万画素と大幅に高画素化されていることを考えると、VRの搭載は必然と考えられるのかもしれません。

同じ2005年発売だった『Nikon D2X』(ニコンHPより)

その後、時代はカメラの高画素競争に突入し、レンズもさらなる高画質化が求められ始める時期となってきました。

AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR Ⅱ

『AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR Ⅱ』(ニコンHPより)

本記事で取り上げるレンズで2010年にリリースされました。
光学系は前モデルと同じで、VRがより強力なものが搭載されました。

2007年にニコン初のフルサイズセンサーを搭載した『Nikon D3』がリリースされていますし、翌年にその高画素版として2,400万画素の『Nikon D3X』もリリースされています。

まさにセンセーショナルだった『Nikon D3』(ニコンHPより)

2012年にはいよいよ3,600万画素と本格的に高画素化された『D800』がリリースされ、デジタルカメラはより高精細な表現が可能となり始めた時期となります。
このレンズについて詳しくは後述します。

AF-S NIKKOR 120-300mm f/2.8E FL ED SR VR

『AF-S NIKKOR 120-300mm f/2.8E FL ED SR VR』(ニコンHPより)

2020年にリリースされたFマウントでは最新のサンニッパ。
とは言っても製品名を見てお分かりのように純粋な単焦点サンニッパではなく『サンニッパズーム』。もちろん光学系も一新され新たに蛍石『FL(フローライト)』が採用されました。

さらに絞りも電子化された『E』タイプとなり高速連続撮影時でのより正確な絞り制御が可能となりました。ズームと言えどもMTF曲線は前モデルよりもさらに良化しましたが、やはり当然重量も3.25kgと重くなりました。

Fマウント最後の『D一桁機』とも噂される『Nikon D6』とともに発表されたのは記憶に新しいところです。ちなみにニコンの初のフルサイズミラーレス機『Z7』が2018年にすでにリリースされており、ニコンとしてはその後Zマウントに開発のリソースの大部分を向けることとなりますが、現時点ではZマウントのサンニッパはリリースされてはいないのでこのレンズが最新のニコンのサンニッパとなっています。

『Nikon D6』(ニコンHPより)

AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VRⅡのスペック

それでは改めてこのレンズのスペックを簡単に確認してみましょう。
今回は最新のサンニッパズームと比較してみます。ちなみにどちらのレンズも今のところ現行モデルとして並行販売されています。(2022年6月時点)

AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR Ⅱ
AF-S NIKKOR 120-300mm f/2.8E FL ED
発売 2010年1月 2020年2月
レンズ構成 8群11枚(ED3枚) 19群25枚(ED1枚、蛍石2枚SR1枚)
手振れ補正 3段分 4段分
最短撮影距離 2.2m(MF時) 2m(ズーム全域)
最大撮影倍率 0.16倍 0.16倍
寸法 約124mm×267.5mm 約128mm×303.5mm
質量 約2,900g 約3,250g
希望小売価格 825,000円 1,393,700円

最新のサンニッパはズームレンズということでレンズ構成枚数が倍以上に増えました。逆にこれだけレンズ枚数が増えたにもかかわらず3,250gによく抑えたとも言えますし、単焦点であるVRⅡよりもMTF曲線が良化したのは高級硝材である蛍石レンズやSRレンズの効果でしょうか。

蛍石レンズ
蛍石(けいせき・ほたるいし)レンズは別名フローライトレンズとも言われ、素材に蛍石が使用されています。特徴として軽量で透過および屈折率の波長分散が極めて小さく、非常に色収差の少ない高性能なレンズを作ることが出来ます。EDレンズの上位互換的な立ち位置ですが、その分高価で、傷つきやすく、急激な温度変化に弱いという特徴もあります。
価格も大台をはるかに越えてサンニッパとしては信じ難い価格になりましたが、贅を極めた光学系とズームレンズという使い勝手を考えれば意外に納得かもしれません。

なお、それぞれのレンズの詳しい製品情報はニコン公式製品ページをご覧ください。
AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR Ⅱ
AF-S NIKKOR 120-300mm f/2.8E FL ED

サンニッパの導入

主な使用用途

非常に選択肢の多いニコンの望遠域レンズの中で私がこのレンズを導入したのは3つの使用用途を考えての事でした。それが、

『風景・野鳥・天体』
の3用途。

①風景(山野草)
山野草含め風景撮影においてこの『300mm』という焦点距離はもっとも圧縮効果を得られ、且つもっとも望遠と考えていたためでした。個人的にはこれ以下の中望遠~望遠域の焦点距離ならば70-200mmズームで風景を切り取り、これ以上の望遠では風景にはさすがに長すぎると考えていました。

