天体写真への誘い①(天体写真の魅力)

COLUMN

今回から数回に分けて風景写真家・星景写真家の方々に向けて『天体写真への誘い』として “天体写真入門” 的な記事を連載していきます。タイトルをそのまま『天体写真入門』としなかったのは私はそもそも “天体写真家” と言えるほどの技術も経験も多くは無いためです。

(目次)

  • はじめに
  • 天体写真を始めたきっかけ
  • 天体写真の魅力
  • 主な作例
  • 天体写真の区分
  • 最後に




はじめに

主にこれまで風景や山岳写真、星景写真を撮影してきた私が天体写真の魅力にどっぷり浸かってみて、そこで得た経験や技術、知識は意外にも星景写真だけでなく風景や山岳写真にも大いに生かせると感じました。

そこで同じような境遇の方々にも天体写真撮影をライフワークのひとつ” に入れていただきたいと思い取り上げようと考えました。

ということで今回の記事の趣旨的にすでにある程度のカメラ・写真の知識がある方を対象としています。そして機材についてもすでにカメラやレンズ、三脚などをお持ちでRAWデータなどの活用もされているという前提で進めていきますのであらかじめご了承ください。
さらに私はNikonを使用していますので、そのあたりもご了承いただければ幸いです。

この連載をきっかけに天体写真の魅力が少しでも広がればと思っていますし、さらに本格的に天体写真をやっていきたいという方には私程度の知識や技術、機材では限界がありますので、そのあたりは “ガチ” の方々の書籍やブログ、SNSなどをご活用いただきたいと思います。

天体写真を始めたきっかけ

もともと私は風景写真畑の人間でした。
その後に山に登るようになってからは『山岳写真』にのめり込み、北アルプスを中心として関東甲信越や東北の山々で四季折々の山岳風景を撮影してきました。特に北アルプスでの撮影ではテント泊で数日間に渡る撮影も多くなってきて、そのときに見た美しい星空も撮影したくなり、美しい山並みを入れたいわゆる『星景写真』を撮ってきました。

星景写真のような広角域での写真でも昨今の高解像のカメラやレンズで撮影したものはモニター上で拡大してみるとほんのりと赤い星雲や銀河の渦が確認できて興奮しました。

『この赤い星雲は何という星雲だろう?』
と興味が湧いてきて、いろいろと調べていくうちに本格的な『天体写真』というものにも興味が湧いてきました。天文雑誌やインターネットで見たカラフルな星雲・星団や銀河には今まで撮影してきたどの風景とも違う美しさ神秘さを感じました。

『自分も撮ってみたい…』
そう思うようになるのはごく自然な流れでした。

それからはこのような撮影をするには何が必要なのか?
どう撮影すればよいのか?
どのような工程を経てこのような美しい画像になるのか?
それこそ夢中になって調べました。“赤道儀”というものの存在を知ってからすぐにポータブル赤道儀『SWAT200』を手に入れ、初めて追尾撮影して背面モニターに写し出された星雲(はくちょう座の北アメリカ星雲だったか…)を見てワクワクしました。

『自分にも撮れた、すごい!』
きっとどなたも初めて追尾して撮った1枚目はそう思うことでしょう。そこからは一気に天体写真にのめりこみ、山岳写真とともに私のライフワークのひとつ” になりました。

『木曽御嶽に沈むオリオン(新星景)』

天体写真の魅力

今回は初回ということで軽く天体写真の魅力について取り上げてみたいと思います。

季節の変化を楽しむことができる

さて風景や山岳などネイチャーフォトの一番の魅力と言ったら何と言っても季節の移ろい、その一瞬一瞬をカメラに残すことができることです。

春の淡い情景、
夏の高コントラストな景色、
秋のカラフルな色彩、
冬のモノトーンで寒々しい雰囲気。
四季折々どの季節も美しい風景に溢れています。

天体写真も言ってしまえばそのネイチャーフォトの一部なわけなので、四季折々の天体を楽しむことができます。

春はさそり座が南の夜空を賑わし、
初夏はいて座やたて座にかけての煌びやかな銀河、
夏から秋ははくちょう座やアンドロメダ、カシオペヤが天頂を彩り、
冬は王者オリオン。
と季節の移り変わりとともに様々な対象が夜空に煌めきます。星景写真を撮影されている方ならそのあたりのご理解は深いことでしょう。春の菜の花とさそり座、雪景色とオリオンといった構図は典型的な『季語の重ね合わせ』となります。

撮影や作品作りが深い(難しい)

主に風景や山岳写真を撮っている私からしたら天体写真を美しく仕上げるのは本当に難しいと感じます。風景や山岳は撮影自体はそれほど難しくはありません。難しいのは『その情景が現れたときにそこに居合わせるかどうか』ということです。こればかりは “運任せ” のところがあります。

