『NIKKOR Z』レンズ彼是(プロファイル補正の強制適用の件ほか)

CAMERA&LENS

今回は2018年発足から着実にその拡充が進められているNikonのFマウントに代わる次世代のマウント『Z』マウントレンズに関しての記事になります。当方YouTubeチャンネルにて本記事のネタについてダラダラと雑談しておりますので、そちらも合わせてご覧いただければ幸いです。

と言うことで本記事はその動画を補うべく簡素にまとめさせていただいております。

(目次)

  • FマウントとZマウント
  • レンズロードマップにある『135mm』の文字
  • 大きな落とし穴
  • 問題となる点
  • そもそも『RAW』とは?
  • 補正ありきのレンズ設計
  • 最後に




FマウントとZマウント

私自身フィルム時代から使い続けてきた愛着あるFマウント。
Zマウントが産声を上げてからはFマウントの新規開発は事実上終焉し、残されているラインナップの製造や保守管理、修理などのみとなり、いよいよZマウントに大きく舵を切っている状況と言えるでしょう。私も今後はFマウントを残しつつ、少しずつZに移行しようと目論んでいました。

Fマウント規格

今となってはフィルムの頃から脈々と受け継がれてきたこのFマウントという規格で、昨今のデジタルによる高画質化の荒波をよくも乗り越えて来たものだなと感慨さえあります。

Fマウント規格は、

マウント径 47mm(内径)
フランジバック 46.5mm
という他社に比べてレンズ設計的には難しいであろう、苦労するであろう不利なマウント径のサイズとフランジバックの長さでした。

しかしニコンのすごいところはそんな状況においても超広角ズーム『AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED』という化け物のような歴史的名玉を開発してしまうところです。このレンズは他社のレンズよりも長いフランジバック向けのレンズと言うことで他社ユーザーでさえもマウントアダプターを介して使用することもあったくらい、まさにマウントを越えたレンズと言われています。私も今まで長年使ってきたニコンのレンズの中でこのレンズを使って多くの撮影体験をさせていただきました。

AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED

Zマウント規格

そんな苦しい環境でもなお見事な光学性能のレンズを長年にわたって開発・製造してきたニコンにとって “ミラーレス” という新しい時代の流れに立ち向かおうと新規開発した新たなマウント『Z』にはまさにニコンの逆襲といえる幕開けを感じました。

Zマウント規格は、

マウント径 55mm(内径)
フランジバック 16mm
というフルサイズとしては異様に大きなマウント径と相まった16mmという空前絶後のショートフランジバックが実に大きな特徴です。ただでさえ “光学屋” として世界に誇る技術力をもったニコンが、こんな今まで聞いたこともないようなまさに規格外のマウントでレンズを作るわけですから、その光学性能に期待するな、と言う方が無理と言うものです。

レンズロードマップにある『135mm』の文字

そんな中、現在において最新のZレンズのロードマップ(2022年9月版)にはなんと『135mm』が用意されています。Fマウントの最後発のレンズ群において、もはや神格化されているとも言われている中望遠レンズはEタイプの『105mm』でしたし、中望遠マクロも『105mm』でした。

『135mm』と聞くと個人的にはZEISSの『Milvus135mm』を使っていましたし、シグマにもその凄まじい光学性能が話題となった『135mm』がありましたし、とにかく各光学メーカーから名レンズが出やすい焦点距離でもあります。そこにこの “Z” での『135mm』が予定されているわけですから、それまでの名レンズの性能を軽々と超えてくるような、完全無欠の『135mm』が登場してくるような期待さえ持ちます。

Zeiss『Milvus 2/135 ZF.2』

『135mm』はいろいろなシーンで使われる焦点距離のレンズかと思いますが、個人的には是非とも天体写真で使ってみたい焦点距離でもあります。実際、Milvus135mmはほぼ天体写真でしか使いませんでしたし、なにせこの焦点域の望遠鏡というものは無いのでカメラレンズに頼ざるを得ない部分もあります。

Milvus135にて撮影 (『The Star Cloud』)

大きな落とし穴

私が初めて所有し使ったZ製品は『Z6』とそのキットレンズとなっていた『NIKKOR Z 24-70mm f/4 S』でした。実際に使っていた時はいまだにミラーレスに(というかEVFに)慣れないでいる自分を感じていて、しばらくしてすぐに手放してしまいました。

Nikon Z6 & Mirrorless Camera

その時に覚えていた一抹の不安。
それは『NIKKOR Z 24-70mm f/4 S』の現像ソフト上(Lightroom)での外すことが出来ないレンズプロファイルの強制的な適用。

もちろんその頃はまだまだZ製品は種類も少なく、ADOBEへの対応も今後さらにZレンズ群が拡張・発展したら今までのFマウントレンズ同様にレンズプロファイル補正の適用の自由はのちのちに解決されていくだろうと勝手に思っていました。

しかしその後、『Z6Ⅱ』とともに手にした山岳撮影では最高の標準ズームと期待して購入した『NIKKOR Z 24-120mm f/4 S』でもその強制的なレンズプロファイル補正の適用という仕様はいまだに変わっていませんでした。

問題となる点

先ほども書きましたが、私は将来的にロードマップにある『135mm』レンズを手にして、是非とも赤道儀に搭載して星に向けて使いたいと思っていました。

本格的に天体写真を撮影されている方でしたらお分かりかと思いますが、個人的に天体写真において『フラット補正』という工程は今でも絶対に蔑ろにできない処理のひとつと考えています。