300mmでの風景の切り取り

資金が許されるならば最新のサンニッパズームが最高峰の風景切り取りレンズとなると思いますが、おいそれと手が出せる代物ではありません…。

②野鳥
入手当時は野鳥も多く撮影していた時期で、このレンズにテレコンを装着してAPS-C機(D500)で撮影していました。1.4倍のテレコン装着ならばフルサイズ換算で約600mm、1.7倍のテレコン装着ならば換算で約800mm弱となります。

テレコンとともに野鳥での使用

とてもヨンニッパやロクヨンなんて買えなかったし、どちらかと言うと私は三脚に据えてどっしりと構えるスタイルではなく、双眼鏡を首にかけて森を探鳥しながら撮影するというスタイルだったので重量やサイズ感など比較的取り回しの良いこのレンズを導入しました。

③天体
カメラレンズを使用した天体写真(星野写真)も撮影していましたので、この大口径『f/2.8』という天体望遠鏡よりも明るい写真鏡(フォトビジュアル鏡)としてこのレンズを導入しました。

個人的に天体撮影、とくに淡い対象を狙うには

“明るさは正義” “露光は噓をつかない”
ということを導入以前から痛感していました。

天体撮影での使用(Advanced VX赤道儀に搭載)

ただ導入してはみたもののしばらくはまだ『SWAT200』というポータブル赤道儀で天体撮影していたため、そのポタ赤にはサンニッパは重すぎて長い間搭載できずにいました。しばらくしてCELESTRONの本格的な赤道儀『Advanced VX』を導入し、ようやく天体写真鏡としてこのサンニッパで撮影するようになりました。



競合レンズ

もちろん豊富なFマウントの望遠レンズ群の中では他にも選択肢は多かったです。どちらかと言うと大口径の望遠単焦点レンズは『別枠』的レンズなので“競合”というニュアンスとは少し違うとは思いますが、私自身サンニッパ導入に際して迷ったいくつかのレンズをピックアップしてみます。

①70-300mm

現行Fマウントの70-300mm『AF-P NIKKOR 70-300mm f/4.5-5.6E ED VR』(ニコンHPより)

もっとも軽量でコンパクト、価格的にも手を出しやすいレンズです。
しかしズームによって開放F値が変動するレンズのため、天体用途だと望遠端の300mmは f/5.6となり、カメラレンズ特有の明るさの部分で価値が見出せませんでした。

天体撮影や小鳥の撮影以外ならば軽量で取り回しも良く、ズーム域の利便性もあり、さらに最大撮影倍率の大きさも魅力的な素晴らしいレンズの一つであることは確かだと思います。

②80-400mm

『AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR』(ニコンHPより)

こちらも光学性能の高いレンズでズームで使い勝手も非常に良く、風景や野鳥には良さそうでした。70-300mmとは違い1.4倍テレコン(TC-14EⅢ)併用時もF8対応のカメラならばAFが使えますが、やはり明るさの面で天体には少々使いづらい部分と感じました。ただ400mmで f/5.6なのでこのレンズにするかサンニッパにするかはかなり迷いました。

天体での用途がなければこのレンズにしていましたし、執筆現在すでに手放してしまった70-200mm f/2.8に続いてサンニッパも手放すことになったら、今後は中古価格がかなり下がったこのレンズの導入も考えたいところです。

③200-500mm

『AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR』(ニコンHPより)

野鳥や望遠撮影メインであればかなり魅力的なズームレンズです。
500mmでf/5.6なので天体でも口径比的には悪くはないと思い、こちらのレンズも迷いましたが風景や山野草撮影には焦点距離がすこし長く、筐体の大きさもあって取り回しづらいだろうと思いました。

動体撮影に最適化された手振れ補正機構である『SPORT』モードも搭載していることから、その手の撮影を比較的低価格で可能にする、ニッコールレンズでは魅力的な選択肢の一つであることは確かです。

④新旧サンヨン

旧サンヨンこと『AI AF-S Nikkor 300mm f/4D IF-ED』(ニコンHPより)

新サンヨンこと『AF-S NIKKOR 300mm f/4E PF ED VR』(ニコンHPより)

何と言っても単焦点レンズと言うことでその光学性能は大いに期待できるもので、こちらもサンニッパと迷いました。最終的には世間で旧サンヨンといわれる『D』タイプのサンヨンはAF-Sテレコン(1.4倍)が使用できない点、新サンヨンといわれる『E』タイプのサンヨンはフレネルレンズ採用と言うことで天体用途には向かない(輝星のフレア)ということで却下しました。

