入梅前の最後と思われる新月期を利用して天体写真遠征に行ってきました。
2022年の5月は上旬の天城高原に続いて今回が2回目の遠征。新たな撮影地の下見もかねての遠征で結果的には実り多い遠征になりましたが、とんでもない大ポカもやらかしてしまい悲喜交々な遠征になりました…。
- 狙うはハクチョウ
- 忘れ物は厳禁(現金)
- はくちょう座『北アメリカとペリカン星雲』
- はくちょう座『サドル付近』
- カメラレンズと天体望遠鏡の星像比較
- 遠征を終えて
- 追加遠征するも撃沈(備忘録)
狙うはハクチョウ
前回の天城高原への遠征では “2連荘” という好条件を活かしてさそり座のアンタレス付近の『カラフルタウン』と、いて座の『M8 & M20』を撮影しました。光害とは無縁の天城の美しい南天の夜空のおかげもあってとても満足いくものが撮影できました。
夏の代表的な星座であるはくちょう座は赤い散光星雲がウヨウヨしている星域で、天文ファンにとても人気のエリアです。
北東が暗い空を求めて
はくちょう座は北東から昇り、夏の天頂を賑わせた後、北西へと沈んでいく航路をとります。よってこの時期にはくちょう座を狙うには北東方面が暗い空というのが撮影適地の条件になります。足繁く通っている天城高原は南天は暗いですが逆に北東方面は東京の光害があり、妙義は妙義で北から西にかけては暗いですが東側は高崎や前橋の光害がかなりきつい立地。
そこで今回の遠征でははくちょう座や秋に向けてのケフェウス、カシオペア、アンドロメダといった対象を狙える北東が暗い撮影地の開拓という大義名分(大げさ笑)もありました。
衛星写真で事前に北東方面に大きな都市がない撮影候補地をチェックしていました。
ひとつは同じく群馬県の片品高原。
下見で日中にどちらの撮影候補地もロケハンしましたが、今回は片品高原に決めました。
片品高原の自然
片品高原というと個人的には『上州武尊山登山』や『尾瀬の高層湿原』、『吹割れの滝』がすぐに頭に浮かびます。群馬県を代表する北関東の大自然を満喫できるエリアというイメージで、実際に過去に(10年近く前になりますが)武尊山冬季登山も、春の尾瀬散策も、景勝地吹割れの滝も堪能していました。
忘れ物は厳禁(現金)
片品高原での撮影地の下見を夕方に終え食料調達のためいったんコンビニまで下りたとき、
「はて…?」
と何かに気が付きました。
私はデジカメ(ニコンD7100改)で撮っていますが、撮影にはインターバル機能が備わったレリーズコントローラー(リモコン)を使っています。
「そういや~あのリモコン、バッグに入ってるよな?」
とゴソゴソとコンビニ駐車場で撮影用機材が入ったバッグを漁るも入っていない!!
何度も何度も、バッグをひっくり返すも入っていない!!
「やってしまった…」
忘れ物は過去にも何回もやっていましたが、いずれも自宅を出てからすぐに気づいたり、撮影には大きな影響がないものだったりしました。しかし今回ばかりはリモコンが無いと撮影が出来ないもので、しかも気が付いたのは遠征地。
車中で悶絶するも無いものは無い…。
一度頭をリセットし、今夜のはくちょう座が撮りごろになるのは22時半ごろと思い出し、いまから取りに戻ればギリギリ間に合う…。
そこからは気を取り直して自宅まで往復し、何とか21時に現地に戻って来れました。この無駄な往復のため、ガソリン代と高速料金代が財布から逃げていきました。
まさに関越道に現金を落としたような気分…。
私はテント泊での登山の時は忘れ物がないようにチェックシートのようなものを作って、それを見ながらパッキングしています。やはり登山でも同じような忘れ物をしたことがあったからですが、天体撮影でも最近は細々した荷物が増えてきたので下のようなチェックシートを作りました。
メモ帳機能を使って遠征で必要な機材をリストアップした簡素なものですが、遠征前にこれをプリントアウトしてアナログ的に荷物チェック(レ点チェック)するつもりです。
もう忘れ物はコリゴリです。
はくちょう座『北アメリカとペリカン星雲』
今回の遠征でははくちょう座α星デネブ付近にある『北アメリカ星雲』と『ペリカン星雲』をメインに撮影しました。夏の人気対象でもある『北アメリカ星雲』はいままで一度しか撮影したことが無くて、それもポタ赤を使用した比較的広い写野で、今回のようにクローズアップで撮るのは初めて。
サンニッパで撮るようになってからはやはり星雲・星団が大きく迫力のある画角になったので天文熱が益々高まっています。星雲や暗黒帯、淡い星間物質などの細かいディティールはやはりこのくらい焦点距離が伸びてくると本格的な天体写真と呼べるようになります。
