『春の燕岳』残雪の峰々と雷鳥と星空と…。

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2021年5月、残雪の北アルプス連峰を愛でに“北アルプスの女王”こと燕岳へテント泊山行。美しい雄大な山並み、可愛らしい雷鳥、そして満天の星空が北アルプスの春を告げる。

(目次)

  • 燕岳の魅力
  • 春の燕岳
  • 遠のく軽量化
  • 中房登山口から稜線へ
  • 美しい北アルプスの夕景
  • 燕岳の星空
  • 朝焼け撃沈
  • 山に思う




燕岳の魅力

燕岳は多くの登山者から愛される山。
山を始めたばかりの初心者からベテランの方々まで老若男女に愛される山。
私自身も北アルプスの中では最も訪れている山で、厳冬期以外の季節に日帰りから小屋泊、テント泊と数えきれないほど訪れています。

アクセスのしやすさもあり、中房登山口から標高差約1,300m、距離にして約6.5㎞のアルプス三大急登と言われながらも整備された登山道、適度な休憩ポイント、そして合戦小屋の存在もあったりで比較的登りやすい山でもあります。

その登山道の先、稜線に上がれば数ある山小屋の中でもっとも人気のある山小屋の一つである『燕山荘』が建ち、その稜線からは槍ヶ岳をはじめとした雄大な北アルプスの名峰たちを望むことができます。雷鳥の存在もこの山域の大きな魅力で、花の時期には砂礫の稜線に咲くコマクサをはじめ多くの高山植物が登山者を迎えてくれます。

燕山荘は年末年始も営業されている山小屋でもあり、冬の北アルプスの厳しい環境を窺い知ることもできるのも燕岳のもう一つの魅力にもなっています。春、夏、秋、そして冬と年間を通して初心者からベテランまで楽しめる、私自身も最も北アルプス初心者の方々におすすめしたい山でもあります。

燕山荘と燕岳(2020年11月撮影)

その燕山荘ですが、今年でちょうど100周年を迎えられたそうです。
おめでとうございます!
燕山荘グループHP

春の燕岳

私にとって5月の燕岳山行はほぼ毎年のルーティンとなっています。
本格的な厳冬期の北アルプステント泊山行をしない私にとっては4月下旬~5月がシーズン始めの北アルプスとなり、テント泊山行の体づくりの一環としての意味合いもあります。

このブログサイトを開設した2年前の春にも登っていますし、もちろんそれ以前もほぼ毎年と言ってもいいくらいこの時期に登っています。

春の燕岳、残雪の表銀座稜線と天の川

天候によってはまだ冬山の雰囲気を楽しめた年もありましたし、縄張り争いを激しく繰り広げる雷鳥にも2年前の山行において出会えましたし、そして何と言ってもこの時期はさそり座や夏の天の川が燕山荘の頭上を賑わす季節。その美しい初夏の星空をこの残雪美しい北アルプス連峰の山並みと一緒に眺めることができるのがこの季節の燕岳の大きな魅力になっています。

GWを外せば意外と登山者もそれほど多くはありませんので、そのあたりも静かな山行が好みの私に合っているということで春の燕岳は定番となっています。昨年は残念ながら新型コロナウィルスの影響による登山自粛で山行は中止。今回は感染症の拡大防止策を徹底しての山行となりました。

遠のく軽量化

登山装備の進化により “ウルトラライト(U.L.)” という分野も出ている昨今、私自身も軽量化を進めています。備忘録的に今回のテント泊撮影山行の装備を一覧にしてみました。