フレネルレンズ採用ということで今やニッコールの名レンズとの呼び声が高い『ゴーゴーロク』も同様の理由で却下しました。

・ ・ ・

やはりこうして迷ったレンズ群を見てみると改めてサンニッパの万能性が光るところです。ただ後述しますが使用してみてそれが逆に仇となるケースもあると感じました。

外観チェック

大口径の望遠単焦点レンズということで、この類のレンズ独特の機能や特徴がふんだんに搭載されていますので、そのあたりもチェックしてみましょう。サンニッパやヨンニッパ、ロクヨンといったレンズは光学機器メーカーの技術の粋を結集したいわば『看板レンズ』の一つでもあります。細部を見てみるとそのメーカーの拘り、工業製品としての品質の高さをひしひしと感じます。

マグネシウム合金の筐体

組み込まれた大口径のレンズ群を確実に保持するため、そして外的要因からも保護するため筐体には軽量且つ丈夫なマグネシウム合金が使われています。触ると金属からくる冷たさや重みが心地よく、撮影のため構えたり、移動中に手に持ってみると非常に安心があります。

各種スイッチ類は筐体左側にまとめられ、VRは手前側のリングを回すことでオンオフの操作を行います。そのVR用のリングのさらに手前側に三脚座のリングがあり、左右90°となるポジションに印がついています。

頑丈且つ精密な印象の筐体

ナノクリスタルコート

前玉側、大振りなピントリングのさらに先、ラバー製のグリップ付近にはこちらも左右それぞれ90°の計3ヶ所に『フォーカス作動ボタン』があります。
このボタンには、
AF-L(フォーカスロック)
AF-ON(オートフォーカス作動)
MEMORY RECALL(ピント位置の記憶・読み出し)
などを割り当てることが出来ます。
MEMORY RECALL機能
この機能はピント位置を記憶させ、その記憶させたピント位置を読み出すというものです。このピント情報はカメラの電源を切ったり、レンズをカメラから取り外しても記憶しています。私はなかなか使う機会がありませんでしたが、例えば天体写真での正確な無限遠の位置を記憶させられるのかもしれません。そうすればテスト撮影時に大まかにピントは出せるかもしれません。(実際には現地の温度変化なども考慮すると本撮影では厳密なピント出しが毎回必要な気もしますが)

差し込みフィルター

前玉側にフィルター装着できない仕様になっているので、大口径単焦点レンズにはマウント側に差し込み式のフィルターがインストールされています。フィルターサイズは52mmで、減光フィルターや偏光フィルターなどを使用することが出来ます。

52mm径の差し込み式フィルター枠

カーボン製のフード

付属のレンズフード『HK-30』はよくあるバヨネット式ではなく、かぶせ式のフードとなっています。素材でもあるカーボン柄が美しく、肉厚で頑丈な作りはさすが高級レンズなだけはあります。

大振りで肉厚なカーボンフードは大口径単焦点レンズの代名詞

内側は迷光防止のため植毛紙加工されていますので天体写真でも大きな威力を発揮してくれているように思います。

保護ガラスの機能を併せ持つ巨大な前玉

約108mmあるこの前玉、そもそもねじ込み式のフィルター類が付けられる設計にはなっていないため一番先端には保護ガラスが組み込まれています。レンズをのぞき込むと吸い込まれるような美しささえ感じるレンズです。

工業製品としての美しさが垣間見れる前玉

この中に『光学屋』としてのニコンの技術の結晶が詰まっていることをひしひしと感じられ、所有欲をも満たしてくれます。



作例 (風景・山野草、野鳥、天体)

本ブログにおける過去のレンズレビュー記事ではあまり作例というのは掲載していませんでした。それは私自身レンズレビューでの作例というのはあまり参考にならないと思っているからですが、今回は簡単に作例を掲載します。

それはこのレンズの幅広いジャンルをカバーする万能性と、若干使いづらい微妙な焦点距離という相反する特徴を私自身が感じたためです。

風景・山野草の作例

やはりこのレンズによる風景や山野草撮影での圧縮効果やシャープさ、アウトフォーカスの美しさは特筆すべきものを感じました。今は手放してしまいましたが『AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VRⅡ』で初めて撮影したときよりもさらに圧倒的な光学性能に驚きました。

「これが単焦点望遠レンズのすごさか…」と。

『春を告げるカタクリ』

70-200の時は開放ではさすがにシャープさに欠けると感じて、シャープさを優先するときは1段ほど絞って撮影していましたが、このサンニッパは積極的に開放を使っていきたいと思わせてくれました。