今後アストログラフを手に入れるようなことになったらさらに焦点距離も伸びるので、そうなったらこの領域では『シグナスウォール』と言われる北アメリカ星雲の “メキシコ” 近辺のコントラストが高い領域のクローズアップを狙いところ。
カメラ Nikon D7100(IR-custom)
鏡筒 AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR Ⅱ(f/3.2)
架台 CELESTRON Advanced VX
ガイド鏡 SVBONY SV165(30mm F4)
ガイドカメラ QHYCCD QHY5L-ⅡM
ガイディングソフト PHD2
ダーク減算 RStacker(7枚)
フラット補正 RStacker(64枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(180秒×31枚 計1時間33分 ISO1000)
画像処理 ADOBE Photoshop CC
その他
・QHYCCD Polemaster
しかし残念ながら私が片品高原の空の暗さを把握できていなくて、ヒストグラムの上りが鈍くて1コマに充てるの露光時間が足りなかったようでした。つまり私が思った以上に片品高原の夜空が暗いということで、ISO1000であれば露光は4分半くらいは必要だったかもしれません。
はくちょう座『サドル付近』
予定では『北アメリカとペリカン星雲』のみを撮る予定でしたが、サンニッパで出来るだけ多くの対象を残しておきたいという欲があり、後半は昨年もミルバス135mmで撮影した『サドル付近』にレンズを向けました。
カメラ Nikon D7100(IR-custom)
鏡筒 AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR Ⅱ(f/3.2)
架台 CELESTRON Advanced VX
ガイド鏡 SVBONY SV165(30mm F4)
ガイドカメラ QHYCCD QHY5L-ⅡM
ガイディングソフト PHD2
ダーク減算 RStacker(7枚)
フラット補正 RStacker(64枚)
現像 ADOBE Camera Raw
コンポジット DSS(180秒×23枚 計1時間09分 ISO1000)
画像処理 ADOBE Photoshop CC
その他
・QHYCCD Polemaster
この日は明け方には9℃まで下がり、さすがに高原だけあって少し肌寒さを覚えました。今回は使用した赤道儀やPC、ヒーターバンド類などデジカメ以外の電源をすべて『PowerArQ2』で賄いましたが、前回同様メモリーインジケーターがひとつしか減っていませんでした。今後は荷物を減らすためにこのポータブル電源のみで運用していこうと思います。
季節は早いもので、撮影中は天頂付近にもう巨大な夏の大三角がきれいに眺められました。天体写真は星の写真、宇宙の写真ですが、自然風景写真と同じく季節の移ろいを肌で実感できる写真ジャンル。吐く息も白く、手が悴みながら撮影していた1月~3月が懐かしく思えてきます。カメラレンズと天体望遠鏡の星像比較
年始からサンニッパを使い始めて5か月経ちましたが、改めてここでカメラレンズであるサンニッパの天体適正を簡単に検証したいと思います。と言いますのは、個人的にサンニッパはハイスピードに集光できる大口径『f/2.8』が最大の武器だと思っていますが、それと同時にレンズ構成枚数が多いことによる星の歪さというものが最近かなり気になり始めています。
星像比較
本格的なアストログラフ、いわゆる“写真鏡”というものを私自身使ったことが無いので比較も出来ず、実際のところカメラレンズの星像ってどうなの?とずっと思っていました。そんな折、最近撮影でご一緒させていただいているしょきさん(@pvetCc8UFT6FKJM)のご厚意で天体望遠鏡(写真鏡)で撮影したL画像を提供していただきましたので、カメラレンズと天体望遠鏡の星像比較をすることが出来ました。
下がそれぞれの拡大画像です。
違いは一目瞭然でFSQの星の美しさ、真円さは見ていて惚れ惚れします。対してサンニッパはやはり真円ではなく歪な星像です。この撮影では少しでも星が丸くなるようにと f/3.2で撮っていますが、それでもまだFSQには全く敵いません。それにサンニッパは周辺に行くほど楕円状に星が伸びたりしていて、実はこのサンニッパの画像はもっとも星がきれいであろう部分だけをトリミングしています。