フラット補正とは
フラット補正とは周辺減光補正のひとつで、強烈なコントラスト強調を行う天体写真の画像処理のひとつ。これはライトフレーム(星が写った写真)とは別に光学系の周辺減光の様子だけを写した画像を撮影・取得して、それをライトフレームから除算してライトフレームにある周辺減光を補正する演算処理のこと。
一般的な写真であればレンズプロファイルによる補正があれば十分すぎるほどの補正となるのですが、天体写真でそのプロファイルを当ててしまうと『過補正』になります。いわゆる “補正のし過ぎ” と言うやつで、このようなソフトウェア上のねじ曲がった補正と言うのは天体写真の強調処理では到底使うことが出来ません。

Milvus135のフラット画像の例

さらに私はあまり撮影しないのですが、星の軌跡を写しとめた都市星景(つまり比較明合成)では、このレンズプロファイルが適用された画像で合成すると “モアレ” のような模様が出てしまって実践的には使えないという情報もネットの記事で拝見いたしました。(都市星景であればワンショットでの撮影であれば対応可能でしょうか)



そもそも『RAW』とは?

みなさんはRAWで撮影しますか?
それともJPEGで撮影しますか?

JPEG

JPEGというのはカメラ内において現像や各種補正、色づくりをそのカメラメーカー独自の画像処理技術を経たファイル形式であり、その後の処理を必要としない非常に手間のかからない、またはカメラメーカーの特色を上手く利用できる画像ファイルです。

後から面倒な現像処理は必要ないですし、プロの現場でもJPEGで納品するケースも多く、それこそ本体から記録メディアを抜いてカメラ屋さんでそのまま綺麗なプリントを出力することも可能です。その分、JPEGは8bit(256諧調)での記録となります。

RAW

逆にRAWはそのままの状態では画像ファイルとして開くことが出来ずに、各種現像ソフトを使って現像処理をしてJPEGやTIFFといった形式で書き出して初めてその汎用性が担保されます。つまり『写真』というよりは『画像データ』といった意味合いが強いものです。

その分、RAWはJPEGよりも高ビット(主に14bit)で記録することが出来て、現像処理の各種調整において劣化することが無く、様々なパラメータを駆使して写真を撮影者好みの色調やトーン、明るさにすることが出来ます。

『RAW』とはその名の通り『生』と言うことであり、食材に例えたら釣れたての魚、採りたての野菜、何も火を加えられていない生肉のようなものです。そういった手の加えられていない食材を自由に調理するのが料理人であって、写真で言えば撮影者と言うことになるはずです。

しかし提供された食材にすでに手を加えられていたらどうでしょう?

既に切り身となって酢漬けとなった魚、
細切れになったキャベツやニンジン、
ボイル済みの牛肉。
果たしてこれらの食材を提供されて、じゃあ何を作れというのでしょうか?

補正ありきのレンズ設計

昨今の高精細なデジタル写真に向けて、そしてそれを達成すべく各メーカーがしのぎを削ってレンズの開発に取り組まれているかと思いますが、個人的には後工程でのソフト的なデジタル補正ありきのレンズ設計自体はとくに何も思うところはないですし、むしろそのような設計にすることでレンズ自体が軽量でコンパクト、安価で手に入るのならばむしろ歓迎すべきとさえ感じています。

センサーが高画素化されて否応にも拡大表示されてレンズのシビアな性能を丸裸にされてしまう現代のようなデジタルカメラ、デジタル写真の世界に “あえて” してしまったのは、そもそもメーカー側の都合と言って良いでしょう。

それを純粋な光学設計だけで成し遂げようとするならばレンズは巨大化し、重量級の、且つとても庶民が手に入れることが困難な金額になってしまうのは目に見えています。それを考えれば補正ありきのレンズ設計はデジタルの “良い面” でもあると思っています。

しかしながら、その補正を嫌でもユーザーに半ば強制的に受け入れさせるのは少し違うのではないか、個人的にはそう思うのです。

追記
動画の中ではこの現象はニコンZ特有なもののように表現していますが、後々に調べてみますと富士フイルムのレンズの中にもこのようなものがあるようですし、ニコンZの中でも適用を外せる仕様のものもあるようだということが分かりました。しかしそうなると今度はそれは何をもって、何の基準で仕様の差をつけいているのか、と思ってしまいます。

最後に

今回の強制的なレンズプロファイルの適用というのはひょっとしたらZレンズの中でも一部のレンズだけなのかもしれませんし、こればかりはこの件が気になってレンズの拡充に躊躇して2本のレンズしか所有歴がなかった私にはわかりません。

それにもしかしたらニコン純正の現像ソフトであれば適用の有無を撮影者が自由に選択が出来るのかもしれません。これもADOBEしか使用しない私にはわかりません。しかし少なくとも私が使ったことがあるFマウントレンズではこのようなものは1本もありませんでした。

私は現在富士フイルムのカメラも使用していますが、そのフジのレンズもやはりレンズプロファイルの適用の有無というのは撮影者に委ねられています。つまり『レンズプロファイルも用意しているので、必要な人は使ってね』的な仕様になっています。(※上記の追記参照)

当該Zレンズに関してどのような経緯でこのような仕様になっているのか、私には推し量ることはできません。いわゆる “大人の事情” 的なものなのかもしれません。これはあくまでハードウェア的なことではなくソフトウェア的なことでしょうから、今後ファームウェアのアップデート等での仕様変更を期待したいところです。

 

今回の記事は以上になります。
最後までご覧いただきありがとうございました。