300mmでf/2.8というのは被写界深度も圧倒的に浅いのですが、ピントが合ったところは恐ろしくシャープでした。上の作例『春を告げるカタクリ』は開放での撮影で、まさしくこのレンズでしか成しえない表現力を見せてくれました。

AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR Ⅱ

『幾重の朱』

作例『幾重の朱』もやはり開放で撮影していますが、被写界深度が極端に浅く前後がこれほど柔らかなアウトフォーカスを表現できているにもかかわらず、ピントを合わせた彼岸花のシャープさはこのサンニッパでなければなかなか実現できそうにありません。

ただご覧のように開放では口径食が見られ、いわゆる“レモンボケ”になっています。

『ある夜明け』(TC-14EⅢを装着)

たしかに単焦点と言うことで利便性ではズームレンズには劣りますが、逆に風景の一部分を切り取るということであればこのくらい画角が狭いとかえって構図の割り切りが出来ておもしろい部分も感じました。

上の作例『ある夜明け』では1.4倍テレコンを装着して420mmで撮影していますが、もともと解像力の高いレンズですので、テレコン併用時でもシャープに風景のある一部分を気の向くままに切り取るには申し分ない性能と言えますし、ズーム出来ないことがかえって構図に悩む必要もないとも感じられました。

野鳥の作例

実は野鳥撮影ではそれほど多く使ったわけではありません。
しかしこの f/2.8という明るさはやはり野鳥撮影での恩恵は大きく、多少条件の悪いときでも満足のいく写りが担保されます。ヨンニッパやロクヨンよりも筐体もコンパクトで取り回しも良いですし、何と言ってもAFが爆速で気持ち良くピンが来てくれます。

飛び立つコハクチョウ

イカル

どうしても単焦点望遠レンズは大きく重いという印象が先んじますが、サンニッパはフードを外してしまえば意外とコンパクトな筐体と感じます。

軽量とまではいきませんが、数時間ほど森を探鳥しながら撮影するくらいならば私はそれほど苦とも感じませんでした。

森に住むオオアカゲラ

実際に森に入っての撮影だけでなく冬毛の雷鳥を撮影するため残雪期の北アルプス、立山雷鳥沢に持って行ってテント泊もこなせました。

掲載している野鳥の作例はすべて三脚は使わず手持ちで撮影したものです。手振れ補正が良く効き、そのおかげでファインダー像も安定しますから、ちょこまかと動きの激しいアカゲラでもしっかりとフレーミング・撮影が出来ました。

立山のライチョウ(冬毛)

『残雪の立山連峰に抱かれて』冬毛の雷鳥と劔岳モルゲンロート

ただ後述しますが、ハクチョウやライチョウならまだしも、やはり小鳥の撮影では圧倒的に焦点距離が足りず、もどかしいと感じることが多々ありました。とくにDXフォーマット(APS-C)である『D500』を手放してからは余計にそう感じました。

もちろん野鳥撮影でも300mmは300mmなりの使い方が可能で、たとえば野鳥単体だけでなく、その野鳥の周りの自然環境を同一画角に収めることが出来るわけなので、そうした使い方が理想的な300mmと言う焦点距離の使い方なのかもしれません。しかしそれを実現する構図力も撮影者に求められるので、非常に扱いが難しい焦点距離と言えると思います。

天体写真の作例

このレンズを導入した理由の最後で最大の天体写真としての目的。
正直、上の2つの目的であれば先述した通り軽量な70-300mmや、より望遠の200-500mmという選択肢もじゅうぶんあったのですが、この天体撮影という目的があったので大口径『f/2.8』であるこのレンズにしました。

サンニッパでのファーストライト、アンドロメダ大銀河

天体望遠鏡では300mmでf/2.8というスペックのものは無いので、カメラレンズと言えども天体目的でも天体望遠鏡より有利な点もあります。とくに気軽にノータッチガイドで撮影するようなときはこのハイスピードさは大きな武器ですし、淡い対象にも向きます。

サンニッパで撮り始めたころは開放の f/2.8で撮影していましたが、ワンクリック絞って f/3.2で撮った方が星がより“丸く”なったので、以後は f/3.2で撮影するようになりました。

f/2.8(星が歪でヒゲのようなものも)

f/3.2(星がより丸く)

私は天体写真ではAPS-C機(DXフォーマット)であるD7100をIR改造して使っています。つまり掲載した天体作例はすべてフルサイズ換算で約450mm相当です。天体撮影と言うとさも望遠、それも1,000mmクラスの焦点距離が必要と思われがちですが、アンドロメダ大銀河もアンタレス付近のカラフルタウンも、サンニッパ(300mmレンズ)でもこれだけ迫力のある天体撮影が出来ます。