ザック
カリマー75l(長らく使用していたドイター65lからチェンジ)
登山靴
LOWAマウンテンエキスパート
テント
アライテントエアライズ2、竹ペグ
テントマット
サーマレストZライト、ニーモゾア20R、百均の銀マット2枚
シュラフ
モンベルダウンハガー#2、イスカゴアテックスシュラフカバー
ウェア
モンベルのソフトシェル、上下ダウン、アウター、防寒グローブなど
アイゼン
マウンテンダックス6本爪軽アイゼン
ピッケル
グリベルモンテローザ(テント前室のペグとして)
カメラ
Nikon D5(メイン)、Nikon D850(サブ)
レンズ
AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED
AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED
AF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VR(f/2.8G VRⅡから変更)
AF-S TELECONVERTER TC14EⅢ
その他各種フィルターやレリーズ、バッテリー予備
三脚
ジッツオGT2542(雲台はMarsace FB-2R)
そのほか飲料水や食料、行動食、モバイルバッテリー、着替え、サングラス、日焼け止めをはじめとした細々したもの。
山行前の計測ではザック重量は23㎏だったはずでしたが、この重さは “何かおかしい…” と帰宅後に再計測で26㎏。重くとも25kg以内と決めていた自分の限界を超えていました。

たしかに夏山に比べれば寒さ対策やアイゼンといったものが増えるのは致し方ないとは言え、体力自慢ではけっしてない私にはこの重量は無理があります。1泊2日となった山行でしたが、この重量で数日間山を歩くことは現状の体力では難しいと言わざるを得ません。

中房登山口から稜線へ

今回の山行、当初の予定では初日に燕山荘テン場でテント泊、翌日は大天井岳でテント泊(もしくは避難小屋泊)、3日目に中房まで下山という予定でした。しかしどうも2日目の夜未明から天気が崩れる(梅雨の走り?)ということでいつもの1泊2日の燕岳山行としました。

平日だったこともあり今回は第1駐車場に駐車でき、6時前に歩き始めました。前回、11月秋の燕岳山行ではスタートが8時過ぎで遅かった反省があり、今回は眠い目をこすりながらなんとか早めに歩き始めることが出来ました。

晩秋から初冬へ『北アルプスの女王』燕岳

そしてこれも前回の反省点であった “シャリバテ問題”
今回はしっかり目に朝食を摂り、さらに登りながら計画的に小まめに栄養補給してハンガーノック状態にならないようにするということに注意して歩きました。実際には30分くらいの間隔でチャージ系ゼリーやチョコ、シリアルバーを口にしながら歩きました。

残雪の状況は2年前と変わらずこんな状況でした。

第一ベンチまでは雪は無し
第二ベンチから残雪がチラホラ
第三ベンチから残雪が多い
合戦小屋から先はずっと雪道(ここから軽アイゼン装着)

夏はスイカが名物の合戦小屋

2年前も感じましたがこの時期は気温上昇とともに雪が緩んでいますのでしっかりしたアイゼンのほうが良いと思います。樹林帯は日陰の影響もあり軽アイゼンでも滑り止め効果がありますが、融雪が進んだ合戦小屋から先の急登では軽アイゼンの爪の長さではほとんど効果がありません。

多少重くなってしまいますが、前爪があって爪の長さもあるアイゼンのほうが良いと思います。厳冬期じゃないから、と軽量な軽アイゼンやチェーンスパイクで歩きたくなりますが安全度を重視すればしっかりしたアイゼンが良いでしょう。

合戦沢の頭

休憩含め5時間半を要して11時過ぎに燕山荘着。
コースタイム自体は前回11月の山行時とさほど変わりませんでしたが体はかなり楽に登れました。
もちろんかなり疲れてそれこそヘロヘロでテン場に着きましたが、11月の時とは比べられないくらい体の状態は良かったので、やはり小まめに栄養補給することの重要性を痛感しました。

美しい北アルプスの夕景

表銀座稜線の風景

テントをサクッと設営後は昼飯(いつもの味気ないインスタントラーメン)にして、しばしの休息。テント場はまだまだ残雪が豊富で、風も穏やかでとても張りやすい状況でした。
最終的にはこの日は20張弱と平日にしては賑やかなテント場となりました。

