前回まででAF微調整の前段階のセッティングまで進めました。
今回の後編では実際にターゲットを撮影し、調整作業まで進めたいと思います。さらに『フォーカスシフト』に関しても軽くではありますが触れたいと思います。
- 調整の実際
- 手持ち望遠レンズの調整結果
- 『AF微調節の自動設定』機能について
- フォーカスシフトについて
- まとめ
調整の実際
さて、実際に調整の作業に入っていきましょう。
基本的な考え方
具体的な調整の方法、考え方ですが基本的には『トライ&エラー』という泥臭いやり方です。
“AF微調整”と聞くとさも高性能なすごい機能と思われるかもしれませんが、何のことはない実に古典的で地道な作業となります。
画像モニターのキャリブレーション機能のようにカメラが何らかの差異に反応して勝手に自動でキャリブレーションしてくれるわけではなく、
ターゲットとなるチャートを撮影
まず適切にセッティングされたチャートとカメラでターゲットとなるチャートを撮影します。
このときに注意したいのはAFのフォーカスポイントの位置。
フォーカスポイントは下の画像の赤枠で示した個所に置きます。数字の(0)が書かれた目盛りは確認用なのでそこには置かないでください。そして選択可能なAFポイント箇所は機種によって違いますが、中央のAFポイントを使います。どんな機種でも中央のAFポイントが一番精度が高いためです。
他社のテスト用チャートでも模様に違いこそあれど、白と黒のコントラストの高い箇所なのでAFはすぐに合うはずです。どのテスト用チャートもこの位置は目盛りの『0』と同じ距離になっているはずです。
レリーズを使ってシャッターを切るのが望ましいですが、無ければ5秒タイマーや10秒タイマーなどの機能を使って撮影します。スナップ撮影のように指でシャッターを切るとブレの原因となるので、問題の切り分けが出来なくなります。
撮像の確認
撮影が終わったらすぐにその画像を確認します。
確認する部分は撮影された目盛りのチャート。もちろん拡大して確認します。等倍にして確認しますが、それ以上に拡大できる機種もあるかと思いますが等倍以上に拡大すると画像がぼやけてしまうので等倍で十分だと思います。
カメラの背面液晶では小さすぎると思われるなら、PCに繋いでテザー撮影すればより視認性が上がります。室内でこの微調整を勧めるのはPCに繋ぎながらの作業がしやすいという部分もあります。(もちろん屋外でタブレットなどで確認しても良いでしょう)
実際の撮像の判断ですが、目盛りの『0』のラインでは判断が難しいでしょう。よほどズレていれば分かりますが、ズレが少ないとすべて合っているように見えます。なのでチェックするのは『1』や『2』の目盛り。その『1』や『2』の目盛りが上下でどのようなボケの具合か、を確認したほうが分かりやすいと思います。
以下は『Nikon D5』に『AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR Ⅱ』を装着したときの画像です。
この撮像を見る限り問題は無さそうです。問題なければ調整はいりません。
必要な場合のみAF微調節を行ってください。正常なレンズを調節すると、ピントが合わなくなる場合がありますのでご注意ください。(ニコン公式HPより)
次に『NIkon D5』と『AF-S NIKKOR 300㎜ f/2.8G ED VR Ⅱ』の間に1.4倍の純正テレコン『AF-S TELECONVERTER TC14E Ⅲ』を装着した場合。
調整が無い状態だと若干ですが後ピン気味でしょうか。『1』や『2』の目盛りのボケ量に違いがあります。この『ボケの量』を目安にすると分かりやすいと思います。
(ただこういった白地に黒い線だとレンズによってはどうしても軸上色収差があるので判断が難しい場面も出てきてしまいます。)
AF微調節機能を使って調整
撮像の分析によって若干後ピンと判断しました。
カメラ本体のメニュー項目のなかから、
『セットアップメニュー→AF微調節』を選択。
↓
『AF微調節(する/しない)』をON。
↓
『個別レンズの登録』を選択。
カメラにレンズを装着した時点ですでにカメラ側にテレコンの有無も含めて何というレンズを装着しているのか電子接点を介して情報が登録されています(CPUレンズのみ・20種類登録可能)。
あとはスライダーを上げ下げして±20の範囲で定量的に動かしていきます。
数値が大きければ大きいほどピントの位置はカメラから離れていきます。前ピンならば+方向へ、後ピンならば-方向へスライダーを動かします。