逆に言うとどんな情景に出会えるかは分からないため、自分の想像をはるかに超えるような美しい情景に出会える可能性もあるということです。なので穿った見方をすると、そこに居合わせることさえすればカメラを始めたばかりの人でもある程度は撮れてしまうのがネイチャーフォト全般。もちろんその中でも知識や経験、感性を活かせることもありますが、カメラの『オート機能』を使ってカメラ初心者でもある程度は撮影できるものになります。

しかし天体写真はそうはいきません。
カメラを始めたばかりの方にはおそらく撮影することは出来ないでしょう。それは天体写真はカメラの『オート機能』を使えば誰でも撮れるものではないからです。

とにかくカメラの原理や扱い方、知識、技術、そして経験や機材(後述します)を少しずつ高めていって確実にステップアップしながらでないとやっていけない写真ジャンルになります。
なので非常にやりがいがあります。
『努力したその分だけ報われる』そんな世界となります。

例えると風景や山岳写真などネイチャー系の撮影が運の要素も多分に含むトランプや麻雀だとしたら、天体写真は運の要素が無い将棋やチェスという感じでしょうか。
いわゆる決まった工程をミスなくきっちりとこなすような、地味でたくさんのハードルを越えていかなくてはなりません。

『難しいのは嫌だな…』と感じるか『難しいからこそステップアップしていく行程が楽しい…』と感じるかはもちろん人それぞれですが。

楽しい?機材沼

天体写真を美しく仕上げるには機材によるところがあります。他のジャンルでは必ずしも最新の設計の機材でなくてもじゅうぶん作品に仕上げることが可能です。一番わかりやすいのはオールドレンズなどを使ったスナップ撮影。オールドレンズ特有の周辺減光や各諸収差がかえって作品に味のあるテイストを吹き込んでくれます。

しかし天体写真はその『味』の部分はあまりフィーチャーされにくいところがあります。とにかく星はシャープであればシャープなほど良いとされ、収差も無ければ無いほど良いとされている世界です。

ということはある種『明確なゴールや目標』がはっきりしているため上を目指しやすいとも言えるわけです。一般写真では『このボケがいい…』とか『コントラストが低くて逆に味がある』といった抽象的な表現もあるため『明確なゴール』がぼんやりしているところがあります。もちろんそれがまた奥が深いとも言えますが。

天体写真は明確な目標がしっかりしているため、地道に機材や周辺機器、それを扱う技術を高めたりしていく楽しみがあります。そのぶん上を目指し続ければお金もかかっていきますが…。

目には見えないものを撮る

一般的な写真では目に見えているものを撮影し、その一瞬を切り取るものです。しかし天体写真は目に見えないものを撮影します。

もちろん北斗七星やオリオン座を形成するような “恒星” “天の川” は目に見えるものですが、星雲や系外銀河などは目には見えない波長で光っていたり、とてつもなく遠すぎて目には見えないものです。

天体写真ではその人間の目には見えない、でも確実に存在するものを自ら撮影することによって画像として手にすることができます。これは凄いことです。そしてその画像がどれも美しくてまさに宇宙レベルの神秘的な輝きに満ちています。



主な作例

今回は初回ということで拙作ですが私が撮影した天体写真の作例を載せます。この連載はあくまで今現在風景などを撮影されている方々に向けた『天体写真への誘い』が目的なので、撮影で使用しているカメラやレンズはみなさんがお持ちの機材と大差はありません。

赤い星雲が写りやすいようにカメラを赤外改造こそしていますが、天体専用の高価な冷却CCDや冷却CMOSなど特殊なカメラではないですし、光学系も天体望遠鏡ではなくニコンの純正ズームレンズを使っています。

ワンショットの星景写真とは違い望遠域での撮影なので赤道儀(ポータブル赤道儀)は使っていますが、特殊な機材はそれだけです。“風景を撮っておられる方々に向けて”という趣旨ですので、あまり特殊な機材が無くてもこれくらいは撮影できるという例です。

アンドロメダ大銀河

天体写真の花形と言えばこの天体。

Andromeda Galaxy

メシエ番号は『M31』
この写真はカメラも改造などしていないノーマルのNikon D500。多少トリミングはしていますが画角的にはフルサイズ換算で300mm。天体撮影というと600mmや1,000mmなどの超望遠で撮影しなければならないと思われがちですが、300mm相当でこれだけ大きく写せるのです。アンドロメダ銀河はその視直径が満月の5~6個分とも言われていますからとてつもなく大きい天体となります。

さそり座アンタレス

こちらも天体写真で人気の星雲。

Antares-Pentagon

さそり座の心臓、アンタレスの付近はカラフルな散光星雲や球状星団などが密集している全天一美しい領域と言われます。これも上のアンドロメダ大銀河と同じ300㎜相当の画角。じつはこのアンタレス周辺の星雲群を撮影するには300㎜がちょうど良いのです。