テン場情報
・昨年同様2021年も予約制
・幕営料2000円/人
・トイレはテン場の外トイレを使用(今回は残雪期なので山荘のトイレ利用)
・水は山荘にてペットボトル(2L・500ml)を購入できます
その他詳しくは燕山荘公式HPをご覧ください
※雷鳥保護のためゴミは必ず持ち帰り、調理後のたれ、汁、残飯等も悪影響があるため捨てないようにしましょう。
休憩後は夜の星撮りを想定したロケハンで山頂方面へ。
それにしても何回歩いてもこの山頂へのプロムナードから眺める表銀座方面の眺望は素晴らしいものがあります。すこし薄雲がかかっていましたし、午後には穂高岳は分厚い雲に隠れていましたが本当に美しい山岳風景。

表銀座の稜線と槍ヶ岳

この眺望こそこの山のとても大きな魅力の一つでしょう。

とくに燕岳からは槍ヶ岳とともに大天井岳もその存在感を示しています。どっしりとした山容は重厚感があり、その頂からはとくに槍ヶ岳や穂高連峰がとても美しい角度で眺めることができる山で、撮影の観点からみると穂高連峰を東側から撮影するならこの大天井岳からが最も美しいと私は思っています。

重厚な存在感を放つ大天井岳

今回はテント場で “お隣さん” になった方もそうでしたし、山頂手前でお会いした方々もそうでしたが、星撮り目的で来られていた方々がたいへん多い印象でした。ポタ赤を担いで登って来られた方もいらっしゃったり、新月期でもあるこの日は星をメインに登られてきた方には大きなチャンスの日でした。

私もポタ赤(SWAT200)を担ごうかとも思いましたが、結果的には思うだけに留めて正解でした…。

雷鳥と槍ヶ岳

テント場への帰路の道すがら、サービス精神旺盛な雷鳥が槍ヶ岳をバックに撮影できる岩に留まってくれました。昼過ぎに縄張り争いで厄介な競争相手を追っかけまわしていたオスが頻繁に飛び回っていましたが、ひと時の休憩をとっていたのでしょうか。

夕刻の山々

夕方は夕景を撮影するためいつもの表銀座縦走路をゲーロ岩(蛙岩)方面へ。

夕刻の表銀座縦走路

今回はいつも撮影している岩場からさらに先に進んだゲーロ岩手前まで足を延ばしました。
この日は残念ながら雲が多め。

遠く笠ヶ岳

期待した大天井岳や槍ヶ岳方面よりも裏銀座の稜線に沈みゆく雲間からの夕日が本当に美しくて、陽が水晶岳の横に沈んでゆくまで本当に美しい風景でした。

『Close To The Sun』

茜色に染まる雄大な空。
少し肌寒い風。
誰もいない静かな表銀座稜線。

そこには下界の煩わしいニュースなど関係の無い美しい世界があるだけ。
山と空と自分だけの世界。
これこそがまやかしの無い本当の世界。
北アルプスはいつも私に真実の世界を魅せてくれる。

そう、実に美しい本当の世界。



燕岳の星空

朝6時前に登り始めてここまで多少の休憩はあったにせよ体はかなり疲れていました。
遅い夕食をとった後は一気に睡魔に襲われました。

テント内は陽が落ちた後でもそれほど気温が下がることは無く、気温計は2℃
風もなく穏やかな夜。
星空に期待したいところでしたが事前に確認したGPVでは南から雲が迫ってくる予測。残念ながら美しい星空には期待できそうになく0時ごろに目覚ましをセットして若干あきらめ気味に就寝。

その目覚ましで起きてテントから外を覗くと予想に反して星空が見えていました。

「んん?これはイケるのか?」

昇り始めたさそり座を見ながらそう感じました。
しかし寝ぼけ眼だったのか本当に空が眠かったのか、その一見だけでは判断できませんでしたが何となく “眠い星空”

とりあえず機材を抱えながらテントから這い出て昼にロケハンしておいた場所へ。
撮影ポイントはイルカ岩あたりとその少し先へ行った展望の良いポイント。実際に夜空を撮影して撮像を拡大してみるとまるでソフトフィルターを使用したかのように星が滲んでいました…。
どうやら水蒸気か霧か薄雲か、上空にそれが薄っすらとベールのように広がっているようでした。曇られて星が見えないよりはマシと考え改めて、今回は “満天の星屑” というよりは “星座” をテーマとした撮影に切り替えました。