ちなみに『個別レンズの登録』の画面上にあるふたつの黄色いスライダー、目盛りの右側のスライダーが今から動かして調整するスライダー。目盛りの左側にある小さいスライダーは前回設定・登録したスライダーの位置を示しています。
スライダーをどれだけ動かすかは自分のやり易い方法で行ってください。
大まかに(例えば±5ずつなど)動かしていってトライ&エラーを繰り返して行き過ぎたらまた少し戻すといった方法であったり、それこそ一目盛りずつトライ&エラーで徐々に合わせていく方法でも良いと思います。
再びターゲットとなるチャートを撮影し画像確認
AF微調整機能を使ってピント位置を調整したら再びチャートを撮影します。
このときに一度ピントリングを適当に回してわざとピントを外してから再び同じAFポイントでピント合わせを行ったほうが良いでしょう。
撮影した画像を同じように確認し、必要であれば再びAF微調整機能を使ってピント位置の調整を行い、必要でなければ調整は終わりにします。
数字の(0)の目盛りにジャスピンが来るようにすることはもちろん、最終的には(1)や(2)の目盛りのボケの量が同じくらいになるまで繰り返し調整して合わせます。
最後にスライダーを合わせたピント位置がそのままカメラに保存され、レンズを取り外してもそのデータは残り、再び装着すると自動的に読みだされます。
画像はカメラの背面液晶で拡大(等倍)表示にして確認しますが、このとき1枚目と2枚目を比較して良化したか否かを判断するわけですが、ニコンのカメラの場合メインコマンドダイヤルを回せば拡大表示させたまま1枚目と2枚目の表示を切り替えることができます。星の撮影時のピントの追い込みでよく使う方法です。
※前編で注意点1としてニコンの公式HPからの情報を載せましたが、念のため調整が終わったら無限遠を撮影して画像を確認したほうが良いと思います。
手持ち望遠レンズの調整結果
さて私はこのような一連の調整を定期的に行っているのですが、参考資料程度に現在の私の手持ち機材(望遠系)のAF微調整の調整量をまとめてみました。もちろん前編の冒頭でも述べましたが、同じ機種であっても製造上の“個体差”があるので同じ調整量になるわけではないのですし、全く同じ個体でもずっと使っているとまた多少ズレたりするので、参考程度とお考え下さい。
ちなみにカメラボディはNikon D5 とNikon D500。
レンズは AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR Ⅱと AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR Ⅱ。
その組み合わせにそれぞれ純正テレコンTC14EⅢとTC17EⅡを装着したときのものです。
AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR Ⅱ | 70-200 | 70-200 + 1.4 | 70-200 + 1.7 |
---|---|---|---|
Nikon D5 | +3 | +3 | +3 |
Nikon D500 | -3 | 0 | 0 |
AF-S NIKKOR 300mm f/2.8G ED VR Ⅱ | 300 | 300 + 1.4 | 300 + 1.7 |
---|---|---|---|
Nikon D5 | 0 | -3 | -6 |
Nikon D500 | -3 | -6 | -8 |
※機材ごとにある程度規則性があるのではと常々思っていますが、不思議なことにこの数値を見るとそうでもないようです。この辺りは機会があればニコンに直接聞いてみたいところです。
『AF微調節の自動設定』機能について
さて、ニコンのDSLRの一部の機種には『AF微調節の自動設定』という便利な機能があります。詳しい設定方法・操作方法は取説や公式HPを参照いただきたいのですが、簡単に言うと長々と取り上げてきたAF微調節が『AFモードボタンと動画撮影ボタンを2秒以上同時に押す』ことで瞬時にできてしまう機能です。
私も最初は時間を節約できるこの機能を使ってAF微調整をやっていましたが、少し気になることがあって改めて自分で調節してみたら、けっこうこの自動設定には“ばらつき”があると分かりました。
もちろん自動設定よりも自分の調整のほうが絶対に合っているとは言いませんし、この自動設定機能を否定するつもりはありませんが、私は自分の性格上、自らの手で調整するほうが性に合っていると思いました。