『彼岸花と出目金』

星の写りの印象としてはとにかくシャープで、それまで使っていた70-200mmレンズとは別次元と言う印象です。もちろん色収差や非点収差はありますが、いわゆる屈折式であれば天体望遠鏡であっても多少は収差はあるでしょうからそこは仕方がないところと思って使っています。

アンタレス付近の『カラフルタウン』

『M8 & M20』

ちなみにこのレンズは開放から素晴らしいMTF曲線と言うことでひょっとしたらイメージサークル的に約44mm×33mmのラージフォーマットセンサー有するFUJIFILM GFXでもケラレずに使えるかと期待しましたが、ご覧のようにケラレが発生してしまいました。そこは少し残念に思いました。

GFX装着時(開放)

GFX装着時(f/8)




使用してみての印象

実際にフィールドで撮影してみてこのレンズと言うより “サンニッパ” というスペックのレンズとして私が感じた印象は見事に相反するものでした。

それはつまり、

万能でもあり、帯に短し襷に長しでもある

卓越した画質と万能性に長ける

何と言っても大口径単焦点レンズと言うことで非常にシャープでキレのある画が得られるということがまず挙げられます。さらに開放 f/2.8と明るく、悪条件であれば悪条件なほどその威力をいかんなく発揮してくれます。VRの効きも良く、手持ちでの撮影も難なくこなしてくれます。

AFに関してはカメラ側の性能にも依るところはもちろんありますが、もはや爆速の域にあります。それも純正の1.4倍テレコン程度ならば併用してもAFスピードに変化があまりないように感じます。

AFは爆速の域にある

そしてなんと言っても作例を見ていただいた通り、このレンズ一つあればあれだけ多種多様な使い方が出来ます。そしてどれもがその光学性能に裏付けされた写りを担保してくれます。こればかりは “サンニッパ” というスペックでしか成しえない万能性、それも非常にハイレベルでの万能性という印象です。

300mm単の使いこなし

反面、風景や山野草の切り取り目的であれば私はやはり使い勝手では70-200mm+テレコンのほうが良かった印象ですし、野鳥撮影、とくに小鳥の撮影などでは焦点距離が短すぎると感じました。先述しましたが周りの風景と一緒に野鳥を捉えるべき焦点距離である『300mm』は野鳥写真と言えども構図力を問われると感じました。

天体写真でも望遠鏡よりも明るい利点はありますが、最近ではこの焦点距離をカバーする短焦点の望遠鏡も出てきています。とくに天体写真ではレンズ構成枚数が多いことによる輝星像の歪さがかなり気になるところです。(天体望遠鏡は基本的には2、3枚のレンズ構成が多い)

野鳥(小鳥)には短すぎ、風景もハマれば良いですが汎用性は70-200mmの方が上、無限遠撮影に特化した天体望遠鏡のような美しい星像ではない、とさすがにサンニッパと言えどもそのジャンルに超特化したレンズや望遠鏡には敵わない部分も少なからずあります。

 

結局のところこのレンズと言うより、このスペックを生かすも殺すも使い手次第ということであると改めて感じました。素晴らしいこの光学性能をいかに引き出せるか…すごく難しいレンズなんだと思います。

まとめ

今回は作例を交えながらサンニッパこと『AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR Ⅱ』を取り上げました。

このレンズを搭載できる赤道儀を手に入れたことで使用頻度はかなり上がりましたが、私の場合、実のところ他のレンズに比べて出番が圧倒的に少なかったです。

この光学性能を活かすのは撮り手次第

サンニッパと言うスペックが活かされる使用目的がはっきりしているならばそれこそ大活躍が約束されると思いますが、少なくとも私にはこの扱いが難しい焦点距離、いわゆる『帯に短し、襷に長し』という印象の方が強く残りました。

ただやはり光学性能の優れた純正の大口径単焦点レンズは撮影していて楽しいですし、満足感を得られ、さらに所有する喜びみたいなものも感じられる、今もなお最高峰のレンズであることは間違いないと思います。

現在はスペック比較したように最新のサンニッパズームもありますし、今後『Z』のサンニッパも新たに出てくるようならば程度の良い本レンズの中古を狙ってみるのも良さそうです。実際、これを執筆している時点で40万円を切って取引されているようなのでまだまだ中古市場で注目されるかもしれません。

 

後半は少し駆け足気味になりましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。本記事が皆様の何かのご参考になれば幸いです。