燕岳の頭上に輝く北斗七星とカシオペア

実際、星景写真で使用しているニコンの広角ズーム14-24㎜は出目金レンズのためフィルター各種が装着できないタイプのため『天然のソフトフィルター』と良いほうに考えて撮影しました。
2年前は夏靴で来ていたため星撮影中は足が寒くて居たたまれませんでしたが、今回は冬靴に加え、気温も高く風もなかったので余裕をもってこの美しい星空を眺めることができました。

『The Veil Of Darkness』

多少眠い星空とは言え、本当に美しい星空。

燕山荘上空を賑わす夏の天の川、
大天井岳を駆け抜けるさそり座、
燕岳上空には西に傾きつつある北斗七星。

やはりこの素晴らしいロケーションの星空はこの燕岳登山のもっとも大きな魅力。結局時間が経てば経つほど星空は眠くなっていき、2時過ぎに撮影を止めて再びシュラフに包まる夜となりました。

朝焼け撃沈

春のこの時期は夜が極端に短い。
日の出は4時半。
そういえば昼間に山小屋に着いた若い登山者たちが受付で山小屋スタッフの『朝食は4時半です』の言葉に絶句していたっけ…。

前日の疲労した体に深夜の星撮り。
モルゲンロートを撮ろうと目覚ましを4時にセットするも眠くて眠くて…。
このままシュラフに包まっていたらどれだけ楽だろう。
しかしここまで来ていて朝焼けを見ない、撮らないなんてあり得ない…。
これが山ヤの性
再び機材を抱え朝焼けの撮影へ。

幸いこの朝も深夜同様に寒くは無く、風も穏やかでした。
すごく平和な北アルプスの清らかな朝。

東側は見事な雲海、下界はその分厚い布団で覆い隠されていました。
昨日の夕方同様にやはり雲が多くて、その雲間からの日の出。
残念ながら期待したモルゲンロートは不発…。

『PASTEL Morning』

しかし雲海の先に浮かぶ柔らかな朝日がパステル画のように淡くとても印象的な朝でした。

山岳写真は自らがどうこうすることができないジャンル。
撮り手は自然が見せてくれる偶然的な風景の “受け手” として撮影・表現するしかありません。

山が魅せてくれた風景、
山がこの時間に私に与えてくれた風景、
それがどんな風景であれ私には美しい風景に見えます。

雲海が印象的な朝の風景

山に思う

朝食とコーヒーを摂った後は少し休息し、テントの撤収作業。
優しい陽光に輝く北アルプスの山並みを愛でながらのんびりとした撤収作業。
今回は1泊2日という短い滞在でしたが、これが2泊、3泊と連泊なると下山する寂しさと下界の “旨い飯” が恋しくなる妙な感覚を覚えます。

後ろ髪引かれつつ稜線に別れを告げて下山。
あとは一気に中房まで急降下。
入梅前の充実した燕岳山行でした。

先月の立山雷鳥沢でもそうでしたが、下界では感染症拡大が大変な時期。とくに1年前の今頃は各種団体からも登山自粛の声が上がっていました。
確かに今までのような最盛期の山小屋は “三密” の典型かもしれません。
しかし登山自体は大自然を舞台とした屋外のもの。
下界の “飲み屋” よりは感染リスクは少ないはず。
しかも今は営業中のどこの山小屋も感染症対策は徹底されています。
燕山荘でもしっかりとした対策が講じられていたし、利用客の方々もその辺りはしっかりとしていた印象でした。
拡大防止のための “巣ごもり” もいい。
ただ自然を愛する、山を愛する方々には行き過ぎた “巣ごもり” はかえって体に良くない部分もあると思います。何より体を動かして、心身ともにリフレッシュすることでの “ウィルスに負けない体づくり” という側面もあります。

もちろん周りの人たちに対する拡散防止策は必須ですが、山が与えてくれるものは決して下界では得られないものがあると改めて今回感じた撮影行となりました。
この日、この夜、この山行にてお会いしたみなさまに、この場を借りて感謝申し上げます。