逆に長い焦点域がほとんどの天体望遠鏡では画角が狭すぎてモザイク合成(写野をずらして撮影して後でつなぎ合わせる)をしないと収まらない画角。なので300㎜以下の焦点距離が多いカメラレンズも考えようによっては『天体望遠鏡よりもワンショットで広く撮れる』とも言えるのです。

オリオン大星雲と馬頭星雲

天体写真の花形の最後はオリオン大星雲と馬頭星雲。

Orion’s Belt &M42

オリオンの三ツ星(オリオンズベルト)の左の星、アルニタクの傍には馬頭星雲、その下に肉眼でも確認できる縦に並んだ三つの星の真ん中がオリオン大星雲です。この星雲の中心部の『トラぺジウム』はとても明るくて星景撮影で使われる30秒や20秒露光でも白飛びしてしまうくらい明るいです。

バラ星雲

冬の夜空に浮かぶ真っ赤なバラ、それがいっかくじゅう座にあるバラ星雲。

いっかくじゅう座のバラ星雲

この作例では赤外改造したカメラで撮影していますが、淡いながらも比較的赤がのってきてくれる星雲なので改造していないノーマルのカメラでも後から強調すればある程度は仕上げることができます。

天体写真の区分

さて、天体写真にはどのような種類があるのでしょうか。
この区分に関しては広義・狭義でのジャンル分けもありますし、それこそ人によっても変わってくるのですが主に以下のように分けられます。

長焦点(天体望遠鏡)での直焦点撮影

いわゆる “天体写真” と聞いてすぐにイメージできるディープスカイの写真です。基本的には天体望遠鏡を用いた星雲や惑星、銀河の写真です。焦点距離による明確な区分は無いのですが400㎜~1000㎜、2000㎜くらいで対象をクローズアップして撮影します。この焦点距離で追尾撮影するので光学系はもちろん、安定度・精度の高い赤道儀やオートガイドなどが必要になります。

細かく区分すると狭義の意味において“直焦点撮影”とは天体望遠鏡を『素』の状態で使用して撮影することとされています。つまりフラットナーやレデューサーなどの補正光学系を使わない撮影方法とされています。

星野写真

この “星野写真” という言葉は曖昧と言いますか都合の良い言葉なのですが、一般的にはカメラレンズを使った広めの写野で天体を撮影するジャンルとされています。焦点距離は様々で、それこそ24㎜くらいの広角から中望遠、そして200㎜や300㎜くらいの望遠域まで。

24㎜でも地上景色を入れなければ星野写真となりますが “追尾する” という意味でのジャンル分けにもなるかと思います。なので広義の意味においては直焦点写真も星野写真と言えます。この辺りが人によって解釈が異なる部分です。

星景写真

星空と地上景色を両方とも画角に入れた写真が星景写真と言われます。基本的には三脚固定での撮影になります。この星景写真もまたいくつかに分類されます。

・超広角レンズを使用して2、30秒露出する撮影法(山岳星景など)
・比較明や数分、数十分の長秒露出で星の軌道を表現する撮影法(都市星景など)
もちろん山並みを入れて星の軌道を撮影するなど、地上景色と星の表現方法はアイデア次第で様々な作品を残すことができます。私もそうでしたが、おそらく風景写真を撮影されている方はまずはこの星景写真が初めての星の撮影となることが多いようです。

最近では星は追尾撮影、地上景色は固定撮影してあとから合成する手法(新星景写真)なども散見されます。

『爪木崎でみる天の川(新星景)』

この星景写真というジャンルはどちらかというと “星” よりも “地上景色” のほうがより重視される傾向があります。なので星空の表現よりも “ロケーションの選定” “アイデア” といった要素が重要になります。

本連載で取り上げるのは上記のうち“星野写真”ということになります。

いきなり天体望遠鏡を用いて長焦点の撮影を試みるには初期投資がかなりかかることになりますし、まずはお金をかけずに手持ちの機材を使って天体写真の世界に入っていったほうが良いと思います。
直焦点写真はその後に天体写真をもっと深く…と思ってからでも良いと思います。

最後に

冒頭でも書きましたが私は “天体写真家” などと自称できるほどの技術も経験も、そして機材も持っていません。今でも山岳写真をメインとしているため天体撮影に行く機会もそれほど多くはありません。しかしそんな私でも上記のような天体写真撮影を楽しむことは出来ます。

“天体写真” というと「難しそう」「こんなの自分に撮れるのか?」と思われがちですが、ある程度の写真の知識・経験さえあればこのくらいの画像くらいのものは残せるものです。

天体写真は長く楽しめるものなので、この連載がその『最初の一歩』になればと幸いと思います。