これは様々なことに言えるのですが、基本的に『自動』や『オート』といった類は、しっかりとその機能が果たす役割やメカニズム、クセ、弱点などを理解した上で使いこなしたいものですし、やはりなにか問題が起こった時に、その原因の切り分けが自分でできるようにしておきたいものです。
フォーカスシフトについて
フォーカスシフト現象とは
DSLRで撮影する以上、避けては通れない問題の一つに『フォーカスシフト現象』があります。
砕いて言うならば“焦点移動”となるのですが、具体的には『絞りを絞ることで焦点が変動してしまう現象』です。
DSLRでは今まで取り上げてきたようにファインダー撮影時においては構造上『絞り開放』でのピント合わせとなります。
なぜなら、
- 開放のほうが明るいので当然ファインダーの見え方も明るくなり視認性が上がる
- 開放のほうが被写界深度が浅くなるのでピントの山も掴みやすくなり精度が上がる
絞り込んだ撮影時(例えばf/8など)でもAF用センサーやファインダーでは常に『絞り開放』であり、実際にシャッターが切られる瞬間にレンズの絞り羽根が絞られて撮影されます。その際に開放で合焦していたピントの位置がf/8に絞り込まれたときにずれてしまうのです。
原因はレンズの“球面収差”によるもので、明るい大口径レンズによく見られる現象です。
レンズの球面収差が原因なのでレンズごとにフォーカスシフトの大きさは変わってくるわけなので、各メーカーは極力この収差が起きないようにレンズ構成の一部に非球面レンズを採用したり、様々な技術を使って試行錯誤しながらレンズ設計するのですが、残念ながらこの現象はどんなレンズでも少なからず出てしまう現象で、とくにf値の小さい大口径レンズでは補正が難しいものです。
AF微調整とフォーカスシフト
せっかく面倒なセッティングをして苦労してAF微調整をしたところで、残念ながらこのフォーカスシフト現象からは逃れられません。なぜならAF微調整は開放で調整するものだからです。逆に言うと開放撮影時においてはしっかりとAF微調整されていればフォーカスシフトは無いので理論上はピントはきれいに合うことになります。
このことを踏まえれば、開放付近での撮影が多いジャンルの方々にとってはAF微調整はとても有効的で、逆に私のような山岳写真や風景写真が多い撮影者からしたらAF微調整よりもこのフォーカスシフトのほうが大きな問題と言えるかもしれません。
フォーカスシフトの回避法
DSLRにおいてはフォーカスシフトは構造上ある種の“宿命”なのですが、以下の方法で撮影すれば回避することができます。
フォーカスシフトをどう考えるか
撮影者、とくに絞り込んでの撮影が多い撮影者にとってはフォーカスシフトは由々しき問題、ちょっと奥歯に何かものが挟まったような感覚を覚え、何となく気持ち悪さを感じるものですが私はそれほど気にする必要はないと考えています。
なぜなら絞り込めば絞り込むほどにフォーカスシフト現象は顕著になりますが、そのぶん被写界深度もそれに比例してより深くなっていきます。つまりピントの合う範囲(深度)も広がって、ピントのズレもそれほど顕著に感じられなくなるからです。
いかんせん昨今のデジタルカメラは高画素化が進み、幸か不幸かほんの少しのピントのズレや諸収差、周辺部の画質低下が顕著に確認できるようになってきています。しかし防犯用や医療用など特殊な用途での使用でない限り、そのような問題はもはや『重箱の隅をつつく』ような問題であって、個人的には鑑賞写真としての用途では大きな問題ではないと思うのです。
ただ先ほども述べましたがAF微調整に関しては、特にテレコンバーターを使用して開放付近での撮影が多いような場面ではとても有効的に働きますのでしっかりと調整したほうが良い結果が得られると思います。
まとめ
今回は前編と後編に分けてフォーカスシフト現象も含めてAF微調整に関して取り上げました。
この記事を読まれて『なんか面倒くさい』『難しそう』と感じられた方は直接メーカーに調整を依頼しても良いと思います。センサー(ローパスフィルター)の清掃などもそうですが、メーカーに直々にやってもらったほうが確実ですし、なにより調整や清掃は自己責任で行わなければなりません。
ただ自分が使う機材や道具を調整したり、メンテナンスしたり、きれいに掃除したりすることにより更に愛着がわきますし、なにより自分の機材や道具について理解が深まっていきます。そして故障や異常などの早期発見にもつながると思いますので、定期的なメンテナンスはとても大切なものだと思います。
ご参考までに今回のAF微調整作業では調整用ターゲットとして『datacolor Spyder Lenscal』を使用しました。
本記事がみなさまの写真ライフのお役に立てれば幸いです。