もちろんタカハシのFSQと言えば屈折式の天体望遠鏡では最上位クラスで、対してサンニッパはあくまでカメラレンズなので星を撮れば差が出て当たり前と言えば当たり前なのですが、やはりこのFSQの美しい星像を見てしまうとカメラレンズで天体撮影する意欲が減退してしまいます…。
サンニッパの利点
ただハイスピードに集光できるサンニッパは淡い星雲や分子雲、ガス、星間物質、暗黒帯などは比較的写りやすいと思っていて、この辺りはF値の暗い望遠鏡よりはむしろ良いのでは?と個人的に思っています。
例えば将来的に鏡筒のツイン化をしてアストログラフでL画像を、サンニッパでカラー画像(RGB)を取得するような使い方ならサンニッパのハイスピードさを存分に活かせるシステムになるのではと妄想しています。
遠征をおえて
今回は不慣れな初の遠征地での撮影やら、忘れ物やらで正直上手くいったとは言いづらいものとなりました。しかし1往復余分に移動してまで撮ろうとするのは逆に天体撮影へのモチベーションが高い証拠でもあります。
来月以降は梅雨入りなので今回の遠征をもって今年2022年の前半の天体遠征は終了となりますが、今年はすでに7回の天体遠征をこなしました。昨年2021年の天体遠征が計5回だったので、自分自身その多さに驚いています。
入梅以降は天候の関係や夏山撮影の予定でしばらくは天体遠征のチャンスは無さそうですが、秋以降の遠征に向けて準備だけは進めていきたいと思っています。
追加遠征するも撃沈(備忘録)
ここからは個人的な備忘録。
片品高原への遠征の翌週、梅雨間近と言うことで最後の悪あがきとして追加遠征を敢行しました。
どうしてもサンニッパで『網状星雲』を撮っておきたいと思って、この日に晴れが期待できる茨城県北部へ。
場所は天体撮影や観測地(天文台もある)としてとても有名な『花立山(花立自然公園)』。この撮影地は以前からもちろんその存在はよく知っていて、いつかは訪れてみたいと思っていた撮影地でした。
パラパラと小雨降る中、20時過ぎに現地到着。
現地には前日に千葉方面へ遠征されていたしょきさんがすでにスタンバっていました。梅雨目前で月も細いし、関東で晴れそうなのはここか群馬県の一部くらいでしたから天文屋さんで混み合うかと思っていましたが、なんとしょきさんと私の2人だけで拍子抜けでした。
撮影地自体はそれほど広くなくて、好天の週末の新月期だと夜到着となるとおそらく入れなそう。ここは本来なら夕方くらいには到着していたい撮影地と感じました。隣に同じ規模の駐車場もあるのですが崩落の危険性があるということで残念ながら立ち入りが禁止されていました。
現地入りしたときはその隣の駐車場との間に設置されている電灯が煌々と光っていましたが、撮影する方向が電灯とは反対の東から天頂付近なのでそれほど影響は無さそうでした。小雨も上がり機材を組んで撮影準備を進めてちょうど撮影開始しようかという22時半にこの電灯は消灯してくれました。
電灯がこのまま朝まで点くのならちょっと厳しいと言わざるを得ませんが、23時前に消えてくれるなら問題ありません。
灯りが消えると満天の星空が肉眼でも露わになり、本来の花立の美しい星空が目に飛び込んできました。南の低空はどうしても明るいし、電線も邪魔なのでさそり座は狙いにくいと思いましたが、あとは全方向そこそこ暗いという印象でした。若干北西方面がほんのり明るく感じましたが、妙義のように極端に明るい方角というのがありません。
トイレもあるし、狭い以外はまずまずの撮影環境という好印象。
電灯も消え、雲も引いて、これから対象を導入し構図を調整して本撮影という段階になって再び雲、いや雲と言うより低空にガスが掛かってきました。見えていた星々はみるみるかすみ始め、明るい星しか見えない状況に…。そしてやがてあたりは完全にガスに覆われてしまいました。
見事に撃沈…。
最近はGPVやWindyといった高精度な雲予測が可能になって、一時的に曇られることはあっても一晩まるまる棒に振るということはめっきり減りました。久しぶりに一枚も撮ることなく終えました。ただ撮れないながらもこの撮影地への道程や距離感、空の暗さ、撮影地のキャパなどを下見することが出来たので良しとしました。
天体撮影は他のジャンルに比べて極端に撮影機会と言うものが少ないジャンル。だから余計に『撮れる日は撮っておく』という姿勢が大切になります。それには出来るだけ多くの撮影適地を知っておくことも重要で、その中で晴れるところへ遠征することも天体撮影のコツかなと思い始めています。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。